第二十八話 秘術
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「ところでさ・・・」
俺が話し始めた所でゲンが口を挟んできた。
《カイ、これからは念波で話をしていきませんか?イプシロンは魔耳を使ってボクたちの話を聞いているかもしれません。》
「イヤ、話を聞かれたら聞かれたで、それはそれでいいんじゃないか?俺さ、思うにイプシロンの奴は確かにとんでもない強さなのかもしれない。そいつに勝とうなんてとんでもないチャレンジだろう。でもさ、イプシロンはきっと純な奴なんじゃないかな。純粋に強い奴と戦いたいって思っているだけで、変な小細工や罠をはる奴じゃないと思うよ。これまで俺たちはバトルを数多く行ってきた。ルーツだけじゃないか?汚いまねをしてきた奴は・・・だから俺たちも正々堂々といかないか?」
「カイくんは相変わらず純粋ですね。わたしも同感です。魔王ファイ様には申し訳ないですが、戦いをじっくりと楽しみましょう。そして、不敗の魔人イプシロンに認めてもらうのです。」
「あぁ、そうだな。俺サマも真正面から当たってこの壁を乗り越えたいぜ。折角騎気を身につけたが、全くレベルが違ったからな。もっともこれ位でガタガタしてるんじゃ、ゼウスが負けた時に俺サマ達じゃ役不足ってもんだ。」
「解ったよ。ボクたちはイプシロンに胸をかりている身・・・正々堂々と胸をはっていこう。しかし、疑問があるんだ。ボクとキールが魔人として誕生したとする。ボクたちは言うならば有機物。だが魂を持っているとはいえ、ハルさんは剣で無機物・・・有機物と無機物が一体化出来るものなのか?」
ゲンのこの一言で周囲はシーンとしてしまった。確かにフツウに考えれば、有機物と無機物の一体化なんて考えにくい。
「ゲン、それなら多分問題ないぞ。確かにハルさんたち魔剣は無機物だ。無機物が有機物と一体化するなんて難しいと思えるよな。でも、ゼブルに前に聴いたことあるんだケドさ、魔剣はチョッとした物なら色々と作れるんだって。だから、水素、メタン、アンモニアを作ってもらってそこからアミノ酸を作ってもらう。アミノ酸は生命体を構成するタンパク質の構成分子だからな。タンパク質を有する無機物ならば、有機物と一体化出来るんじゃないか?」
俺は科学の勉強をしてきたからか、こういったことには少しは詳しい。
しかし、ゲンやコウさんにとっては初耳だったようだ。ましてや筋肉バカのヴァンにとっては、ちんぷんかんぷんだったろう。
「は?マジで水素とかでタンパク質が出来るのか?俺サマもタンパク質くらいなら知っているが、作り方は全く解らんぞ。」
《ヴァン、案ずるな。拙者たちに任せておけば良い。昔はそんなことは出来なかったが、今のレベルならば剣の形や構成成分を変化させることは勿論、全身のタンパク質化も可能だ。》
《ゲン、フュードブレードは私も知らなかったから楽しみ。心を一つにすれば良いのね。》
普段は口数が少ないグリフォンとハルさんであったが、主と心身共に一つになれることが嬉しい様だ。
「じゃあいくぞ。まずは赤の一撃で破壊して、すぐに青の二撃で魔人として編成するからな。ヴァンとリンはこっち、ゲンとキールはそっちに並んでくれ。」
俺の指示で二人ずつ並ぶヴァン達四人。全員が何やら緊張した面持ちで並ぶ。
「じゃあ、まずはヴァンとリンからな。目を閉じていてくれ。不安かもしれないが、俺に任せてくれよ。」
「あぁ、俺サマたちは大丈夫だ。お前に全幅の信頼を寄せているからな。」
「カイ、一つ疑問なんだケドさ、ウチらが一体化した場合、男になるの?女になるの?」
「オッ!そこ大事だよな。やはり俺サマがベースの魔人化だから、当然男なんだろ?」
