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二人のブレス  作者: ビッキー


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32/40

第三十二話 奥義

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 ヴァンは無心を心掛けていた。そよ風、水の流れ、地面のわずかな揺れ・・・それらの音を感じるべく、神経を研ぎ澄ますヴァン。

 しかし、一向に感じる音が少ないことに対して少しばかり焦りを感じ始めていた。風や水の強い音を感じるのは、耳が良ければ出来て当然・・・

 それでも、根気よく継続していたヴァンであったが、考えをスイッチする。


 もしかして俺サマは、進むべく道が少しばかりズレているんじゃないのか?師匠の言わんとしていることは、理解出来ている。空気が動く現象をカイの場合は、音として捉えたことがあった。だから俺サマも同じく音に対して、フォーカスしていった・・・

 もしかしたら、ここがズレているんじゃねぇのか?カイにはカイ流の感じ方があったが、俺サマには俺サマ流の感じ方が別にあるんじゃねぇのか?

 音に似た感じって言ったら・・・【声】か?でも、大自然の声なんてあるのか?まぁ、元々考える頭が無い俺サマだ。百回失敗するんじゃない。百回試すという気持ちで色々とチャレンジするぜ。百一回目に成功するかもしれんからな。

 ヴァンは、大自然の声を感じるということに考えをスイッチして瞑想を続ける。


 一時経過・・・今まで意識はしていなかったが、なんてこの大自然ってやつは素晴らしいんだ。心が洗われる気がするし、守ってやらなきゃならないっていう気持ちにさせてくれるぜ。

今なら、師匠が木こりをしている気持ちが解る。樹木は適度に削減しないと快適な環境にならない。その役目をこなしつつ、大自然と共に生きているんだな・・・

 そういった大自然に感謝する気持ちを持ちながら、ヴァンは周囲の大気、地表といつの間にか一体化していた。それは、純粋な心がもたらしたキセキ・・・

《ねぇ、キミ何してるの?》

《あの子じゃない?チョッといかついし・・・》

《人間がこの領域に来るのは久々だよね~》

 ・・・!声だ!声が微かに聴こえた!イヤ、心を乱すな。

《俺サマはヴァン。皆と友達になりたくてここで待っていたんだ。なぁ、俺サマも皆の仲間に加えてくれねぇか?そして、皆の力を貸してほしい。俺サマは弱き者。強き者からこの素晴らしい大自然を守りたい。頼む・・・》

 しばらくすると意外な反応が返ってくる。

《何言ってるの?ウフフッ!君、私たちの声が聴こえるんでしょ?声が聴こえるなら私たちは友達だよっ!》

《そうだよ。この領域に来れないと私たちの声は聴こえないからね。》

《そ・そうなのか?今までとは違って、確かに俺サマの体に何かが入り込んでくる感じがするぜ。これは何なんだ?これが皆の力なのか?》

《それはね、私たちと心が通じた証。君と私たちには、絆が出来たんだよっ!》

《そうか、これが絆・・・それで、君たちの力を借りたい時にはどうしたらいいんだ?俺サマは不器用だからな。一体どうしたらいいか解らないんだ。》

《だよね~君って不器用そうだもん。本来ならさ、人間が私たちの気を取り込んで自らが解き放つっていうのがセオリーなんだケド・・・ねぇ皆、この子には協力してあげようよ!》

《うん、そうだね。協力してあげよ。》

《解ったよ。君には超特別に私たちが協力してあげるっ!》

《君は私たちを呼べばいい。私たちはいつも君の周りにいるからさ、いつでも力になれるよ。君の限界値まで私たちの力を託してあげる。感謝しなよ~こんなことするの君が初めてなんだからね!》

《お・おぅ!何か解らんが、ありがとな。その代りに約束するぜ!この素晴らしい、大自然やスティール星を守ってやる。これは嘘じゃねぇ、正直今まではあんまり関心が無かったことだが、今は違う。君たちと話が出来るこの領域に入って初めて、この大自然の素晴らしさに気付いたんだ。ホントにありがとう!》

