第一章/最終話 無念
第一章、最終話まできました~♪
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スピードとパワーに勝る彼女に対して、奴は押されながらも何とか対応していた。一見、氷魔浄化が発動できれば、どちらにも勝機になるかに思えたが、氷玉をすぐに浄化してしまえば回避は可能・・・
それをお互いが理解していたので、ムダなことはしないようだった。。
一進一退の攻防が続いたが、奴は彼女の動揺を誘う為に、再び地殻変動を起そうとした。
彼女は自分と同じ悲しみをもった人を出さない為にもそれを阻止しようと冷静さを欠く・・・
奴はその心の隙を突き、テレポートで場所を変え、まだ見せていなかったバイオンクロスを彼女の頭部に叩きこむ。
激しい衝撃が彼女の脳にダメージを与え、バトルは一瞬時間が止まった。この期を逃すまいと、奴は必殺の神撃を撃ち放った。
激しい絶叫と共に黒焦げになった彼女・・・
俺たちは只見守ることしか出来ずに、消滅していく彼女に対して涙を流すのだった。
「ミユー!!」
俺は思わず叫んでしまったが、仲間たちも念波で各々が叫んでいた。こうして、最強の魔人であるミユーは消滅した。
残ったのは俺たちのみ・・・
奴は名将の指輪を得てから、姑息な手段を色々と仕掛けてくる。いかにすれば勝てるかを考えられる相手に俺たちは勝てるのだろうか?いや、勝つしかないんだ。
これは、人間界のみの問題じゃない・・・
奴を放置しておけば、魔界、精霊界、冥界、神界にも危害を及ぼすに違いない。
「もう邪魔者は来ないな。さて、待たせたな。やっと、お前に復讐する時が来たぜ。」
「お前、めんどくさい奴だな。自分が悪者なのに復讐なんておかしいだろ?」
さてと・・・さっきから考えていた件はどうするか・・・
《カイ、ロゼオンは取っておけよ。》
《そうだよ。ボクたちは別にフュードブレードしなくても、十分な強さになっているんだから。》
《お前たち・・・》
そうか、俺の悩みは念波でヴァンとゲンには共有されていたんだな。二人はああは言ってくれたが、ホントにその選択で良いのだろうか?
《フュードブレードすれば、パワーアップになるし、剣を体外に出さないで済むから奴に狙われることもなくなる。逆にフュードブレードしなければ、剣の出番はなくなる。それでもよ、俺サマはロゼオンを取っておいた方が良いと思うぜ。》
《そうだよ、カイ。ロゼオンこそ、究極のスキル。奥の手として使わなければ!》
《俺もそれは考えていた。しかし、阿修羅の力を有効にするには三人の力量がある程度、同レベルでなければならないんじゃないのか?だったら、フュードブレードを優先した方が良いんじゃないか?》
《カイ、三人の力量バランスが悪くても大丈夫だよ。その為の準備期間だったからね・・・ボクはどんな状況でも、阿修羅の力を使いこなせるようになっているから問題ないよ。まぁ、フュードブレードした方が断然有利だけどね。》
俺たちが念波で言い合っていたが、そこには隙が無かったようでグリフォンが申し訳なさそうに口を出す。
《あ・あのチョッと良いか?話の途中で申し訳ない。ロゼオンを使えば、フュードブレードが使えなくなる。その逆もまた然り・・・という訳だよな?》
《あぁ、俺自身の耐久の問題でさ、赤の一撃や青の二撃は一日五発が限界なんだ。フュードブレードはそれを二発分使う。だから、ヴァンとゲン二人分のフュードブレードには四発分消耗する。同じように、ロゼオンはそれを四発分消耗する。だから、フュードブレードとロゼオンはどちらかしか出来ないんだよ。残りの一発分は赤の一撃か青の二撃のどちらかが使えるケドな。》
《そうか、なら使うのはロゼオンだな。フュードブレードならヴァン、拙者とすれば良かろう。》
《はぁ?何を言ってるんだ、グリフォン。俺サマたちじゃ出来ないから散々悩んでいたんじゃねぇか。つまらないことを言うなよな。》
《つまらなくないぞ。おい!ハルさん!お前もゲンと出来るよな?フュードブレード。》
《えぇ、話に入るタイミングが合わなくて言いそびれちゃったケド、私もグリフォンも一度体験した形態にはなれるのよ。まぁ、正確には私たちの頭脳が覚えていたものを復元する感じだから、フュードブレードもどきなんだけどね。》
なんと、グリフォンもハルさんも一度体験した形態になれるというのだ。そういや、二人とも形態を変化させたり、タンパク質化させたり出来たよな。
《但し、時間が少々かかる。カイ、三分間時間稼ぎをして欲しい。三分あれば、拙者たちはフュードブレードの再現は可能だ。》
戦力は高い方が良いに決まっている。少しの時間稼ぎでそれが可能ならば、そこにかけるべきだ。
《解った。三分間だな。奴にはスキルコピーがあるから、うかつに光速で動いたり出来ない。奴に光速のスキルをコピーさせる訳にはいかないからな。ファイの封印の力をタイミング良く使えれば良いが、使った瞬間にテレポートで交わされたりしたら、これも厄介だからな。》
俺たちは無言でうなずき合う。各々が自らの役割を全うし、先を見据えて戦うのだ。
グリフォンとヴァン、ハルさんとゲンはフュードブレードの準備に入る。
しかし突然、友の声が聴こえてきた。
《だったら、こいつらに任せておけ!》
それは、ファイの声だった。
しかし、ファイはその場に現れずに、代わりにコタロー、ぽんぽん、もんたの三人が空間転移でやって来たのだった。
《おい、ファイ!どういうことだ?お前はどこにいるんだ?》
《オレは空間転移でそいつらを送っただけ。時間稼ぎなら、そいつらに任せておけって。十分役に立つぜ・・・恥ずかしながら、オレはミユーの氷魔浄化にやられたことがある。あの氷魔浄化を受ける前に奴のスキルを封印出来ればオレの勝ちだが、確実に封印出来る確証がもてない。それにゼウス以上の存在を倒すことはやはり難しい・・・ということは、オレでは今のお前たちの役には立てない。まぁ、バトルには相性ってやつがあるからな。》
ファイでも勝てなかったことがあったミユー・・・
彼女の強さはやはり本物だったんだ。
「今度は何だ?お前たちには用はないが、邪魔をするなら死んでもらうぜ。」
奴はコタローたちに強襲する。コタローともんたは、必要最小限の動きで奴の動きを交わすのであった。
ぽんぽんはバトル向きではなく、アンドロイドを作るとか言っていたが・・・
ふとぽんぽんを見ると、何やらバトルスーツの様な物を装着していた。次に奴は、ぽんぽんをターゲットに定め、攻撃を仕掛ける。ぽんぽんの拳はうなりをあげ、奴の拳と衝突する。
