第三話 能力
●「二人のブレス」全40話 配信していきます
★書籍はアマゾンにて「二人のブレス」を検索したら出ます(全4巻 紙書籍、電子書籍両方あります)
●続編「二人のブレス ゼータの鼓動」執筆中です
●「二人のブレス」LINEスタンプ配信中です
LINEのホーム→スタンプ→二人のブレス 検索 で出ます
よろしくお願い致します!
俺のブレスが薄いブルーに変色し魔石が一つセットされていたことには正直驚いた。だって、フツウは魔獣を倒して認めてもらうか倒せないまでも武闘家として認めてもらってはじめて魔石をゲットできるのだ。
破壊竜のティナを倒すことはムリなんだけど、でも何で倒してもいないティナの魔石がブレスにセットされているのか?武闘家として認めてもらうことなんて何一つしてないし。
「あのね、ブレスは人と魔獣のDNAが真に共鳴した時にもシンクロ発動するの。あたしとカイトのDNAが今共鳴したんだよ!」
「あのさ、さっきから俺のこと、カイトって呼んでるけど俺の名前はカイだよ。」
「そんなこと知ってるよ~。あたしは破壊竜じゃん、カイトは【破壊の人】になるかもしれないから、略してカイト!カイトの方が呼びやすいし、あたしだけそう呼んでるから何か特別感あるじゃない。」
なんて言われ、何となく納得させられてしまった俺。まぁいいか・・・でも破壊の人って、なんかヤバい奴って感じだよなぁ。
「あのさ、もう一つ聴いてもいい?今回みたいにDNAの共鳴になった場合、ティナはどうなるの?」
「あたし?あたしはフリーに動けるよ。だけど、カイトが必要な時にはブレスに転移できるんだ。あたしがブレス内にいると、カイトの考えている事が瞬時に解って的確にアドバイス出来るよ。なんたって、ウン千年分の経験や知識は心強いでしょ?」
そりゃありがたい!所詮、俺の経験知識だけじゃ武闘家として生き残れる自信が全くないしね。
「あ、そうそう!DNAの共鳴がされた時点でカイトはあたしの能力をゲット出来ているからね。でも、カイト自身の能力が今はめっちゃ低いから、まだ何も使えないよ。カイト自身の能力が上がってきたら、使える能力が少しずつ増えてくるから・・・ウフフッ!楽しみでしょ?でも、あたしがカイトを守ってあげるから心配しないでね。とりあえず身体硬化と不老不死はあたしと同じだから。あとさ、竜水晶のネックレスをプレゼントしちゃうね!」
とティナは言うとブレスの中に転移した。
え~っとチョッと待てよ、整理整理。不老不死って不死身の体を手に入れたってことか?じゃあ、俺達の子供が出来たらどうなるのか?って俺が考えているとブレスを通じてティナが答える。
《あたしたちの子供が出来たら、あたしたちの子供が不死になるの。で、子供が十六歳になったら、そこで見た目の成長はおしまい。そこから不老がスタート。あたしたちの不老不死はあたしたちの子供が十六歳になった瞬間に消滅、あたしたちはいずれ死んじゃうけど、そうしてあたしたちの種族は永続していくの。ちなみに産まれてくる子供は必ず女の子だからね。》
なんか話が急すぎてついていくのがやっとの俺。あと身体硬化だっけ、試しに腕を指でつまんでみるとやっぱり痛かった。身体硬化じゃないじゃん。って俺が思った時にティナの笑い声が聴こえてきた。
《あははははっ!カイト~身体硬化って体がいつも銅像みたいに硬い訳じゃないし、そんな状態だったら動けないよぉ~。危険を察知し、必要な体の部分を意識することでドラゴンの体皮と同じ強度になれるよ。》
そうなんだ、そりゃそうだよな。俺は苦笑いして、しばらく自分の体の様子に関して目を閉じて感じてみた。体内を流れる血液はいつも通り、でも何かが違う。これは何なんだろう。気?オーラ?お~いティナ、この違和感はなんだ?