 ヴァンは男泣きをしていた。普段は涙を流す奴ではないが、今まで感じていなかったことに関して感動し、自らに協力してくれることに自然と感謝に至ったからだ。

《さぁ、試しに祈ってみてよっ!そして私たちを呼んでね。君の力にはいつでもなってあげるからさ。その代り、この素晴らしい自然を守ってよねっ!》

 ヴァンは黙って頷き、純粋に祈る・・・

《皆、俺サマに力を貸してくれ。大いなる敵に対抗出来得る力を・・・》

 次の瞬間、ヴァンの気は変わりなかったものの、体の内から溢れ出る気と合わさりあって大いなる力を発揮出来るようになっていた。

《さぁ試しに、そこの小石を砕いてみなよ。指に力を加える瞬間に私たちに心を開放する感じでするんよ。解った?》

 ヴァンは頷き、足元の小石を拾って試みる。

「クランチインパクト!」

 何故か、そう叫んでしまったヴァン。

 アルファスからは無言で修行するようにと言われていたが、指先に力を加える瞬間に自然と発声してしまったのだ。

 ヴァンは大自然の大いなる力の恩恵を受け、小石は見事粉砕する。ヴァンは感無量だった。大自然の皆が自分に協力してくれたことに・・・

《皆、ありがとう。俺サマは約束を守る男だからな。安心してくれ。》

《そんなこと解っているよ!コウから聴いていたからね。もし、ヴァンって子が私たちの領域に入ることが出来たら、協力してやってくれって頼まれていたからさ。見た目はいかついし、口は悪くて不器用だけど悪い子じゃないってね。》

 そっか、そうだったのか・・・コウさんが、密かに推薦してくれていたのか。コウさんは光の妖精だって言っていたからな。

 大自然の皆とも通じていたってことか。ヴァンは苦笑いをし、離れているコウさんに念波で礼を言う。

 しかし、コウさんはオフラインだったようで、念波は通じなかった。仕方がないので直接言う礼ではないが、ヴァンは感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げる。こういった謙虚さがヴァンにはある。俺やゲンは、ヴァンのこういった所が好きでもあるんだがな。


 ヴァンはアルファスの元まで戻る。アルファスも大自然の気の流れの異変を感じ取っていたので、ヴァンの帰りを待っていたのだった。

「お帰り。しかし、よく一人で技をマスターできたな。君を見れば解るよ。大自然の力を吸収し、開放することも出来るようになったようだな。もう大丈夫だ。しゃべってもいいぞ。」

「師匠!すまない。俺サマは、師匠の技をクランチインパクトって思わず一言しゃべっちまった。でもよ、技は出来るようになったぜ。もっとも、コウさんっていう精霊の友人のお蔭だがな。」

 アルファスは精霊の存在にも驚いたが、その者と友人だというヴァンに対して敬意を払う。

「君はすごいな。精霊と友達だなんて、考えられないよ。ワシは木こりだから、邪魔な岩を砕くことくらいしかこの技は使わない。だけど、格闘においては、この技もっと応用できるんじゃないか?」

 アルファスの言葉を聞いたヴァンはハッとした。思わず命名してしまった【クランチインパクト】は指先に大自然の力を開放するスキル。

 もしこれを打突系のスキルに応用したら、どうなるのだろうか?

「ヴァン、やったな。ウチは信じてたよ。少し離れただけだったケド、よく一人でミッションをクリア出来たよな。」

《拙者はヴァンならば失敗を糧にして、いずれは成果を成し遂げると信じていたぞ。クランチインパクトとはナイスなネーミングだな。》

 あの感覚は今考えただけでも、ゾクゾクするぜ。

 小岩が砂玉のように、いとも簡単に砕け散るんだからな。師匠が言っていたように他のケースでも、このスキルの応用は出来るに違いない。大自然の皆の力を活かせばな・・・


 ゲンは阿修羅の力を発動して、ルギアとシャインの三人で三魔合身を試みる。本来ならば、三人の魔族が合身するスキル。

 しかし、人間のゲンは波動力と魔力のミキシングである騎力をマスターしているので問題は無い。

 腕が六本、顔が三つの魔人と化したゲンであったが、当初の予測通り不安定この上ない状態で立っていた。

「こりゃ、予測以上の不安定さだ。スラックラインの方が数倍楽に体を安定させることが出来るよ。」

 加えて気の力も常時不安定で、貧血状態に近いものを感じていた。しばらく自らと格闘していたが、十分な休憩と快適な食事を大事にするゲンは、阿修羅の力を解除してスティール星に戻るのであった。


 ルギアとシャインを引き連れて、宿屋ぴよぴよにやって来たゲン一行。カイからオススメの宿屋ということを聴いていたので、ゲンは楽しみにしていた。心身共に疲弊していたゲンにとって、食事は何よりもありがたい。

