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二人のブレス  作者: ビッキー


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第三十九話 激戦

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 よろしくお願い致します!

 俺が何もない上空を見上げているのをティナは不思議に思っていた。

《ねぇ、カイト。上空になんかあるの?》

《あぁティナ、お前も天空の力で探ってみろよ。とんでもない物が近付いてきてる。》

 ティナは俺に言われたように、力を使ってみた。

《わっ!なになに!このデカい物は?何かが近付いてくる!チョッとカイト!》

《解ったか?これが奴の作戦だ。とんでもない物を扱いやがる。》

 俺とティナが天空を見上げていたことに、ヴァン達は気付いていななかったが、奴は気付いていた。

「ほう・・・カイ、お前気付いたな。オレがしようとしていることに。」

 ヴァン達は何のことか解らないようだったので、俺は密かに慌てないように念波で伝えた。

「あぁ、よくもまぁこんなこと思いつくよな。これじゃあ、スティール星も終わりだわ。」

「お前は頭が切れるからな。この先、どうなるか解っているんだろ?」

「あぁ、あんなものがここに落ちてきたら、確実に俺たちは生きてはいけない。」

《カイ、我には解らぬが一体何が落ちてくるというのだ?》

「ゼブル・・・星だよ。しかも、バカデカいのがな。恐らく、Can一族がいたどれかの星だろう。このスティール星とほぼ同じサイズの星が衝突したらどうなると思う?二つの星が壊滅するか、どちらかの星の硬度が高ければ残るだろう。だけど、残った星は津波や地殻変動が発生し、地上のゴミが大量に巻き上がる。大量のゴミ同士の摩擦で稲妻や大火災が発生し、焼け死ぬ者が多く考えられる。例え生き残ったとしても、巻き上がったゴミが太陽光を長期間遮断し星は寒冷化され、死の星となる。まぁ、こんなことが想定されるよな。」

 俺の推測を聞き入った皆はゴクリと生唾を飲む。そんな物凄い事態が想定されるのかと皆がマジモードになったのだ。

 しかし、俺が慌てることなく呑気でいたことにより、一時後は和やかなムードになる。

「そうか~そいつはスゲーことになるよな。」

「カイは博学だね。流石は名将!」

「カイトはやっぱスゴイよ。色んなことを知ってるし、解りやすく説明してくれる。あたしなんか星が近付いてきているなぁって思ったケド、そんなことにこの後なるなんて思ってもみなかったからさ。」

 俺たちが意気揚々とワチャワチャ話をしているのを見ていた奴が遂に口を開く。

「なんだ、お前たち。自分たちがお終いだって解って、開き直ったのか?言っておくが、空間転移してもムダだぞ。オレは亜空間だろうが、異次元だろうが、このメタル系銀河全てを消滅させるからな!」

 俺たちは、やっぱりねと思った。こいつはそこまで考えているだろうと推測していた通りだったからだ。


 そして、一時して星が肉眼でも解るくらいに接近してきたのである。まぁ、星が落下するのに時速七万キロくらいを想定していたから、こんなもんだろ。

「さて二つの星が消滅するか、一つ残って死の星と化すか。見ものだぜ。」

 奴は、ほくそ笑んでいた。そのニヤケ顔を唖然とさせるべく、しゃがみこんでいた俺は重い腰を上げるのであった。

「さてと・・・そろそろいいか?残念だが、お前の思い通りにはならないよ。俺には天空の力があるからな。」

 俺は遥か上空まで飛び上がり、両手を天に掲げ星に対して力を使う。恐らく奴は、パワーアブソーブで星々の力を全て吸収し、その吸収した力を使って星を引き寄せているんだろう。

 スティール星に存在する引力と奴が引き寄せてきた力を合わせると、とてつもなくデカい。そのバカデカい力以上の反重力コントロールを俺は行った。天空の力が無ければ反重力コントロールは出来ないし、ゼブルがいなければパワー不足でこれは成功しない。

 無限竜魔力はありがたい。やはり、三大無限は無二のスキルであると実感させられる。いとも容易くパワーは発揮され、引き寄せられた星は徐々にスティール星から離れていき、安全を確保した。

