第四話 飛来
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俺たち六人は再び集合し、お互いの情報を秘密のアジトにて開示して個々の想いを伝えあうことにした。秘密のアジトとは俺たち三人が本気で造った森の中の秘密基地である。
秘密基地の名前はグリモア、MAX十人ほどが寝泊まりできる小屋でゲン主体の元、防音断熱もしっかりと考慮した設計になっている。
電気、ガス、水道は完備していないが、たまたま近くにあった井戸を活用し、風呂や囲炉裏を造って対応した次第である。場所は獣道を駆使しているので、すぐに発見出来る訳ではない。ここで普段は何をしていたのか?ということだが、何てことはない。新たなる料理の試作、普段できない化学の試験実験、大食いチャレンジなどやりたいことを楽しんでやれる場にしていたのだ。
さて、俺たち六人が初めて顔を揃えることになったのだが、三竜姫は満面の笑みで場を明るくしてくれた。
「チョッと何でティナもキールもそんなにご機嫌なのさ?ウチはいつでもご機嫌だけどな。」
「あたしだっていつもご機嫌だよ。今日は念願の想いがやっと叶ったから、特にハッピーなんだけどね!」
リンとティナがそう言うとキールも恥ずかしそうに口を開く。
「初めに言っておきますが、わたくしはゲンさんとキスしちゃいました~!」
なんと唐突にキールはチュー宣言をしてのけたのだ。直後、一同はフリーズすることになったのだがリンとティナも負けず嫌いから、「ウチもウチも!」「あたしもしたよ!」と爆弾発言を続けたから俺たち男組は顔を揃って赤くする。
「え?ヴァン、マジか?お前がそういうの一番しなさそうなのに。」
俺がそう言うとヴァンは言い訳交じりにあたふたと発言した。
「イヤ、あれは事故だよ事故!たまたまそういう展開になった訳で俺サマがお前らを差し置いてそんなことすると思うか?」
ヴァンは自己防衛の為にそんなことを言い出したが、それを聴いたリンが黙っちゃいない。
「チョッとヴァン!何なの事故って!あの時のことはそんなもんで片づけちゃうくらいの偶然的なものなの?ウチ、めっちゃ傷ついたわ。」
肩を落とした感じに観えるリン。それはあくまで演技なのだが、ヴァンはまたもやあたふたしていて観ていて面白い。
「イヤ、それはそのそんなことはないぜ・・・おい!カイ、ゲンお前らもマジでしたのか?」
と話を切り返して誤魔化すヴァン。
「ボクはしたよ。でも何かボクとキールは無意識だったんだよね。それが自然体っていうか。まぁ、相思相愛ならイイんじゃないの?ヴァンもリンのこと、好きなんでしょ?」
ゲンはヴァンに助け船を出してくれた。流石はゲン、口の上手さは天下一品なのだ。
「お、おう。当然、俺サマもリンとは相思相愛だぜ。さっきは言葉の綾っていうか、ウン、俺サマの照れ隠しだ。すまん!」
今度は本音で男らしく自分の想いを話すヴァン。俺もホントにあったことを隠さずに皆に話をしていった。
「俺もしたよ。でも、恥ずかしながら自分からじゃなかった。今度は自分から自然に出来るようになりたいって思う。でもDNAのシンクロは俺の想いの強さとティナの想いの強さがピッタリ一致したからみたいなんだ。俺たちも相思相愛だ。」
「あははっ!カイ、そういうのって雰囲気でお互いが自然とそうなっていくものだよ。まぁ。カイは女の子に慣れてないから仕方ないケド。」
ゲンのツッコミはあったが、俺とヴァンの話を聴いたティナとリンは嬉し涙を流しながら俺たちに抱き着いてきた。ヴァンとゲンは最初、リンとキールから話があるということで関係がスタートし、最後はチューに至りDNAのシンクロが発動した。
実は三竜姫の竜眼で認められた相手とは、遅かれ早かれ相思相愛になるとティナが教えてくれた。だからヴァンもゲンも最初はリンとキールに興味が無く、今日二人の話を聴くというキッカケが無くてもいずれは結ばれる運命だったのだ。
そんなワイワイしたアットホーム的な話が続いていたが、ゲンから大事な話があると言われて俺たちは襟を正して聴くようにした。