《ハイハ~イこれはカイトの波動。人は誰しもこの波動を持ってるんだけれど、それは微々たるもの。あたしとシンクロしたことによって、それが増幅されたって感じ。あたしは潜在パワーが元々強いからあまり意識して使っていないケド、時元竜と万力竜は波動を結構使ってるみたいよ。波動は色んな使い道があるとは思うけど、あたしは考えてもよく分からないから、カイトが使いたいなら考えてみたら?》
何かティナの丸投げ感満載だけど、これは重要だぞ。例えば身体硬化・・・ただ単に防御時に体を意識するだけでも効果はあるって言ってたな。でも、この波動って底知れないパワーを感じる。
波動力を高めていき、波動+硬化=波動硬化ってのがもし出来るんであれば、更に防御力が上がるんじゃないか?他にも使い道がありそうだけど、今は優先順位が違う。まずは俺自身の身体強化だ。
強靭な体作りが出来てこそ、スピードやパワーがついてくる。その後に様々なスキルだ。でも、どうやって身体強化をしていこうか?フツウに筋トレとかやっていったら、時間かかるし地味すぎる~。ティナ、どうしたら良いと思う?
《カイト、あたしは体重の増減が出来るの。女の子ってフツウは体重を隠すものだけど、あたしは体重がMAX二十万トンまで増やせるよ。そのあたしの体重がカイトにそのままかかったらどうなると思う?日常をその負荷で生活し続けて、その負荷をなくした時は心肺機能や筋力が上がっているから、スピードもパワーもアップ出来るんじゃない?》
そう言われた俺は、えっ二十万トン?と焦ってしまったなんてとても言えないと思っていたら、ティナの突っ込みが・・・
《あたしは今ブレス内にいるから、カイトの考えてること全て解るんだよ。ヒドイ・・・》
ご・ごめん。チョッとデリカシーに欠けてたよな。修行、マジで頑張ってティナの期待に絶対応えるし、その後は毎日楽しいデートしよう!俺にはティナしかいないから・・・と念じた。これは嘘でもなんでもなく本心であるのがブレス内にいるティナにはダイレクトに伝わっている。
《嬉しい・・・あたしもカイトしかいないよ。カイトの為にあたしは何でもするよ。まずは三十kgの負荷でやってみようよ。組み手とか色々頑張って、その後はデートしようね。あとさ、竜水晶のネックレスはお守りだから絶対になくしたりしないで、いつも肌身離さずもっていてよ!》
と言われ、俺も頷いた。そこからティナとの地獄の楽しい特訓が始まったのだった。
ヴァンの右手とリンの右手が触れ合った瞬間、薄いピンクの光が二人を包み込む。球状の光の中でヴァンとリンは手の触れあいを通じて想いが伝わっていく。
《ウチはドラゴン、万力竜。万力っていうのは万物の力ってこと。つまり、この世の全てを掌握し力に変換出来るっていうこと。不老不死で自然界の力をMAXに引き出し戦うのが得意なんだ。チョッと話は長くなると思うケド、質問は後でまとめてよろしく頼むな。》
ヴァンは威風堂々とした態度で黙って頷いた。本音ではドラゴンと間近での会話にドキドキしている。そして人化した彼女はドラゴンとは全く感じさせないルックスと声。
その可愛さにも動揺しているのだが、その彼女と腕相撲という口実で右手と右手を合わせているのだ、追い打ちをかけるように異なる種類のドキドキ感がヴァンを追い詰める。
しかし、ヴァンは並みの男ではない。手と手を組んだだけの状態でリンが只者ではない強者であることを察知していた。
《ウチとキール、あと表にいるティナの三人で三竜姫って呼ばれてるんだけど、ティナは十六年の想いを伝えるんだって。キールは聴いてないから分からないケド、ウチはパートナーとは共に強さを極めたい。自分がどこまで強くなれるのか、その為のパートナー探し。勿論、一人では限界があるし、所詮自己満足なのは解ってる。ヴァン、ウチと極みの世界を観てみない?ヴァンも強くなりたいでしょ?特殊能力なんかいらないっていう選択肢もあるよね?でも、フツウでは絶対に得られない特殊能力。もってみたくない?もし、親友のゲンとカイもウチら三竜姫のパートナーになれば、特殊能力者になる可能性を得られるよ。》
リンの語りかけが右手を通じてヴァンに伝わってきて、ヴァンは自問自答した。俺サマは純粋に武闘家として拳一つで強くなりたいのか?
拳+特殊能力とやらのトータルでの強さに微塵も興味はないのか?
カイやゲンだったらどうするか?三人で切磋琢磨してその強さを自分や愛する者の為、誰かの為に役立てたいと思うのに、より強い方が良いのではないか?
