第三十三話 究極
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「あのさ、あたいはお前の奥義とやらが見たいよ!」
ここまで無言だったキャンシーが、重い口を開く。スキルはキャンサーに託して、自らは傍観者となったことを彼女は後悔していたようだった。
それは、あたいたちも同じだよ!
と言わんばかりに、キャントニーとキャンメルも身を乗り出して、熱い視線を俺に送る。
他の奴等は・・・チラ見すると何とキャン一族全員が同じ想いのようで、魔気が充実しているのが明らかだ。
おいおい、キャンティお前もかよ!まぁ、ロゼオンは俺とゼブルだけの秘密特訓で編み出したシークレットスキルだからな。
ティナでさえも、さっぱり解らぬのだ。ロゼオンを一度も他人に見せていなかった俺は、彼女たちの膨大なプレッシャーの前に流石に折れるのであった。
やっぱ、男は女の子には弱いよね・・・
「解った解った。しゃーないな!ロゼオン、見せてやるよ。言っておくが、このスキルは一日一発が限界だ。二発は俺の体がもたないので打てない。今日、何かがあっても青の二撃は一発が限界だ。つまり、赤の一撃と青の二撃の四発分の莫大な負荷が体にかかるってことだ。そこの所をしっかりと認識しておいてくれよな。」
キャンシー達、八人の美女たちは頷く。
「そこでだ、この貴重なスキルを皆に体験してもらいたい。つまり、お前たち八人全員と俺のバトルだ。受けてくれるか?」
それを聞いた七人は、流石に憤慨する。唯一、キャンティだけはニッコリと可愛らしい笑顔で返してくれた。
それは自信をもった俺の眼力を見切っての判断で、決して過信ではないと直感で感じたからだった。
「チョッと!カイ!それはあまりにもあたいたちを愚弄しているよ。言っちゃあ何だが、あたいたち八人分の戦力はかなり高い。それをたった一人で対応していくって言うのかい?」
キャンシーが抑えられない感情のあまり、一番にクレームを言ってきた。他の六人も同様な気持ちだというのは、痛いほどよく解る。
「まぁまぁ、カイの奴は過信でこんなことを言う奴じゃないよ。いいじゃないか!奥義を見るだけじゃなくて、体験したいのは皆同じ気持ちなんだろ?」
キャンティは、そう言うと俺に対して真剣な眼差しで剣を身構える。久々にマジモードのキャンティを見たが、やはりソードマスターは伊達ではない。隙が全く感じられず、その代わりに闘気は凄まじいものを発している。流石は俺の剣の師匠である。
他の七人も同様に自らのスキルを発動すべく、魔気の練り上げなどの準備を黙って心がけるのであった。
「そろそろいいか?じゃあ、いくぜ!・・・ロゼオンインパルス!」
俺はドラゴノイドフォームのままで両拳を握り締め、自らの胸の前で合わせる準備をする。キャン一族八人娘もそのタイミングで、俺に対して攻撃の初動を開始するのであった。
ビッグバンキャノンやバイオンクロスハイパーなど、個々に技を発動させるキャン一族・・・
一方の俺は右拳に赤の一撃、左拳に青の二撃を宿らせて、胸の前で拳と拳を合わせる。
俺は自らの体を【破壊】と【編成】同時に行い、光速を超える粒子状の存在へと変革させる。
そこに超特殊電荷を加えることによって、ロゼ色のまばゆい光を放つ光を超える存在、タキオン粒子と化すのであった。
俺以外の存在は、時が静止したかのような動きとなる。この静かなる時間も実際は、八人が個々に激しく動いているのだが、俺自身は別次元のスピードと化しているので、それは比較対象にはならない。
タキオン粒子と化した俺は八人の体内に入り込み、低レベルの超音波を彼女たちの脳に直接発信する。
それは攻撃力としては、かなり抑えたもので軽い脳震とうを与えるレベルに止めたのであった。
時間にして一瞬・・・一瞬という言葉にふさわしいほどの、ほんのわずかな一時後、彼女たちは意識を失ったままロゼオンを解除した俺に抱きかかえられる。
実際には八人を同時に抱きかかえることは不可能なので、ここは天空の力を用い俺にコントロールされた大気に抱きかかえられているのだが・・・こうでもしないとティナの奴がうるさいからな。
横たわった彼女たちは一時後、次々と目を覚ます。
「ん?んん?あたいは・・・一体どうなったんだ?はっ!バトルは?」
「カイ、これはどういったことなのか説明してもらえないか?ロゼオンって一体何だったんだ?」
八人が皆困惑の表情をしていたので、俺は素直におきたことを説明する。
「ロゼオン・・・それは赤の一撃と青の二撃を同時に行い、超特殊電荷を加えた奥義なんだ。」
《アルティメット!!》
ウワッ!びっくりした!!俺が説明を始めたら、頭に鳴り響く謎の声・・・
ティナやゼブル、いや俺が知り得る人物の誰のものでもない初耳の声色。
何だよ、アルティメットって?それに、誰なんだ?そんなことを言ったのは?