 ルギアとシャインは初めての人間界でオドオドしていたが、ぴよぴよの食事に絶句する。

「阿修羅の状態でなかったら、話をしても大丈夫だよ。どうだい?人間界の食事は?」

「素晴らしいよ。私はこんな食事はしたことがない。働いている子も親切だしね。」

「うむ。私も感動している。特にこの肉は旨い!私たちの世界では考えられないよ。」

 ルギアとシャインは共に食事を堪能していた。元々、魔族は食事を重要視していない者が多いという。魔力を極力消費しないでいれば、さほど空腹にはならないらしい。

 しかし、人間はそうはいかない。特にゲンのように頭脳を使うタイプの人間は、消費カロリーがハンパないのだ。宿屋での食事が終わったゲン一行であったが、キールが隣にある秘密基地キチットに行きたいと言ってきたのだった。

 この時、魅和の刻で俺がバトルをしていたのを知っていたゲンは、合流しようと思っていたがキールに却下されたのだ。

 ゲンはブレスを通じて俺たちの様子を極力、気にかけてくれていたのだったが、俺がピンチでも心配はしていなかったようでキールの選択をすんなり受け入れた。

 それだけ信頼されていたのに、脳震とうで意識は無かった俺・・・だが俺は、お前たちならこれくらいのピンチ乗り越えられるよなというゲンとキールの深い愛情を後に感じたのだった。


 キチットでは、コタローと愉快な仲間たちが修行に明け暮れていた。

「ボクたちの秘密基地グリモアもこうしてリノベーションされると、やっぱり違った空間に感じるね。おっと、今はキチットに名前が変わったんだった。」

 古臭かったグリモアもキャンティのおかげで今はすっかり様変わりしていて、水陸両用の可動式秘密基地となっていた。

「これはこれは!ゲンさんじゃないですか。今日はどんな御用ですか?」

 もんたがいち早くゲンたちに気付き、挨拶を交わす。すぐにコタローとぽんぽんも気付き、ゲンの近くへ集まるのであった。

「イヤ、今日はぴよぴよに泊まるので、隣のキチットに寄ってみようということになったんだ。修行、張り切ってやっているね。順調かい?」

「大変なの。科学やら化学は勿論、機械工学なんかも色々あって覚えること沢山有り過ぎなの。でも、師匠からノルマは言われているので毎日必死にやってるの。」

 ぽんぽんは口調とは異なり、真面目な子で師匠のキャンティから言われていたノルマの課題は毎日こなして学んでいた。

「僕も毎日、筋力トレーニングと足さばきのノルマを師匠から言われていて取り組んでいます。」

 もんたはそう答えると、心地よい笑顔を振りまいていた。

「筋力トレーニングは解るけど、足さばきも?何でキャンティは足さばきなんか課題にしたんだろう?確かに大事かもしれないが・・・」

「ボクは体幹が全くダメなんだって。上半身と下半身の動きがバラバラで下半身の強化も必要らしいよ。下半身の筋力アップも必要だけど、先に足さばきをって言われたんだ。」

「なるほど・・・そういった所もやはり剣術には必要なのか。ところで、コタローはどんなことをしているんだい?」

「僕は師匠からはこれを渡されていて、毎日欠かさずやっているよ。ボクはとにかくバランスや体幹が悪いんだって。だから、よくつまずいてコケるし、思うように体が反応しないことがよくあるんだ。亜空間での三年間はずっとこの修行しかやっていなかったから、大分マシにはなってきたと思うケド。あとは忍術の稽古かな。これは独学でやっているから、まだまだ時間はかかると思うケドね。」

 コタローはそう言うと、フラフープとプラスチック製の皿と木棒を指し示す。フラフープと皿回しか・・・

 まぁ、両方とも体を中心にして回すから、体幹とバランス強化には良いかもしれないな・・・

 しかし、プラスチック製の皿を回すのは難しいかもしれない。ある程度の重量がないと皿回しはバランス感覚が取りにくい。それが狙いの一つかもしれないが・・・

 ゲンは三人の修行を離れた場所から見守る。もんたとコタローは歯痒い所はあるが、一生懸命に取り組んでいる所は好感が持てる。ぽんぽんは机にかじりついて、集中しているしね。

 そう思っていた所にコタローの動きと波動力のバランス感覚に変化が訪れる。フラフープをしながら、皿回しを行う。これはかなり難易度が高い修行だ。最初はフラフープだけの修行だったようだが、今はハードルが上がって回しにくいプラスチック製の皿も同時に回すことを取り組んでいる。