悶々と色んなことに思考を巡らせるヴァン。
男らしく意思決定し、リンにその考えを伝えた。
《俺サマは拳一つで武闘家として大成するつもりだった。それは、カイやゲンも同じ想いだ。しかし、ここにきて状況が変わった。お前ら三竜姫と出会い、具体的ではないが特殊能力のことも知ることが出来た。カイやゲンも今頃そういった話をされているんだろう?いいぜ!リン、お前とパートナーになってやろう。どういう風にすればパートナーになれるんだ?あとお前のことがまだ今一解ってないから、それも教えてくれ。》
ヴァンの言葉にウルっとなってしまったリン。こんなに男らしくあっさりと承諾してくれるとは思ってもみなかったからだ。
《ヴァン、ありがとな。これがウチの情報や・・・》
リンはティナが俺に話した内容と同じことをヴァンに伝えていく。彼女たちの種族繁栄の目的とその相手、竜眼の件、DNAの愛性の件、ブレスの件などなどである。
《竜眼を使ってヴァンがウチのパートナーだって分ったんだけど、ウチは万力竜じゃん。万力とヴァン・・・これは運命しかないって思ったわけ。でも、DNAの共鳴をする為にはウチとヴァンの最強を求める想いがシンクロしないとダメなんよ。》
そう言われたヴァンは目を閉じ、最強の武闘家としてのイメージを右手に込めた。リンも同様に目を閉じ、自分が思い描く最強のブレス装着者のイメージを右手に込めた。しかし、そう簡単にはDNAは共鳴しなかった。
それには原因があった。ヴァンはカイやゲンの心配を心の片隅に置いていて、自分が勝手に今回の選択をしたことをほんのわずか不安に駆られていた。
リンはそんなヴァンの優しさを感じつつ、そのヴァンの不安を払拭出来ないものかと考えを巡らせていたのだ。
そんな心の交錯があっては想いのシンクロ、DNAの共鳴に至るハズもない。どれだけの時間が経ったであろう。ヴァンとリンのDNAの波長は行ったり来たりを繰り返し、なかなかシンクロすることはなかった。
二人は腕相撲の姿勢のままでいたが、痺れを切らしたリンは奥の手でヴァンの口に自分の口をそっと優しく重ねるのだった。
激しく動揺するヴァン、それをなだめるようにヴァンの首に左手を回し、そっと引き寄せるリン。その直後、二人のDNAは共鳴しヴァンのブレスは薄いピンク色に変色しリンの魔石がそこに収まっていた。
「チョッといきなりなんだよ!手を合わせるだけって言ったじゃんか。」
ヴァンはいきなりのキスに動揺したことを隠しもせずにリンに突っかかっていった。
「だって、手を合わせるだけじゃ、ウチらシンクロしなかったじゃん。これで良かったんよ。ヴァンにも感じられたでしょ?DNAの共鳴。」
恥ずかしげもなく開き直った感満載でリンが言い返す。
「あぁ、なんか体の芯が熱くなって、何かが同調していったのを感じたぜ。これがDNAの共鳴なのか?じゃあ成功したんだな。」
今度は鼻息が荒くなって、DNAの共鳴が成功したことに喜びを露わにするヴァン。解りやすい奴だなとフッと鼻でそっと笑うリン。彼女もヴァンもファーストキスだったのだが、そんなことは最早どうでも良いことで目的が達成出来たことを彼女も素直に喜んだ。
「おいおい、何なんだよこれは!」
ヴァンは再度、やかましく騒ぎ立てる。今度は何事?と思いながらリンはヴァンの話に耳を傾ける。
「なぁ、俺サマのブレスが薄いピンク色なのは何故なんだ?」
ブレスの色について不満なのかヴァンはリンに問い質す。
「そこ重要?まぁ、ええわ。ウチの髪が薄いピンクじゃん。だからそういうこと。もし二人の竜姫が無事DNAの共鳴がされたら、ティナの髪色が薄いブルーだからカイのブレスは薄いブルー、キールの髪色が薄い黄色だからゲンのブレスは薄い黄色になるよ。」
マジか?髪の色がそのままブレスの色になるのか?そんな単純な仕組みなのか?イヤイヤ俺サマは産まれてこのかた、赤やピンクなどの服や靴など身に着けたことがない。そんな色の物は女子が身に着けるものだろって勝手に思い込んでいた。
でも実際に自分が不可抗力とはいえ、ピンクのブレスを身に着けるとなるとめっちゃ恥ずかしい。カイが薄いブルーでゲンが薄いイエロー?あいつらの色の方がまだマシだ。
「なぁ、リン。お前、今から髪の色を黒かグレーに染めてくれないか?うん、絶対そっちの方が何倍も可愛く見えるって。俺サマが保証する!」