「な・・・・バカな。星七つのパワーで引き寄せたんだぞ。それにこの星の引力もある。それらのパワーを跳ね返すなんてことが出来るのか?有り得ん・・・だが、やはりパワーが全てでないと解ったぜ。流石だな・・・オレもこれだけで終わりじゃ、つまらないと思っていたんだ。」

 俺たちは、次の奴の攻撃に備え身構える。


 この時、俺は悩んでいた。それは俺自身のキャパの問題・・・ヴァンとゲンをフュードブレード化した方が戦力アップし、良いのは解っている。

 しかし、二人をフュードブレード化するとなると、赤の一撃か青の二撃は一発しか使えない。

 それに、それをしてしまうとアルティメット奥義ロゼオンは使用出来なくなる。出来ればロゼオンは、もしもの時の為に温存しておきたいのだ。

 そんなことを悶々と考えていたが、奴は次の行動に出た。

「こんな星は粉々になっちまえば、星をぶつけなくても同じこと・・・」

 奴は手の平を地面につけ、パワーアブソーブで吸収した星々のパワーを放出する。地表は割け、地殻変動を発生させ、火山噴火や津波がスティール星各所で勃発していった。


 某所・・・

「わぁ~!助けてくれ~!ミユー・・・」

「よっちゃ~ん!!!」

 割けた地表の狭間に大量の人間が転落し、一瞬で地表の裂け目は閉じ、転落した人々は即死となった。

 俺たちが結婚式の二次会でチョッとだけ関わった、めいめいの友人である、よっちゃんもその被害者の一人となった。

 新婦のミユーは割れ目に転落しなかったが、差し出した右手でよっちゃんの手を掴むことは出来なかった。指先に僅かだけ触れることが出来た彼の感触が、彼女をより深い悲しみへと誘う・・・

 なぜ、その手を掴むことが出来なかったのか。

 もう半歩前に出ていれば掴めたのではないか。

 そんな後悔が彼女を襲っていたが、深い悲しみはすぐに膨大な怒りへと変貌する。


 彼女には解っていた・・・

 この天変地異が邪念の者の仕業であると・・・

 しかし、その者がこのスティール星にやってきた事に気付いていたものの、スルーしたのも自分・・・

 もし自分が行動していれば、最愛の人を失わずに済んだのではないか?そんな思いにかれれていた。そして、彼女は動き出す。


 未だに継続している天変地異・・・大地は割れたり閉じたり流動的で、命ある者は逃げるに逃げられない。火山噴火や津波の影響も深刻であり、低い所は津波、高い所は噴火による岩石飛来がやってくる始末・・・

「カイ!この天変地異、どうにかならないのか?このままじゃ、スティール星がもたないし、死者も続出するぜ。」

「ヴァン、お前が大自然の皆に頼めばいいんじゃないか?それが最善の策だと思うがな。」

「おっと!そうか!気が付かなかったぜ。大自然の皆、この異常事態を元に戻せるか?」

《ヴァン・・・あいつの力は私たちの力を上回っているんだよ。》

《そうそう、だから僕たちの力じゃ抑え込むことが出来ないんだ。》

《これを抑えることが出来るのは、地の精霊王だけだよ。きっと・・・》

「カイ、ダメだ。大自然の皆にもムリだとさ。これを抑えることが出来るのは、地の精霊王だけだと。カ~どこにいるんだよ!地の精霊王って奴は!このスティール星にいるとは限らんだろ?精霊界にいるんじゃねぇか?」

 俺は考えた・・・

 待てよ・・・

 いるじゃん、解決の糸口になる子が!

「チョッと待ってろよ!」

 俺は雰囲気の個性と光速移動を用い、天変地異であたふたしていた、めいめいを連れてくる。めいめいは、何のことなのか訳も分からず戦火の真っただ中に登場するのであった。

「何だ?その小娘は?人間など邪魔だ。まぁ、この状況ならどこに行こうが死ぬしかないがな。」

 奴は、ほくそ笑んでいた。まぁ、この状況を打破出来るものかと余裕だったに違いない。

 俺は、めいめいの瞳を見つめ真剣に問いかける。

「地の精霊の加護を受けし者、めいめいを通じ、あんたに頼みがある。地の精霊王よ!このスティール星の天変地異をおさめてくれ!」

《チョッとカイト!そんなんで伝わる訳ないじゃん。精霊界って言っても広いんじゃないの?いかに地の精霊の加護を受けているって言ったってムリだよ。》

 俺の願いもむなしく変化は何もなかった・・・


「何が地の精霊王だ。そんなお偉いさんが、急に現れる訳がないだろう・・・でも、カイがその可能性があると踏んで連れてきた小娘だ。ヤバい奴は早めに潰した方が得策だな。」

