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プロローグ


 今日はアルティリア王国の第一王女レティシアが王として即位する日である。


 今日の主役であるレティシアは自室の開いた部屋の窓の前に立ち、夏の心地良い風に当たりながらぽつりと呟く。


「いい天気ね、戴冠式に相応しい快晴だわ」


 あの頃の私はずっと陛下に愛されたいと、私のことを見てほしいとそう強く思っていた。

 だけど、私はあの日、侍女の会話を通して知ってしまった。自分が不義の子であると。


「今日を迎えるまで、本当に色々なことがあったわね」


 レティシアは開けた窓から見える晴れた空を見上げながら、過去のことを思い出し始めたのであった。



 王城から離れた離宮でアルティリア王国の第一王女レティシアは暮らしていた。

 そんな離宮の通路でレティシアの侍女である二人の女性は夜の静かな空気が漂う中、会話をしていた。


「明日はレティシア王女殿下の18歳の誕生日ね」

「そうね〜、ねえ、あのことってレティシア王女殿下は知っているのかしら?」

「あのことって?」

「レティシア王女殿下が不義の子であるっていうことよ」


 侍女の一人がそう言えば、もう一人の侍女は何の話しかを理解したように頷き返す。


「あ、そのことね。多分、レティシア王女殿下は知らないわよ」

「そうよね、レティシア王女殿下も可哀想よね……」

「そうね、でも知らない方が幸せなこともあるのよ」


 中々眠れずに自室を出たレティシアは通路の曲がり角でそんな侍女達の会話を偶然にも聞いてしまう。

 

「私が不義の子……」


 レティシアはぽつりとそう呟いてから、その場を後にした。

 


 自室へと戻って来たレティシアはベット上に倒れ込み、数秒、枕に顔を埋めてから身体を起こして震えた右手を片手で抑えながら今の自分の気持ちを声にする。


「私が不義の子…… そんなの、そんなの信じられないわ……!」


(陛下が私に離宮に行くように命じたのも、私のことを避けているのも、私が不義の子だったからなの……?)


 陛下の本当の娘ではなかったという事実がレティシアの胸を深く傷つけた。


 そして侍女達の会話を通して知った事実にレティシアは今までの陛下の態度に納得がいった。


「私は陛下の娘ではなかった…… どうして……? なんで…… 私はずっと陛下の娘として生きてきたのに……」


 月明かりが白いベットの上を照らす中、レティシアの視界は滲んだ。


(胸が張り裂けそうな程痛い。こんな思いをするくらいなら知りたくなかった…… )


 声を押し殺して嗚咽する中、レティシアに用があって部屋の前まで来たレティシアの侍女であるルミリアはレティシアの泣いている声を聞いてしまう。


「レティシア王女殿下……」



 レティシアが18歳を迎える日の夜。

 レティシアは自身の誕生日を祝う為のパーティーに来ていた。

 

「初めまして、レティシア王女。私はラベリア国の第一王子グイードと申します。レティシア王女殿下、この度は18歳のお誕生日おめでとうございます」

「グイード王子殿下、ありがとうございます」


 パーティーに招待したであろうアルティリア王国の隣国"ラベリア国"の第一王子グイードはレティシアに社交辞令の挨拶をしてから話しを続ける。


「こうして会って話すのは初めてですね!」

「そうですわね。ん? そちらの方はグイード王子殿下の騎士の方ですか?」


 レティシアはグイードの左隣に立つ騎士のアランを見てからグイードに問い掛ける。


「いいえ、違いますよ。王立騎士団の方です。名前は確か……」

「アランと申します。アルティリア王国の王立騎士団に所属しております。レティシア王女殿下、この度はお誕生日おめでとうございます」


 アランはレティシアにお祝いの言葉を述べてから、軽く頭を下げる。


「そうなのね、ええ、ありがとう」


 レティシアはアランの顔を見て嬉しそうに微笑み返した。

 その後もレティシアは王族と関わりのある者達に社交辞令の挨拶をされながら、作られた笑顔で接していた。


 レティシアの誕生日パーティーが終わった後、王立騎士団の者を呼び止めたレティシアは、隣国ラベリア国の第一王子グイードの護衛にあたっていたアランに明日、自分の元へ来るようにと伝えておくよう頼んでからパーティーが行われていた会場を後にした。



 その日の夜、レティシアは自室のベランダに出て、星が瞬く夜の空を見上げながら呟く。


「陛下は私のことをどう思っているのかしら……?」


 アルティリア王国の国王であるディアルはまだ幼いレティシアに離宮に行くように命じてから、レティシアのことを明らかに避けるようになった。

 レティシアはその事に少なからず不満を抱いていた。


「陛下とは血の繋がりのない娘だから、陛下は私のことを避けているのだとしたら、私は……」

 

 レティシアのそう呟いた悲しげな声は、静かな夜の空気に溶け込むように消えていった。

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