などと訳の解らない俺サマ保証を提案してきたヴァン。リンは小さな溜息をつきながら、それに対しての返答をしてきた。
「あのね、ヴァン。この薄いピンクはもともとのウチの地毛の色なんだよ。ブレスには地毛の色が反映されるって訳で今更後から髪の色を染めて変えたって何もブレスには影響されないって。まぁ、色はあきらめるかウチとのDNAのシンクロを解除するか、どっちか決めてや。」
リンはつっけんどんに言い放った。ホントはDNAのシンクロ解除なんて不可能なのだ。それをヴァンは知らない・・・
これはリンからヴァンに対してのテスト的な感じのもので、もしヴァンがそれを望むのならばそれはヴァンがそれだけ器の小さい男だっていうことの証明である。
生唾をごくりと飲んだリン。リンの説明を聴いたヴァンはこう返答した。
「あ?そうなのか。まぁ、しゃーないな。じゃあ色は諦めるか。仕方ない、俺がピンクのブレスを着けてるって、カイやゲンが笑ってきてもお前がちゃんと説明してくれよ。」
ヴァンはそういうとどういうことかニンマリと微笑み、ブレスを天にかざしてご機嫌だった。要するにヴァンはピンクのブレスはなんか恥ずかしい色であったものの、不可抗力ならば仕方ないという言い訳が欲しかったのだ。
「リン、言っとくぞ。俺サマは人を裏切ったり、約束を破る人間は大嫌いだ。軽蔑に値すると思っている。カイやゲンはそんなことは勿論しないし、奴らも俺サマがそういう人間だってことは知っている。だから俺サマもそんなちんけなことにはこだわらないから安心しろ。」
さっきまでつっけんどんだったリンから、大量の嬉し涙があふれ出る。それと同時にギュッとヴァンのことをハグするのであった。
リンのそんな反応に驚きを隠せないヴァン。
だが、ヴァンもそっと優しくリンのことをハグするのであった。
「今からウチはヴァンのブレスに転移する。そしたらウチはヴァンの思っていることが全て解るし、疑問に思うことにもすぐ返答が出来るから、ちとやってみよ!」
そう言った直後にリンの姿は消えてヴァンのブレス内に転移した。何だこの力は?今まで感じたことのない体を循環する新たな力・・・
ヴァンはその力を一点に集結したり、移動させたりして試してみる。
《流石、ヴァンだね。これは波動力。もともと人間にはあるものだけど、ウチがキッカケでヴァンの波動力は格段に増幅したんよ。波動力は攻撃にも守りにも使えて超便利。ティナは攻守ともに潜在能力がめっちゃ高く、ウチらの中じゃ最強だったから、そもそもそんなに波動力は使っていなかったみたい。だけど、ウチとキールの潜在能力はそこまで高くはないから、この波動力を使ってたって感じかな?》
おいおい、マジかよ。とんでもない潜在パワーじゃねえか?これを俺サマが今後使って良いのか?これさえあればどんな奴が相手でも負ける気がしねぇ。ヴァンはニンマリとしていたが、リンはそんなヴァンに想いを伝え続ける。
《ヴァン、あなたは潜在能力が人間としては高い方だと思う。でもね、上には上がいるし特殊能力持ちの奴なんてゴロゴロいるよ。ウチが知らない亜空間や異次元には得体の知れない能力もちの奴もいるって、以前キールから教えてもらったし。》
そりゃそうだよな。そうでなくては面白くない。勝負事はカンタンにことが進んでしまっては面白みに欠ける。カイの奴もネットで調べたと前に言っていたが、魔王や大魔王なんかは力の誇示をしないらしい。
強すぎるが故にそこには楽しみがないということなんだろう。上が存在してこその楽しみ、ワクワクするぜ!俺サマはもっと強くなれる。
《で、ウチは体重が二十万トンまで増やせるんよ。そこで提案!今は負荷を全くかけてないけど、ヴァンにはウチの負荷を受けてもらいたいっていうかこれをしていかないと特殊能力は絶対に人間では使いこなせないわ。》
二十万トンって想像つかねぇな・・・確か映画で国民的英雄のあいつがそれ位だったような・・・
「いいぜ、お前の負荷をかけてくれよ。最初はどの位がいいんだ?とりあえず二百kg位からスタートしてみるか?」
ヴァンはリンの提案を受けて早速日常生活での負荷をかけることを始めた。