何やらメキッと鈍い音がこだましたが、それは奴の骨が砕けた音であった。一方のぽんぽんは無傷・・・
「何だお前は?そのバトルスーツの威力か?オレの骨が砕けるとはな・・・まぁ、すぐに回復するから問題ないが、面白くない。まずはお前から潰してやるぜ。」
拳の回復を済ませた奴は、再びぽんぽんに攻撃を仕掛ける。冷静でなかった奴は魔撃を放つが、ぽんぽんは妖人の末えい・・・
故に魔族ではない者に魔撃は意味をなさなかった。その隙にコタローともんたが巨大手裏剣を奴に投げつける。
こんなもの・・・
と高をくくり、奴は片手でそれを受け止めたが、甚大なダメージを喰らうのであった。
「な・なんだこの手裏剣は?受け止めた途端、魔気が浄化される感じ・・・ハッ!もしかしてキャンティが作った手裏剣か?」
「そうさ、僕たちの手裏剣は対魔族用のもの。魔気は浄化され、細胞は死滅する。魔撃の応用だって、師匠は言っていたよ。」
キャンティ・・・こんな恐ろしいものを作っていたのか。そういや、こそこそ何やらやっていた感じはあったケドな。
「ボクのバトルスーツも師匠の作品なの。何でも貫通させる効果があるんだってさ。だから、お前の骨もさっき砕けたの。」
こっちはアルファのレベルフォーの機能を有している。もはや、キャンティに不可能なことはないのかもしれない。
「・・・お前たち、オレを本気で怒らせたな。覚悟するが良い。」
奴はテレポートを巧みに使い、コタローと愉快な仲間たちに対して本気で攻めていく。防戦一方の彼らだったが、そんな彼らを見かねて可愛い助っ人たちが参上する。その気配に感づき、動きを止めるストローム。
「マロン!マリン!マドカ!」
「よし!僕たちもパワーアップするぞ!魔獣合身だ!」
コタローの合図で各々のパートナーと合身をしたコタローともんた・・・
その姿は、獣人そのものであった。
「あいつら、やるじゃねぇか!」
「あぁ、あれならかなりのスピードが出るはずだよ。」
しかし、マリンだけは狸のままであった。そうか・・・
バトルスーツを装着したぽんぽんとは合身出来ないんだな。
「親方さま・・・我も暴れて宜しいでしょうか?」
「うん、お願いするの。」
マリンの体が閃光したかと思いきや、めっちゃ可愛い少女が姿を現す。マリンの奴、人化したんだな。狸だから人化も容易いという訳か。
「我は戦乙女マリン・・・親方さまの敵は我の敵、我友ティナの敵も我の敵。」
マリンの正式名称って、戦乙女マリンっていうのか・・・
何かカッコいいな。ん?この雰囲気は・・・
タヌ子なのか?
クロちゃんと初めて会った時に出会ったタヌ子の雰囲気に間違いない。何かしばらく会わないうちにめっちゃキレイになったんじゃないか?ってか、別人じゃないのかって思うほどだ。
《カイト!あれ、ホントにタヌ子さんなの?別人じゃないの?》
ティナもビックリの変貌と登場だったが、マリンの髪にはあの時テイナがプレゼントした漆黒のかんざしがキラリと光っていた。これは間違いないな・・・
これは俺の推測だが、タヌ子は生魔獣としての特性を今まで封印していたんじゃないのか?
人化した状態で俺たちと過去に接していた。なんか鈍くさい女の子のイメージがあったが、自らの主探しが済んだ今は特性を開放して本来の姿になった。そういうことなんだろう。
もう少しでフュードブレードも完成する。コタローたちも大丈夫そうで、事は順調に進んでいると思った瞬間、奴は神撃を放ったのだ。
それを避ける間もなく、まともに喰らったのはゲン・・・
「何やらコソコソやってるんじゃねぇ!あいつらのせいで、オレはイラついているんだ。おとなしく見とけ!って言っても、お前はもうお終いだがな。」
《ゲン!ゲン!しっかりして!》
ゲンの体内から、キールが半泣きで話しかける。
このままではゲンとキールの消滅も時間の問題だ。
俺はヴァンに時間稼ぎをしてくれと念波で伝える。ヴァンがストロームの注意を引き付けてくれている間に俺は奴に気付かれないように青の二撃でゲンの細胞消滅を止めて体の再編成を行った。
《ヴァン、ありがとう。もう大丈夫だよ。》
《そうか、良かったぜ。》
「な・何故お前は消滅しないのだ?ゼウスでさえも消滅した神撃なのに・・・」
ゲンの異変に気付いたストロームは驚愕し、動揺していた。再度、フュードブレード化を進めるヴァンとゲン・・・
そこへ獣人化したコタローたちの追撃が始まる。
「バカめ!魔獣と合身していい気になるなよ。今のお前たちは魔族と変わらない。この魔撃の餌食となるのだ。」
「やってみろよ。僕たちがお前に勝算がなくて、このフォームになったとでも思ったのか?」
コタローも負けじと強気で反論する。奴は一瞬躊躇したが、それはハッタリだという結論に至った。奴の拳がコタローを襲う。
獣人化したコタローに拳はヒットしたが、その拳は何と消滅してしまうのであった。
「な・なんじゃこりゃ!オレの拳はどこにいったんだ?ダメージがある訳でもないし、一体どうなってるんだ?」
「僕の相棒マロンは生と死の神ペルセポネーの加護を受けている。お前の拳は死に触れてしまった。だから消滅した。もんたも一緒だからな。だから、お前は僕たちに触れることすら出来ないよ。」
そして、戦乙女マリンの静かなる攻撃が始まる。奴はバイオンクロスを放ったが、彼女は圧縮した魔気を放ち相殺させたのだった。それを見届けた奴は、激しいパンチやキックの連打で彼女に襲い掛かる。
しかし、一方の彼女は流れに逆らわず軽くいなすようにしていき、奴の攻撃は一撃もヒットしない。
柔と剛・・・一見簡単そうに見えて実は難しい。相手の力量とタイミングを寸分狂いなく反応出来なければ成功しない。
しばらくすると、驚くことに彼女が接した奴の腕は暴発するのであった。
「今度はなんだ?何故、腕が吹っ飛んだんだ?」
「マリンは生魔獣って言ったのね。特性を解除した彼女に触れると、細胞は超活性して更に生きようとするの。正常な細胞が限界以上に生きようとすれば暴発するのは当たり前なのね。」
ぽんぽんは奴に対して説明する。なるほど、特性を解除した生魔獣とは触れることすら危険な存在らしい。
コタローと愉快な仲間たちの攻撃は見事だ!だが、オレが奴なら打開策はまだある。神撃は恐らく、しばらくは使わないだろう。さっき奴が神撃を使った直後、著しく精神力がダウンした感じがしたからな。神撃は相当な精神力を要するとみた。
あれだけの破壊力を神界から引き寄せて放つんだ、ムリもない。