「ちょっと、何なの?今の声?」
「聴いたことない声だよね。」
どうやら謎の声は、キャンティたちにも聞こえたようで俺の説明は中断する。
《カイ、これは伝説の【スキル神の咆哮】かもしれんぞ。神界には様々な神が存在し、スキル神も存在するという。その神が認めしスキル【アルティメット】はまさに神級スキルで【究極奥義】に認定されるらしい。我も長い間、魔剣として存在しているが、あの声を聴いたのは初めてだ。》
そうか、そんな神が存在するのか・・・
アルティメット奥義って、他にはどんなのがあるのかな?まぁ、俺のスキルがアルティメット奥義って認められたのは、素直に嬉しいケドね。
《チョッとカイト!そんなことより、早く説明してあげた方が良さそうだよ。何か皆の視線が痛いよ。》
ティナが言うのももっともで、キャン一族の視線を回避すべく俺は話を戻すのであった。
「えっと・・・どこまで話したっけ?あっそうそう、赤の一撃と青の二撃を同時にって所だったな。光の速度は秒速三十万キロメートルとされている。この世で一番のスピードと思われがちだが、実は光速を超えるのがタキオン粒子のスピードなんだ。タキオン粒子のスピード領域に入ると時間が静止しているような状態になる。だから、一瞬で勝敗が決してしまうんだ。」
「あのさ、難しいことはあたいたちには解らないケドさ、もしかして【ロゼオン】ってロゼ色のタキオン粒子だからロゼオンっていうのか?」
えっ?そっち?そっちの説明を皆待っていたのか?自分たちが横たわっていた理由が知りたかったんじゃないの?コロコロと興味が変わるっていうのも解らなくはないケドさ・・・
俺は正直ガッカリした。俺の科学知識をフルに活用したスキル、ロゼオン誕生の秘話とか、何でこんなことが可能なのか?とかの興味じゃないんだ。俺は少し落ち込んだが、気を取り直して説明を再開する。
「ロゼオンはロゼカラーの光とタキオン粒子から名前をつけたよ。それにオンはONでもあるからさ、ロゼモードにスイッチがONしたの意味も含まれている。スキルだが、タキオン粒子状態になった俺はお前たちの体内に入り込み、脳に軽いレベルの超音波を発した。だから、脳は軽い脳震とうを起した。そういうことだ。」
《カイト!ロゼオンインパルスって言っていたケドさ、雷撃や真雷波なんかもロゼオンで出来るの?》
「ティナ、勿論だ。ロゼオンサンダーとかロゼオンスパークなんかも可能だぞ。あっ!ロゼオンスパークって真雷波のことだからな。ロゼオン真雷波って何か言いにくいし、カッコ悪いからスパークにしたよ。」
「じゃあさ、あたいたちは一瞬で体内に入り込まれ体の中からダメージを受けたってことなのか?」
「まっ!そういうことだ。だから、お前たち相手でロゼオンを使うなら、一人でも八人がかりでも俺的には有利不利はないんだよ。」
《スゴイね!カイトこれならさ、イプシロン相手にでも通用したんじゃないの?》
何か明るくティナはそんなことを言ってくれたが、確かに勝算はあったのかもしれない。イプシロンの反射に関しては外側、つまり体皮が特殊のスキル。故に体内における攻撃は、もしかしたら有効なのかもしれない。
しかし情報が少なく、未知のゾーンに対してのリスクがあの時は大きかったのも事実。体内における攻撃も無限に防御可能なのか?という疑問が払拭出来ない以上、リスクを背負って一回しか発動出来ないロゼオンをあの時は使えなかった。
「でもさ、不思議だよね。あたいにはお前が体内に入り込んだなんて感覚、全く無かったよ。このスキルがある以上、使うタイミングさえ間違わなければ無敵なんじゃないの?生命体はさ、外皮は強化出来たり、反射機能があったりすることはあるけれども、体内に関しては強化するのは難しいでしょ?」
キャンティがこのスキルの偉大さを絶賛し、満面の笑みで祝福してくれる。
「イヤ、この奥義にもウィークポイントはあるんだよ。一日に一発しか発動できないこと以外にもな・・・」
ロゼオンのネックに関して、俺は一応念波でブレス内の仲間やヴァン、ゲンに伝えておく。
一、奥義を発動させた時点で途中、発動を停止することが出来ないこと。時間にして約七秒間を要するのだ。
