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先生と僕_2

カラトロ。目が覚めた僕を、先生とタックがそう呼んだ。僕の名前らしい。古い言葉を合わせたらしく、カラはタックの故郷の古い言葉で太陽、トロは先生の故郷の古い言葉で泉という意味があるらしい。


「トロは主に泉を意味しますが、転じて探求者という意味なども持ちます」

「俺の方だと、猫って意味だけどな」


つまり、カラトロは太陽の探求者という意味になるそうだ。なんだか、凄い名前をつけられてしまった気がする。タックの名前も古い英雄からつけられたらしく、名前は仰々しいくらいで丁度良いと言われてしまった。


タックと居るようになって、二人の住んでいた場所の話が増えてきた。生きている人の暮らしを知らない僕は、色々な話を聞けてとても楽しかった。僕が特に気に入ったのは、家の柱に身長を刻むという習慣だ。一年の成長と健康を祝い、もっと大きくなろうとする意志を促す。僕も真似したくなった。


「そうですね、今まで必要だと思わなかったのですが、家を建ててみるのも面白そうですね」

「待て、俺がやる。ザインにやらせると、トンチキな建物になりそうだ」

「まあ、否定は出来ませんね」


タックはまず、太い木の柱を一本立てた。タックよりも高く伸びた柱の傍に先生を立たせる、長い糸の端を先生に持たせて、反対の端はタックが持ち、糸がピンと張る位置まで歩いていく。そのまま太い柱の周りに八本の柱を立てて行く。

柱の上に、放射状に広がる木製の骨組みが置かれるように現れ、更にその上にとても大きな布が被せられる。布の一部に切れ間があり、そこから中に入れるようだ。

僕は初めての家に驚いていた。先生に手を引かれ中に入ると、中は思ったよりも明るかった。天井の布は中央が切り取られており、そこから光が入ってくる。布自体もそこまで厚手では無いようで、光を完全に遮ってはいないのだろう。

僕は、うわあ、うわあああ、と言うばかりで、それ以外の言葉が出て来なかった。

タックも中に入って来て、周りの柱の傍に僕を手招きする。僕が柱に背中と後頭部をビッタリと合わせると、タックは槍で柱に傷をつけた。僕の頭の真上の位置、丁度にだ。


「砂を使えば一瞬で大きくなる事も出来るでしょうが、今はその必要は無いでしょう。カラトロなりに、ゆっくり成長して下さい」

「はい先生!」

「俺もデカくなるか」

「タック、急な変化は慣れないので危険ですよ。貴方の一番使いやすい身体にしておきなさい」

「それもそうだな」


タックは干した草を編んだ敷物を砂の上に敷いた。僕は砂の感触が好きなので砂の上に、先生は背もたれのある木製の椅子に座った。次第に、タックの顔に不満が溜まっていく。


「...なぁカラトロ、こっちに座らねぇか?何というか、俺が落ち着かねぇ」

「個人の自由を尊重すべきでは?」

「黙れザイン」

「僕、砂好き」

「そうか。じゃあ、これでどうだ」


タックは木枠の浅い入れ物に、砂を掬う。トントンと地面に入れ物を落とすと、中の砂が平らになっていた。更に、木の棒で字を書き、それを掌で消して再びトントンと砂を均す。僕はいつの間にか、タックの真横でそれを眺めていた。


「お、気に入ったみたいだな。やるよ」

「ありがとうタック!」

「おうよ」

「上手く罠に誘いましたね」

「黙れザイン」


先生は、いつの間にか手に持った白い容器に入った液体を飲んでいる。飲み終わった後は、容器を砂に戻してその辺に捨てていた。中身は乾燥させた茶葉を煮出した飲み物だ。一口だけ貰った事があるが、苦くて僕の口には合わなかった。

僕が砂遊びに夢中になると、タックは古い文字を教えてくれたり、簡単な生き物の絵を描いてくれた。先生は色の着いた砂で、大きな鳥の砂絵を描いてくれたが、僕にもタックにも伝わらなかった。


「ダイダルシアの花だと言われた方が納得出来るな」

「おかしいですねぇ...」

「とっても綺麗だね!」


僕にとって、それが花でも鳥でも関係無かった。色の着いた砂で描かれた絵が見れた。それだけで、楽しかった。先生とタックが色の着いた砂で何かを描き始めたのを見ながら、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。



手に何か知らない物が触れた気がして、僕は目が覚めた。緑色の細く長い草だ。身体を起こすと、家の中の地面が半分くらい草で埋まっていた。先生とタックの姿が見当たらなかったので、外に出てみる。


「立派なコッコロですねぇ」

「サイードじゃないか?いや、尻尾が短すぎるか」


家の外には先生とタックが立っており、二人の視線の先には、黒い肌の四本の足で歩く巨大な生き物が居た。その生き物を中心に草原が広がっており、丈夫そうな顎で草を食べている。鼻先から鋭い二股の角が生えており、巨体に似合わないつぶらな白い瞳が可愛いと思ってしまった。

僕がうわああああああと言いながら、ふらふらと歩き出すと、タックに捕まった。それでもなお進もうとする僕を、タックは抱き上げてしまう。あの生き物に絶対に触れようと僕は暴れるが、タックの腕はビクともしない。