 奴は独り言を呟き、テレポートで、めいめいの目前に迫り、手刀を放つ。俺たちはとっさのことだったので、奴の攻撃からめいめいを守ってやることが出来なかった。

 奴の手刀がめいめいに当たったと思った瞬間、めいめいの体内から、イバラの特殊樹木が飛び出し、奴の手刀を防いだのだ。龍神の力を持っている奴に手傷を負わせるくらいだから、この特殊樹木は相当な代物に違いない。

 そして特殊樹木は再び、めいめいの体内に収納される。

「な、なんだこいつは?加護を受けた人間とはこんな特殊なのか?」

 奴は手傷を負ったが直ぐに回復し、めいめいへの攻撃を躊躇する。一方のめいめいは意識がないのか、立ってはいるものの、めいめいらしさは微塵も感じられなかった。

「我は地の精霊王さよよなり・・・ふむ、この天変地異は貴様の仕業か?くだらんことをするな!」

 めいめいの体を通じて、地の精霊王さよよなる者からの声が聴こえてくる。そして、めいめいの手の平が地表に触れたと思いきや、天変地異は一瞬でおさまるのであった。

「バカな・・・一瞬であの異常事態が収束しちまいやがった。折角、この星を崩壊させようとしたのによ!」

 奴は怒りに任せて、めいめいへの攻撃をしようとはしなかった。先程のイバラの特殊樹木を体感した奴は冷静だったのだ・・・

 相手は精霊王。魔界で言えば大魔王と同様の存在。下手に手を出せば、只では済まないと慎重になるのも当然である。

「こんなことで手を煩わせるな。だがな、このめいめいに危害を加えようものなら、容赦はしない。この子の波動力は特殊で、死せる大地をも蘇らせることが出来るのだ。我の後継者として考えておる。我の本来の名前は作世与・・・作物を世の中に与えし者、俗物には解るまい。だから、さよよと言うようにしておるのだ。」

 精霊王さよよはそう言うと、めいめいの体ごとこの場から消え去った。俺は雰囲気の個性で、めいめいが元の居場所である秘密基地キチットに戻ったのを確認して安堵した。

 ありがとな、めいめい・・・

 感謝する、さよよ・・・


「フッ!とんだ茶番だったぜ。まさか、地の精霊王がやってくるとはな。天変地異はおさまっちまったが、まだオレには奥の手があるからな・・・まずは、お前たちから血祭りに上げてやる。誰からくるんだ?オレは全員相手にしてやってもいいんだぜ。」

 とりあえず、スティール星の崩壊は防ぐことが出来た・・・

 さて、奴の相手だがどうしたものか。

 ロゼオンか?フュードブレードか?俺が考えていると、急接近してくる巨大な気を感じた。


「お前の相手はこのわたしだ!」

 突如現れた謎の女戦士・・・気はさっきまで巨大であったが、今はそうでもない。

 どうやら、状況に応じて気の大きさが変わるようだ。でも、会ったことはないが、彼女の雰囲気の個性はどこかで感じた気がするんだよな。

《ア・アワワワワ・・・》

 普段、冷静なデルタが動揺しているのにヴァンが気付く。

「ん?デルタ、どうした?」

《あの方は、魔界三王臣のミユー。突如、魔界三王臣を辞めるって言い出して、魔界を飛び出していったきりだったが・・・ヴァン、彼女は最強だ。アルファやイプシロンよりも強い。魔界三王臣最強の人物だ。》

 そっか、ミユーって確か結婚式の二次会の時の新婦さんだったよな。それを聞いたゲンは、奴に悟られないように念波で確認をする。

《そうなのかい?イプシロン。あなたの無限防御はカイ以外に破れない最強のスキルと思っていたが・・・》

《ん~確かにミユーですね。彼女は強い。ミーの無限防御の反射を無効化するほどの魔撃と氷魔浄化のスキルを持っていますから。》

 魔撃と氷魔浄化・・・

 一体どんなスキルなんだろう?