二、奥義の射程範囲が限られていること。亜空間や異次元などは、ここからでは射程圏外である。
ほとんどのスキルに同様のネックがあるとは思うケド・・・
まぁ、ゼブルを事前に使えば亜空間や異次元への壁を切り裂くことは出来るが、その状態をキープ出来る時間に制限があるのだ。
三、ファイのようにスキルを封印出来る奴には絶対に敵わないし、イプシロンの無限防御に有効かも不明。要はスキルには相性も関わってくるので、万人に有効ではないということだ。
しかし、ほとんどのケースでこの奥義は有効なので、使うタイミングを考えればスキル神の声じゃないケド、アルティメット奥義となるだけの要素はあると思う。
おっと!こんなことをしている場合じゃなかった。バタバタしていて忘れかけていたケド、ファイの復活だよ!
「キャンティ、メタルの欠片八個集まったぞ。これで、やっとファイは復活出来るんだろ?他に条件はないのか?」
「あぁ、これでファイ様は復活出来るよ。他に条件はないのだが、場所はここでいいのか?魔界で復活してもらうか?」
「ここで復活させる。魔界であいつのあの姿を魔族に見られたくないんだ。あいつには威風堂々としていてほしい。」
俺は八個のメタルの欠片、メタル化されてしまったファイ、粉砕されたメドゥーサを準備する。
キャンティはメタルの欠片を両手で握ると、何やらブツブツと呪文のような言葉を言いながら、一つ一つメドゥーサの周辺に配置する。
全てのメタルの欠片がセットされると一つのメタルの欠片から光が生じ、隣のメタルの欠片へ光の架け橋が繋がれる。そして、また隣のメタルの欠片へと・・・
光の架け橋が全て繋がれると、メタルの欠片は空中に浮遊し、一か所に集結してメタルの珠となったのだ。
そして、置かれていた魔剣メドゥーサを包み込む光の塊が放たれる。光の塊は、様々な色へ変化を遂げて次第に収束していく。
まばゆい光が消失した後には、完全復活された魔剣メドゥーサが誕生したのであった。
「よっしゃ!成功だよ!カイ、後はメドゥーサの柄をファイ様に向けて押し込むんだ。柄はスイッチとなっていて、カチッと音がしたらメタル化は解除されてファイ様は復活する。その役目はお前が適任だろう。」
俺はキャンティにそう言われ、周囲を見渡すとキャン一族皆が【その通り】といった表情で俺を見守っていることに気付かされた。
「解った。半ば俺の責任でこうなったんだ。俺自身が自分のケツを拭いて責任を取るよ。って言うか、ファイもそれを望んで魔槍キュベルの魔槍コーティングを解除したんだろうからな。」
俺はキャンティに言われた通り、メドゥーサのリセットを試みる。
カチッと音がしたと同時にファイのメタル化は無事に解除され、俺は泣きながらファイにハグを行うのだった。
復活したファイは、やれやれといった表情だったが、満更でもない様子で清々しい笑顔が溢れ出ていた。
ファイ復活の気を察知したのか、ファイの部下である覚醒魔人ガンマが慌てて空間転移して登場してくるのだった。
「ファイ様!よくぞ御無事で!しかし、何でキュベルのコーティングを解除したのですか?あのコーティングはファイ様の魔力とリンクしているから、ファイ様の魔力を上回る者でなければ破れないというのに!」
「まぁ、そう言うなって。カイならば、俺の期待に応えてくれると信じていたからな。ルーツを倒し、メタルの欠片でオレを復活させてくれると・・・」
やっぱ、そうだったのか。俺の予想通りでファイは、わざとルーツの奴にやられたんだな。そして、俺を信じて待ってくれていた。
封印の力である激レアな魔王石をティナに託して・・・
「おい、カイ!お前、あと一つだな!」
「えっ?何が?」
「何がってお前が覚醒魔王になる条件に決まっているだろ?」
「まだそんなことを言っているのか?俺はその条件とやらが揃っても覚醒魔王にはなりたくないし、なる必要も無い。俺は人としてティナや仲間たちと生きていくんだ。」
《カイト!あたし、嬉しいよ!そう言ってくれてさ!でも、ファイがこれだけ覚醒魔王にこだわるのって、何か理由があるんじゃないの?》
そうか・・・そうなのか?何か特別な理由があって、ファイはそう言っているのか?