だから、次の奴の攻撃は・・・
「お前たち、意外とやるじゃないか。オレにこれだけのことが出来るんだ。自信を持つが良いぞ。しかし、これはどうかな。」
奴は意外にも冷静に対応していた。そしてキャンバールのスキルで、レイバーを三体生み出すのであった。コタローたちに攻撃を開始するレイバー。人型の人形だが、奴の意思とリンクしていて奴の指示通りの動きをする。
レイバーの攻撃がコタローたちを追い詰める。そう、人形には生死を与えることが出来ない。故に生命体とは異なり、触れても消滅や暴発することはないのだ。
残ったぽんぽんに奴は、キャンサーの奥義であるビッグバンキャノンを放つ構えを取る。
三人のウィークポイントに気付き、冷静に対応した奴はもはや負けないだろう。
俺が思った通りの戦術をとってきやがる。三分間、そろそろだな・・・
そして、奴はレイバー達に自爆指令を出す。コタローたちにガッシリとしがみつき、離れることのないレイバー達。
ぽんぽんのピンチにマリンはレイバーを引き連れたまま、彼の盾となるべく特性を封印して彼の元へと急接近する。やっぱりな・・・
特性を封印した彼女は、俺たちが知るタヌ子そのものの姿。
レイバーは赤褐色に変色したかと思うと一気に爆発するのだった。そして、奴はビッグバンキャノンを撃ち放つ・・・
黒煙が辺りに広がったが、しばらくすると風と共に黒煙は吹き飛んでいった。
コタローたちは?俺たちも焦りながら周囲を確認したが、その姿は無い。
ビッグバンキャノンの標的だったぽんぽんも姿を消していた。
俺は冷静になり、雰囲気の個性でコタローたちの居場所を探る。・・・
いた!三人とも無事だ!場所は・・・ここからは遥か遠くだな。その辺りには他に雰囲気の個性は感じたが、皆が穏やかな気配だ。
ここからは俺の推測だが・・・
三魔獣は生と死の神ペルセポネーの加護を受けている。だからレイバー達が自爆する瞬間、自らの主を守るために肉体のみをペルセポネー管轄の星にでも空間転移したのだろう。ぽんぽんにしても戦乙女マリンが間一髪、彼を引き連れて空間転移したに違いない。
まぁ、とりあえず彼らが無事で何よりだ。この情報は念波で皆とも共有済みだしな。コタローたちの無事を奴に知らせる意味が皆無なので、奴にはこのことはふせておいた。
そして、グリフォンとハルさんが主体だったフュードブレード化は完了する。俺も最終決戦となるので、ドラゴノイドフォームへとチェンジした。
三人の新たなる戦士を目前にした奴は、流石に動揺していた。
「何なんだ・・・あの時の竜魔人を再現させたのか?それにミユーとかいう奴が変身した、フュードブレードにも二人がなっていやがる。オレがあんな奴らに手こずっていたせいで、カイ達はパワーアップしたっていうのかよ。」
俺たちは時間が長引けば、奴がまた姑息な手段を取ると思い、一気に勝負をかけることにした。
「カイ、ヴァン、いくよ!オーバードライブ三位一体!」
俺とヴァンは阿修羅の力でゲンに吸収され、三人が一体化した。
《ここはゲンの中なのか?無重力空間みたいだな。》
《もうすでにコピーガードはかかっているから、心配無用で技を出せるよ。この阿修羅のスゴイ所は三人が同時に各々の技を出せる所だからね。》
俺達はそんな念波をしていたが、奴はコタローたちによって失った体の部位を自ら根元から引きちぎり再生させる。そして、体が赤く変色し魔気レベルを上げて攻撃してきたのが理解できた。
しかし、俺たちの体に当たったかに思えた攻撃は全て空振りとなった。ひらひら舞うのれんの様になったゲンの体に豪拳は意味をなさない。
「ちきしょう!何でオレの拳が当たらないんだ?つかまえちまえば攻撃も当たるだろ。」
奴は俺たちの体を両手で捉え、両手の温度を六千度にしてきた。通常であれば燃え尽きるか蒸発してもおかしくはない。
しかし、無限防御の力は偉大だ。奴の発する高熱を瞬時に吸収し、自らのエネルギーに変換してしまった。
「何故無傷で何ともないんだ?オレの攻撃は効かないのか?」
「次はこっちからいくよ。竜騎トルネード!」
俺たちは、デルタの技である竜騎トルネードを放った。
しかし、今回はデルタではなく、俺、ヴァン、ゲン三人の気を複合して使ったもの。当然、その威力はハンパない。
「ほぉ、凄まじい威力の技だな。ありがたくお前の技、コピーしてやるよ。」
コピーガードがかかったゲンの体に対して一生懸命に竜騎トルネードのコピーを行おうとするストローム。当然ながら、コピーが出来る訳もなく寸前でテレポートをして直撃を防ぐのが精一杯であった。
「何故なんだ?何故、スキルコピーが出来んのだ。オレの攻撃も無効化されちまうし、こんな雑魚共に頭にくるぜ。」
「残念だったね。今のボクたちにはコピーガードがかかっている。だからお前には技のコピーは出来ないよ。それにボクは無限防御を持っている。どんな攻撃も無効化してしまう。残念ながら、お前の攻撃は効かないよ。」
「コピーガードに無限防御だと?オレのスキルコピーに対してネックだったのが、唯一コピーガードだった。それをお前なんかが持っていたなんて・・・それに【三大無限】の一つをもっているだと?無限は伝説でしかないと思っていたが実在していたとは・・・」
「あっ!そうそう、俺も無限二つ持ってるぜ。無限の気を発する魔剣と無限の力を生み出す無限の石をな。伝説の三大無限が揃っているんだ。何か笑えるだろ?」
俺の一言には奴も目が点になっていた。
「そんなハッタリ真に受けると思っているのか?無限は伝説なんだよ。お前の防御も無限じゃなくて高性能なだけだろうしな。」
奴は口ではそんなことを言っていたが、動揺しているのは明白だ。
「じゃあ、冥土の土産に見せてやるよ。」
俺は無限の力を起動し、ゼブルの無限竜魔気を開放する。その様子を見ていた奴は、そのレベルが自分以上であることに恐怖した。
「オレは星のパワーを七つ分持っている。その潜在パワーを全開にしても到底奴の気にはかなわない。何なんだ、こいつらは只の人間じゃなかったのか?ゼウスでさえもここまでの気はなかったぞ。」
奴は不安と恐怖から独り言を言い始めた。そりゃそうだ、超絶レアな竜魔人化した俺は魔王と人魔合身した時と同レベルの新王気を有している。それにヴァンとゲンはフュードブレードして魔剣と合身した激アツ魔人に変身しているのだ。
その三人が一人の生命体として合身したその潜在パワーは神をも凌駕する。
俺たちは光速で動きながら、無限の新王気、無限の石を使った無限の力、無限防御を存分に発揮する。
