第七話 放屁
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「ティナ、俺は雷魔。光の波動力をゲットしたい!」
「カイト~、そりゃ無茶だよ。いくらカイトが不死身っていったって、いきなり最高難易度の魔石にチャレンジするなんて。まぁ、波気の訓練を日々していけばサーチとガードは使いこなせるようにはなるとは思うケドさ。」
イケイケどんどんのティナが心配する位なのだ。
俺が思う以上に現実は厳しいのだろう。しかし、ライバルのヴァンがもしかしたら狙っているかもしれない光の力。ティナが言うには、このウン千年間、その魔石をゲットした者は皆無だし、チャレンジした者が生きても戻ってきていないという。
「ティナ、心配してくれてありがとう。本来ならもっと力を付けて、チャレンジ出来るレベルになってからの話だと俺も思うよ。だけど、ヴァンには負けたくないんだ。俺は今を精一杯生きていくって決めたしね。だから、後悔した選択をしたくない。解ってくれ。」
俺はティナの瞳を見つめ、その熱い想いを伝える。
「カイトの真剣さは解ったよ。でもね、あたしだってカイトと一緒になってからはいつも真剣だよ。そりゃカイトの質問に対して感覚的な表現しか出来ないこともあるケドさ。実際問題、あたしがカイトと一緒になる前のドラゴンフォームや人化状態なら向かう所敵ナシって思ってたよ。でも、雷魔は別格。あたしのフルパワーでも雷魔とは勝負にならないと思ってる。それだけ雷魔のスピード、攻撃力はこの世では圧倒的だって噂。あたしも出会ったことないから、あたしの母親の話や噂からの憶測なんだケドね。それでも今からすぐに雷魔にチャレンジしたいの?」
不安そうに俺を見つめるティナ。
「あぁ、波動力や波気の訓練は日々継続して行っていくよ。俺は強い者には興味がある。その強さの源は何なのか?知りたくなるんだよね。それに強者と戦っていく事によって俺自身も強くなっていくと思う。このドキドキ感が何とも言えず、生きているのを実感出来るしね。」
俺はティナの瞳を見つめながら、両手でティナの両手をギュッと握りしめていた。
「カイト、分かったよ。あたしも全力でサポートするよ。じゃあ今から負荷を四百kgにしていくよ。あたしはやる時はやるからね。厳しいよ。覚悟しててね。」
ティナはそういうと俺への負荷を四百kgに変えた。ズッシリとかかってくる俺への負荷。
やっぱ、負荷がいきなり百kg増量するとめっちゃしんどいや。
呼吸するのもすぐに息切れするし、特に足が思うように動かない。フツウの人間だったら確実に潰されてるな。と俺はその負荷に耐えながら慣れるように自分自身の意識を高めていく。
そして最近いつも時間さえあれば行っているのが、波気のコントロール・・・
ゼロいわく、波気のコントロールが出来れば波糸もコントロール出来るそうだ。波気を思うようにコントロール出来るようになれば、俺がやりたいことが増えてくる。そう考えただけでもワクワクしてくるので、今は黙って訓練あるのみ。
「ところでティナ、今までと違って今後は旅に出るわけだけど、どこに向かっていったら雷魔に出会えるのかな?」
俺はティナに質問する。ただやみくもに探しても相手は一体。当然出会えることは難しい。
ナビでも行き先を設定しないとそれが機能しないように俺たちも行き先を設定しなければならない。
「あたしはまだ雷魔に会ったことないんだケド、あたしのお母さんに昔聴いたことがあって、【雷魔は天空高き所より使者落ちる先に現れる。心穏やかな者の前に。】なんだって。よくわかんないケド、カイトなんか解る?」
ティナのお母さん情報か・・・使者って何だろう。ポイントはこれなんだと思うケド、情報が少なすぎてわからんな。まぁ、わからんものは焦っても仕方ない。旅先で情報を仕入れつつ考えていこう。
そんな考えをしていたらヴァンからブレスを通じて念波が送られてきた。
《よう!ゲン、カイ、二人とも元気か?俺サマは毎日が充実しているぜ。ところでしばらく情報交換をしていなかったからよ、連絡をしてみたってわけだ。俺サマはリンから得た情報を自分だけのものにしようって考えもしたが、やっぱ止めたわ。お前らはライバルだが、最終目的は人類と魔獣を守っていく!だろう?そんなわけだ。》
