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第九話 誕生

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 よろしくお願い致します!

 実は皆で食べようと思って作ってきたケーキをブレス内に収納してあるのだ。ガトーショコラ、イチゴのショートケーキ、フルーツロールケーキなどなど六種類。

 どれも俺が究極のレシピまで辿りついた至高のケーキである。

 まぁ、自己満足なんだケドね。素材や食感は勿論、後から感じる味の奥行きなどにもこだわったケーキたち。俺はこれらをブレス内から取り出し、近くのテーブルに並べた。イチゴのショートケーキなどはイチゴにゼラチンをコーティングさせている。その為、光が当たってキラキラと輝き見た目も楽しい。そのケーキたちを観たキャンティはいきなりテンションが上がり、騒ぎ出す。

「うわっ!これケーキじゃないか!どれもめっちゃ旨そう。カイ、これどうしたんだ?」

「これ?あぁ、俺が作ってきたんだよ。今日は俺たち六人が集まる日だったからな。丁度、甘いのが食べたい時間帯になったからさ。さぁ、六人で食べようぜ。」

 

 俺はわざと六人でという所を強調した。そこにはキャンティは含まれていない。俺、ヴァン、ゲン、ティナ、リン、キール以上六名である・・・

「カイトのケーキは絶品だよ。まぁ、料理に関してはあたしが断然得意なんだケドさ。ケーキだけは流石のあたしも負けるんだよね。」

「そうだね。カイは昔っからケーキ作りはこだわっていたからね。ボクたちもよく作ってもらっていたよ。」

「おう!カイのケーキは久々だな。俺サマたちの誕生日にはよくケーキパーティーしたもんだ。近くのケーキ屋の親父たちも舌を巻いていたしな。」

「ティナはいいよな、いつも旨いケーキが食べられて。ヴァンはそういうのムリだから、ウチ羨ましいわ。」

「わたくしも人化してから色々なケーキを観てきましたが、こんなに美味しそうなケーキは初めてです。ありがとうございます。」

 皆が好き勝手なことを言い出し、キャンティの関心度もお蔭でアップしたのだ。

「なぁなぁ、あたいにも分けておくれよ。六人で食べるよりも七人で食べるほうがきっと旨いぞ。」

 よし!食い付いてきた!俺はケーキを餌にしてキャンティにブレスのカスタマイズ化をしてもらおうと目論んでいた。

「え~?一つを七人で分けるって?かなり小さくなるじゃん。それに七等分って切るのかなりムズイし~、ムリムリ。」

 俺は敢えて焦らしてキャンティから交換条件を言ってもらうのを待つ。

「んぁ~!しょうがない!分かったよ。ブレスのカスタマイズ化、三人分してやるよ。その代り、ケーキはまるごと一つ食べさせてくれよな。」

 よっしゃ!かかったぜ!ちょろいもんだ。

「分かったよ。ブレスのカスタマイズ化に対してケーキをまるごと一つやるよ。で、どれがいいんだ?六種類あるぞ。」

「ありがとう、カイ。最近、甘い物食べてなくてな。ストレスもたまるし、鍛冶師は消費カロリーもハンパないから助かるよ。それに人間界のケーキ屋よりも旨そうだしな。」

 そう言うとキャンティはケーキを選び始めるが、ナカナカ結論が出ないようで悩んでいた。

「どうした?選びきれないのか?俺たちはまた作れば食べられるから、何なら全部食べても良いぞ。」

 そう俺が言うや否やキャンティは動きが一気に加速し、六個のケーキ全てに食らいついた。

そして全て完食。時間にして二分もかかっていなかった。おいおい、もう少し味わって食べてくれよ。こっちは六種類のケーキを作るのにゆうに八時間はかかっているんだぜ。とか思いつつ、俺は大事な事をキャンティに伝えるのを忘れない。

「どうだ?旨かったか?じゃあ、お前は六個のケーキを食べたから俺たちの願いも六個叶えてくれよ。まずは三人のブレスのカスタマイズ化。一個十分だったから三個で三十分位だな。」