「ファイ、聞かせてくれ。何でお前は、覚醒魔王にこだわるんだ?何か理由があるんだろ?」
「あぁ・・・魔界はな、魔王が五人と大魔王で治安が守られている。その中間にいるのが、覚醒魔王プサイだ。実はプサイも元人間だったんだよ。」
「えっ?人間が覚醒魔王?にわかに信じ難いな・・・じゃあ、覚醒魔王は二人もいらないだろ?」
「イヤ、それがそうでもない。知っての通り、この世は人間界、魔界、精霊界、冥界、神界の五つ存在する。人間界と神界は神に統治されているが、魔界、精霊界、冥界には王が存在し、各王によって統治されている。まぁ、まれに絶対神ゼウスが魔界にも関わる時があるがな。我が魔界は五人の王と大魔王が存在し、鉄壁の守りを築けているが、精霊界と冥界には王の絶対数が足りぬのだ。」
《カイト!カイト!あたし、よく解んないんだケド、冥界って死者の世界だよね?死者の世界の王って何するのかな?》
ティナが念波でこっそり問いかけてくるが、俺にも正直未知の世界でその情報は無い。
「ティナ、冥界はな・・・死者の世界ではないぞ。勿論、死者も存在するが転生をする場でもあるんだ。」
おっと!そう言えば、ファイは俺たちの念波に入り込めるんだったっけ・・・まぁ、デタラメな奴だけど親友に隠し事は必要ないからな。
《転生って?》
ティナが疑問に思うのも無理はない。不老不死でこれまでウン千年も生きてきたんだ。解らない方が当然だよな。
「ティナ、ゼブルの経緯は理解しているだろ?元精霊でキャンティが、その魂を剣に宿らせた・・・つまり、これが転生だ。要は新しい体に魂が宿ることを言うんだよ。まぁ、ゼブルの場合、魔剣だから純粋な転生ではないけどな。」
俺はティナでも解るように、身近な例を使って説明していった。ティナは直感的に鋭い所はあるけれども、こういったことは鈍感だから、なるべく簡単に説明するに限るのだ。
《そっか・・・それが転生か・・・なるほど・・・》
ティナはブレス内にいるので表情は見えないが、念波の口調はいつもの明るく元気な感じが影を潜めていて、なぜか意味深な感じがした。
「ティナ?どした?」
《ううん。何でもないよっ!それよりもファイ!話の続きしてっ。》
ティナは何やら無理に明るく振る舞っているような感じがしたが、ファイの話は続く・・・
「精霊界と冥界の規模を考えたら、王の絶対数が足りぬと治安の維持には難しい面が多々出てくるんだ。そこで、覚醒魔王の出番という訳だ。覚醒魔王がその治安を守る為に関わっている。」
「ファイ、なんで覚醒魔王が関わらなけりゃならないんだ?精霊界とか冥界は、魔界とは関係ないんじゃないのか?」
俺は素朴な疑問をファイにぶつけてみた。
「カイお前の言う通り、精霊界と冥界は魔界とは直接の関係はない。しかし、人間界での生態系はどうだ?お前たち人間は、直接植物とは関係がないだろう。でも、植物が無くなれば酸素の生成はどうなる?人間は、酸素が無くなっていけば困るよな。それと同じなんだよ。精霊界が無くなれば、自然が崩壊していく。冥界が無くなれば、死者の行き場が無くなるし転生の場も無くなる。転生が無くなれば、生命の誕生は無くなるんだぞ。この世に生を受けて誕生している者は、全て転生者なのだからな。」
こいつは驚いた・・・転生って、物凄く重要じゃないか。それに自然が崩壊すれば、人間や魔族、妖族なんかが生きていけなくなるよな。
それを守っていくのが、覚醒魔王なのか。今はプサイって奴が一人で二つの世界を切り盛りしているらしい。だから、覚醒魔王の資質がある俺に手伝ってほしいと・・・そういうことか。
《カイト~なんかスゴい話だね。あたしは覚醒魔王って、ただ単に強いだけなのかと思っていたよ。》
実際、俺もそういう類の話かと思っていたが実情は全く異なり、ファイの話を聴いて納得が出来た。世界の生態系を守るのが、覚醒魔王という訳か・・・
「ファイ、お前の言うことは理解出来たよ。覚醒魔王の重要性もな。でもさ、俺には覚醒魔王の資質があると言っていたが、現状何が不足しているんだ?」