「二百kgって結構な重さだけど、俺サマの体重が六十kgだから、二百六十kgの負荷がこの地面にかかっているのか?ぬかるみとか足元ヤバいんじゃねぇか?」
そんな疑問に対してリンは想いを伝える。
《ヴァン、さっきあなたを抱きしめた時にこっそりネックレスを着けたの気付いてる?それは竜水晶。それは絶対に肌身離さず身に着けておいてよ。それがあればウチの負荷は地面にはかからずにヴァンの体内だけを流動していくんよ。だから安心してな。》
いつの間に・・・とヴァンは少し驚き首元を確認すると中央に薄いピンクのドラゴンが入った水晶がそこにあった。おいおい、こいつもピンクかよっ!ってヴァンは思ってしまったが、この際一つも二つも変わらんなと考えを改めた。
「解ったぜ。でもこの竜水晶からも何か得体の知れないパワーを感じるが、何か秘密でもあるのか?」
この問いにはリンはこう想いを伝えた。
《今は言えないよ。でも、もし必要な時がくればその時は伝えるわ。そんな時が来なけりゃいいんだけど・・・》
と気になることを伝えられたヴァンだが、リンがそう言うんならそういうことなんだろうと深くは考えなかった。こういうことはゲンが好きな分野だし、また時期が来たら聴いてみようと思うのであった。
「ゲンさん、ゲンさん、目を開けて下さい。」
ゲンは目をゆっくりと開ける。目の前は観たこともない風景・・・そして何やら強い違和感。
明らかに異空間だったが、体は無事に順応しているのを感じる。ここでの一時間は自分たちがいる世界の一分ほどに相当する。そういう説明だったが、初の体験だけにゲンとしてはにわかに信じがたい。
しかし、目の前の女の子が嘘をついているとは決して思えない。
「すみません。わたくしのわがままでこのような場所に来ていただき、ありがとうございます。」
謙虚に挨拶を述べたキール。そんな彼女を観ていたゲンは純粋に可愛らしいなと感じていた。
「わたくし今は人化しているので、フツウの女の子ですが実際はウン千歳のドラゴンです。魔獣の間では竜姫と言われています。さっきまで一緒にいたリンと会場外にいたティナも竜姫で皆、見た目は十六歳位に見えますが同じドラゴンです。」
それは先ほど聴いたから今更驚くことではないのだが、やはり目の前の可憐な女の子がドラゴンであるというのはイコールでは考え辛い。
「ティナは十六年の想いを伝える為、リンは最強を求めるパートナーを目的として本日皆さんと接触しました。わたくしは彼女たちとは目的が異なります。」
キールは自らの目的を話す前に、ティナやリンが伝えた内容を先にゲンにも伝えた。彼女たちの種族繁栄の目的とその相手、竜眼の件、DNAの愛性の件、ブレスの件などなどである。
「あ、それで竜眼を使ってパートナーを見つけ、その結果がボクだったと?」
状況が少しずつ見えてきて、ゲンも理解を少しずつ深めてきた。
「はい、その通りです。わたくしは時元竜。如何なる空間をも自由に行き来出来ます。ゲンさんとは運命の出会いを感じます。だって次元とゲンさんなので・・・。」
そう言われてみれば、そうだなとゲンも頷いた。ん?カイは破壊竜、ヴァンの奴も万力竜がパートナーだったな。こりゃボクたちが同じ日に産まれて、名前も共有・・・神のいたずらか天の定めか分からないが、こりゃビックリだらけの誕生日だな。
ゲンはひそかにそんな考えを巡らせ、キールの話の続きを聴く。
「わたくしの目的はゲンさんとパートナーになり、このスティール星を救うこと。わたくしたちがいる世界では様々な特殊能力のゲットが可能ではあります。ですが、それは強さを求める者であれば魅力的なものです。しかし、わたくしはスティール星の人間や魔獣が窮地になる時が来るという予知夢を見ました。今まではそんな時が来れば絶対神ゼウスが問題をクリアしてくれていました。異次元や亜空間では超特殊能力をもった者が存在します。その者たちが暴挙に出た場合、絶対神では封じることが出来ない存在が誕生するかもしれません。神も万能ではありません。神をも凌駕する存在が出てきても対応できるように事前準備が必要ではないでしょうか?わたくしの予知夢は、残念ながら的中率百パーセントなのです。ゲンさんはそれに対してどう思いますか?」
ゲンはそれを聴いて唖然とした。ぶっちゃけ今の世の中は平和で自分たちはのんきに武闘家を目指していた。勿論、強くなって愛する人や困っている人を守るんだという思いもあった。