 二つの全くの別物を同時に回すバランス感覚に、波動力が安定してそれを補っている感じに変化をしたのだ。それはコタローが必死になっていたからこそ、スキル不足を気で補っていくことが自然と出来てきたとゲンは分析する。

「フッ!フハハハハハッ!」

 急に高らかと笑い出すゲン。それを見ていたキール、ルギア、シャインはビクッとして、何やら不思議そうな表情をする。

「皆!阿修羅の力、何とかなりそうな感じだよ。今日はゆっくりと宿で休み、明日の朝チャレンジするからさ!」

 ゲンはスッキリした表情でキチットを後にする。ポカンとしたままのキールたちは、敢えてゲンには問わなかった。自分たちとゲンでは思考回路のレベルが全く異なることを理解しているからだ。

 必要があれば、ゲンの方から説明してくれるという信頼感があったからかもしれないが・・・


 ぴよぴよに戻ったゲン一行であったが、ゲンは休むことなく念波でヴァンと会話をする。

《ヴァン、何やら面白い力を得たようだね。寄り道だったかもしれないが、大いなる成果を得たんじゃないの?》

 ゲンはヴァンの修行もブレスを通じて見守っていたのだった。フツウならば、自らの修行のことで一杯一杯なものだが、ゲンはそこが違う。自らのことは勿論、周囲の状況把握や情報収集には貪欲な奴なのだ。

 ヴァンがアルファスという人物と接触し、コウさんの助力もあってのことだが、大自然の力を手に入れた。

 とても素晴らしいことだが、イプシロンから得た情報を考えたら、あのアルファスという男・・・もしかしたら、覚醒魔人なのかもしれないな。

《おうよ!コウさんのお蔭でな、大自然の力の恩恵を受けられるようになったぜ。今は応用した技の試験中だ。勿論、ヒントをくれた師匠にも感謝している。》

《そうか・・・ヴァン一つ聞きたいんだけど、君の師匠のアルファスという男は人間だったのかい?それとも魔人らしさは感じられなかった?》

 ゲンはイプシロンとのやり取りをヴァンに説明し、ギリシャ文字【アルファ】が含まれている特殊能力者【アルファス】に対して疑問を投げかける。

《イヤ、師匠は人間だと思うぜ。波動力しか感じなかったし、年も五十前後って感じだったしな。魔族なら、魔力を使うだろうし年もあんな感じには取らないんじゃねぇか?》

《うん、でも優秀な魔人は魔力と波動力を切り替えられると聞くよ。年齢も魔力の使い方次第で五十前後にも出来るだろうしね。》

《でもよ、仮に覚醒魔人だったしても何も問題はねぇんじゃねぇか?人間に害を与えるような人じゃなかったしよ。》

《確かにそうだけど、いざとなった時には覚醒魔人の協力が必要な時がくるのかもしれないからさ。だから、その所在はどこなのか把握しておく必要があるんだよ。それにもし覚醒魔人ならば、魔動石を持っているハズだしね。》

《俺サマは師匠には認めてもらったが、魔動石はもらってないぜ。だから、只の人間だと思う。大自然を愛する人間アルファス。それでいいんじゃねぇか?》

《解ったよ。ヴァンがそう言うんだったら、間違いないだろう。ただ、これからは名前には敏感になっておいてほしい。ギリシャ文字の名前に遭遇したら、すぐに念波を送ってよ。ボクも常時ブレスで二人の動向を把握している訳ではないからさ。》

《あぁ、解った。ゲンはやはり慎重派だな。ゼウスを倒すような化け物がやってきたら、確かに覚醒魔人級の助けが必要かもしれんからな。》

 ゲンはヴァンとそうしたやり取りを終え、睡眠を取る。それでも、明日試そうという阿修羅の力にワクワク感が止まらないゲンであった。

 

