3.初陣。伊達政宗、血の目覚め
愛姫と出会い、二年の月日が経っていた。
政宗は元服し、初陣の場にいた。
戦場は、自分に合っている気がした。
根拠はない。ただ、恐れがなかった。
甲冑を身にまとい、父の軍勢の中に立つ。
風の匂いも、血の匂いも、妙に心地よい。
頭の中は、ひどく静かだった。
——ここには、母はいない。
あるのは、生と死だけ。
勝つか負けるかの、命のやりとりでしかない。
それを象徴するできごとは、彼に血の目覚めを呼び起こした。
「はは…――っ」
政宗は低く喉を鳴らし、思わず笑みがこぼれた。
目の前の武者が、甲冑の金属音を纏いながら血に塗れた首を掴み、こちらへ向かってくる。
敵将はすでに物言わぬ肉塊にすぎない。
目の前に差し出された首が、乱暴に転がった。
政宗は陣内で父の隣に鎮座しながら、一つもたじろがずそれを見据えた。
その瞬間、彼は本能で悟った。
――戦場は実に単純だ。
向かう先は、生か死しかない。
むせ返るほどの血の香りが、言葉よりも明確にその真理を伝えていた。
人はいずれ死ぬ。その死を、どう歩いて迎えるか。
その歩む道を、この不条理な戦乱の中に賭けてみることは――
政宗にとって試すに値することだった。
政宗の血に飢えた瞳の鈍い光に、父も臣下も気づかぬはずがなかった。
落ち着き払った初陣の態度に加え、少年は嗤っていた。
ここが、己の生きる姿を証明する場所。
もとめていた衝動を爆ぜさせる、唯一の場であるかのように。
政宗はその時、血と汗にまみれ、歪んだ顔のままくずれた首に幻想を見た。
首の顔が、母に無条件の愛を注がれる弟の涼やかな白く凛とした顔にすげ変わる。
その瞬間、政宗の心臓は不自然なほど跳ね返った。
5つ下の聡明な弟は、自分だけが母に愛されていることを良しとしていない。
時折感じる、無垢な瞳からの憐憫の視線…ーー。
心優しく、本気で思っているのだ。
なぜ、兄の政宗は母に愛されない?
あまりにも、不憫だ…と。
政宗の血塗られた奥州制圧の物語が幕を開けました。
1話と2話とはガラッと変わり15歳の少年です。
もう少し可愛い子供時代も描きたかったのですが、彼の本質を次回もさらに深く潜るよう描く予定です。
次回は、愛姫とのラブシーンもあるので、ぜひ(笑)