奴は手も足も出ないし、ぐうの音も出ない。
しかし、奴は諦めることなくバイオンクロスやテレポートを駆使し、俺たちに攻撃を仕掛けてくる。
体勢は奴とガップリ組む状態になったが、パワーはやはりこちらに分があるようだ。
「クランチインパクト!」
ヴァンはレベルワンを発動させ、奴と組み合っていた手を粉々に粉砕する。
「な・なんだ?この瞬間的に爆発するような破壊力は?オレには闘鬼神の強さと龍神の耐性があるっていうのに・・・」
奴はすぐに体は回復していったが、心のダメージは計り知れない。
想定外のことがオンパレードで発生しているのだ。いかに名将の指輪を得ていても、その情報量の多さに整理と対策は瞬時には行えない。
《ヴァン、ゲン、奴は超回復と星々からパワーを得ていて底が無い。通常の攻撃じゃ、らちが明かないな・・・奴にはテレポートがある。竜魔トルネードは最強の技だケド、また直前で避けられちまうかもしれない。真雷波を放っても奴がポジションチェンジを発動させたら、逆に俺達が喰らうことも想定される。そこで、とっておきのロゼオンを発動させ、俺たちの全てを奴の体内で放出するんだ。》
ヴァンとゲンは無言でうなずき、俺の提案に同意する。
「いくぞ!ロゼオン!」
三位一体した俺達の体はロゼカラーのタキオン粒子となり、奴の脳内に侵入する。
予定通り、分子崩壊砲で奴の原子を叩き出し、風牙と昇龍波のコラボスキルが原子をも消滅させた。
脳から全身にかけて細胞が一気に消滅し、跡形も無くなるストローム・・・
「まぁ、意外と余裕だったよな。」
「うん、こちらが必死になることは無かったしね。」
「やっぱ、事前準備は大切だぜ。それにブレスが無かったら、こんなことは不可能だったしな。」
《カイト~やっぱあたしたち二人のブレスはサイコーだよ!ロゼオンなんか、ゼブル、マイちゃん、パルスがいなかったら出来ないスキルだしね!流石はあたしの愛するカイトだね!》
《あのなぁ、ノロけるなら後でやってくれよな。ウチはヴァンのクランチインパクト、何度見ても痺れるよ。ウチらの二人のブレスもサイコーだよな!》
《サイコーなのはゲンとわたくしの二人のブレスです。阿修羅の力が無ければ、皆安心してスキルを発動させられなかったでしょ?・・・ウフフッ、でもこの勝利はここにいる全員のもの。そうだよね、皆!》
俺達は勝利を確信し心の中でガッツポーズをとったが、突如邪悪な魔気が発生し、奴が姿を現すのだった。
「え?嘘だろ?何で奴が復活するんだ?」
「フッハハハハハ~ッ!オレは体の一部を亜空間にて待機させていたのだ。細胞の一部があれば、オレは復活出来るのでな。何かあったときの保険だよ。ゼウスと戦ったときもそうしていたが、お蔭で命拾いしたぜ。」
光速よりも速いロゼオンは回避不能。
そして再びロゼオンを喰らう前に、追い詰められたストロームは奥の手を出してきたのであった。
実際、ロゼオンの発動は一日一回が限度なのだが、そんなことは奴の知る所ではない・・・
「チョ・チョッと待てって!」
「何でこんなことに?」
「これって、ヤバいんじゃねぇか?」
余裕をこいてた俺たち三人は一転して大ピンチに・・・
それは目の前に突如現れた無数のレイバー。人型のそれは只の人形ではないのが離れていても感じられる。圧倒的な威圧感と高密度を感じさせる得体の知れないエネルギーを持つ存在が無数に空を舞う。
「フッ!バカめ、お前たちはこの人形にやられてお終いよ!おっと、間違っても破壊して回避しようとしてもムダだぞ。表面は核パスタで出来ている。万が一、表面の破壊が出来たとしても同時に内部にあるプラズマがドーンと大爆発する仕組みだ。ちなみに中心部の構成は太陽と同じって言えば解るよな。」
超星獣ストロームは不敵に笑い、俺たちは顔を見合わせる。
「なんだ?核パスタって食い物か?」
「ヴァン、核パスタってのは鉄の百億倍の硬さで究極の硬度をもつ物質だよ。」
「そんなものブッ飛ばせば済むだろ?」
「だから、内部は太陽と同じ物質で出来ているって言ってたじゃん。下手に衝撃を加えたら大爆発するんだって。」
「だから、ボクは余裕こいてないでトドメをさせばって思っていたんだよ!」
「お前だって楽勝だって、楽しんでたじゃねぇか!俺サマのせいにするなよな。」
「おいおい、もめてる場合じゃないって!どうする?」
俺は必死に考えた。今ある戦力、能力、人材で可能な対処法を・・・
しかし、一体ならまだしも視界に広がる無数の人形に対する手段が思いつかない。核パスタの体は破壊することは出来るだろう。だが、その後の暴発はこの星を巻き込んでしまう。ヴァンやゲンも同じく考えていたが、打開策は見つからなかった。
「くそ~!破壊出来ても、太陽のエネルギーが後から爆発してくるんじゃどうしようもないぞ!」
「ヴァン、お前のブラール波でも吸い込めないのかい?ブラックホールに転送が出来るんならそれが一番だけど・・・」
「ムリだ!これだけの数は吸い込めやしねぇ!ちくしょう!俺サマがもっとブラール波のレベルを上げる努力さえしていれば・・・」
「どんだけ考えてもムダなんだよ。暴発しても、オレは宇宙空間でも生きられるし、空間転移でどこの世界にも行くことが出来るからな。じゃあな!最後は気持ちよかったぜ。」
奴は不敵に笑い、無数のレイバー同士で衝突を繰り返す。
激しい衝突で硬いはずの核パスタに亀裂が入り、一気に太陽エネルギーが暴発する。
「ちくしょう~!!!!」
俺たちが叫ぶと同時に大気や大地が震え、辺りが真っ白になる。
《カイト!カイト!目を覚ましてよ!カイトってば!!》
ティナの声で俺は正気を取り戻す。辺りは宇宙空間・・・
そうか、スティール星は消滅しちまったんだ。俺やティナは天空の力で酸素が無くても生きていける。だけど、ヴァンやゲン、他の皆の気は全く感じない。
俺は落ち込んで、ふと自らのブレスを眺める。そして、ブレスを受け取ったあの日からの出来事を一つ一つ思い出していた。
色々あったよな・・・
色んな人にも出会って俺は成長出来たんだ。
父ちゃんと母ちゃんに最後位、礼を言いたかったな・・・
デルタにイプシロン強くて魅力的だった・・・
ファイ、期待に応えられずスマナイ・・・
クロちゃん、生きていたら今の俺に何を言ってくれるだろう・・・
ん?クロちゃんは死んでも、クロちゃんの石からは魂の声が聴こえて俺達を支えてくれていた。スティール星は無くなっちゃたケド、まだクロちゃんの声って聴けるのかな?