でも、あくまでも可能性ではあるが、今キールが危惧していることには賛同できる。しかも、何の根拠もない予知夢が的中率百パーセントとくるならば・・・。
「キール、キミが言いたいことは解ったよ。でも何故、ボクがその超特殊能力をゲットして能力を扱えるようになると思ったんだい?フツウの人間ならば、かなり難しいとは思うけどね。」
ゲンが言うことはもっともであり、最早人間の常識や思考外の情報である。
「ゲンさんとは話していて話術が得意に感じました。話が得意な方は交渉も得意であり、超特殊能力をゲットする可能性が広がるからです。あと、この亜空間はスティール星よりも格段に気圧が低く、フツウならば自律神経が正常ではいられません。極度の耳鳴りや関節痛に陥る人がほとんどでダウンしていることでしょう。でも、ゲンさんはそんなことを払拭して環境適応能力が素晴らしいことを示してくれました。申し訳ありません、ゲンさんを試すようなことをしてしまいました。」
キールはそう説明と謝罪を行い、真剣な眼差しでゲンの反応を見守る。
「フッ、面白いね~。非常に面白い!何てワクワクするような話なんだろう。絶対神を超える存在?超特殊能力?異次元や亜空間に自在に行ける能力?どれも人間では想像すら出来ないし、実際には不可能だ。それを経験できる人生。これこそボクが真に望んでいたことかもしれないよ。」
それを聴いたキールはキラキラと輝く瞳でゲンを見つめる。
「で、どうしたらDNAの共鳴は出来るのかな?この亜空間でも可能なのかい?」
「はい、わたくしの両手とゲンさんの両手を合わせて目を閉じてください。で、ゲンさんが望むレベルの武闘家をイメージしてください。わたくしもゲンさんになってほしい武闘家のレベルをイメージします。それがホントにお互い望んでいて、ピッタリのレベルで同調した場合、DNAの共鳴がなされ波長はシンクロします。」
ゲンは黙って頷き、言われたように目を閉じ両手を前に突き出した。キールも同様に両手を前に突き出し、ゲンの両手に合わせ目を閉じる。
お互いがイメージする武闘家・・・未知の世界である超特殊能力、亜空間の超低気圧からのプレッシャー、様々な条件がある中では正直ピッタリ波長が揃うことは難しい。そんなことをキールは解るハズもなく、ただ純粋に想いを高めていく。
しかし、それが困難であることをゲンは想定内であったように目を開けることをキールに伝える。
「キール、考え方を変えよう。ダンスは出来る?ボクのことを真剣に想って一緒に踊ってほしい。ボクもキミのことを真剣に想って踊るよ。ダンスを通じて想いをシンクロさせよう。そして今この時を楽しもう。」
キールはコクリと頷くと、二人はワルツを鼻歌交じりで踊りだした。BGMは亜空間故に無く、鼻歌でリズムを合わせていく二人・・・
最初はチグハグで観るにみかねる内容であったが徐々に一体感が生まれ、右回りであるナチュラルターンや左回りであるリバースターンも難なくこなせるようになってきた。ゲンは時折キールの体を引き寄せ、二人で踊ることが自然体であるように息を合わしていく。
そして二人は踊りの動きを止めて次の瞬間、ギュッとハグを行い熱い口づけをお互い無意識に行っていた。その時、二人のDNAは共鳴しシンクロしたのだ。ゲンのブレスは薄いイエローに変色し、魔石が一つハマっていた。
「ごめん、なんか無意識にキスしちゃって。」
「わたくしも無意識にそうしていましたので、謝らないでください。」
お互い顔を赤らめて見つめあっていたが次の瞬間、自然と照れ笑いしていた。
「キール、この体内の力は?」
「これは波動力・・・まずは、わたくしがこれからブレス内に転移するので、情報はその後にお知らせしますね。」
そして、ゲンもカイやヴァン同様に波動力と竜水晶についての知識を得ることになる。
また、ゲンは体重が五十五kgだったが二人の親友と同様にキールの負荷をかけることにした。まずは、百kgから・・・
こうして俺たち三人は三竜姫とパートナーになり、新たな目標が出来た。
怒涛の誕生日であったが、これも運命だったのかもしれない。
その後、俺たち六人は再び集合しお互いの情報を秘密のアジトにて開示して個々の想いを伝えあうことにしたのだ。