第三十六話 復活
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魔人ルーツの魂もここ冥界に辿りつく。ルーツは俺が無意識ながらメタル化させ、粉塵化したのであった。奴の怨念は凄まじく、生へのこだわりと強さへの執着は類をまれにみない。結果、魂は浄化されずにプラティナ星のとある星獣の体に転生してしまう。
星獣ストローム・・・突如出現した魔族である星獣は、強さにこだわり、能力は光系に対しての無効化をもつ。
その魂はルーツ・・・強さに飢え、自らを葬った俺の光系のスキルを無効化可能な者へと転生したのだった。それは俺に勝つ為、強く切望した結果・・・まさに信は力なりというところだろう。
信念というよりは怨念ではあるが、奴にとってはベターな者へと転生が出来たのであった。そして、スティール星ではないプラティナ星で復讐の準備を着々と進めるのであった。
星獣は、星々への行き来が容易く可能。準備が出来次第、いつでもスティール星へという想いでルーツの魂は星獣に転生したようだ。ルーツの特技であった盗みは継承出来ていて、魔族や魔力を伴うアイテムから魔力を奪う術も継承していた。
ルーツの時代は腹にあった大口から魔力を奪っていたが、新たな宿であるストロームは手の平から魔力を奪うことが可能。こうしてストロームは魔力を奪い続け、少しずつ自身の力を高めていく・・・
しかし、今回の奴は今までとは考えが異なっていた。以前であれば、パワーこそ全てという考えでスキルは重要視していなかった。だが、前回は魔王と二本の魔剣のパワーまでも吸収し圧倒的なパワーをもった超魔人に進化したにも関わらず、俺に負けたのだ。俺が暴走し異常状態であったにせよ、パワーが全てではないと悟ったのであろう。
そこでルーツの魂はすぐには冥界に行かずに、密かに俺の周囲で情報収集を行っていたのだった。そこで奴は俺に勝つ為のヒントをつかむ・・・
一方、俺はというと・・・ファイから覚醒魔王を促され、その重要性を認識した。
でもさ、今はその時期じゃないにしても、神に認められるなんてことはホントに可能なのか?それに一言で神って言っても、色々といるんじゃないのかとも思える。
おかしな神っていうのが、いるのかどうかは知らないが、変な神に認められるというのはやはり不本意だ。スキル神がアルティメット奥義を認めてくれたように、わざわざ神界ゾーンを開いてそこに行かなくても、必要な時に必要な神と接触出来るんじゃないか?
そんな想いを巡らせながら、俺は無限の力の引き出しを増やす修行にいそしんでいた。
光系や雷系のパワースキルの応用は、もうしないことにした。
単純に光弾や雷弾は相手の動向を探るのに適しているし、竜魔トルネードは俺的に破壊力に特化しているからだ。
じゃあ、何のスキルを習得するのかっていう所で煮詰まっている。超電磁力は竜魔トルネードで既に構築しているし、分子崩壊力か?分子は原子が結合して出来ている。分子を崩壊させるには、原子を崩壊させなければならない。その為には、原子核から陽子を叩きだす必要がある。
方法としては原子核に高エネルギーのガンマ線を作用させるのだが、波長が非常に短い電磁波をあてなければならない。俺は、色々とシュミレーションを試行錯誤しながら行っていった。波長が非常に短い電磁波しか使えないので、外側からの攻撃としては有効性に乏しい。
それにピンポイントでヒットさせるには、原子核にあてなければならないので、非常に難易度が高いのだ。
ロゼオンとコラボさせて、体内で発動させるのが一番有効だと判明したので、ロゼオンスキルの候補にあげておいた。
ガンマ線自体の習得は電磁波の応用なので、さほど困難ではなかったのを付け加えておく。
《カイト!これ、絶対に使えるよ!》