話の内容はキールから発信された世界崩壊の予知夢で、それをゲンの口から改めてされたのだ。今まで浮かれていた俺たちは深刻な表情になり思いをはせる。
「それってもしかしたら・・・ってことだろ?絶対神ゼウスを超える存在って有り得るのか?まぁ、亜空間や異次元にどんな奴がいるのか分からないし、宇宙にもとんでもない奴がもしかしたらいるかもしれんが。」
俺は信じがたい話に困惑したが、感想を述べて再び考え込んでしまう。
「そんな奴が来たら、俺サマがぶっとばす!って言いたい所だが、今の実力じゃお話にならんからな。絶対神ゼウスどころかチョッと強い魔獣がきたら、正直勝てるかどうか分からん。まずは俺サマたちが強くならないとだな。」
珍しくヴァンがまともな見解をしてきたので、俺とゲンは思わず顔を見合わせた。
「キールの予知夢は百パーセント現実的なものらしいよ。そう、まずは力をつけよう。特にカイ、お前は人の何百倍も努力しないとだよ。ボクも当然努力していくよ、このブレスに誓って。」
俺は頷きゲンと同じくブレスをゲンの前に差し出した。しかしヴァンの奴、頷きはしていたものの一向にブレスを俺たちの前に差し出そうとはしない。それどころか最初からブレスを体内に収納していて見せようとしない。
「ヴァン、何でブレスを出さんの?俺もゲンもブレスに誓って努力していこうって言ってるのに。」
しばらくヴァンは黙っていたが、リンが口を出してきた。
「あのな、ウチの髪の色が薄いピンクやん。だからヴァンのブレスも薄いピンク色で、こいつその事をお前らが笑うんじゃないかってエライ気にしとるんよ。」
ズバッとヴァンが言えないことを言い放ったリン。俺とゲンは顔を見合わせて、きょとんとした表情であった。
「ヴァン、そんなつまらないこと気にしてるのか?ブレスの色なんかどうでもイイんじゃない?それじゃ聴くけど、お前が愛した人の髪の色が薄いピンクじゃ、お前は恥ずかしいのかい?」
ゲンは視点をズラした問いかけをヴァンにしてヴァンの羞恥心を拭う作戦だ。
「俺サマはリンの髪の色は勿論好きだぜ。確かにブレスの色を気にしていたのは事実だ。悪い、リン。今から俺サマは変わるぜ。もっと器のデカい人間になるから、観ていてくれ。」
そう言ったヴァンはブレスを出現させ、俺とゲンのブレスに並べて努力の誓いをした。
それからはお互いの情報交換タイム。
俺は武闘家講義をしていたジェニムのおっちゃんの話、とりあえず三十kgの負荷をかけた修行からスタートすることを話した。ヴァンとゲンの話を聴いて感じたのは能力のすばらしさと思想の高さ。ヴァンは強さを追及していくだろう。親友ではあるが、今日からライバルでもあるのだ。ライバルといっても、俺たちは仲間の成長を真に喜び、それを糧に自らも更なる努力をしていく関係にある。
ゲンは自らを強くということは考えてはいるだろうが、そんなことよりも戦略家ならではの考えでチームとしてだとか、人を立ててということに重きを置く奴だ。そんなゲンは自らが主役というのではなく、皆の為の行動を選択していくだろう。
本来ならばリーダーとして十分にやっていける奴だが本人はそんなことは微塵も望んでいない。要は皆で楽しく平和にあれば満足らしい。
俺もヴァンもゲンのそういった所が気にいっている。ヴァンの奴は今日に限らずゲンに何度も窮地を救われているので、ある意味一目置いているのだ。
その後も個人個人がプライベート的な話を十分にして六人がお互いを理解しあえた。
「じゃあ、これから厳しい修行がスタートするケド、お互い自分に妥協しないで上を向いていこう!俺たちの目標は人類と魔獣の平和維持だ。」
「まぁ、ある程度の力が付いたら武闘大会に出て実力の確認をしてみるのもアリだよね。言っとくケド、今のボクは武闘大会よりも色んな世界を観て回りたいから大会はパスするよ。」
俺とゲンは自分の考えを述べたが、ヴァンは違うことをリンに聴いた。