背中に鞍が着いている事から、人に飼われていたのだろうと先生は言う。タックが近付いて、水がたっぷり入った木製の水桶を置いてやったところ、特に警戒せず飲み始めたそうだ。僕も見たかった。

僕は、人に飼われてたのなら、角は危ないから切り落とすのではないかと先生に聞いてみると、地位の高い人が威厳を示す為に敢えて生やしているのかもと教えてくれた。タックは、長距離運搬用の騎獣で、護衛も兼ねているのではと教えてくれた。

人に飼われていたのなら、僕の考える事は一つだった。


「先生!この子を飼いたいです!」

「そうですねぇ...、普段なら色々考えるのですが、意味ないですからね。彼に気に入って貰えれば、一緒に暮らしてくれるかもしれません。肌の状態を見るに、彼は綺麗好きでしょうから、食事が終わったら身体を洗ってあげると良いかもしれません」

「分かった!」

「俺も手伝う」


黒い肌の生き物の食事が終わり、僕とタックが大柄のブラシを持って近付くと、お腹を見せるように、その場に寝転がった。彼は目を閉じ、僕とタックに大人しく身体を洗われていた。時々、彼からブフッという音が鳴る。先生の知識と観察によれば、機嫌が良いと鼻が鳴るらしい。

全身を洗い終わった後、彼の鞍に文字が刺繍されているのをタックが発見した。先生が解読したところ、ラキと書かれているらしい。彼の名前だと思うので呼んでみたら、ブフッと返事が返って来た。今後は、黒い肌の生き物をラキと呼ぶことに決まった。

ラキの草原を囲う様に、タックが柵を立てて行く。木の板で出来た柵だ。後で好きなように色を塗っていいと先生は言った。家は柵の外へ、先生が作り直していた。柵を立て終えたタックがラキに話しかけている。


「また洗ってやるから、遠くに行くんじゃないぞ」

「ブフッ」

「ちゃんと分かるんだね」

「これだけデカけりゃな。頭がデカいとそれだけ賢いんだよ、大体はな」

「そうなんだ、賢いねラキ」

「ブフッ」


ラキの周辺には、常に草が生えている。先生は、ラキの視界に草が生えているのだと言っていた。ラキが移動すると草と砂の境界が移動するし、ラキが寝ると草は殆ど消えてしまう。先生の考えは当たっていそうだ。

先生が草を乾燥させたり煮出したり鉢植えに植え替えたりと実験している間、僕はラキを撫でたりタックに槍の使い方を教えて貰ったりしていたら、家の傍に木箱が出来ていた。木箱の上には、ラキの鞍が置いてあり、ラキから見える場所に置かれている。


「いつも、こうやって置いてあったんだろうな。どうやらラキは、ここを自分の住処だと思ってくれたらしい」

「...ねえタック。この木箱、ボロボロだ」

「...ああ、そうだな」


木箱は人が作る物だ。ボロボロになるには、時間の流れか、何かが手を加えないと、ボロボロになる事は無い。

ラキの最後は、ラキに聞いても分からない。それは、ラキの飼い主の事も同じだ。ラキは人に慣れているどころか、身体を洗う時は自分から転がる程に甘え上手だ。ラキと一緒にいると、飼い主や周りの人達と仲良しだったのが良くわかる。

僕は、ラキがラキの飼い主と会えることが、良いことなのか悪いことなのか、分からなかった。先生に聞いてみたら、ラキは嬉しいと思いますよと答えてくれた。僕の不安は、少しだけ和らいだ。


「先生は、家族と会いたい?」

「うーん、どうでしょう。仲は、良いとも悪いとも言えないですね。十歳を過ぎてから、家に帰る事の方が少なかったですから」

「何処に居たんですか?」

「叔母の商売に着いて行ってました。自分で稼げるようになってからは、更に遠くへ行ったきり、家には帰っていませんでしたね。色んな所に行った人の話を聞いては、色んな所に行きました。その経験や知識を色んな人に伝えましたよ」

「今みたいに?」

「ええ、そうです。人々の営み、文化が私は好きでした」

「じゃあ、こっちでも、いっぱい聞けたら良いね!」


僕がそう言うと、先生は笑って僕の頭を撫でた。先生はこっちに来てからも、沢山の人と話したそうだ。でも、時間による文化の発達と衰退は目紛しく、先生でも理解にとても時間がかかる話が多かったらしい。その話も、いつか僕にしてくれると先生は約束してくれた。

僕と先生が話をしている間、タックはラキに鞍をつけて、ラキに乗っていた。ゆっくりと柵の中を歩くラキを見て、僕は羨ましくなったが、先生は驚いていた。ラキに乗るのは簡単な事では無い様だ。

タックが、ラキに乗るのに慣れたら一緒に乗せてくれると言ってくれたが、僕は悩んでいた。ラキがちょっとでも歩く速度を上げると、タックはラキから落ちるのだ。その度に、タックの身体が一瞬、砂に戻るのだ。それ程の強い衝撃と痛みを受けても、笑って立ち上がるタックが、ちょっとだけ怖かった。

机は二人のトラウマなので、不要な物です。

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