「お前の仕業でわたしのよっちゃんが・・・許さん!」

「何のことか解らんが、お前などすぐに葬ってやるわ。お前程度の気じゃ、話にならんぞ。」

 こうして、ミユーとストロームのバトルがスタートする。始めは一進一退かと思っていたが、ミユーのスピードは徐々に上がっていき、奴のスピードを完全に凌駕するようになっていた。

 奴はテレポートを使い、何とか対応しているものの、彼女は俺と同じく周囲の大気の変動を微妙に感じる事が出来るようで、テレポートしてくる場所を事前に感じることが出来ていた。

 その為、テレポートも余り意味がなくなり、奴はパワー任せの攻撃にスイッチするしか手立てが無くなってきたのだった。

「こんなものか?じゃあ、わたしはギアを一つ上げるよ。一撃一撃を喰らい後悔するが良い。魔撃!」


 彼女の拳から繰り出される一撃は魔撃という。

 イプシロンの説明によると、魔撃とは対魔族専用の攻撃で魔気を気化させてしまうらしい。彼女の拳が奴にヒットする度、確実にダメージとなり回復もままならない。

 イプシロン自身もこの魔撃は反射も出来ないし、交わすことも出来ずにダメージだけが蓄積されたという。

 まさに魔族にとって、致命的なスキルなのである。圧倒的なスピードで体中を魔撃が連撃させること数分、ズタボロ状態になった奴はダウン寸前だった。

「こ・こんなハズでは・・・オレがカイ以外の奴にここまで追い込まれるとは、完全に想定外だぜ。」

 テレポートや自慢のパワーが活かせない状況で、魔族にとって一番厄介な魔撃を連続で喰らった結果である。

《あそこまでレベル差があるとはな・・・ミユーってホントに強いんだな。魔界三王臣最強ってのは、理解出来るぜ。》

《ヴァン、彼女の魔撃はまだまだこんなもんじゃない。オレのレベルファイブは彼女の真魔撃をヒントにして編み出したんだからな。》

 アルファのレベルファイブは相手の体を貫通させて、体内で爆発させる必殺のスキル。これに近いスキルが真魔撃というようだ。

《師匠のレベルファイブって、師匠オリジナルかと思っていたぜ。じゃあ、師匠の師匠だから、俺サマにとっては大師匠なんだな。でもよ、あんなに強いのに何で魔界を去っていったんだ?》

《本来、覚醒魔人は魔界の平和維持の為に魔王指示の元、行動していく。しかし、彼女はそれが段々と空しくなってきたらしい。本来十六人いる覚醒魔人だ。一人欠けても問題あるまいというのが、彼女の自論でな。彼女は女性として人間の男性に惚れ込んでしまった。魔界最強魔人の彼女も女性だったということだ。彼女は強すぎる故に、魔王も一目置いていたのだが、遂にある日魔王を飛び越して大魔王に掛け合い、人間界で結婚するという許可を得たのだ。しかし、彼女の力が必要な時は再び魔界の為に動くという条件付きでな。》

 そうか、そういうことだったのか。

 しかし、この強さなら魔王が一目置くというのも解る気がする。

《チョッとアルファ!私にケンカを売っているのかい?私も元女性なのだがな!》

 アルファの説明を聴いたデルタが反論してきた。

 だが、それをアルファはスルーして聞かなかったことにしたようだった・・・

 どうやら、魔界三王臣といえどもアルファは女性が苦手らしい・・・

「どうしたんだい?わたしはギアをもう一つ上げるよ。真魔撃!」

 彼女の拳が奴の足に当たった瞬間、奴の体内で爆発が発生し、片足が吹っ飛んでしまった。

 悶絶するストローム・・・

 それを冷ややかな目で見つめながら、彼女の真魔撃は三発発動し、残りの片足と両腕は吹っ飛んでしまった。

 原理として真魔撃は、ドリルの様に拳を相手の体にねじ込んで自らの気を二段階で送り込むものの様だ。相手の体内に送り込まれた第一弾と第二弾の膨大な気が激しく衝突し、暴発する。