「な・なにっ?何故、あたいがお前らの願いを六個も叶えなきゃならないんだ?そりゃ、ケーキはめっちゃ旨くて感謝してるが。」

 キャンティは慌てて言い逃れをしようとして、あたふたしていた。

「お前の作ったブレスって、ホント優れ物だよな~。観てみるか?一応、さっきまでの一部始終をブレスで録画しておいたケド。ケーキ一個で三個のブレスのカスタマイズ化してくれるっていう所とケーキの早食いしている所。これを他の魔族が観たらどう思うかだよな。仮にもカリスマ女鍛冶師の実態がこんなだって解ったら皆幻滅しちゃうかもしれないなぁ。あっ!これは独り言だから気にしないでくれよ。」

 俺はわざと大きな声でキャンティに伝えた。見る見るうちに顔が真っ赤になるキャンティ。魔人といえどもこうなると可愛いものだ。元々ルックスや声は可愛いので女の子らしいといえばそうなのだが、少々気性が荒いところがあるのでそのギャップが面白い。

「わ・解った。これ以上何も言うな。お前たちの願い、六個まで叶えてやるよ。あたいもプライドある女鍛冶師だ。二言は無いよ。」

 俺たちは今度こそ目的達成したので、心からのハイタッチを交わした。


「じゃあ、順番に行うぞ。準備は良いか?三竜姫と魔剣たちは立ち会わないでもらいたい。なるべく集中して行いたいからな。」

 俺はティナから受けていた体への負荷を解除してもらい、久々に軽い体になった。ヴァンとゲンも同様にリンとキールから受けていた負荷を解除してもらった。ゼロ、グリフォン、ハルさんもブレスから取り出し、工房の壁面に立てかけた。普段はゼロしか観ていない俺だが、グリフォンとハルさんの魔気がかなり上昇しているのに気付く。

「グリフォンもハルさんも成長してるな。魔気が充実している。グリフォンは魔力が溢れそうでロスになりそうだから、魔気のセーブをした方がいいかもよ。ハルさんはゲンの影響からか魔気をセーブしているのを感じるよ。」

「そうなのか?俺サマは魔気がよく解らないからな。グリフォンに言えば、グリフォン自体は魔気のコントロールが出来ると思うからそうするぜ。」

「流石だね、カイ。ハルさんにはある程度の魔気コントロールをしてもらっているんだよ。もっと魔気を抑えても良いんだけど、ハルさんのストレスになってはいけないと思い、好きにしてもらっているんだ。」

「そうなんだ。ゼロには普段、魔気を極力抑えてもらっているよ。魔剣にも消費カロリーみたいなのがあるんだって。だから、消費した魔気は俺から後で吸収するようで、結果俺への負荷が一気に大きくなるからさ。それに最初は気にしてなかったケド、ゼロが強い魔気を放出していると魔獣が近寄ってこなくなるみたいなんだ。」

「最近、めっちゃ魔獣が減った感が強かったのはグリフォンの魔気のせいだったのか。魔獣が減ったんじゃなくて、魔獣が遠くへ離れていただけだったのか。それだけ俺サマの波動力も強くなっているのは確かだな。」

「それは生態系にも影響するからね。特定の地域だけ魔獣が多くなったり少なくなったりすると不具合も生じるだろうから。そこまで深くは考えていなかったよ。ボクらはスティール星ではなく、異次元や亜空間を中心に活動しているからさ。あちらの世界でもそれは同様かもしれないから、注意しておくよ。」


 それにしても三本の魔剣・・・並べてみると、その潜在魔力は俺のゼロのレベルが大きく違うというのが解る。グリフォンとハルさんは同じくらいだろうか?

 俺はヴァンよりも体力的には劣るし、ゲンよりも要領が悪い。唯一、波気だけは俺が二人に勝っているという感じだろうか。これは俺の努力の成果ということもあるとは思う。

 だが、俺が物事をよく考えるという特技というか習慣があるのが幸いしているのであろう。

それが波気の練り上げに繋がり、ゼロの魔力上昇に繋がっている。

 他人と比較しても俺は意味がないと思っているが、自分の現状がどの位置なのかを把握するという意味ではこういった比較は大切である。

 今後も自己鍛錬を欠かさずに行っていくことを決意したのであった。


 そんな想いをもった俺だが、ティナは違うことを考えていた。ブレスは取り外しが出来ないので、わずか十分とはいえ、キャンティと二人きりというのがティナは面白くなかった。

「ちょっとキャンティ、カイトに変なことしないでよね。カイト信じてるケド、妙な気持ちにならないようにね。」

 俺たちとキャンティはティナにキツク釘を刺され、工房の奥へと進んでいった。歩きながらふと周囲を眺めていくと、壁際に観たこともない武具がズラリと並ぶ。俺が興味津々で見入っていると、キャンティがこんなことを言い出した。

