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政宗、母からの支配と側近からの言葉


小十郎から凄まれた言葉に対し、政宗は分かりやすく顔から火を吹くように赤くなった。


「も、勿論分かっておる。ワシも…愛姫が器量良しの上優しかったので、ホッとしていたところで…」

「本来ならば、今夜は床入れという話しでございました。…が、一旦その話は無しのようですな」



出会ったその日の夜に、契りを結ぶ。

しかし、乱世の当時は人の人生は太く短い…あるいは儚いものであった。


食うか食われるか…。

血を血で争う、獣ばかりのこの世界は、10代前半で婚姻関係を結び子を成す事が全てにおいて優先された。


政宗もそれをよくよく分かっている。


彼は、伊達家の次期当主ではあったか、その地位は実に不確かであやういものであった。


愛姫との婚姻は、土壇場で2年先と延ばされた。


小十郎は声をひそめ、周りに誰もいないことを慎重に耳と感覚で確かめる。


「…奥方様が、まだ愛姫様の幼さを理由に反対なされました。名目上は、ここでの教育という理由で同居はなさいますが…」


母の事を持ち出された政宗は、直ぐに右目を手で押さえ表情を固くした。


母とは同じ屋敷にいながらも、もうほとんど会話をしていない。


しかし、今回の縁談に関して初めから過干渉とばかりに口を出してきていた。



「…母上は、ワシに子供が出来るのを止めたいのだろう」


愛姫が春の陽であるならば、母・義姫は冬だ。

凍てつく雪のように気高く、美しく、そして冷たい。

その白さで政宗のすべてを覆い尽くし、支配する。


政宗の目は、諦めにも似た静かな水面をたたえ、小十郎の前で伏せられた。

幼い頃、母の愛は溺愛に近かった。

だが今は、その愛に冷たい打算が滲んでいる。


幼き日の政宗は死の病に冒され、命をこの世に留める代わりに――

顔を醜く書き換えられた。


右目は毒に食われ、醜く歪み、不自然に隆起している。


神仏に息子の快癒を祈り続けた母は、

その“美しい政宗”を失ったことを、初めから受け入れられなかった。

愛していたからこそ、完璧でなければならなかった。


『気色が悪い』


母のぬくもりを求めて伸ばした幼い政宗の手に返ってきたのは、

祈りではなく、刃のような言葉だった。

完璧から遠ざかった息子を、母は支配で縛り上げようとした。



「政宗様。しかし、これは貴方の人生です」


破壊されるかもしれない春の光に、どこか諦めを滲ませた政宗の顔。


小十郎は一歩踏み出して言葉を重ねた。


「何が欲しいのか。どう生きたいのか。――心のままに、選べるのですよ」


小十郎の声は確かに届いていた。

だが、政宗は返答できなかった。


母の白い支配は降り積もり、

彼の身体も心も、まだその雪の下に閉ざされたままだった。








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