俺はそれを聴いて、めっちゃ恥ずかしくなった。俺はティナからの情報をヴァンに知られたくないと思ってしまった。魔石のゲットは早い者勝ち。故にその情報一つで状況はかなり変動してしまうのだ。それをヴァンは惜しげもなく、情報開示をしようと連絡してきた。
なんて素晴らしい奴、俺も考えを改めよう。
そして、もっと最終目標に対して俺たち三人、いや六人・・・いやいやゼロたち魔剣達も含めて九人が今はチーム一丸で向かっていくべきである。それが例え離れた場所であっても。
《俺サマは魔石の属性について教えてもらったぜ。属性とは例えば、赤・朱・紅の熱系や青、蒼、碧の涼系だ。この三種全ての魔石が揃えば魔石自体が一つに結合し、極状態になるらしい。ちなみに赤・朱・紅で魔石【煉獄極】、青・蒼・碧で魔石【斬裂極】になるという。》
《そうだよ、スゴイでしょ?ヴァンが言っていた赤が炎、朱がマグマ、紅が熱風。で、青が水、蒼が氷、碧が風だよ。ウチは赤、炎の力もち。だから、あとは朱と紅をゲットすれば熱系の極の力を使える条件は揃うってわけ。他にも属性はあるらしいケド、ウチは知らないんだ。》
《ヴァン、属性っていい情報だねぇ。でも、ボクは属性狙いをしないよ。あっ!ヴァン、カイ、異質な力もちの魔石は魔動石っていうみたいだよ。》
《そうなんですよ~。魔動石以外にも超魔石、魔星石、魔王石、魔神石なんかもあるみたいです。わたくしは、魔動石と超魔石以外は未だに観たことありませんが。あっ!わたくしは転移の波動力もちって言ってましたっけ?》
えっ?なんだ、その属性って?で、魔石じゃなくて魔動石?だから、フツウの魔石とティナの魔石では違いがあったのか。しかも、魔王石とか魔神石なんかもあるって・・・何やらブレスって奥がめっちゃ深いんだな。
これを作った女鍛冶師キャンティ、天才を超えた物凄くぶっ飛んだ奴なんじゃないか?俺やヴァンは魔動石狙いでゲンは超魔石狙いになるな。
「なぁ、魔星石・魔王石・魔神石ってどこでゲット出来るんだ?」
俺は解らないことをそのままにしたくないので、皆に聴いてみた。
《あたしもそれは初耳だよ~。まぁ、こういった情報はキールなら知ってそう。》
ティナはそう言ってキールに無茶振りしていたが、振られたキールも知らないことであたふたしていた。
そんな時に黙っていたゼロが念波を送ってきた。
《我は精霊故にそういったことは詳しいぞ。魔星石はだな魔星力もちの星獣、魔王石は魔界にいる魔王、魔神石は神界にいる神が対象だ。ただし、星獣は他の星にて生存している。魔界は空間転移で行くことは可能だが、魔王は他者に全く興味を示さないことから武闘家が認められることは難しいと思える。そして神界には神以外の者が行くことは不可侵領域故に絶対不可能と言われている。まぁ、通常ならばどれも難しいであろう。》
ゼロの念波はダメ出しのオンパレードだったが、望みのあることも最後に付け加えてくれた。
《だが、カイが常識では絶対に見えないはずの魔気や魔糸を観えたし、ゲンは初の接触でいきなり魔気をコントロールしてみせた。ヴァンも初回の試みでグリフォンの翼を出すことが出来た。実はグリフォンの翼を出すのには圧倒的な波動力がないと不可能なのだ。これらを考えてもお主ら三人は規格外の存在。何が起きてもおかしくないと我は思う。》
そんなにおだてても何も出ないぞ!と突っ込みたかったが、ウン千年間分の知識がある真面目なゼロが言うのだ。きっとそうなのであろう。
俺も光の魔動石を目標にしたこととティナのお母さんの謎の言葉を皆に伝えた。
《拙者も光の波動力を人間がゲットしたということは耳にしていない。勿論、使者とやらも初耳だ。》
《私もです。お力になれなくて、ご免なさい。ただし、何か解る可能性はありますよ~。ブレスは念波を送ることが出来るので、通信にも適しています。ですので、実は今キールと一緒にSNSをやってまして、フォロワーさんは百三十五万人いるんですよ。このフォロワーさん達から光の魔動石の情報をゲット出来るかもしれません。》
なんと!さらっととんでもないことをハルさんは言い出した。SNSでフォロワー百三十五万人?まぁ、キールのルックスと可愛い声ならば、アイドル顔負けだからムービーやライブ中継なんかしたら一気にフォロワー増えそうだもんな。