「これらは試作品だったり、粗悪品ばかりだよ。中には訳あって封印しているのもあるんだケドね。」

「見た感じどれも悪くなさそうだケド、ゼロみたいに何かを感じる物はないなぁ。」

俺は改めてゼロの存在感に感心する。

 しかし、この中に封印されていた物が後々俺たちの未来を大きく変えるということを俺たちはこの時知るすべもなかった。

 でも、一つだけ観たことのないアイテムがあったのだ。

「キャンティ、これなんだ?」

「あぁ、これはな簡易式の空間転移装置だ。ゲンは自らが空間転移出来るようだが、他の者は空間転移出来まい。もっともあちこち自由にという訳にはいかず、このリングを現在地と行きたい先に一つずつセットするのだ。そうすると超電磁のパワーで空間を捻じ曲げて繋がり一瞬での移動が可能になるぞ。どうだ、便利だろ。何なら二つ目の願いはこれでも良いぞ。」

 何とか自らへの願い残り五個を早く無くそうとするキャンティ。そんな魂胆は見え見えなのだが、俺は何とかその願いを使わないでゲット出来ないかを考えていた。そんな時にヴァンが提案してきたのだ。こういったことはゲンが得意なのだが、ゲンもその交渉を考案中だったに違いない。

 ヴァンの場合は思いつきがほとんどなので、俺やゲンと違い決して邪な考えは含まれない。

その考えは浅はかなことも多々あるが、頭の良いキャンティにはこういったストレートな考えの方が裏をかかれないで良いかもしれない。

「なぁ俺サマ考えたんだが、このリングの一つをこの工房にセットしてもう一つをカイの所にセットすればキャンティは好きな時にカイのケーキが食えるんじゃねぇか?カイも必要な時にキャンティの所に行けるし、一石二鳥だろ?」

 どうだ!と言わんばかりにヴァンは腕組みしながら胸を張る。

「それは素晴らしい考えだな!うん、そうしよう。これであたいも好きな時に旨いケーキが食えるしな。」

 そう言うとキャンティは一対のリングを手に取り、封印解除の為の魔気をリングに注入する。

 魔気を注入されたリングは二つに分かれ、封印が無事に解除されたようだ。リングの片割れを自らの工房にセットするキャンティ。そして、もう一つの片割れを俺に手渡してきた。

 俺は黙ってそれをブレス内に収納し、人間界に戻ったら自らの所にセットする旨を約束した。

 これは決して騙しではないのだが、俺は旅に出てティナと宿暮らしの生活になることをこの場では敢えて伝えていかなかった。

 だって宿暮らしの生活になれば、ケーキなど作れるはずもない。

 ケーキを作るには厨房が必要だし、機材、食材も揃っていなければならない。何よりもあっさりハイ!とは出来ない。一個一時間前後はどうしても必要なのだ。そんなマイナスイメージのオンパレードをキャンティに与えたら、この転移装置はタダでゲット出来なくなる。

 まぁ、近くに設備や食材が揃ったケーキ屋さんがあれば作れるので状況によっては作れなくはない。なので、決してキャンティを騙したことにはならない。俺は自らの正論を深く胸に刻み込み、黙って深くウンウンと頷いて自らを納得させた。


 それにしても、ヴァンの奴がこんなストレートな思い付きをしてくれたお蔭で良いものがタダでゲット出来た。感謝するぜ、ヴァン・・・と思ったが、さっきキャンティから聞きなれない言葉を耳にしたな。

 超電磁ってなんだ?電磁力はあるのは知っているし、人間界でも活用されている。しかし、超電磁とは初耳である。俺は解らないままにしておきたくないので、リングゲットの後すぐにキャンティに聴いてみた。

「なぁ、さっきお前が言っていた超電磁ってなんだ?電磁力なら知っているが、超電磁はその強力バージョンか?魔界では常識なのか?」

「宇宙は広い。電磁波や荷電粒子を応用している所はこの全宇宙では多いぞ。電磁波を超高速で電磁誘導していくと超電磁力を発生させることが出来る。このパワーは凄まじく、通常では不可能な空間を捻じ曲げるということも出来るのだ。ゲンの空間転移は恐らく空間を切り取り繋げることで可能にしているようだから、超電磁力は使っていないのだろう。」