そういえば、クロちゃん言ってたっけ。
ホントに困ったことがあったら、ワシの石に念じてくれって・・・その時が、今だな。
《クロちゃん、クロちゃん、俺たち負けちまった。スティール星も無くなっちゃったんだ。こんな状況でも俺たちを助けてくれるのか?俺たち精一杯やったんだけどさ、星の皆を守ってやれなかったよ。》
《カイくん、君たちはよくやったよ。よく、神殺しの奴をあそこまで追い込むことが出来たと思う。じゃがあの時、君たちは一つだけ勝つ方法があった。君の新たなる光の力、ゲンくんのプラズマスターの力、ヴァンくんの暗黒の力じゃな。どうじゃ?イメージ沸いたかいの?》
俺はハッとした。そうか、その手があったよな!さっきは考える余裕が無くて失敗しちまったが、今更だけど・・・ちくしょう!これが思いついていれば、こんな結末にならなかったのに!
《じゃあ、やってやれ!君がイメージした通りにな。》
《そんなのムリだよ。今更なのはクロちゃんだって解るだろ?》
《・・・ワシは自分ではクロスと名乗っていた。皆はクロちゃんって呼んでいたがな、ホントの名前はクロノス。時の神なんじゃ。神が人間に加担してはいかんのだが、君には、この世界を救える力がある。何よりも心が清らかで一点の邪念もない。それに奴のやり方はあまりにも酷いからの・・・神界ゾーンへ行くのを止めたのは、ワシが既に認めていたからじゃ。だから、君にワシの石を託したじゃろ?魔神石をな・・・さぁ、時を戻すぞ!心の準備はしっかりとしておいてくれ。後な、このことはヴァンくんやゲンくんたちには内緒にしておいてくれ。ティナちゃんも頼むぞ。》
《解ったよ。リンやキールにも内緒にしておくよ。ホントに時が戻るんなら、スゴいよねカイト!》
《あぁ、希望が湧いてきた!頼むよ、クロちゃん!あの時まで時間を戻してくれ!》
ワシの石が初めて輝きを見せていた。
そして、石からとんでもない力を感じた。
これが魔神石の力・・・
目の前が明るくなり、視界が開けると目の前に無数のレイバーとストロームが現れたのだ。
「何でこんなことに?」
「これって、ヤバいんじゃねぇか?」
「まぁまぁ、落ち着けって!時間が無い、俺がイメージを念波で送るから皆で把握してほしい。いいな?十秒後、作戦をスタートする。」
俺は念波でこの事態を回避すべく方法をヴァンとゲンに伝える。
《解ったぜ!》
《了解!》
「いくぞ!オーロラシューティング!」
俺はオーロラを天に向かって撃ち放った。それは只のオーロラではない。全てを包み込む巨大な光の幕・・・
しかし、その光には弾力があり決して破ることは出来ない。
この新たなるスキルは、シャボン玉からヒントをつかんだのだ。シャボン玉はシャボン液の状態によって出来るシャボン玉の強度も変化する。
シャボン液の状態によっては、シャボン玉の中にシャボン玉を入れても二つともナカナカ割れないのだ。
その特性を応用し、無限の力でシャボン玉の弾力と強度を極限まで増幅させる。
オーロラはその色合いもキレイであったが、全てのレイバーを余すことなく包み込んで逃さない。
「プラズマスター発動!光よ我に従え!」
ゲンは続いてプラズマスターの力を使い、プラズマ全体をコントロールする。その指示はオーロラを一気に収縮させて、テニスボールほどの大きさにするものであった。中のレイバーたちはオーロラと共に収縮していて、どんなに暴れようがオーロラは破ることが出来ない。
「これで最後だ!ブラール波!」
ヴァンはブラックホールの塊を発動させ、縮小したオーロラを飲みこんだ。ここまでの時間は、時間にしてわずか数秒・・・
あまりにあっという間の出来事で、奴は呆気にとられる始末であった。
「な・なにをしやがった。あれだけの数のレイバーが一瞬で・・・」
「お前の切り札もこれでお終いだな。」
俺は手刀をゼブル化し、奴に切りかかる。それはキャンティの石と共鳴した箇所・・・
そこには、Can一族のスキルの欠片とサモンから奪った指輪が収納されていた。
「グアッ!き・貴様・・・」
「悪いな、こいつは返してもらうぜ。」
俺は奴の体内から、スキルの欠片七つと指輪三個を奪還した。次第にパワーを失っていくストローム。
「返せ!それはオレの物だ!くそっ!なんで超回復しないのだ。手刀で切られただけなのに切り口がふさがらないとは・・・」
「あのな、ゼブルで切られたら、そこは回復しないんだよ。これが、竜魔力の力だ。いくらお前がスゴくてもな。」
それを聴いた奴は、自らの手で傷口を更にえぐりだす。そこで初めて奴の体は、超回復を始めるのであった。
「こいつ、なんて奴だ。自分の体を自分でえぐって回復しやがった。」
「その方が一時的に魔力は消耗するだろうケド、体力は消耗しないって思ったんじゃない?」
「こいつのことだ。何をするか解らないから、早くトドメを刺そうぜ。」
俺の言葉に皆が一同に頷いた。こいつは何をするか解らない、作戦は早いに越したことは無い。
「フッ!フハハハハハッ!まさかこんな惨めな展開になろうとはな。予想もしなかったぜ。オレはこの星とおさらばする。だが、オレは宇宙空間で生きられるし、細胞が少しでもあれば超回復出来るからな。あばよ!」
俺たちの攻撃を待たずして、奴はすかさず自爆体制に入っていた。
「マジか?こんなに早く決断するなんて。さっきの作戦でもう一回ブラックホールに葬るか?」
「イヤ、こいつには空間転移がある。だから、ブラックホールからでも生還出来る。奴にはゼブルを使った手刀が一番効果としてあるだろう。だが、その衝撃で暴発する可能性が出てくるのは否定できない。」
「自爆はスキルじゃないから、ファイの能力でも封印は出来ないしな・・・」
「じゃあ、どうするんだよ!」
《リン、キール。》
ここは、あたしたち三竜姫のみの念波回線。
故にカイトたちには内緒の話が出来る所・・・本来は女子会で使ったりする所だが、今回は違う。