「なぁ、リン。俺サマたちはこれから別々の道を歩んでいく。特にゲンの奴は亜空間や異次元にも行くだろう。緊急時に連絡を取る手段は何かないのか?いざピンチに陥ったら、絶対に必要なことだと思うしな。」
珍しく筋肉バカのヴァンがまともな事を言い出したのだ。本来ならばゲンがそういうことに関心があるものだが、それだけヴァンも真剣なのだろう。
「あるよ~、連絡とる方法。ウチらはドラゴンという同一種。同一種の生なる魔石がハマったブレス同士ならば念波のグループ化が出来るんよ。やってみようや。」
リンがそう言うとティナとキールが近付いてきた。そして、各々左手はパートナーのブレスに添えて右手は隣の竜姫の左手の上に手を添える。
こうして出来たドラゴンゾーン。三竜姫は目を閉じて念波を揃えていった。元々同一種なので念波を揃えるのも容易いようで、数秒したらドラゴンゾーンはレインボー色に輝きだした。
「は~い、これで三人は話したい相手のことを想うことで念波を送って話をすることが可能になったよ。あたしたちがパートナーだったから出来たんだから感謝してよね。」
とティナが得意気に言ってきた。
「ありがとう。これで安心して修行に臨めるよ。流石はティナたちだね。」
俺は感謝することとほめることを忘れずにいた。
女の子はこういったことに敏感で感謝と称賛は忘れないようにって、こっそりゲンが伝えてきたのだ。流石はゲン、チョッとしたことだがティナを怒らせたら後が怖いので非常に助かる。試しに俺たちは念波を送ってみた。実にクリアに念じた事が他の二人にも伝わる。更に驚いたことには目を開けていると観ている内容がそのまま映像として二人にも目の前に子画面で表示されるのだ。いわばオンラインでやり取りが出来て便利なことこの上なしだ。
俺たちは思い残すこともなく、それぞれが新たな道を歩むべくグリモアを後にしようとした。何かあれば連絡をするようにと念を押すことを忘れることなく。しかし、その時に目の前に強大な魔力を感じさせる存在が空間転移してきたのだ。
「やっほ~!三人とも久しぶり~。」
魔人キャンティが魔剣のチェックを終えて、俺たちに合流してきた。
「チョッとあんた、何の用?あんたが来るとろくなことが起きないからウチは嫌なんよね。」
「そうだよ~。前にあたしたちの所に来たときは、急にバトルになって周囲が大壊滅になったし。」
「まぁまぁ、キャンティが作ってくれたブレスがなかったら、わたくしたちはパートナーとも巡り合えなかったかもしれないんですよ。」
「そりゃそうだけどさ要件次第ではウチら、あんたの相手はしないよ。」
チョッと待てよ。聞き捨てならない会話が出たぞ。俺たち武闘家のブレス、これを彼女が作ったって?
「ねぇ、ティナ。ブレスを彼女が作ったってのはホントなの?」
「うん、ブレスの仕組みを考え構築し作り上げた開発者だよ。ああ見えて女鍛冶師なんだ。ブレスなんかのアイテムも作っているけど、一番熱を入れて取り組んでいるのは剣作りなんだって。」
「まぁ、剣は俺たち武闘家には必要ないよな。鎧なんかはもしかしたら必要になる時がくるかもしれないケド、今はイイや。折角来てもらったけどゴメンね。」
「カイ、要件を聴いてからでも遅くはないと思うよ。キミ、ゴメンね。ボクたちは時間をムダにはしたくないもんで。まず、要件を聞かせてくれないかな。」
「俺サマは剣に興味があるぞ。別に武闘家が剣を使っても問題はあるまい。剣でなくては倒せない敵がこれから出てくるかもしれんしな。」
ヴァンは女の子の怒りをさっき経験したばかりなので、キャンティの対応には気を使っている。成長したなヴァン。そういう謙虚さも必要だと俺も思い反省した。
「あたいが今日ここに来たのは、愛する魔剣たちの主探しよ。聴いて驚け!何と一本五百年間はかかってやっと完成した名剣たちだぞ。今ここには持ってきてはいないが、あたいがあんたたちの品定めをしてあげる。魔剣の名は、ちなみにカイギュラン、ギガヴァン、ドゥラーゲンよ。」
「チョッと待ってください。ボクたちの名前が三人とも含まれているじゃないですか?その魔剣とやらの名前はあなたがつけたのですか?」