《うむ、我もそう思うぞ。こういった応用方法があるとは、正直思いもしなかったからな。》
しばらく成果がない日々が続いたが、ある日の俺たちはひょんなことからヒントを得る。それは、何とシャボン玉なんだよね・・・
ヴァンはブレスを使い、最後の目的である熱風の力を目指す。熱風の力の持ち主、シロッコ・・・一体どんな奴なのだろう?名前的には、覚醒魔人でないのは明らかである。
しかし情報量としては極めて少なく、事前対策をヴァンはしていなかった。デルタやブラールに頼んで、魔眼や魔耳で情報を得ることは可能であったが、ヴァンは敢えてそれをしなかった。
確かに事前情報を得ることで、バトルは優位に進める事が可能だ。生死をかけたバトルであれば、そうした選択肢を得たのだろう。だが今回は今まで同様、力を持つ者に認めてもらうのが目的だ。
経験という意味で、俺たち人間は魔族には遠く及ばない。そもそも、ウン千年、ウン万年生きてきた者と比較しようというのが無理な話であり、限られた時間で経験値を上げていくには、無知の方が上昇率ははるかに大きいのだ。
まぁ、もっともヴァンがそんな高度な考えを持っているとは考えにくいので、野生のカンがそうさせたと思う方が自然である。
ヴァンはブレスのホットラインを辿り、シロッコの近辺五十メートルまで接近した。そこでは、驚愕の事態にいきなり遭遇する。
まず、異様なまでの高温状態でいきなり体力を奪われるのだった。そして、ジリジリと皮ふに突き刺さるような風が断続的に発生し、言葉では表現しきれない不快感に襲われる。ヴァンが一歩一歩進む度に、気温と不快指数は徐々に増していく。
そして、ある一定の所まで進むと今度は呼吸すら困難になる始末・・・そう、酸素すら感じさせないほどの熱風がヴァンの行く手を遮るのだった。
《ちくしょう・・・こんな劣悪な環境は初めてだぜ。酸素はブラールがホワイトホールで吐き出してくれるから、体内から無くなることはないが、それがなかったら危険だったな。》
言葉すら発することが困難な為、念波でヴァンは仲間と意思の疎通を行うのだった。身体硬化と耐熱効果で熱風の環境の中でも何とか耐えているヴァンであったが、体力の消耗は激しい。ゲンのプラントの力や俺のようにゼブルが竜魔気を常に補填してくれる訳ではないので、今のヴァンを支えるのは気力のみであった。
こんな時、師匠ならどう対応するんだ?師匠のことだ・・・きっと俺サマが考えつかないことをして対応するんだろうな・・・
そして、遂にヴァンの意識は徐々に薄れていくのであった。
《ヴァン!ヴァン!しっかりしなよ!まだ、シロッコの元まで辿りついていないよ!》
《クッ!拙者がゼブルのように魔力をヴァンに供給出来れば良いのだろうが、それはかなわぬ望みというもの。何か策はないのか?なぁ、デルタ!ブラール!アルファ!》
リンとグリフォンは念波で発信するもブレスの持ち主であるヴァンの意識が薄れている状況では、念波は電波が悪いラジオのようなもので使い物にならない。そして、ヴァンは意識を失い倒れるのであった・・・
ルーツはキャンティが持つ【古の魔界文献】の存在を知る・・・そこには、魔界に関わる古からの秘術秘法がギッシリと五千ページも記されている。星獣ストロームに転生したルーツはある程度の魔力を蓄え、第一にこの文献を頂くことにしていた。
しかし、運悪く俺がキャンティから借りっぱなしにしていてブレス内に収納していた為にそれは叶わぬ望みであった。そんなことを知らないストロームは、キャンティの留守の間に彼女の工房へと侵入する。
「無い!無いぞ!古の魔界文献とやらはどこにあるのだ?ちくしょう!ちくしょう!!」
独り言を叫ぶストロームであったが、それはむなしく工房内でこだまする・・・