《皆、よく聴いて。この状況、ヤバいよね。どうする?あたしたちも何か案を出さないと、カイトたちもう詰んでるかもしれないよ。》
《そうですね。でも、わたくしたちが出来る最後の手段って【ドラゴンハート】しかないですよ。》
《そうだな、それしかないって!ウチらがかましてやるしかないよ!》
《皆、解ってるの?ドラゴンハートを使ったら、あたしたちの存在が消滅しちゃうんだよ。クロちゃんに前に聞かれた時は、カイトに心配させちゃうから誤魔化したけど・・・キール!あなたは冥界に奴を送り込むことが出来る。だけど、奴の空間転移が冥界をも支配していたら、無意味になっちゃう。リン!あなたは太陽と同じ温度で焼き尽くすことが可能でしょ?でもさ、奴は千五百万度の温度に耐えることが出来るかもしれない。ここはあたしに任せて!あたしが奴の細胞と魂の全てを消滅させてやる。あたしもその代償で肉体は消滅しちゃうケドさ、ドラゴンハートを使ったら転生出来るっていうじゃない?大丈夫だよ、これしか助かる方法がないからね!これはカイトたちには内緒の作戦だからね!解った?》
リンとキールは返事をすることが出来ない。
泣き声をたてることも出来ない・・・
出来ることは、黙ってティナのドラゴンハートを見守ることのみ・・・
他の有効手段が無なかったのだから・・・
《カイト、よく聴いて!こいつで奴にトドメを刺すよ。あたしが竜水晶に転移する。そのパワーをカイトに送る。カイトはそれをブレスとして奴に思いっきり吐き出して!それで奴は細胞全てが消滅する。合言葉は【ドラゴンハート】だからね!解った?》
「あぁティナ、ありがとう。前に聞いたことあったドラゴンハートって、こういう時の為だったんだ。今の状況で奴を刺激したら、暴発しかねない。スティール星がどうなるか解らないから困ってたんだ。助かったよ。」
「ティナちゃん、ありがとう!ボクたちは何も力になれませんが・・・」
「俺サマはリンと見守っているぜ。ありがとな、ティナちゃん。」
《さぁ、カイト行くよ!》
「ドラゴンハート!」《ドラゴンハート!》
ブレス内にいたティナは、竜水晶へと転移した。俺の体は姿を変えて、青白く輝く超戦士に変化する。
胃袋の中から何かがこみ上げてくる・・・
これがティナの切り札、ドラゴンハートなのか?
魔力や波動力、騎力でもないティナそのものを感じる凄まじい力・・・
切り札っていうだけのことはあるな。こんな隠し玉があったなんて驚きだ。
俺はこみ上げてきた【息】を一気に奴に思いっきり吐き出した。
「な・なんだこの感覚は・・・体が無くなっていく?オレの手、足が・・・た・助けてくれ。助け・・・」
この瞬間、超星獣ストロームは細胞と魂すらも完全に消滅し、全世界に真なる平和が戻ったのだ。
俺は人間の形態に戻り、皆と喜びを分かち合う。
「やったぜ!ちきしょう!」
「ボクたちの勝利だね!キール!」
「ティナ、ありがとう!お前のおかげだ。これで皆が平和に暮らせるよ。ありがとな!・・・ティナ?」
俺は竜水晶内にもブレス内にもティナの気が感じられなくなり、違和感を覚えた。
「おい、ティナ!どこに行ったんだ?ティナ~!」
そこへリンとキールが、泣きながらブレス内から現れた。
「カイ~ティナはもういないんだ・・・さっきのドラゴンハートで消滅しちゃったんだよ!」
「カイ、リンの言う通りなんです。わたくしたちはドラゴンハートを使うことで究極を生み出します。わたくしは冥界への扉を、リンは太陽のエネルギーを、ティナは細胞と魂の消滅を。その代償として自らの肉体が消滅してしまうのです。その魂はいずれどこかに漂い、転生すると言われていますが、不老不死でも肉体の消滅は死を意味するんです。」
「う・嘘だろ?俺・・・そんなこと聴いてないよ。だって、ブレスにはティナの石があるしな!皆で俺を騙そうとしているんだろ?ティナ、そろそろ出て来いよ!ティナ!」
「カイ、ドラゴンハートを使ったあとはブレス内の石はお前に全て託されるんだ。つまり、ティナの力は全てお前に託されたってことだ。ウチ、ウチは・・・」
リンとキールは伝えたいことは全て伝えたようで、ひたすら泣きじゃくっていた。
ヴァンとゲンはそんなリンとキールに寄り添って無言で涙をのむ。
俺はただ茫然となり、今までの疲労とティナを失った悲しみでどっと崩れ落ちた。
そっか、あの凄まじい力はティナの生命力そのものだったんだ。
生命の火を燃やしきったあの最後の【息】こそが真の【二人のブレス】であったのだと涙を流しながら、それに気付く・・・
だが、ここにはキラキラ輝くティナの姿はもう何処にもない。
無念・・・
せっかくクロちゃんに助けてもらったっていうのに・・・
全員が無事でなけりゃ意味が無い。
俺の心がポキリと折れる寸前・・・
《カイト!やっぱ、あたしがいないとダメだな~!》
どこからともなく、ティナの声が聴こえてくる。これは幻聴か?幻聴でもいい!ティナの声が聴こえてきたんだ。
「ティナ!ティナ!どこにいるんだ?姿を見せてくれよ!」
《カイト~!もう、あたしがいなくても大丈夫だよね?へなちょこを卒業し、カイトの強さはあたし以上になってるしさ・・・これからも強いカイトでいられるよね?》
「俺にはティナがいない日常は考えられないよ!ティナ!最初に会った時から、俺はお前に守ってもらっていた。そして、今も・・・だけどさ、これからは俺がお前を守ってやる。お前が必要なんだ・・・お前が俺の心の支えなんだよ。」
《ふ~ん、そうなんだ。カイト、あたしのことそんな風に考えてくれていたんだね。ありがとっ・・・でもさ、あたしは死んじゃったんだよ。もう、会えないんだよ。》
「そんなこと、言わないでくれ・・・ティナ、俺のこと好きか?」
《どうしたの?急に・・・うん、勿論大好きだよ!》
「愛してるって言ってくれ。」