「覚醒魔王になる為には三つの条件を満たす必要がある。【空間転移、若しくはそれに準ずるスキルを持ちあわせている事】と【魔王に認められし者】そして【神に認められし者】以上だ。」
は?最初の二つは置いておいて、神に認められし者って何なんだよ?そんなのムリに決まってんじゃないか。大体、ゼウスの名前は聴いたことがあるが、実際観たことはまだ無いし、他の神にも遭遇したことすらない。
遭遇もしていないのに、認められる訳がない。そんなことを想っていたら、ファイの奴は不敵な笑みを浮かべる。
「お前、ゼブルを使って亜空間や異次元の壁を切り裂くことが出来るだろ?それをお前自身のみでやるんだ。ゼブルは魔剣として、つながりのある空間である、亜空間や異次元への道を開くことが出来る。即ち、それは亜空間や異次元にも魔族は多数存在するからだ。お前が神に認められし者であれば、同様に神界への道を切り開くことが出来るはずだ。これはオレには出来ない。ギリシャ文字、二十二番目のカイ!お前にしかな!」
えっ?俺の名前のカイって・・・この名前って、そもそも両親がつけてくれたものだし、破壊竜ティナがパートナーにはカイという名前の者しかいないって・・・
それにゼブルの元の名前、カイギュランと運命のつながりでもある俺の名前カイ・・・今度はギリシャ文字二十二番目のカイ?何だか訳が解らなくなってきたぞ。
「カイ、ギリシャ文字は知っているよな?ギリシャ文字と同じ名前のアルファからパイまでの十六人が覚醒魔人。ローから俺ファイまで五人が魔王。次のカイとプサイの二人が覚醒魔王。大魔王オメガ。そういうことだ。だから、お前は生まれながらにして覚醒魔王の資質があったんだよ。何故ならば、このウン千年間、カイという名前の生命体は存在しなかったのだからな。先代のカイはティナの母親であるティラのパートナーでもあったがな・・・オレは偶然を装ってお前に接触したが、実は魔耳でお前の名前を耳にした時点でお前の育成を心に決めたのだ。世界を守るためにな・・・」
そんなバカなことってあるのか?カイなんて、ありふれた名前の奴は他にもいくらでもいそうなのに・・・
《カイト、ファイが言っていたことはホントだよ。あたしのパートナーとなることが出来る名前はカイなんだって、お母さんから聴いていたの。破壊竜の相手はカイ、太古からずっと決まっていたことなんだって。だから、あたしのお母さんのパートナーもカイ。あたしがカイトって呼んでいたのは、特別感があるって言ったよね?あの特別感って、お母さんの相手とは違うんだよっていう意味もあったんだ。あたしがウン千年間、竜眼でカイって名前の人を探してきたケド、ホントにいなかったんだよ。》
じゃあ、何か?破壊竜のパートナーは、代々覚醒魔王になる運命だっていうのか?頭が混乱してきた俺にファイが話を続ける。
「話を戻すぞ。空間転移、若しくはそれに準ずるスキルを持ちあわせている事・・・これは雰囲気の個性と光速移動を使える段階でクリア出来ている。お前なら出来るハズと思って、オレが雰囲気の個性を教えてやったからな。これが出来れば、必要な時に必要な場所に瞬時に駆けつけることが出来るだろ?次の魔王に認められし者・・・これはこのオレが認めてやったんだ。魔王石を持つに相応しい者としてな。最後の神に認められし者・・・神界への道を切り開け!そうすれば、神との接触も可能になる。通常ならば、神界へは行くことが絶対に出来ないがな。お前なら・・・イヤ、お前にしか出来ない!」
そんな無茶振りするなって!どうやって、絶対にムリな神界に行ける道を切り開けっていうんだよ。ゼブルを使って、何とか亜空間や異次元に行ける状態なのに神界なんてとてもムリだろ・・・
俺はハッと思った。そういや、あの時空間に切れ目が生じたよな・・・
俺が思わず意味不明な叫びをした時に生じた謎の裂け目・・・
あれってもしかしたら、神界への道なんじゃないのか?