それにしてもスゴい!そんなことを考えていたら、俺への負荷が四百kgから八百kgまで一気に倍増されたのだ。
《カイト!あたし以外の子のこと考えるなんて、いくらキールとはいえ許さないからね!せっかく皆で楽しく話してたのに!カイトは、あたしのことだけ考えてればいいんだよ。解ってるの?》
俺は負荷が倍増されて死にそうになった。でもそう感じたのは最初の一瞬だけで、窮地に立った俺だが死に物狂いで体内の波気のコントロールを行った。
結果、波気のコントロール次第でティナの負荷は何とかなることに気付いてしまったのだ。
「ティナ、ゴメン。そんなこと考えるつもりはなかったんだよ。俺にはティナしかいないからさ。でもさ、今気付いちゃったよ。波気次第でティナの負荷にも耐え得る強靭な体に変化出来るって。なんかスゴくない?」
俺はひょんなことから一気に成長した感がした。これには他の八人全てが驚きを隠せなかったのだ。
《カイ、お前スゴいな。俺サマはまだ波気のコントロールは出来ないから、必ず追いつくぜ。》
《ホント、スゴいよね。ボクもそこまで高度な波気のコントロールは出来ないよ。ボクも追いつくように努力しなきゃね。》
《カイト~、さっきはゴメンね。チョッとカッとなっちゃってさ。でもさ、あたしのお蔭でカイト成長出来ちゃったんじゃない。あたしに感謝してよね。》
皆が思い思いのことを言ってきた。
おいおい、俺だって必死こいて大ピンチを乗り越えただけだって!って思ったが、一回まぐれで出来たのだ。
波気のコントロールのコツさえつかめば、ティナの負荷がどんなに増えてもそれに耐久可能な体に変化させることが出来るようになり、パワーやスピードも上がるに違いない。俺はポジティブ思考なので、そこはあっさりとスルーして話を戻そう。
「キールとハルさん、SNSの件だけどヨロシク頼むよ。今は光の魔動石の情報が欲しい。
ティナもSNSデビューしたらフォロワーも相当いくとは思うケド、ティナは俺だけのものだから、デビューはさせないつもりなんだ。」
俺がそう言うとティナの泣きじゃくる声がブレス内から聞こえてきた。
女の子の嬉し涙は美しい・・・今はブレス内にティナがいるから観えないケド、俺はそう思う。
ティナもそんな姿を皆に見せたくないから、ブレス内にいるのだろう。
そんなツンデレなティナが愛おしいと俺は思ったが、そういえばヴァンが水の魔動石ゲットを匂わしていたなと思い出した。
「ヴァン、俺も水の波動力ゲットを考えていたよ。でも、これは早い者勝ちだから競争だな。まぁ、ダメならダメで自分が興味ある能力をゲットしていくよ。」
《おう、俺サマの優先は朱と紅だ。そして、煉獄極をゲットするぜ。その後に涼系の波動力ゲットを今は考えている。お互い、精一杯頑張ろうな!》
《ボクは今、亜空間や異次元をリサーチ中だよ。なんせ未知なる世界なので、キールにもSNSで情報を集めてもらっているんだ。だから、現状ではいくつか候補はあるけど白紙の状態。また何か決まったら連絡するよ。》
ヴァンとゲンはそう言って念波の通信を切った。
俺も頑張らないとと思ったが、大事なことをしていなかったので、これからそれを実行する。
俺は両親に旅に出ることを伝えることにした。実はまだティナのことを紹介していなかったのでこの機会に紹介した。
「父ちゃん、母ちゃん、こちらがティナ。紹介するのが遅くなっちゃったケド、誕生日の日に出会って今はパートナー的存在なんだ。」
「初めまして、ティナです。あたし、人見知りするタイプなので何か恥ずかしいんですケド、よろしくお願いします。」
おいおい、人見知りするタイプって全然そんなタイプじゃねぇだろっ!って言いたくなったが、それを言ったら後からティナに激しく怒られそうなので俺は黙って聴いていた。
「えっ!カイと付き合っているのかい?この子そんなことには無縁だと思っていたので、ビックリしたよ。最近は少し武闘家っぽくなってきたケド、まだまだへなちょこだからね。こちらこそよろしくお願いするよ。しかしカイ、お前なんてキレイな子を連れてきたんだ。」
「ティナちゃんって言うんだね。なんて可愛らしい。カイには勿体ないよ。カイ、お前大切にするんだよ。同い年位に見えるケド、ティナちゃんのご両親は近くにいるのかい?今度、ご挨拶しなきゃね。」