 カイトの意識は未だに戻らない・・・キャンサーは切り札を使うと言っていた。

 もしかしたら、ヤバイの?あたしたち・・・

 何か、ゼブルも気のせいかいつもと違って状態が不安定な気がする。

 どこかにやっぱりムリがあるんだよ。本来ならカイトが主体でゼブルがサブ的な存在。

 二人がイイ感じのバランスでドラゴノイドは成り立っているハズ。

 それが片方だけに負荷がいけば、自ずとしわ寄せがくるに違いない。考える頭がないあたしでもそんなことは想像がつく。

 キャンサーの気が収まり、何かをやろうとしている。

「待たせたね。これがあたいの奥義、ビッグバンキャノンだ!光速で交わしても、追尾してくるからね。諦めるんだな。」

 キャンサーの目の前には大きさはそうでもないが、明らかに高密度のエネルギーボールが存在している。

《ゼブル!ビッグバンってなんか聴いたことあるケド、ヤバいんじゃないの?それにあんた、状態がフツウじゃないケド、大丈夫なの?》

《ビッグバンとは超高温高密度のエネルギーの塊を意味する。奴の目の前にあるあれからは、そんな感じのエネルギーを感じるな。我はムリをしてカイの体を動かしてきた。さぁ、いつまでもつかな・・・》

 あたしたちに向かってくる、ビッグバンキャノン。

 その圧倒的なエネルギー量は、今まで遭遇したことないレベルなのが離れていても良く解る。

 恐らく、パワーアブソーブで集めたエネルギーを超圧縮したんだろう。

 カイトの意識は未だに戻らない・・・

 

 ゼブルは気力を振り絞って、奴のビッグバンキャノンを交わそうとする。

《ゼブル、あんたじゃ交わすのはムリ!あっ!あれ使えないの?今のあたしたちのレベルなら、あの時のコウさんの攻守法の攻撃をすり抜ける技使えるんじゃない?》

《我の記憶にもあるぞ。あれか・・・やってみるか!》

 ゼブルは見よう見まねでコウさんの守技を行う。物理的には不可能な事だケド、コウさんには出来た。あれは恐らく、コウさん自体が一瞬光状となって大気の継ぎ目をすり抜けたと思う。今のゼブルはブレスの力を引き出すことが出来る。光の技を引き出して、あのスキルを再現するんだ。

 カイトの体は特に変化をした感じは無かったが、ビッグバンキャノンはあたしたちの体をすり抜け、その勢いのまま後方でブラックホールに転送される。

 しかし完全に交わしたという訳ではなく、カイトの尾の先端は跡形もなく消し飛んでしまったのだ。

《我もあのスキルを試みたが、やはり見よう見まね。百パーセントの復元は出来なかった。少しダメージを食らってしまったな。》

《ゼブル!あんたスゴイよ!こんな状態であそこまで復元出来るなんて!一回出来たから、次は百パーセントの復元で出来るんだよね?》

《・・・テイナ、すまない。我はもう限界かもしれん。カイの体の一部が失われただろ?そこから竜魔気が放出されてしまっている。我は無限に竜魔気を作ることが可能だが、精神的に万全ではない今、それも難しい。竜魔気が作れないとカイの体をキープすることも不可能なのだ。》

《えっ?それじゃあ、あたしたちヤバいんじゃない?カイトの意識も戻らないし・・・ゲンを呼んで空間転移して一時撤退しようか?・・・イヤ、カイトはそういったことは望んでいないし、キャンサーも不愉快になるよね。どうするどうする?》


 あたしは考えた・・・

 色々考えた・・・

 ダメだ!なんにも名案が思い付かない。

 このままじゃ、やられちゃうよ!

「なんか解らぬが、よくあそこまでビッグバンキャノンを避けることが出来たな。しかし、今度は外さないよ!喰らえ!ビッグバンキャノン!」

 あたしたちに向かってくる奥義ビッグバンキャノン。奥義っていうだけのことはあって、物凄いレベルの技・・・

 今度はさっきみたいに交わすことが難しい。

 ゼブルの声も聞こえなくなっちゃった。

 カイトの意識も戻らない・・・

 あたしたちの旅って、ここまでなの?

 あの技をまともに喰らったら、細胞自体が消滅してあたしたち復活出来なくなっちゃうよ。ファイを復活させてあげられなくなっちゃう。

 ゴメンね、ファイ・・・

 あの無邪気な笑顔に会えなくなっちゃうんだ。あたしは諦めモードに入っていた。

 ・・・ん?そういえば、ファイに託された箱があったっけ?

