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第4話 過去[後編]


 翌日。

 ユリアーネはソレスと共に王城へとやって来た。王城の正門へと入った馬車はゆっくりと止まりユリアーネは馬車から降りる。


「数ヶ月振りね……」


 まさかまた城に戻ってくることになるなんて思いもしなかったユリアーネは目の前にある王城を見上げて呟く。


「ユリアーネ王女、行きましょうか」

「ええ、」


 ユリアーネはソレスと共にディオルがいる玉座の間へと向かう為、歩き出した。



 ディオルがいる玉座の間の大部屋へと足を踏み入れたユリアーネは、玉座の席に座りこちらを見下ろし見ているディオルの前へと歩み寄ってからぺこりと頭を下げる。

 

「ユリアーネ、久しぶりだな」


 ディオルの声は優しく、ユリアーネの緊張はほんの少し和らいだ。


「ディオル陛下、お久しぶりです……」

「ああ、お腹の中にいる子は近衞騎士との子か、」

「何故、知っているのですか……!?」


 私のお腹に子供がいることはエドルしか知らないはずであるのに。

 ユリアーネはそう思いながら少し強張った顔つきで玉座の先に座るディオルを見上げる。


「ユリアーネ王女、貴方の近衞騎士が直接話してくれたのです」

 

 ディオルの近衞騎士であるソレスがユリアーネにそう伝えれば、ユリアーネは確認の問いをディオルに投げる。


「エドルが話したのですか……?」

「ああ、そうだ」

「そうなのですね、」

「ああ、」


 もしかしたら、陛下はエドルが今何処にいるのかを知っているかもしれない。

 そう心の中で思ったユリアーネは淡い期待を抱きながら口を開く。


「エドルは今何処にいるのですか……?」

「自国にいるだろう。私が帰らせたのだ」

「陛下が帰らせた……? どういうことです?」


 ユリアーネはディオルが言った言葉をすぐには理解できなかった。  

 ディオルは少し悲しげにユリアーネを見つめながら話しを続けた。


「ユリアーネ、お前のお腹の中にいる子供は私との子供ではないことも、お前の心が私ではなく近衞騎士にあることも全てわかっている。だけど私は、ユリアーネ、お前に側にいてほしいんだ」

「そうなのですね。陛下、誠に申し訳ないのですが、私は陛下とこれから先も一緒にいることは出来ません」


 あの日、ディオルとの婚約式の前日の夜に城を出ると決めたあの時から私の心は決まっていた。

 もう陛下と共に歩む未来はないと。


「そうか…… わかった。但し、一つだけお願いがある」

「お願いですか……?」

「ああ、家に帰るのは子供が生まれてからにしてくれ」

「子供が生まれてからですか……?」


 ディオルは近衞騎士縦にエドルから頼まれていた。ユリアーネのお腹にいる子供が生まれるまで城で過ごさせてあげてほしいと。

 