誕生日以降、俺は武闘家として厳しく生きていきたいから、独り暮らしをするって言って実行していたので久々に両親と会ったのである。
その俺が久々に実家に顔を出したと思ったら、女の子を連れてきたのだ。
そりゃ驚くよな・・・
今までの俺の私生活を観ていたらそう思うのは当然だろう。
俺は旅に出るにあたって、ティナと俺の秘密を両親に伝えるか伝えないかを悩んだが正直にありのままを伝えることにした。
だって何も言わないでいたら、十年後俺は本来二十六歳・・・だけど見た目は十年前となんら変わらぬ十六歳のままだったら、明らかにおかしいと思うだろう。
全く成長しない息子を観たら両親はきっとなにかの病気なんじゃないかって思うに違いない。そういうのもあったケド、ティナが実は人化したドラゴンでした・・・
なんてことが変な時にバレるのが嫌だったのである。両親はそんなことで人を差別しないことを俺は理解しているのだが、両親のチョッとした動揺でもティナには伝わるかもしれない。
そこで彼女が傷つく姿を俺は観たくない。だったら、最初から打ち明けて理解してもらいたいと思うのは男として当然である。
俺は両親に誕生日の日からあったことを振り返り、俺とティナの秘密や今取り組んでいること、これからの目標などを伝えていった。
流石に驚きを隠せないだろうとは思っていたが、俺の想像以上に両親は非常にあっけらかんとしていたものだった。
「カイ、お前不老不死になったのか~。それで飛べるようにもなってきたって?スゴイな。父ちゃんを今度連れて飛んでみてくれよ。一度でいいから自由に飛べたらどんな気持ちになるだろうって思っていたんだ。」
「ティナちゃん、ウン千年間もカイのこと待っていてくれてホントにありがとね。この子が産まれてからもずっと蔭から見守っていてくれてありがたいよ。カイ、ティナちゃんを泣かせることがあったら母ちゃん許さないからね。」
何て寛大な両親なんだ。ティナも最初は戸惑っていたが、あっという間に我が家に溶け込んでいた。そして夕食はティナが腕を振るうことになった。
「カイ、やっぱり母ちゃんも手伝うよ。ティナちゃん今日はお客さんなんだし。」
「いえいえ、今日はあたしに作らせてください。普段はカイトに作っているんですが、これから旅に出るのであたしも料理をする機会が無くなっちゃうので。」
ティナは可愛らしく照れ笑いをして、キッチンへ移動した。
ティナが料理を作っている間、親子で光の波動力に関しての会話が始まった。
「おい、カイ。父ちゃん想ったんだケド、謎の言葉には二通りの考え方が出来るんじゃないか?」
は?と俺は思ったが、父ちゃんの考えを聴いてみる。
「天空高き所より使者落ちる先に現れる。心穏やかな者の前に・・・だろ?この言葉だったら、【使者落ちるよりも雷魔が先に現れる】のか、【使者落ちる、その前方に雷魔が現れる】のか分からんよな?」
確かに!そうだよな。でも、後者であれば俺が心穏やかであれば問題ないだろう。
しかし前者だった場合、雷魔が先に現れたら俺はその存在に気付くのだろうか?
今はあれこれ詮索しても仕方はないのだが、事前対策は必要だ。
サンキュー父ちゃん、言われなかったら気付かなかったよ。
続けて母ちゃんからも何気ない気付きを聴かされる。
「ねぇ、カイ。魔動石の属性ってあったじゃない?あれって、ティナちゃんの天空も何かと属性がかぶっているんじゃないかって思うのよ。天空だったら、あんたが目指している光は同一の属性なんじゃないの?だって雷は天空から落ちてくるし、太陽の光も天空から降り注いでくる。ね?そう思わない?」
俺は母ちゃんの何気ない思いつきに食い付いた。
「そうだよな。天空と光は何か同じ属性のような気がするよ。じゃあ、あともう一つは何だと思う?天空に関わるものって何かあるかな?」
「熱系とか涼系とかがあるんだろ?天空は媒体としての役目って考えるのであれば、光と同属なものを考えたらどうだ?」
「カイあんた、音にも関心あったじゃない?光と同属なのは音かも。だって光と音は波があるでしょ。光の波長、音の波長ってね。」
俺は両親からのありがたいお節介のお蔭で何かデカいヒントをもらったような気がする。
光の魔動石も音の魔動石もティナの知る限り、武闘家にゲットされたことはないらしい。だったら、天空+光+音の可能性も十分あるんじゃないか?