《愛してるよ!》
「名前付けて言ってくれ。」
《愛してるよ、カイト!》
「ティナ、愛してる。」
《これって、初めてカイトに会った時にあたしがカイトに言ったことだよね。ズルいよ~カイトが主導権取っちゃってさ!》
「じゃあ、これからもティナが主導権取ればいいじゃんか。」
《なぁ~んで、あたしがそんなこと言われなきゃならないの?それにムリだよ・・・あたしはカイトといつも一緒だよって言ってたのに約束を勝手に破ちゃった。今は肉体が消滅し、魂だけになっちゃったんだよ・・・だから、サヨナラしなきゃね。》
「あぁ、こんな無念さはもう味わいたくない。例え魂だけになったとしても、お前を二度ともう離さない。お前のことだけ愛してる俺を信じろ!俺も俺のことだけ愛してくれているお前を信じる!だから、三分間だけ時間をくれよ。」
俺は念波で皆に自分の想いを伝える。
この念波には、魂だけになったティナは介入出来ていない。
《皆、今から俺の想いを伝える。頼むから何も言わずに俺のわがままを聞いてくれ。一生に一回だけのわがままだ。》
《カイ!何言ってやがるんだ。俺サマたち全員、お前の決断したことに対して異論を唱える者はいない。なぁ、皆そうだろ?》
《そうだよ。お前はお前の道を歩んでいくんだ。誰にもそれを邪魔することは出来ないよ。》
《ありがとう。ヴァン、ゲン・・・それに皆・・・》
俺は自分の想いを念波グループの皆に伝えていった。
それはゆっくりと三分間の時間をかけて・・・
「ティナ、待たせたな。」
《カイト?あたしも考えたけど、さっきのカイトの言葉の意味が解らないよ。魂だけになったあたしを離さないって、どう考えても人間のカイトにはムリだよね・・・じゃあね、とっても楽しかったよ。そして・・・愛してる。永遠にね。あたしが転生して、もしまたカイトと会える時が来たら、あたしのことを今度は離さないでよね。あたしもドラゴンハートは二度と使わないでカイトから絶対に離れないからさ・・・》
俺は魂だけになったティナを見つめてニッコリと微笑む。
「ファイ!頼む!」
俺の一言でファイは俺の目の前に空間転移してきた。
そして、俺の手からキャンサーのスキルの欠片を無言で受け取り、握りしめる。
そして、ゼブルを地面へと突き刺す・・・
俺の手の平がゼブルを離れるとゼブルは無言であったが、カタカタと小刻みに震えているのが感じられた。
ゼブルを手から離したことによって、新王気から騎気へとレベルダウンした俺の気を更に魔気へと変化させるのであった。
俺とファイは見つめ合い、お互いに阿吽の呼吸で同時に頷く・・・
「氷魔浄化!」
ファイはストロームが、ミユーからスキルコピーをした氷魔浄化を俺に対して撃ち放つ。
俺の体は氷玉に封じ込まれ肉体も氷化したのだった。
《チョッと!ファイ!何するの?カイト?カイト~!!!》
そしてファイは浄化に取りかかる。その瞳からは大量の涙を流しながら・・・
俺の肉体は浄化され、魂だけとなった・・・
色々考えたが、魂だけとなったティナと共に歩むにはやっぱこの方法しか思いつかなかったんだよね。
ファイだけでない・・・
ヴァン、ゲン、ゼブル、マイちゃん、パルス、キャンティ、そして沢山の仲間たちが終始無言で悲しみをこらえるのに必死だった。
《カイト!何やってんのよ!あんたまで死んじゃったら、あたしがドラゴンハートを使った意味がないじゃない。》
《ティナ、意味はあるよ。お前はスティール星やこのメタル系銀河を守ったんだ。あの時のお前の選択は間違っていない・・・そうそう、お前転生したら自分のことを離さないでって言ってたケドさ、転生したら前世の記憶は無くなるらしいぞ。大分前にクロちゃんに聞いたんだよ。ストロームの奴は深い怨念があって転生しても前世の記憶があったレアなケースだケドな。》
《だけどさ、なにもカイトまで死ななくても良かったんじゃないの?赤い糸で結ばれていれば、また転生してもきっと再会できるのに・・・》
《バッカだなぁ~転生したお前じゃ意味がないんだよ。今まで俺を十六年間見守ってきてくれて、今日の今日まで俺を守ってくれていたティナ、お前じゃなきゃな。》
魂だけになったテイナは涙を流すことは出来ない。
しかし、俺には伝わってきた。ティナが深い感動を受けたことが・・・
《カイくん、ティナちゃん。クロちゃんじゃ。折角盛り上がっているところだろうが、君たちは生き返ることが出来るぞ。ワシがぺルちゃんにお願いしたからの。》
突然クロちゃんが念波でサプライズ告知をしてきた。
俺とティナが復活出来るという知らせだ。
《ぺルちゃん、ムリ言ってすまないの。》
《クロちゃん、何言ってるの?パパの命を奪った奴を倒してくれたんだよ。パパを蘇生させたのに、あの娘たちを助けなきゃパパに怒られちゃうよ。》
クロちゃんの話によると、クロちゃんは生死を司る神ペルセポネーに俺とティナの蘇生を頼んでいた。
クロちゃんに頼まれたのは口実で、ペルセポネーは絶対神ゼウスの娘で父の敵を討ってくれた相手に仁義を尽くしただけに過ぎないようだった。
《ありがとな。神たる者が一人の人間にこんなことしちゃいけないのは解っているが・・・本来、神がすべきことを彼らがしてくれたから、せめてもの礼じゃ・・・》
《クロちゃん、神ってことは内緒じゃなかったのか?・・・まぁ、状況が変わったから仕方がないか。ゼウスは復活したのか。良かった・・・》
ヴァンやゲン、他の皆もこの事実は衝撃的過ぎた。今まで知恵袋的存在だったクロちゃんが神であったことに驚きを隠せないのは当然だろう。
神ゆえの不思議な現象が多々あったからな。
謎だらけだったワシの石、おかめちゃんを使っても変化がなかったこと、誰も知らないことを何でも知っている博学さ、幽霊の如く肉体が消滅してもワシの石が健在だったこと・・・
俺は嬉しかった。クロちゃんが最後の最後まで俺たちのことを考えていてくれたことに・・・