ゲンが鋭い突っ込みを入れてくれたので、俺たちもそのことに興味を持つ。
「イヤ、魔剣の名前は魔剣たちが自分でつけたんよ。どれもウン千年前には名前が決まっていたね。」
「チョッとキャンティ、何かおかしくない?何で武闘家のヴァンたちが自分の作った魔剣の主か気になったわけ?武闘家にはフツウ剣は必要ないよね?あんた、もしかして魔眼や魔耳を使ってウチらのこと見通していたんじゃないの?だから三人と三本の剣の名前一致が気になった。図星でしょ?」
リンはどうだ!と言わんばかりのドヤ顔でキャンティに迫りくる。
「なぁ、魔眼と魔耳って何だ?」
ヴァンが小さい声で質問をしてくれたので、遠く離れていても映像として観れたり、会話が聴こえたりする特殊能力だとキールが教えてくれた。
「リン、お前しばらく会っていない間に鋭くなったなぁ。つまりはそういうこと。盗撮盗聴まがいのことをしたのは謝る。でも、これって運命の出会いになるんじゃない?って思わない?」
俺たち六人はキャンティの言うことに黙って頷くだけだった。ウン千年前から名前が決まっていた魔剣と同じ名前の俺たち。偶然としては片づけられないなと誰しもが思った瞬間、天空から何かが降ってきたのだ。
ドーン!という激しい轟音と地響きが起きる。辺りは砂煙にまかれて視界がクリアされるまで何が起こったのか俺たちは解らなかった。
やがて視界が開け、辺りを見渡すと三本の剣が地面に突き刺さっていたのだ。
「バ、バカな。剣が自らの意思で空間転移してここまで飛んできたのか?こんなこと初めてだよ。」
キャンティがそんな驚きを見せていたが、俺たちの方がよっぽど驚いたのだ。
「キャンティ、先ほどキミは剣が自ら名前を決めたと言っていたが、剣には自我があるのかな?にわかに信じがたいけど・・・」
そんな質問をゲンが投げかけたが、キャンティも素直に答える。
「あたいの魔剣たちには核がある。その核はとある生物や精霊の魂をもらい受け、宿らせたものなの。だから生命体ではないし、只の剣でもない。自我を持っていて、念波を発することや成長することも可能なんだ。」
キャンティが鼻高々に説明するとヴァンは一番に褒めたたえた。
「お前って天才だな。只の鍛冶師だったら、そんな発想は出来ないぜ。ブレスにしてもそうだ。通信機能や魔石による能力還元なんかフツウのブレスレットからは発想すら出来ないし、具現化なんか到底ムリだもんな。」
ヴァンは素直に自分の意見を述べる。ゲンも俺も興味を持って話を聴いていたが、三竜姫は何だかキャンティの独演場のような気がしてあまり面白くはなさそうだ。
「ところで、とある生物や精霊についてもっと詳しく知りたいのですが、教えてもらえますか?」
ゲンの問いかけにキャンティはこう答える。
「それは魔剣があんたたちを主と認めた時に教えてあげる。魔剣たちの個人情報だからね。今は魔剣たちが興味をもってこちらの世界に来ただけだから。」
おいおい、個人情報ってお前が言うか?魔眼や魔耳で盗撮盗聴まがいのことしてたの誰なんだよ!って、六人が突っ込みしたくなったのはここだけの話である。
「あんたたち三人の目の前にある魔剣を地面から抜いてみて。もし魔剣の方から拒絶反応があったら、剣は抜くことは出来ないよ。ちなみに剣にバカにされたら、剣に魂を飲み込まれてこの世から消滅するのは事前に言っておく。あたいの魔剣は魂や波動力を喰って成長していくんだからね。」
そうキャンティに言われた瞬間、ヴァンとゲンは揃って俺の顔を見つめる。その表情は大丈夫か?カイ・・・って言っているようだった。
「カ~イト、大丈夫だよっ!あたしが保証する。カイトの波動力はまだ全然だけど、それは覚醒していないだけで、真なる力を持つものならばそこに気付くって。」
出た!ヴァンの俺サマ保証と同じく、お気楽なあたし保証。俺が消滅してしまうかもしれない時によくあたし保証なんて言えるよなって一瞬思った・・・だが、俺はティナを信じていくって決めたじゃん!俺は俺が信じたティナの言葉を信じる!