「チッ!仕方がない。別の手段を講じるしかあるまい。しかし、やみくもに行動しても成果は出ぬのは明白だ。いかがしたものか・・・」
ストロームに転生してから、奴は考える事を自然と行うようになっていた。それはルーツ時代とは明らかに異なる習慣。以前であれば、力こそ真実とばかりにあまり考えずに行動をおこしていた。
しかし、それでは失敗することもあると学習した奴は行動パターンに変化が生じたのであった。
一時後・・・何やら奥から賑やかな声が聴こえてくるのをストロームは感じ取った。それは俺がメタルの欠片を集め終わって、宴が開かれている最中のこと。
「イヤ~しかし、お前スゴイな。よくあたいたち全員に勝つことが出来たよな。少なくともあたいは、お前に負けるなんて思ってもみなかったしな。」
「あぁ、俺一人じゃ無理だったよ。ティナにゼブル、それにブレス皆の力のお蔭だ。それにファイを何とかして復活させてやらないとって想いがあったからな。」
《ん?今、ファイって言ったよな。あのメタル化から復活出来るっていうのか?》
ストロームは気を全く出さないようにして、俺たちの会話を盗み聞きし、情報を集める。
「そっか・・・そうだよな。ところでカイ、あたいたちのネックレスどうだ?センスいいだろ?これは、とある秘法で作ったスキルの欠片だ。カッティングもイカしてるだろ?それに聞いて驚けよ!あたいたち八人の欠片が集いし時、何と!この世の全てのスキルをマスターすることが出来る【スキルの珠】を得られるんだぞ。どうだ!スゴイだろ~。」
キャンナは泥酔していて、ベラベラと自分たちの秘密を明らかにする。
「チョッとキャンナ!それはあたいたち一族だけの秘密じゃない。スキル神に怒られちゃうよ。だって、この欠片はスキル神から託されたものだから。」
キャンスリーは慌ててキャンナに注意勧告する。
《これはビッグな情報をゲットしたぜ。》
ストロームは不敵な笑みを浮かべ、俺たちに感づかれる前に空間転移をし、その場を去る。俺たちの宴はまだまだ続き、盛り上がっていったが、情報が盗聴されていたなんてこの時は全く気付かなかったのだ。
俺自身もこの時キャンティの一族にいじられまくっていたので、その秘密に関しては突っ込んだ質問は出来なかったのだ。
「なぁ、あの【アルティメット】って叫ぶスキル神なんだけどさ、お前たちは会ったことがあるんだろ?スキルの欠片を託された位なんだから・・・」
俺はスキル神って何なんだ?と思っていたので、丁度良いチャンスと想いキャンティの一族に聞いた。
「ん?スキル神?あぁ、あった事は無いよ。あたいたちにとっても謎の存在なんだ。でもさ、名前はサモンっていうんだって。」
「何で会ったこともない神の名前を知ってるんだ?おかしいだろ。」
俺の疑問はますます濃くなる一方で、スキル神なんてホントにいるのか?という疑念まで生じてくる始末・・・
「いやさ、あたいたちもビックリしたんよ。あたいたちには、守っている古の玉座が合計八個あるんだケド、そこにいつもメタルの欠片を置いてるんだ。ある日メタルの欠片の横にね、このネックレスが置き手紙と一緒に置いてあったんよ。【この欠片、スキルの欠片なり。八個合わさる時、この世の全てのスキルを手中にすること可能なり。だから、守ってちょ!byスキル神サモン】カイ、この丸投げ感どう思う?」
イヤイヤ、怪し過ぎるだろ・・・何なんだよ、最後の守ってちょって・・・そんなに大切なものなら、自分で守ればいいんじゃないか?俺がそんなことを考えていたら、キャンティが口を出してきた。
「カイ、胡散臭い話だって思うだろ?でもな、これはホントの話なんだ。お前に貸した古の魔界文献、全部頭に入ったって言ってたよな。そこにはスキルの珠のことは書いていなかっただろ?実はあたいがスキルの珠のページを破って燃やしたんだ。」