「ティナ、黙ってこれを預かっていてほしい。」

「ファイ、これ何なの?」

「これはカイには内緒にしておいてくれ。オレの全てがこの箱の中に入っている。今のカイにはまだ託したくないんだ。あいつはまだまだ成長途上にあるからな・・・」

「何かよく解んないけど、ファイがそういうなら、カイトに内緒で大事に預かっておくよ。」

「ありがとう。もし、オレに万が一の時があって、カイの奴がどうしようもなくなった時にこの箱をあいつに渡してほしい。その時のあいつにきっと役に立つからさ。勿論、オレが無事でオレの判断でこの箱をあいつに託せる時が来たらオレが自分で渡すよ。頼むな!」


 あっ!そういえば、あの箱、まだあたしが持ったままだったな!ファイはいないし、カイトも意識が戻らない。この箱、どうしたらいいの?

 ん~・・・え~い、あたしが開けちゃえ!開けないで後悔するよりも、開けて後悔した方がイイよね?

 ねっ!ファイ!カイト!あたしはファイの箱を開けて中身を取り出す。こ・これは・・・魔動石?

 イヤ、ファイは魔王だから魔王石なの?魔動石とは全くことなる気品がある石が箱には一つ入っていた。

 ファイ、言っていたっけ?オレの全てだと・・・ファイ!カイト!ブレスにセットするよ!いいよね?

 あたしはファイの石をブレスにセットした。体に物凄い衝撃が走る・・・

「ん?俺、どうしたんだ?意識が無くなってたのか?」

《カイト~!!!とりあえず、目の前のあの攻撃を何とかして!ビッグバンキャノンっていって、物凄いエネルギー量なんだよ。》

「解った。後は任せろ!」

 ファイお前の石、確かに受け取ったぜ!そして感じるよ!その力を・・・

「クロージング!」

 俺は右手を前に突き出し、そう叫ぶ。目の前のビッグバンキャノンは跡形もなく掃滅し、キャンサーは光の玉で覆われた。

「あたいのビッグバンキャノンが消滅した?有り得ないよ。それにあたいのスキルが空っぽ?ポジションチェンジ、バイブレーション、パワーアブソーブ、スキルコピー・・・全て無くなってる?それにまだ使ってなかった、昇龍波とバードクラッシュも・・・一体どうなってるんだい!」

「お前のスキルは全てクローズさせてもらったよ。言わば封印だ。だから、お前に勝ち目はない。諦めるんだな。それにしても、お前魔眼で見たスキルもコピー出来るのか?スゴイな!ゲンやヴァンの技も使えたんだな。」

 ファイの魔王石の力は【封印】だ。

 一見地味な力だが、何よりも強力なスキルでもある。クロちゃんが、そういえば言ってたっけ・・・

 俺じゃあ、ファイには絶対に勝てないって。

 その理由が解ったよ。

 俺のスキルが皆無になっちまったら、ファイの圧倒的な破壊力の攻撃と万全な防備の前に勝ち目はない。

 俺が意識を失ってからのこと、ファイとティナのやり取りなんかは後でティナから聴いてやっと把握出来たが、急にファイの力が使えたことに何ら違和感が無かった。

 っていうか、そんなことよりも俺は嬉しかった。ファイが俺を認めてくれたこと。俺のことを想って、ティナに石を託してくれてたこと。ゼブルが満身創痍になりながらも必死で食い止めてくれたこと。ティナの俺に対する深い愛情・・・

 おっと、余韻にひたっている場合じゃなかった。

「どうする?まだ続けるか?俺にも奥義はあるんだぜ。奥義を出しておしまいにするか?」

「フッ!参ったよ。降参だ。途中からヒートアップしちまって、お前を消滅させちまうところだった。すまない。」

 それを聞いた俺はキャンサーのクローズを解除してやり、バトルは終結する。

「お前のスキルコピーって、もしかして時間制限があるのか?時間制限がなければ、無限にスキルをコピーできるから限りなく無限に近付くんじゃないか?」

「その通りだ。あたいのスキルコピーは有効時間がある。時間を過ぎちまったら、スキルはデリートされ消滅する。まぁ、魔眼で見たスキルはコピーが出来るから、バトルしながら魔眼で強いスキルをゲット出来るという強みはあるがな。でも、ビッグバンキャノンはあたい自身の奥義だから、消滅はしないよ。」

 そう言うとキャンサーはニッコリと天使の微笑みを見せてくれた。

 元々、ずば抜けたルックスだったのだ。俺の顔が赤くなっちまったのは言うまでもない。

 今回ばかりはティナも多めにみてくれて、逆に労をねぎらってくれた。ありがとう、ティナ。


 こうして、キャン一族とのメタルの欠片をかけたバトルも終わりを告げる。

 待たせたな!ファイ!

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