そして、俺たち三人は息を合わせて魔剣を手に取り地面から抜こうと力を込めた。ヴァンとゲンはあっさりと成功。問題の俺はナカナカ抜けない・・・
やっぱり俺じゃダメなのか?と思った瞬間、竜水晶のペンダントが青白く光りだし剣を包み込み、剣は無事に地面から抜けたのだ。あぁ、そういやティナが言ってたっけ。
「カイトはあたしが守ってあげる。」ってね。
ありがとう、ティナ。と心で念じ、魔剣の存在感と魔力に圧倒される俺たち。
「おめでとう!やっぱ、あたいが見込んだ男たちだ。カイギュランは焦らして最初抜けなかったな。最強の破壊竜の竜水晶共鳴を確認したかったんだろう。あっ、そうそう。約束だったな。魔剣の個人情報、教えてやるよ。」
キャンティは満足げな表情で俺たちに剣の情報を教えてくれた。三竜姫の中でティナが最強なんだと俺は他者に言われて誇りに思った。
それと同時にティナの加護を受けるのではなく、俺がティナを守れるくらい成長していかないとと決意を新たにするのだった。
「まず、ヴァンの剣はグリフォン。鷲の上半身と翼、ライオンの下半身の伝説の魔獣。次にゲンの剣はハルピュイア。人間の女性と翼、下半身が鳥の伝説の魔獣。最後にカイの剣はサテュロス。半人半獣の伝説の精霊。これで解るかな?」
「え~と剣が自分でつけた名前なんだっけ?覚えにくいし言い辛い。俺サマはそのままグリフォンって呼ばせてもらうぜ。ヨロシクな相棒!」
「ボクも同感だよ。ハルピュイアで女性なら、ハルさんって呼ぶからヨロシク頼むね。」
「俺は・・・サテュロスかテュロス?テュロ?どれもピンとこないな。精霊か・・・霊、レイ・・・数字だったらレイはゼロ。ゼロに決めた!ヨロシク、ゼロ。」
俺たちは勝手に改名をして魔剣に問いかけた。三人の片手にあった魔剣はそれぞれが一瞬光ったと思ったら、その場から消えたのだ。俺たちは改名が気にいらないから剣が消滅したのかと思ったら、キャンティからこのように言われた。
「あんたたちが勝手に付けた名前、どうやら皆気にいったみたい。ありがとう。剣はブレスの中に収納されて、あんたたちの波動力を喰っているようね。その内、あんたたちの波動力を最大限に活かした能力を発揮すると思うよ。剣を出したい時はそう念じて、話がしたかったら念波を送ったら剣と話が出来るから後でやってみて。」
俺たちは驚きの連続であったが、最後に重大な事を宣告された。
「ヴァンとゲンは魔剣の恩恵をうけて、空を飛ぶことが出来るようになったよ。人化したリンやキールは飛べんから、良かったな。でもコントロールが難しいから練習してな。カイは残念ながら半人半獣精霊ベースの魔剣だから空は飛べん。堪忍してな。」
「そっか、グリフォンもハルピュイアも鳥がベースの魔剣。仕方ないね、カイト。」
ティナはそう言ったが、俺は全く気にしていない。俺は俺の道を進むだけ!無いものは無いし、現実をありのまま受け入れるだけである。
人の能力を羨むのは愚か者のすることと思っているのだから。
翌日から俺の生活は一変した。今まではただ惰性で生きている感、ハンパなかった俺だが生まれ変わったように毎日規則正しく生きている。
朝は五時起床、正直体が慣れるまではかなり眠くてしんどかった。朝食はティナの手作り。その料理の腕前はかなりのレベルで素晴らしい。栄養バランスもバッチリで俺の体のことを考えてくれている。
母ちゃん、申し訳ないがティナに負けてるよ・・・
朝食の後は座禅。これは俺の発案で俺の波動力を高め、コントロールする為のものである。微妙なコントロール、一点集中、波動の質変化、全開放など波動を使って出来ることを思いつく限り日々色々やってみている。思いつきで始めた地味な日課だが、先々これがめっちゃ役に立ち俺自身の能力が飛躍的に上がるなどと今は知るすべもない。
そのあとは一時間のランニング。最初はティナに三十kgの負荷を俺にかけてもらい走っていたが、三十kgでもへなちょこの俺にはかなりヘビーな重さだ。だが人間適応出来ていくもので、数か月経った今では二百kgの負荷にも何とか対応している。それだけ筋力がアップしていて、俺は身体強化されたと断言できる。
でも感謝しなければならないことは全てティナのお陰ということ。ティナとDNAが共鳴し、俺の波動も増幅されていてその波動力があるからこそ、たったの数か月で二百kgの負荷にも対応できるようになったのだ。