そんなことを考えていたらゼロから念波が送られてきた。
《カイ、お前の両親は流石武闘家だ。鋭いな。我は精霊故に光や音の波長は感じることが出来るぞ。実はな、極々まれに光と音の波長がコラボすることがあるのだ。天空を媒体にして光と音の波長のコラボ。これが極々まれではなく、意図的に三つの波動力が混ざり合うことが出来るようになれば、これはとんでもない波動力になるぞ。》
ゼロにそう言われると俺は自分の考えに自信をもった。
まだ確信には至っていないが、もし仮に雷魔に出会えることが出来ればこの件は是非聴いてみたい。出会える可能性は極めて低いんだけどね。
「父ちゃん、母ちゃんありがとう。俺、属性なんて正直あまり深く考えてなかった。でも言われてみれば、その可能性はあるかもって思うよ。」
そんなこんなで波動力の話をしていたら、ティナの料理が完成したらしい。
「は~い、お待ちどう様です。カイト、運ぶの手伝ってくれる?お父様とお母様は座っていて下さいね~。」
俺はティナの指示に従い、ティナの手伝いをしていった。
置く場所が悪いと何度もティナに指摘される俺。確かにそういった繊細なセンスは俺にはないのも事実。その光景を両親は温かい目で見守ってくれていた。
食卓に並ぶ料理の数々。父ちゃんも母ちゃんも見た目の素晴らしさに目が点になっていた。
見た目だけじゃなく、味もすごいんだけどね。
「いただきます。」
両手を合わせて、四人の声が揃い、食事がスタートする。フリーズする父ちゃんと母ちゃん。特に母ちゃんは同じ女性としてショックだったかもしれない。ティナの料理は一流料理店顔負けなのだから、それは当然である。
「あのさ、母ちゃん。ティナはウン千年間も料理してきたから経験値が違うと思うよ。」
「カイ、何言ってるんだい。ティナちゃんに失礼だよ。ティナちゃん、どれも素晴らしい料理だよ。こんな美味しい料理は久しく食べてないかも。旅から帰ってきたらさ、おばさんに料理を教えてほしいんだけど頼めるかな?」
母ちゃんは意外にも気さくにティナと料理の話で盛り上がっている。
俺とティナはオレンジジュースで父ちゃんと母ちゃんの酒に付き合って夕食はそのあとも盛り上がっていくのであったが、酒に酔った父ちゃんがとんでもないことを言い出したのだ。
「なぁ、カイ。父ちゃん、ゼロさんの能力も観てみたいぞ。人間と魔獣を合体させることが出来るんだろ?スゴイな。ティナちゃんがドラゴンフォームに変身したらカイと合体出来るんじゃねぇか?」
な・なんてことを思いつくんだ。俺もそんなことは全く考えていなかったのだ。
《カイ、お前の父ちゃんは面白いことを思いつくな。ティナがOKであれば、その願いを叶えることは可能だがどうする?》
俺はティナの気持ちもあるので、彼女に聴いてみた。
「ティナ、ごめんな。父ちゃんがとんでもないことを言い出して。ゼロに聴いたら、ティナがOKだったら、ティナのドラゴンフォームと俺とで合体出来るってさ。でも、ティナの気持ちってもんがあるから、俺はティナの気持ちを知りたい。」
「カイト~、あたしのドラゴンフォーム観たいの?あたしは別に構わないケド、観たらあたしのこと、嫌いになっちゃうんじゃないかなってチョッと不安なんだ・・・」
不安そうな表情のティナを観ていて俺はしばらく考え込んだ。
「父ちゃん、悪い。俺たちは遊びで武闘家をやってるんじゃないんだよ。だから、俺たちは見世物じゃないからさ、リクエストには応えられない。解ってくれ。」
俺は父ちゃんの要望を断った。すると父ちゃんからは、意外な言葉を聴くことになる。
「カイ、お前成長したな。父ちゃんは嬉しいぞ。ティナちゃんのことをしっかりと考えているかテストしてみたんだ。悪かったな。ティナちゃん、ゴメンな。おじさんのこと許してくれ。」
それを聴いたティナはホッとしたのか、気の抜けた表情になっていた。
でも、未だにティナのドラゴンフォームは観たことないのは事実だよな。それに魔獣との合体も未だにしたことないから、実際興味はある。