 行き場の無い暴発した気は、体をぶち破り致命傷となる・・・

 俺が解析した所、まぁこれが真魔撃の正体だろう。

 しかし、イプシロンいわく、真に恐ろしいのは氷魔浄化ということだ。

 その真相までは解らないが、彼女の中でうごめく何かが存在するのは俺にも解る。

「もう終わりだな。貴様の悶絶する姿で少しは気が晴れたよ。次で終わりにしよう。沢山の大切な命を奪ったんだ。二度と復活出来ないようにしてやるからな。」

 両腕両足をもがれた奴の体はダメージも相当なもので、まさに瀕死状態であった。

「オ・オレを見くびるなよ。死しても必ず再度復活し、お前を超越した戦力で・・・」

「戯言は、もう沢山だ。貴様の声すら聴きたくもない。最強はわたしなのだ。お前は最強ではない。強いて言うならば、最狂だ。星を破壊しようなんて、その狂った考えでは最強には勝てないよ・・・氷魔浄化!」

 彼女は手の平を開いた状態の右手を奴に向け、たった一撃の気を放つ。次の瞬間、奴の周囲が氷で覆われ奴は氷玉に閉じ込められるのであった。

「どうだい、氷魔の壁は?」

 冷たい笑みを浮かべながら、彼女は氷魔の壁にそっと触れる。奴は何やら叫んでいるようであったが、氷魔の中からの声は一切聞こえなかった。

 どうやら結界の一種らしい。奴はありったけの魔力を開放して氷を粉砕しようと試みるが、氷はビクともしない。

「おっと言い忘れていたが、この氷は特殊でね・・・大気中の水蒸気を媒体に凍らせてはいるが、只の氷ではない。貴様の魔気を一緒に練り込んで凍らせているんだよ。だから貴様の声はこちらには聞こえないし、貴様の魔力を開放しようが何をしようが、この氷は決して破壊は不可能なのだ。貴様は貴様自身の魔気を破壊することは出来ないんだよ。」

 彼女は恐ろしい・・・

 一瞬で氷玉を作ったかに見えたが、実際は標的の魔気を取り込んだ氷を作っていたのだ。勿論、氷玉の中心にいる奴は身動きすら取れないし、自分自身の魔気を破壊することは不可能だ。氷玉に触れていた彼女から、再度気が送られる。

 身動きが取れない奴は次の瞬間、全てが氷化し完全な氷の彫刻と化したのだった。それは血液、いや組織細胞自体に含まれている水分という水分が凍結した瞬間でもあった。

「よっちゃん・・・見ているかい?あなたと結婚してから、わたしは力を封印してきた。でもあなたを失ってから、わたしはロックを解除してバトルしちゃった・・・魔人のわたしに人としての何気ない幸せを沢山与えてくれてありがとう。今ね、あなたの命を奪った奴を浄化するよ。でも安心して・・・冥界には奴の魂は行かせずに、ここで消滅させるからね・・・」

 彼女はこの時、一人の恋する女性の表情をしていた。しかしこの後、再度最強の女帝として牙をむく・・・

「さらばだ、もう二度と会うこともない。氷魔浄化!」

 彼女から先程とは異なる種の気が放出され、氷玉は一瞬にして浄化消失するのであった。さっき感じたのはこれだったのか・・・

 彼女の中でうごめく何かを感じていてはいたが、二種類の異なる気だったのだ。

 氷化能力と浄化能力の異なる気を二つ持ちあわせた者に俺は遭遇したことがなかった。俺たちが今まで遭遇してきたのは、一種類に特化した気の持ち主ばかり・・・

 イプシロンいわく、二種類の特化した力を持った魔人というのは彼女くらいらしい。

 そりゃ、魔人最強なのも納得が出来る。

「さて、仕上げだ・・・魂を浄化させるよ。」

 終わった・・・

 と誰しもがそう思った瞬間、奴の気を再び感じる俺たち・・・

 それは、彼女が真魔撃でぶった切った奴の両腕と両足からであった。両腕両足をベースに一瞬で完全復活するストローム・・・

 どうやら奴は細胞が残っていれば全身の復活ができるようだ。

「フー氷魔浄化・・・あんなヤバいスキルを喰らうとは思いもしなかったぜ。お前、二つの気を使い分けていたよな。魔界でも二つの気を持つ者は魔王くらいなんじゃないか?まぁいい、お蔭で魔撃、真魔撃、氷魔浄化のスキルはコピーさせてもらったしな。」