 だが、エドルから頼まれているからだと。ディオルはあえてユリアーネに言わなかった。


「ああ、それまで離宮にいてくれないか」

「わかりました……」

「ああ、ではソレス、後は頼んだぞ」

「はい、陛下、お任せ下さいませ」



 ユリアーネが王城へと戻ってきてから月日が流れ1年が経った頃、ユリアーネはまだ小さいレティシアを連れてエドルと共に暮らしていた家へと帰ることになった。


 アルティリア王国の左端にある街にユリアーネとレティシアを乗せた馬車はたどり着く。

 1年半振りの街の風景をユリアーネは馬車の窓越しに見つめていた。

 そんなユリアーネに向かいに座っていたソレスは話しかける。


「ユリアーネ王女、私は陛下と一緒になられた方が幸せだと思うのですが」

「そうね、けれどもう決めたことなの。私はこの子を一人でちゃんと育てあげるって」


 ユリアーネは自分の腕の中にいるまだ赤子のレティシアの頭を優しく撫でてから芯のあるサファイアブルーの瞳をソレスに向けた。



 数年後、レティシアが12歳となった頃。

 ユリアーネは病に侵され寝たきりの状態になってしまう。

 そんなユリアーネの容態を知ったディオルはユリアーネとレティシアがいる家へと訪れていた。


「ディオル陛下……」

「ユリアーネ、私は間違っていた……」


 ベットに横たわる少しやつれたユリアーネを見つめながら、ディオルは悲しげな顔で呟いた。


「何を間違っていたのですか……?」

「私の脅しによって、ユリアーネ、お前の騎士であったエドルは自国へ帰ったのだ」


 ディオルはずっとエドルを脅すように自分が命じたことを黙っていた。

 病に侵されたユリアーネを見て、自分がしたことがどれ程にユリアーネを苦しめたのか、その事実がディオルの胸を苦しめた。


「そうだったのですね…‥ ディオル陛下、貴方は私の心をまた傷つけるのですね」

「また傷つけるとはどういうことだ?」

「ディオル陛下、あの日、婚約式の前日の夜。陛下の近衞騎士であるソレス様との会話を私は聞いてしまったのです」


 婚約式前日の夜。

 ユリアーネはソレスとディオルの会話を聞いていた。

 ディオルはユリアーネが言うソレスとの会話とは何の話しであるかわからず、自身の過去の記憶を辿る。


「婚約式前日の夜……? ソレスとの会話…… あの時のことか!」

「はい、陛下は跡継ぎを作る為に私は必要な存在だと。あの言葉で私は陛下が跡継ぎを作れるなら誰でもよかったのだと思い、苦しくて、エドルと共に城を出たのです」


 ユリアーネが自分の元からいなくなった原因を聞かされたディオルは少し驚いた顔をしたが、すぐに冷静な顔つきに戻る。


「そうだったのか…… 聞いていたのだな。あの時の会話を、」

「はい、聞いておりました」

「すまなかった。だが、私はユリアーネ、お前を愛していた。ユリアーネが聞いたのは会話のごく一部だ。その後に私は愛していると発言した」


 ユリアーネのことを愛していたと発言していたということをディオルから伝えられるとユリアーネは驚きの声を上げる。


「そうだったのですか……!?」

「ああ、だが、傷つけたことには変わりないな。ユリアーネとお前の近衞騎士を引き離したのは私だ。私は二度も大切な人を傷つけてしまった……」

「陛下……」

「申し訳なかった……」


 ディオルはベットに横たわるユリアーネに謝罪をして深々と頭を下げる。

 ユリアーネはそんなディオルを悲しげに見つめていた。



 ディオルが病にふせているユリアーネの元へ訪れてから数ヶ月が経った頃、ディオルはユリアーネの近衞騎士であったエドル宛に手紙を送った。


 隣国ラベリアの王城にあるラベリア国王が実務をこなす執務室にエドルは呼ばれた。


「エドル、お前宛の手紙が届いていたぞ」


 王から手渡された手紙を見てエドルは眉を顰める。


「私宛の手紙ですか?」

「ああ、そうみたいだ」

「そうなのですね」


 エドルは封筒の封を切り、中に入ってある手紙を取り出し、四つ折りにされていた手紙を広げて手紙を読み始める。


「ディオル陛下から……だと」


 手紙にはユリアーネが病に侵されていること、レティシアが無事に生まれたことが書かれていた。


「陛下、外出許可を頂けないでしょうか?」

「ああ、いいだろう」

「ありがとうございます」


 エドルは王に会釈をしてから、執務室を後にした。



 アルティリア王国の左端にある街へと着いたエドルはかつてユリアーネと自分が暮らしていた家へと向かっていた。


 自分がいた頃とほんの少し変わった街の風景を横目に見ながら、エドルはユリアーネとレティシアがいる家へと辿り着く。


 家のドアを軽くノックすれば家のドアがゆっくりと開き、中からユリアーネと同じ金色の髪をした少女が出てくる。


「はい、だれですか?」

「レティシアか……?」

「なんでわたしのなまえ知ってるの?」

「俺はお母さんの知り合いなんだ」


 自分は父親だと言うのは今ではない気がしたエドルは誤魔化す。


「そうなのね、じゃあ、はいっていいわよ」

「ああ、ありがとう」


 レティシアに家の中へと招き入れられたエドルはゆっくりとユリアーネがいる部屋へと足を踏み入れた。


 エドルがユリアーネが横たわるベット近くまで歩み寄り声を掛けると、窓から見える空を見ていたユリアーネの顔は勢いよくエドルに向けられる。


「ユリアーネ……!」

「エドルなの……?」


  ユリアーネはエドルを見て、弱々しげに問い掛ける。


「ああ、ユリアーネ、急にいなくなってしまって本当にすまなかった……」

「全て、ディオル陛下から聞いているわ。いいのよ、エドル、貴方は私とレティシアのことを守ろうとして、私の前から姿を消したのでしょう?」

「ああ、だが、側にいるべきだった……」


 ずっと、後悔していたことをエドルは言葉にする。ユリアーネは今にも泣きそうな顔でエドルを見て優しく微笑む。


「私はこうして貴方ともう一度会えたことがとても嬉しいの。エドル、残された時間をレティシアと貴方と私の3人で過ごしたいわ」

「ああ、そうだな」


 その日の夜、エドルはユリアーネと大切な二人の娘であるレティシア。

 家族三人での温かな時間を過ごした。


 ずっと家族3人で過ごすこの幸せな時間が続いてほしいとエドルは思っていた。

 だが、束の間のひと時も過ぎていき、明け方頃にユリアーネは息を引き取った。


「おかあさん……! ねえ、どうしてお母さんは目を覚まさないの……?」

「お母さんはな、長い長い眠りについたんだ」



 ユリアーネが亡くなってから3日目の昼過ぎ頃、エドルはレティシアを連れて王城へと訪れる。


「ディオル陛下、突然来てしまい大変申し訳ございません」

「いや、大丈夫だ。手紙は読んだんだな?」

「はい、読みました」

「そうか、それでどうする?」 


 ディオルは目の前にいるエドルを見て、問い掛けた。レティシアをどうするか。

 王族として育てていくべきか、自分が親として育てあげるべきか。その二択どちらを選択すれば良いかなどわかりきっていた。


「レティシアのことをどうぞよろしくお願いします」

「わかった」

「はい……」

「おねがいしますって……?」


 エドルの隣に立つレティシアは不安そうにエドルを見上げて服の裾を掴んでくる。


 エドルはそんなレティシアを見て、頭を優しく撫でてから、しゃがみ込み、レティシアと同じ顔の高さになってから柔らかい声で告げた。


「どんなに離れた場所にいても俺はレティシアを愛している。それだけは覚えていてくれ」


 エドルはレティシアの頭を再度撫でてから、レティシアを玉座の間に残してその場を後にした。

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