「な・何だって?」
この爆弾発言には俺も驚いたが、キャンティの一族皆も驚いたようで七人が同じタイミングで驚きの言葉を叫ぶ。っていうか、誰にも言っていなかった秘密だったらしい。
キャンティの話はこうだった・・・スキルの珠はスキル神サモンが、この世の全てのスキルをマスター出来るように作ったもの。
これを絶対神ゼウスに献上しようとしたが、その途中で邪悪神なる者がこの珠を狙ってきたらしい。
この珠を奪われる訳にはいかなかったので、スキル神サモンは己の肉体と引き換えに、スキルの珠を欠片八個に分散させて、自らは精神生命体となった・・・
サモンは欠片をキャンティ一族の玉座に空間転移させ、置き手紙をしたという。キャンティの一族が守護者として選ばれたのは、玉座には強力な結界が張ってあったからだとか・・・で、問題の邪悪神はゼウスによって冥界に葬られ、一件落着ということらしい。
スキル神サモン・・・肉体を消滅させてまで守る価値があったということか・・・キャンティの話では、そんなことが本来は文献に記されていたようだった。こいつら、とんでもない欠片を持っているんだな。
っていうか、スキルの欠片って、本来玉座の結界内に置いておかなきゃいけないんじゃないか?という新たな疑問が沸いてきたのは、言うまでもない。
《まったく、しょうがない奴だな。》
アルファは痺れを切らしてヴァンを叩き起こす。半ば強制的に大自然の力を使って、ヴァンの体に対するダメージをカットしてくれたのだ。
《おい!ヴァン!しっかりしろ!おい!お前、こんなんでダウンするんだったら師弟関係も豪傑の力も無かったことにするぞ!》
その念波を聴いた途端、ヴァンは意識を取り戻し飛び上がって身構えるのであった。
「師匠!悪い!俺サマとしたことが、こんなんでダウンしている場合じゃないよな。」
《もういいな!じゃあ、後は自分で何とかするんだぜ!》
アルファはそう言い残すと、大自然の力を解除して以前の状態に戻すのであった。再び、甚大なダメージを喰らうヴァン・・・
《チョッと!ヴァン!あんた何とかしなさいよ!師匠が出来てウチらが出来ないなんてことないんでしょ?この状況でもダメージを喰らわない方法があるんだよ。》
「あぁ、師匠はそれを体現してくれて教えてくれたんだ。後は俺サマが考えて具現化すればいいんだが・・・悪い!全く思いつかん。」
ヴァンは開き直ってお手上げを示唆していたが、それでも師匠に見放されないように無い頭で必死に考えるのであった。
今までの大自然の力・・・レベルワンからレベルファイブは俺サマ自身の体から発して相手に影響を与えるものだった。さっき、師匠が一瞬だけ体現してくれたのは、そうではなかったと思われる。
ん?待てよ・・・ひょっとしてひょっとするかもだぜ!
「大いなる大自然の皆よ!俺サマの周りでその力を開放することは出来るのかい?例えば外圧に反発して相殺するような力を・・・」
ヴァンは大自然の皆に問いかける。意外にもすぐにその反応は返ってきた。
《うふふっ!遅いよ、ヴァンちゃん。》
《そうそう。もっと早く気付かなきゃ。》
《ボクたちの力は物凄いんだよ!》
「・・・ありがとう、皆!大自然の皆の力を俺サマに貸してくれ!オーバードライブ!」
ヴァンは自らの気と大自然の力をミキシングして、異常な外気に対して反発するような気を放つ。熱風の力はその気に相殺されて、ヴァンにとってダメージを喰らうことは無くなったのだった。
「やった!やったぜ!ありがとう、皆!」
《ヴァンちゃん。もっと賢くならないとダメだぞっ。》
《そうそう。もっと考えなきゃ。》
《ボクたちは仲間なんだからね。》
ヴァンは感無量だった。こんな一人の人間に大自然の大いなる力が援護してくれただけでなく、仲間と言ってくれたことに対して・・・