「な・何だと・・・わたしのスキルをコピーしたっていうのか?」

「あぁ、俺にスキルコピーがある限り、お前に勝ち目はないぜ。」

 奴はそう言うと、彼女に襲い掛かる。魔撃を連続で使いだす奴に対して、彼女はスピードで攻撃を避け様子を見る・・・

「確かに貴様の攻撃は魔撃だ。信じられんが、わたしのスキルをコピーしたっていうのはホントなのだろう。だがな、わたしにも奥の手があるんだよ。もう、貴様の声を聴くのもうんざりだしな。」

《おい、お前!カイっていうんだろ?めいめいから聴いている。無理やりお前の念波に入らせてもらった。》

 突然、彼女の念波が俺たちに伝わってきた。少し驚いたが、何やら緊急事態の様だったので話を聴くことにした。

《お前、魔剣を二本持っているな。一本貸してくれないか?フュードブレードしたいと思っている。お前の体内から魔剣の波動を感じるんだ。頼む・・・》

《あぁ、俺は確かにゼブルとメドゥーサの二本の魔剣を持っている。だが、どちらも貸せないよ。ゼブルは俺専用の魔剣だし、メドゥーサは危険すぎる。また、誰かがメタル化されちまったら大変だしな。》

《メドゥーサのことは承知している。だが、わたしには浄化の気があるのは解っただろ?だから、交換条件だ。メドゥーサのメタル化機能を浄化してやる。これでどうだ?即ち、メドゥーサは只の魔剣と化すのだ。お前にとっても悪くない話ではないか?》

 浄化って、そんなことも出来るのか?確かに先程の浄化は凄まじかった。氷玉と化した奴が浄化されたのを俺はこの目で観たのだ。まぁ、奴は復活しちまったがな・・・

 だから、彼女の話はホントのことだろう。俺にとっても使い道がない、危険な魔剣であるメドゥーサは何とかしたいと思っていたので、ここは彼女の要求を?むことにした。彼女がウソをつくメリットがないからな。

《解った。メドゥーサをあんたに託そう。》

《助かる。わたし専用の魔剣が太古にあったのだが、キャンティが魔槍に作り変えてしまったようでな・・・まぁ、魔剣を全く使っていなかったから、わたしも快諾したのだが。》

 ん?魔槍だって?もしかして、ファイが持っているキュベルのことなんじゃないか?

 そんなことが頭をよぎったが、今はどうでも良いことだ。奴を皆で消滅させることこそが、全員共通の目的なのだから・・・

 彼女は奴の一瞬の隙を突き、俺の手からメドゥーサを受け取る。そして、間髪入れずにフュードブレード化するのであった。

 フュードブレードとは、魔人と魔剣の合身技。

 しかし、魔人なら誰でも出来る訳ではなく、それ相応の実力が無ければ不可能だ。

 ヴァンとゲンも散々苦労してやっと成功したスキルだが、流石は魔界三王臣の一人・・・あっさりと成功し、パワーアップを成功させる。

「な・なんだ、その姿は?それにさっきのはメドゥーサ・・・訳が解らんが、メドゥーサなら再び奪ってオレが使えばよい。お前たち全員メタル化してやるぜ。」

「残念だったな。メドゥーサはわたしの体内で浄化させてもらったよ。もう二度とメタル化は出来ない。単なる魔剣になったのだ。」

 それを聞いた奴は額に青筋を立てながら、彼女に襲い掛かる。魔撃を連発で放つ奴であったが、パワーアップした彼女は魔撃を魔撃で相殺するように戦法を変えてきた。

 確かにパワーだけならば、奴の方が上だった。

 パワーが弱ければ、魔撃の相殺は出来ない。

 それが、フュードブレードでパワーアップしたことによって相殺が可能になったのだ。

「このフォームになったら、スピードもパワーもわたしの方に分がある。スキルをコピーされたが、もうお前に勝ち目はないぞ。」

「さぁ、それはどうかな・・・」

 

 奴はほくそ笑み、バトルは終結を迎えるのであった。

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