「流石はキャンティ。その通りだよ。ボクの場合は空間を切って繋げる工作のようなものだから、キャンティのリングみたいに超電磁力を駆使した高等技術は何にも使っていないんだ。」


 流石はゲン。女の子を褒めてノセることを忘れていない。

「まぁな~、あたいは天才だからさ。これくらいだったら出来るよ。でも、あたいよりも遥かに超電磁力や荷電粒子に精通した者は宇宙にはいるからね。」

「なぁ、ちなみに荷電粒子ってどんなのだ?人間界ではまだ聞いたことないんだケド。」

 俺は科学の事はそこそこ知っているつもりだったが、荷電粒子も初耳だった。聴くは一時の恥、聴かぬは一生の恥・・・ということでキャンティに聴いてみた。

「荷電粒子は説明が難しいんだケド、カンタンに言うと生物の場合、これを受けると活性酸素が大量発生し、遺伝子がボロボロになっちゃうって感じかな。」

「凄く解りやすいケドさ、原理も教えてくれよ。キャンティ先生。」

 俺は素直にキャンティを先生呼ばわりした。

それだけ、俺が知らない科学を知っているのだ。先生と呼んでも違和感ないだろう。科学と工学に関してはキャンティ以上の人物に未だ会ったことがないのだから。

「そんな先生って、あたいはそんなに大したことないぞ。あのな、荷電粒子とは原子核がプラスの電荷をもっていて周囲の電子を吸収していく。で吸収された原子をプラスに帯電してプラスとプラスで反発して破壊に至る。って感じだ。うまく説明できないケド、磁石の場合、N極とN極、S極とS極で反発するだろ?あんな感じだ。解るか?」

 納得だ。こんなものを扱えるのが宇宙には存在するのか?こんな兵器を使われたら、俺たちはひとたまりもないな。ヴァンやゲンも黙ってこのキャンティ先生の情報を聴いていた。

 ホントに宇宙は広い・・・

 でもさ、もし仮に俺が光の波動力をゲットした場合、光だけでなく雷や電気もコントロール出来るようになるだろう。

 ならば、電荷をマイナスにチェンジさせたら反発しないで荷電粒子のパワーを逆に吸収出来るんじゃないか?どんなに物凄い武器や相手でも必ず相性というものが存在する。

 超電磁力も磁界に導体を置き、電流を流すと発生する電磁力が元々はベースだ。これも電流のコントロールさえ出来れば、俺に活路はある。

 まだ見ぬ大いなる力、超電磁力と荷電粒子の基礎知識を得た俺たち。各々に想うものを持ちながら今はブレスのカスタマイズ化に取りかかる。

「最初は・・・ヴァンからいくか?お前、せっかちだろ?ゲンとカイはここで待っていてくれ。」

 俺とゲンは工房中枢部と思われる場所での待機を求められた。

「ちょっくら行ってくるわ。」

 ヴァンとキャンティは工房奥の個室に入っていく。


 俺とゲンは、空いた時間を使って話をしていた。

「なぁ、ゲン。異次元と亜空間ってどうなんだ?ここは魔界だケド、大気が重いなって感じたが。」

「異次元も亜空間も色んな所があるよ。異次元獣なんかもいて。あっそうそう、カイに大事な話があったんだった。カイが目指していた光の魔動石の情報だけど、SNSでコメントがあったんだ。」

 なんと!ティナのお母さんの謎の言葉のヒントになるかもしれない情報。是非、聴いておかなければならない。

「天空高き所より使者落ちる先に現れる。心穏やかな者の前に。だったよね?ここに出てくる使者とは光の精霊らしいよ。これには複数の目撃情報があったので、間違いないと思うんだ。そして、肝心の光の魔動石もちの魔獣だけど、その光の精霊よりも先にこの地上に来ているみたい。それが、使者落ちるよりも先にということなんじゃないかな。」

 

 なるほど、じゃあ光の精霊に話を聴くことも必要かもしれないな。ん?俺に精霊と話すことは可能なのか?精霊の存在を感じることは可能かもしれないが、いきなりは難しいかもしれない。・・・おっ!俺にはゼロがいるじゃないか。