《やったじゃん!流石はウチのヴァン!》
《うむ!見事であったぞ。拙者感服したぞ!》
リンとグリフォンは歓喜の念波を送ってきたが、アルファからは何の念波も無かった。恐る恐るブレスを確認すると豪傑の石は存在していたので、愛想をつかされたということではないなとヴァンは安堵する。全てを手取り足取り教えるのが、良い訳ではない。
時には突き放し、自らの力でもぎ取っていくことで自信や達成感にもつながるということをアルファは教えたかったのだろう。ヴァンもそれを感じたのか、豪傑の石がセットされているブレスに対して深々と頭を下げるのであった。
ヴァンは一つのスキルを身につけ前進した。そして、行く手には熱風の力をもつシロッコが待ち受けている。
「よぅ!待ちくたびれたぜ。お前、ここに来る途中でダウンしてただろ?大丈夫なのか?このまま引き返した方がいいんじゃないのか?」
「あぁ、この環境に慣れなくてな。さっきはダウンしちまったが、もう大丈夫だ。熱風のシロッコ!あんたの力がどうしても欲しい。俺サマとバトルをしてもらえないか?」
「オレとバトル?バトルになるのか?オレは覚醒魔人でもないし、ただの魔人だ。だがな、その辺の覚醒魔人には負けねぇぜ。」
ヴァンはシロッコを見つめていた。自分と見た目は同じくらいの年齢、体格・・・気は騎気であり、はち切れんばかりに血管が浮き出ている。恐らく、相当に鍛え込んでいるに違いない。目の前の人物は強敵であるのは間違いない。
しかし、イプシロンが名指しで自分にはこのシロッコの力が必要だと言っていたのだ。ここは引くわけにはいかない・・・
「オレはいつでもいいぜ。かかってきなよ!」
それを聞いたヴァンは、シロッコに対して突っ込んでいく。ヴァンは無数の拳を繰り出す。同様にシロッコも無数の拳を繰り出してきた。ヴァンは拳に炎をまとい攻撃を繰り返すが、対するシロッコも拳には高熱をまとって反撃する。拳と拳が衝突するたびに青白い火花がスパークし、周囲に飛散するのであった。
「おいおい、お前の攻撃ってこんなものなのか?全く、拍子抜けだぜ。とっとと帰った方がイイんじゃねぇか?」
「な・何ぃ?あんたの攻撃と俺サマの攻撃、そんなに大差なかっただろ?」
「まったく・・・おめでたい奴だぜ。オレがもっとパワーを放出していりゃ、お前の細胞は気化しちまうってことに気が付いていないのか?まっ!それもしょうがないか・・・お前たちは恵まれた環境でブレスという恵まれたアイテムを使っている。だがな・・・オレはお前たちとは違う。辺境の地で生まれ、劣悪の環境の中、日々生きるのに精一杯だった。この熱風の力もいわばハングリー精神で得たものといっても過言ではない。そんなオレが、お前みたいなお気楽な奴に負けるとでも思っているのか?」
ヴァンは恥じた・・・確かに自分たちは恵まれ過ぎていると悟ったのだ。恵まれた環境や親友、当たり前のように得たブレスと魔族の仲間たち・・・
シロッコの生き様と比較する必要はなかったが、少なくても今の自分の環境に対しての感謝は足りていなかったということに気付かされた。
「あぁ、あんたの言う通りだ。確かに俺サマたちは恵まれ過ぎていた。それに対しての感謝も不足していたよ。でもな、あんたには信念があるんだろうが、俺サマにも信念がある。今は出来るかどうか解らないことにチャレンジし続けている。それでも必死にもがいて何とかここまで這い上がってきたんだ。こんなちっぽけな人間一人が、大層なことをやってのけるなんて言わない・・・俺サマの全てをあんたにぶつけてスッキリしたい!ただそれだけだ。文句はあるまい!」
半ばヴァンは開き直った感じに見えたが、その心は非常に澄んでいて一点の曇りもなかった。ヴァンの言動を見ていたシロッコは、それを見透かしたように笑う。