精霊界や冥界への道なら、精霊や死者の雰囲気が感じられるはずなのにそれは全く無かったからな。
クロちゃんは、今はまだ知らない方がイイと言っていたケド・・・
「ティナ、ゼブル、俺が考えていることは解るよな?やってみるか!大いなるシャウトを!」
《カイト!あれは神界ゾーンへの切れ目だったかもしれないね。亜空間や異次元じゃなかったから、後は精霊界、冥界、神界のどれかの道としか考えられないよ。》
《うむ!我もそう思うぞ!我が切り裂く空間とは明らかに違っていたからな・・・我が思うにクロちゃんが、今はまだ知らない方がイイと言ったのは魔王からのこうした告知を予知していたからじゃないのか?博学のクロちゃんが、出し惜しみをするのも珍しいがな。》
確かにそうだ。あのクロちゃんが出し惜しみをするなんて、珍しいとは思っていたが・・・恐らく、俺のことを心配してのことだろう。神との関わりなんて人間の俺なんかにとっては、とても恐れ多いことだから。
俺は気を集中させて、一気に爆発させるシャウトを放つ。そして、目の前に切り裂かれた謎の空間への入り口。
「こ・これだよ。あの時と同じ感じだ。どうだ?ファイ、これが神界ゾーンへの入り口なのか?」
「あ・あぁ、この感じ・・・間違いない!この先は、神々がいる神界へとつながっている。やったな!カイ。これで神との接触が出来る!そして、お前は神に認められるんだ。」
ファイは感動して、俺の背中をバンバンと叩く。
何か世界の生態系を守るという、とんでもないミッションに無理やり巻き込まれた俺・・・
まだOKとかNGとか何にも返答をしていないんだケド・・・
まっ!いいか!ファイがこれだけ俺に期待してくれているんだ。
その期待に応えたいし、世界の生態系を守るってことはスティール星を守ることにもつながってくるからな。
「カイ!行って来い!神々の世界へ!そして神に認められて【魔神石】をゲットしてくるんだ!」
あっ!そうか・・・ブレスをゲットした時に石には種類があって、その中に激レアの魔神石があるとかって話があったよな。
俺には絶対に関係ない話だから、あまり深く考えていなかったが、こうしていざ必要になってくると何か胸が熱くなってくる。
神とは程遠い世界の人間が、神と関われるチャンスが巡ってきたんだ。胸が熱くもなるし、手に汗握るっていうものだ。
ここで俺は考えた・・・
クロちゃんの真意って、ホントに俺のことを心配してのものだったのか?
他に何か重大な理由があったんじゃないのか?
今、ブレスにある、ワシの石に問いかけて確認するか?
「・・・ファイ、ゴメン。今はこの神界ゾーンには行かないでおくよ。このまま進めば、神々との接触が出来るかもしれない。イヤ、出来るだろう。でもさ、俺思ったんだ。あのクロちゃんが今じゃないって言っていたんだ。神々との接触には、適正な時ってやつがあるんじゃないのか?それにさ神ってやつは、恐らく今の俺たちの動向なんてチェックしていると思うんだ。魔人が魔眼や魔耳で俺の状況を把握出来るようにな。だから、俺は今は動かないよ。時が来れば、クロちゃんからGOサインが来るかもしれないしな。」
俺はファイに対して、ニッコリと笑顔で話をする。
ファイのやつもそんな俺を理解してくれて、今回は神界ゾーン行きをやめるのを同意してくれた。
それに覚醒魔王になるのって、一刻一秒を争うような案件ではないからな。
今は絶対神ゼウスを倒す者がいつ現れてもいいように、しっかりと事前準備をするんだ。
ヴァンやゲンも各々が必死に必要なミッションをこなしている。
俺も無限の力を更に引き出せるように、新たなるスキルを習得するのだ。
そしてキャンティに頼んで、メタルの珠を元のメタルの欠片に戻してもらう。
それは持ち主の元へと返還し、彼女たち七人は各々の星へと帰っていった。
あっ!そうそう!魔剣メドゥーサは大変危険なので、俺のブレス内に保管することにしたのだ。
二度と同じ過ちを繰り返さない為にも・・・
その頃、ヴァンは次なる行動を開始する。豪傑と接触する為に・・・