 ゼロは精霊だ。精霊同士ならば、話も可能だろう。そして、落ちた周囲に目的の魔獣がいる可能性も考えられる。

「ありがとう、ゲン。少し謎が解けてきたよ。」

「カイ、まだ続きがあるんだよ。心穏やかな者の前にというのが、どうやら光の精霊がそう感じた者の所に落ちてくるようなんだ。要は如何に自分が心穏やかと思っていても、光の精霊にとってそうは感じられなかったら光の精霊は現れないらしい。」

 

 なんてこったい!じゃあ試験が一次試験と二次試験があるようなものじゃないか。一次試験で目の前に光の精霊が現れること。二次試験が光の魔動石もちの魔獣に認められる武闘家であること。

 こりゃハードルが高すぎるぜ!って一瞬思ったが、それだけ光の魔動石には魅力を感じる。それにティナが生きているこのウン千年間、目的の魔獣に認められた者がいないという事実。

男として武闘家として燃えてくるじゃないか。

 すぐにクリア出来るゲームほど面白くはないものだ。難ゲーほどチャレンジ精神が掻き立てられるというもので、何度も何度もチャレンジしてクリア出来たゲームほど面白い。

 キャンティがさっき言っていた、超電磁力や荷電粒子という未知なる力に対抗する為には是が非でも光の波動力は必要な能力なのだ。


「ゲン、空間転移って、他の星とかも行けるのか?」

「うん、それは可能だケド、行った先がいきなり太陽だったりしたら如何に身体硬化の能力があってももたないと思う。恐らくボクは瞬間的に蒸発してしまう。不老不死でも細胞があっての不老不死ってキールが言ってたよ。もし、ボクらの細胞が少しでも残っていれば自己再生は可能で、いくらでも復活できるんだって。細胞が全て浄化されて一切残っていなかったらサヨナラみたい。さっきキャンティが言っていた荷電粒子を応用した武器がもしあったら細胞自体完全消滅してしまうかもって思っちゃった・・・」

 そんなことはティナからは聴いてなかったが、如何に不死身っていっても細胞が残っていなければ魂だけで復活するわけもないよな。魂と肉体があってはじめて生命体となり得る。もし仮に魂だけになってしまったら、俺たちは精霊とかになれるのだろうか?とか考えてしまったが、その時はまたその時で考えよう。今は今出来ることを精一杯やるだけなのだ。


 そんなこんな話をゲンとしていたら、ヴァンが奥の個室から戻ってきた。

「どうだった?感想は?」

 と俺は聴いてみたが、ヴァンは放心状態でいきなり横たわってしまった。

 おいおい、大丈夫なのか?単なるブレスのカスタマイズ化じゃないのか?心身とも俺たちに大きな負担があるんじゃないのか?無言で横たわっているヴァンを観つつ俺たちは不安になっていた。

「次、ゲン。入ってきな。」

 キャンティからゲンへの指示があった。ゲンは不安になりながらも指示に従い個室に入り、扉を閉める。


 時は一秒、また一秒と自然と過ぎていく・・・そんなことは当たり前のことであったが、これほど時間が過ぎるのが恐ろしいと思ったことは今までに無かったのである。思えば俺たちの誤算だった。

 ブレスのカスタマイズ化はキャンティに丸投げでどういったやり方なのか?俺たちへの負荷はないのか?後遺症や失敗はないのか?などのリスクについては聴いていなかったのである。ブレスがカスタマイズ化出来て、他に願いが五つ叶えてもらえる、空間転移のアイテムも無料でゲット出来た。

 こんなおいしい話ばかりで正直調子に乗っていたなと深く反省した。自分が何かを得る時には何かを捨てなければならないと父ちゃんから聴いたことを思い出した。

 頭が良くなりたければ、遊びを我慢する。旨い物を沢山食べたら、プロポーションが悪くなる。強くなりたければ、辛い修行でしんどい想いをする。これは物事の道理であり、受けいらなければならないことである。俺は不安になりながらもゲンが無事に個室から出てくるのを待っていた。


 しばらくして、個室の扉が開きゲンが出てきた。ゲンもヴァン同様意識を失いかけながら、眠るように横たわってしまう。俺は二人が想定以上のダメージを食らったと認識し、覚悟を決めた。

「次、最後だね。カイ、入んな。」

 俺は堂々としながら、個室に入り扉を閉めた。何やら甘美な空気が漂う個室。

「カイ、今からブレスのカスタマイズ化を行う。ヴァンもゲンも精神的に参ってしまったようで外で横たわっていよう。ブレスは取り外しがきかないお前たちの血肉の一部だ。それを改良するのだから精神的には辛いものがある。それは解るな?しかし、肉体的には外傷は一切ないから安心してほしい。」