「フッ!お前、面白い奴だな。それに男気もある。気に入った!オレもお前に全てをぶつけてみたくなったぜ・・・さぁ、第二ラウンドだ。どっからでも来な!」
ヴァンはデルタの風の力を使い、今度は風炎での攻撃を試みる。先程は炎のみの攻撃であったが、今度は違う。太陽風の磁気をまとった炎は、シロッコの熱風の攻撃を相殺するに十分であった。
「キラタイフーン!」
しかし、それを見届けたシロッコは攻撃のギアを上げていき、熱風の攻撃に電磁力をまとい超高速回転をしてきたのだった。
身の危険を感じたヴァンは少し距離を置き、インターバルを取る。
「アブねぇアブねぇ!あいつ、カイやコウさんのように電磁力をまとった攻撃に変化してきやがった。あれをまともにくらったら、ホントに細胞が気化してもおかしくねぇ。」
《ヴァン、どうするんだよ。大自然の力を使っていくか?》
「リン、それは奥の手だ。まだ使うつもりはねぇ。それに今すでにオーバードライブを継続で使い続けているからな。ダブルで使うとなると、微妙に勝機のタイミングをハズす可能性が出てくる・・・俺サマは頭が悪いから細かいことはよく解らねぇ。なぁ、風炎と熱風って熱の質が違うっていうだけで、そんなに大きな違いはねぇんじゃねぇか?」
《ヴァン、お前が言うように熱の質が違うのは確かだ。奴の攻撃はえぐる感じで、お前の攻撃は押し潰す感じと言えば理解出来るか?》
デルタはヴァンにでも理解出来るような説明をしていたが、ヴァンが何を考えているのかまでは読めなかった。
「そうか・・・えぐる感じと押し潰す感じか・・・なぁ!それって、混ぜたら面白くなるよな!」
リンやグリフォン、デルタ、ブラールの一同が絶句した。只一人、アルファを除いて・・・こんな危機的な状況下で突然何を言い出すのかと思いきや、とんでもないことを・・・
が、全員が同様に【それって、面白いな】と感じてしまうのであった。
《チョッと!ヴァン!お前が言うことは確かに面白いが、混ぜるってどういうことだ?》
リンは皆を代表して質問する。
「イヤ、やり方はよく解らねぇが熱系の攻撃ならば混ぜられるのかと思ってよ!師匠ならきっと同意してくれると思うぜ。」
アルファは念波を発しないで、沈黙を貫いていた。
守破離という言葉がある。
それは、教えられたことを守ること・・・
教えられたことを破って、新たな方法を構築すること・・・
師匠から離れて、独自に道を切り開いていくこと・・・
ヴァンは今、離の段階にチャレンジしつつあるのだ。守と破は、アルファが関わり既に得ている。
最後の離は簡単なようで非常に困難なことである。ことバトルにおいては、取り返しのつかないことにも成りかねない。
それでも、ヴァンの閃きにアルファはダメ出しをしなかった。それはアルファの愛情であり、一つの育成方法でもあったのだ。
さてと、混ぜるっていっても、どうしたものか・・・こんな時、カイならどうするだろうか?あいつは面白いことを考え、体現するのが得意な奴だからな。
そういえば、あんなこともあったよな・・・それは、俺と剣技の修行をしたときの事だった。俺はゼブル、ヴァンはグリフォンを用い、光や炎などの力を使わずに純粋に剣技のみでの修行・・・
そして、俺はゼブルからの魔気を一切受け入れない条件下であった。
体格や力はヴァンの方が恵まれているので、俺は押される一方・・・
それでも、普段キャンティから剣術の修行は受けていたので、技術面では俺の方が遥かに勝っていて何とかこらえているという感じであった。
そんな俺が奇策で、ヴァンの手からグリフォンを天高く放り出すことになったことをヴァンは思い出す・・・
こ・これだ!これしかねぇ!カイならきっとこうするだろう!こうして、ヴァンは次なる一手を閃くのであった。