父ちゃんはこうみえて、物事の本質を見抜くことが得意なのだ。逆に考えればこれからの俺の課題を挙げてくれたのでは?と思う。
サンキュー、父ちゃん。次に帰ってきた時には俺の成長した姿をみせてやるぜ。
そんな想いをもちつつ、俺は旅に出る前にやっておきたいことがあったのを思い出す。
それは波糸のコントロール・・・今はまだ必要ではないのかもしれない。しかし、今後いかなる敵と遭遇するかもしれないのだ。
今は波動力や波気のコントロールが少しずつ出来るようになってきている。だが、用心にこしたことはないのだ。駆使出来ることは全て行い、俺たち九人全員で成長していくのだ。
「おいゼロ、波糸についてもっと詳しく教えてくれ。やっと波気も少しずつコントロール出来るようになってきたからさ。」
《そのようだな。再度、波の力について伝えるぞ。魔族には魔力・魔気・魔糸があり、同様に人間には波動力・波気・波糸が存在する。ちなみに魔人や魔王は魔族と人間の間の子だから、魔力と波動力両方を使うことは可能。だが、力が分散してしまい弱化してしまうので適正を考慮してどちらかにしているようだ。波動力はその者の持つエネルギー、波気はそのエネルギーの気の流れ。いわば波気は波動力の一部だ。そして、波糸は魔力や波動力を吸収し自らのエネルギーに変換出来るもの。勿論、魔気や波気も魔力や波動力の一部だから波糸での吸収が可能だ。ここまでは理解出来るか?》
ゼロからの問いかけに俺は小さく頷く。
《波糸はその者から直接出せるものだ。これには波気のコントロールが出来ない者には不可能。波糸を出すのには、人間で言えば放屁のようにすれば良い。》
「ホウヒって何だ?俺、難しい言葉に弱くてさ・・・」
《うむ、放屁とは屁、オナラの事であるぞ。》
ゼロがサラッと放屁の説明を行ったが、おいおい波糸ってオナラと原理が同じなのかよ!そんな単純なものなのか?もっと複雑な原理なのかと思ってたよ。
なんか波糸が出たら、匂いそうだな・・・などと俺が思っていたら、ゼロから俺の疑問に対する回答を先行して念波で送ってきた。
《波糸は放屁と異なり匂いは皆無だ。安心するが良い。ただ、放屁のように集中して力むことで波糸が出現する。まぁ、慣れないうちは波糸ではなく、放屁が出てしまうかもしれんがな。慣れてくれば、力まなくても念ずるだけで波糸を出すことは可能ぞ。》
ゼロはフッと鼻で笑うような感じで伝えてきた。ちくしょう~!俺が波糸を出そうとしてオナラを出すのをイメージしたに違いない。
《波糸から相手のエネルギーを吸収するには波糸を相手に絡ませて、ストローで液体を吸い上げる感じをイメージしてくれ。波糸を消去したければ、そのように念ずれば良い。どうだ、簡単であろう。だが、波気のコントロールが出来なければ、波糸は出現しない。波糸とは波気を繊維状にしたものだからな。まぁ、カイにとっては楽勝であろう。》
まぁ、何となくはイメージ出来たケド・・・やっぱオナラと同じ原理で出す波糸って、違和感あるよな。
《カイ、気や放屁は目には見えぬであろう?それがお前には見えるのだ。自信を持て!お前は選ばれし人間なのだ。我が保証する。》
ここにもいたよ、自己満足の我保証をする奴が。
我保証じゃなんの保証にもならないが、ウン千年間生きている精霊の魔剣に褒めてもらうことは若干十六歳の俺にとって、嬉しいものである。
さて、後は日々オナラをイメージして波糸の訓練を行うだけである。
俺とティナは翌朝実家を後にする。
「おじさん、おばさん、ありがとうございました!行ってきますね~!」
「父ちゃん、母ちゃん土産は期待しないでくれよ。その代り、土産話は沢山用意してやるからさ。」
両親は笑顔で俺たちを送り出してくれた。俺は冗談を交えた言葉を伝え、実家を後にした。
昨晩、波糸のことを知識として得た。
そして、無茶振りの極かもしれないのだが、可能になれば俺たちにとっては百八十度行動が変わる画期的な閃きもしてしまったのだ。