《クロちゃん、あとぺルちゃんって呼んでいいのかな?ありがとう。俺、めっちゃ嬉しいよ。俺もティナも生き返ることが出来るなんて思ってもいなかったからさ・・・でもさ、その想いには応える事が出来ないよ。折角の申し出だけど、お断りする。悪いね・・・》
《何故じゃ?復活出来れば、今まで通りの楽しい生活も遅れるし、君たちさえ問題なければ、ファイくんの希望だった覚醒魔王にもなれるのに・・・》
《あぁ、それはそうなんだけどさ・・・今回の一件で何の関係もない沢山の人間、魔獣、魔人が死んでいったんだよ。その沢山の命を差し置いて、俺たちだけ復活出来るなんて、やっぱおかしいよ。じゃあ、その沢山の命全てを復活させるっていうのも、またおかしな話だろ?今までの歴史の中、色んな事件で沢山の命が失われている。それは自然の摂理だし、運命だと思うんだ。今回の一件だけ特別扱いするのは、正しいことじゃないよな・・・だから、俺たちはこの死を受け入れる。まぁ、そういうことだ。でも、クロちゃんの気持ちはありがたく受け取っておくよ。神だけど俺たちの大切な友達の気持ちに感謝している。ホントにありがとう。》
《カイくん・・・君はどこまで純粋で無欲なんだ。君のスキルは神レベルまで達していたが、心も神レベルまで達しているとは・・・解ったよ。ワシはこれからも君たちの友達だし、今後も見守っておるからの。》
クロちゃんはそう伝えると、プツリと念波を終わらせた。
そう、これで良かったんだ。俺には何の悔いもない。
《ヴァン、ゲン、頼みがある。父ちゃんと母ちゃんにはこの一件、伝えてくれよ。まぁ、伝えにくいのは解るけど、頼むな。》
《あぁ、解った。俺サマがしっかりと伝えてやる。》
《任せてよ。ボクもおじさんとおばさんには昔お世話になったんだ。何かあったら、二人の面倒は見るからさ。》
《ありがとな・・・あっと、ゼブル。お前はキャンティの元へ戻れ。俺以外の奴はお前に適合しないからな。万が一、俺が転生して適合しそうだったら、またコンビを組もうな。》
《うむ、解った。我は待っておるぞ。唯一無二のパートナー復活の時を・・・》
《マイちゃん、パルス、キャンティ・・・短い間だったが、ありがとう。最高のチームが作れて俺、幸せだったよ。マイちゃん、パルス、人間は悪い奴ばかりじゃないケド、悪い奴が多いのも事実だ。それに対して絶望しないでくれよな。また、縁があってチームを組めたら組もうぜ。》
マイちゃん、パルス、キャンティは涙が止まらずにただ黙って頷くだけであった。ホントに可愛い奴等だ。
《ファイ・・・すまない。覚醒魔王になれなくて。スティール星を気にかけてやってくれよな。ヴァンとゲン、もう立派な戦力になると思うけど、何かあったらフォローしてやってくれ。頼む・・・》
《カイ、オレはまだあきらめちゃいないからな。転生したお前を待っている。例えお前に前世の記憶が無くてもオレはお前を探し出す。必ずな・・・だから安心していってくれ。》
俺は黙って心の中で頷くと同時に嬉しかった。
沢山の仲間・・・
心から信じあえる仲間・・・
最高のチームに感謝だ・・・
《カイト、ホントにこれで良かったのかな?他に選択肢は無かったんだよね?》
《あぁ、これが俺たちが決めた選択肢だ。このバトルで沢山の命が失われた。その事実はどうすることも出来ない。でもさ、助けることが出来た命があるのも事実だよ。その一つの命から子供が出来て、その子供が成長してまた子供を作る・・・俺たちは無限に広がる命を救ったんだって思ったら、何か嬉しくなっちゃってさ・・・こんなことを考える俺ってバカだよな。》
《カイト!大好き!》
こうして、俺とティナの魂は冥界へと転送される・・・
一時経過・・・
俺の魂とティナの魂の中から一本ずつ糸が突然発生し、外部でその二本の糸が結ばれていることに気が付いた。
なんだこれ?
俺もティナも何だか解らない糸に対して違和感を覚えた。周囲に浮遊する沢山の魂には、こんな糸は発生していない・・・
まだ受肉をしていない魂だけの存在の俺とティナ・・・
でも、俺はその糸を通じて確かに感じたんだ・・・
ほのかに感じる温もりを・・・
彼女の心地よい香りを・・・
ん?チョッと待てよ。
魂の中側、内から出た糸が結び合う・・・
参ったな、漢字にしたら【結納】じゃないか。
こんな心憎いことが出来るのはあの二人しかいないな。
ありがとう、クロちゃん、ぺルちゃん・・・
転生がいつ完了するかも解らないし、前世の記憶が無くなる中、ティナと離れ離れになるかもしれない・・・
そんなことが無いようにこの糸は、時の神クロちゃんと生と死の神ぺルちゃんが俺とティナの魂を結び付けてくれた最高のギフトに俺たちは心から感謝した・・・
そして、時は流れて・・・
「よっ!お前、破壊竜だろ?イヤ~探したよ。」
一人の少女が、もう一人の少女に声をかける。
「ちょっと何?あたしはあんたなんか知らないよ。それにあたしが探しているのは男の子で、あんたなんかじゃないしね。」
「そんなこと知ってるよ。カイって奴を探しているんだろ?何なら手伝ってやろうか?」
ニッコリと微笑む少女を疑いの目で凝視するもう一人の少女・・・
「何でカイの事、知ってるのよ。それにあんたは何者なの?まずは自己紹介するのが、礼儀ってものじゃないの?」
「そりゃそうだよな。でも、自己紹介なんてするの初めてなんでな・・・わ、わ、わ・・・」
目の前の少女が、どもっていたのを見て拍子抜けしたのか、クスクスと笑い出す少女・・・
「わたしは、レイ。あんたとカイをよく知る者だ。訳あって、今は事情を説明出来ないが、信用してほしい。」
《危うく、我と言いそうになってしまった。我のことはまだ内密にしておかねばな・・・》
新たなる【二人のブレス】は、こうして二人の少女の出会いからスタートする・・・