「解ったよ、キャンティ先生。俺たちは先生に一任しているわけだから、問題ないよ。ヨロシク頼む。」

 俺がそう言うとキャンティは黙って頷いた。

「では、始めるぞ。」

 俺は意識を失わないように気持ちを高い位置で安定させるようにした。それは俺自身の中を対流している波気を活性化させたのだ。しかし、意外にもまるで瞑想しているような状態になり、心は自然と無心になっていた。俺の左手にあるブレス付近でうごめくもの。それはキャンティの両手で俺の左手に柔らかくやや冷たい感触が包み込む。時折、細い繊維のようなものが俺に触れている。これはキャンティの髪だろう。

 

 そして何やら今までに感じたことのない違和感のある感覚が俺の精神に絡みつく。そうか、これがヴァンとゲンのダメージになったに違いない。 

 精神にからみついたそれはストレスになるかと思ったが、よくよく解析するとゼロの魔糸に似たようなものであった。俺は少しホッとして魔糸に似たそれに精神を委ねる。

 その間もキャンティの施術は続き、細くしなやかな彼女の指と柔らかな髪は時折俺に触れているのを感じた。

 そこには普段の荒々しいキャンティは微塵も感じない。むしろ暖かくて心地よいもので安心感を与えてくれる。手は少し冷え性なのか冷たいが・・・今度、血行が良くなる料理をティナに作ってもらいお返ししよう。

 そんなことを考えていたら、急に感覚が引き戻された感じがして俺の視界はパッと開けた。

「よし、完了だ。」

「えっ?もう終わったのか?」

 

 俺がヴァンとゲンとは異なり、正常に意識があることに驚いたキャンティ。

「なっ!お前意識は正常なのか?ブレスのカスタマイズ化は精神関与もする。故にヴァンとゲンはそれに耐えきれずに意識を失ったのだ。」

「ん?俺?別に大丈夫だけど。なんか魔糸に似たものが俺の精神に絡みつくのを感じたケド、特に問題ないと思うよ。」

 それを聴いたキャンティは目をつぶり、鼻で笑うような仕草をした。

「そうか、お前はスゴイな。とても人間とは思えない精神力だぞ。波気の流れも素晴らしかった。触れただけで、波気レベルの高さが解ったよ。これならば、誰もがゲット出来なかった光と音の魔動石をゲット出来るかもな。そして、天空・光・音での結合魔動石、【波滅極】をあたいにも見せてくれ。」

「キャンティ先生、波滅極って何かスゴい名前だね。俺も予想で、この三つの魔動石が結合するんじゃないかって考えていたんだよ。」

「あたいも現物は観たことがない。古の魔界文献で昔観たことがあっただけ。こうなったら、お前たちを全面でバックアップするからな。任せておけ!」

 キャンティは頼もしい言葉を返してくれて、俺は嬉しかった。何よりもカリスマ鍛冶師である彼女に認めてもらったのだ。嬉しいというよりかは誇りに想う。


 そんなことをキャンティと話をしていたら、ヴァンとゲンの意識も回復した。

「先生、ところで二つ聴きたかったんだけど、ブレス改の使い方、結合魔動石の作り方を教えてほしい。」

「うん、まずはブレス改の使い方だな。ブレス改の魔石や魔動石がハマっていないこの部分にお前たちの竜水晶を吸収させる。そうした後に目的の魔獣をイメージする。ブレスから竜水晶の魔力を使って目的の魔獣の魔力にコンタクトがされる。コンタクトが成功したらホットラインが自動作成される。後はそのホットラインを辿っていけば良い。但し、目的の魔獣から五十メートルまで接近すると強力な魔力同士が弾けてホットラインが切れてしまう。だから、半径五十メートル以内を自力で探すが良い。」

 

 そうか、強力な魔力同士なら衝突は有り得るよな。

「あっ、竜水晶は一度ブレス改にセットしたらそのままでも良いぞ。今まで通り、竜姫の負荷を体内でコントロールしてくれるからな。もし、何か他のことで竜水晶が必要な時はそのように竜水晶に念じてみてくれ。さすれば竜水晶はお前たちの手のひらに戻るであろう。」

 

 後は誰も知らない結合魔動石の作り方だな。それはこの後、キャンティ先生から告げられる。

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