フツウに筋トレなんかじゃこうはいかないのは間違いない。
しかし、この数か月で学んだことがある。それはティナがブレス内に転移しているときは絶対に無心でなければならないということ。間違っても他の女の子のことを気にしたり、たまたま目がいったりしてはいけない。
何度となく他の女の子に目がいったり、可愛い声が聴こえてきて気になったりしたことがあったが、百kgの負荷だった時に何の前触れもなく百八十kgの負荷になったり、最近も二百kgの負荷だったのが三百kgの負荷になって死にそうになったことがあった。
俺は不老不死なので死ぬことはないのだが、ティナの焼きもちがもたらす極みの試練となってしまうのである。
そんな過ちは男だったら十分有り得る!なんてことは言えないので、あとでご機嫌を取らなければならない。
その後はティナと組み手。今はランニング時に二百kgの負荷をかけているが、それは組み手の時も一緒。っていうか、ティナにお願いして寝るとき以外は負荷をかけてもらっている。
流石に寝るときに負荷がかかっていたら熟睡出来ないので解除してもらっている。オンとオフの切り替えは重要なのだ。さて、ティナとの組み手だが全く歯が立たない。それでも最初の頃を考えたら、進歩はしてるって言ってもらえてる。
まぁ焦らず着実に実力をつけていこうと思っている。俺の中で成長が感じられるのが、ティナの攻撃がどの位置からどの位置に目がけて向かってくる攻撃ラインが把握できるようになってきたということだ。
これは俺の動体視力と反射神経の良さ+俺の波動力を駆使しての成果である。波動力を攻撃が当たりそうな所に集中させるとわずかな空気の乱れが感じられるのだ。
つまり、物体が移動するとその周囲の空気も移動するということ。
仮に正拳が向かって来たら、その周囲の空気も移動するのが感じられるのだ。即ち、俺のスピードがもっと上がっていけば攻撃される箇所は解るのだから回避は可能ということだ。机上の空論かもしれないが、俺はそれが可能と判断している。
ランチは毎日外食で気分転換。ティナの手料理は確かに素晴らしくて、外食なんかもったいないなんて思いがちになる。しかし、外食することによっての気分転換と外食がヒントでティナのレパートリーが増えていくという目的があるのだ。
ランチ後は腕試し。魔石ゲットの為に今の俺にふさわしいレベルの魔獣と対決している。これはティナが魔獣のレベルと俺のレベルを瞬間的に判断して俺にGOサインが出て、はじめてバトルがスタートする。
この時にもティナの負荷がかかっているのだが、正直負荷をなくした状態であればもっと楽に退治できるであろう魔獣が多いと思われる。
しかし、武闘家というものは敢えてイバラの道を進むものだと父ちゃんにいつも聞かされていたので、俺も素直にそのように行動していた。
実際その方が経験としては上質のものが得られるよね。
まだまだレベルの低い俺だが何とか魔獣を倒し、魔石をゲットしている。魔獣は認められればOKなので、殺さなくても魔石はゲット可能なのである。
魔石ゲットのルールとしては、この四つだ。
一:魔獣が認めた者のみ、その魔獣の能力が秘められた魔石を得ることが出来る。
二:魔石は一体につき一つのみ。要は早い者勝ちなのだ。
三:魔石の能力は倒した武闘家のみに得られる権利があり、それ以外の者は魔獣の能力を使用することは不可能。
四:魔石をゲットした者が死するとその魔石は消滅し、元の魔獣のみがその能力を行使することが出来る。
そんなこんなで日々バトルでの修行をしている俺。バトルの時に俺がマジでピンチになった時が幾度となくあったのだが、ティナは援護攻撃を全くしてくれない。
最初は俺のレベル向上の為と思っていたのだが、それだけではないというのを最近になって知るようになった。
俺とティナのDNAの共鳴。これがスタートしてから、俺は破壊竜であるティナの能力を全てゲットしている。まだ全然使えてないんだけどね。
とりあえず、身体強化と不老不死だけは使えているので、死んじゃったということはあり得ない。
俺がピンチの時のティナの援護射撃がないことの本当の理由、それは正に衝撃的なものであった。