「それは俺にも正直解らない。破壊からの編成で新たな生命体を作るのは可能なんだケドさ、二つの生命体を合わせるのは初めての試みだ。結果、どんな生命体が誕生するのかはやってみてからのお楽しみだな。」
「おいおい!冗談じゃないぜ。魔人になったとしても体が男じゃなかったら、俺サマは顔から火が出るぜ。」
顔を真っ赤にして動揺しているヴァン。
まぁ、ヴァンの性格を考えたら当然の反応だな。
逆にリンの方は何やらワクワクしているような表情をしていた。
「ヴァン、面白いじゃないか。ウチはどっちでもいいよ。ヴァンと一緒になれるんだったらさ。ただ、男の体になるのか女の体になるのか事前に知っておきたかっただけだからさ。いやぁ~楽しみだなぁ。さっ!カイ早くおっぱじめてくれ!」
「解った。俺サマも腹はくくった。カイ、いつでもいいぞ。ことが済んだら、元通りの二人に戻れるしな。」
思えば俺も竜魔人化したこの姿は、男とも女とも解らない姿だ。人間と竜がコラボした感じのフォームになっている。
ヴァン達もそんな感じになるんだろうか?そんな思いを抱きつつ、俺は集中してスキルの発動を開始するのであった。
「いくぞ!赤の一撃マキシマム!」
俺は右拳にパルスの特殊破壊波長を電荷で増幅させ、拳が赤くなるのを確認した。
それをヴァンとリンに撃ち放つ。赤の一撃とはどんなに硬い物質や衝撃を吸収する物質でも生命体ならば炭素が完全崩壊し身体の組成が成り立たなくなるし、無機物であればその分子は完全崩壊し粉砕される。
通常の赤の一撃であれば、打撃が当たった場所のみ破壊される。これは音の力と光の力があってこそ可能なスキルなのだ。
しかし、今回は当たった場所のみの破壊ではダメである。全身全ての破壊をしなければ、二つの生命体を新たな一つの生命体へと編成することは出来ない。
そうなるとここで天空の力が必要となってくる。
ヴァンとリンの二人が並んでいる空間を一つのブロックとして完全隔離する。
これは天空の力をもってすれば容易いことである。
そこに赤の一撃マキシマムの波長が影響を及ぼし、空間内での二人の完全破壊が成立するのだ。イメージとしては箱の中に砂玉を入れ、箱を上下左右に振っていく様を思い浮かべる感じである。
一瞬にしてヴァンとリンの肉体は跡形もなく粉砕された感じになった。
しかし、細胞自体が消滅した訳ではないのでここで青の二撃の出番である。
「よしっ!青の二撃マキシマム!」
俺の左拳が青くなったのを確認し、その拳を撃ち放つ。完全隔離した空間内で俺の青の二撃の影響から、新たな生命体が誕生していく。
青の二撃はパルスの特殊再生波長を電荷で増幅させるスキル。
その効果は死者ならば息を吹き返すし、負傷した箇所も再生して復活することが可能。今回は復元するのではなく、編成した新たな生命体を作り上げるのだ。
俺の気も相当消耗するはずであるが、そこはゼブルの無限竜魔気があるので全く問題は無い。俺は魔人をイメージして青の二撃を放ったが、果たしてどのような生命体が出来たのであろうか?
青白く光を放ったかと思いきや新たな生命体が皆の前に誕生した。
「ヴァン、リン、目を開けていいぞ。」
二人の生命体から誕生した一人の魔人。見た目は人間だが、ヴァンの様に筋肉ががっしり付いているわけでもなく線の細い人間のような感じである。一見、パワーダウンしたような感じであるが俺には解る。
この魔人はとんでもない強さを持っていると。ムダな筋肉が取れて、よりしなやかになった肉体。しなやかな筋肉からは以前とは比較にならないパワー、体のキレからスキルや防御も大幅にレベルアップしていると推測される。
それらが感じられるほどのオーラが発せられているのだ。
しかし、俺は敢えて容姿を深く凝視しなかった。それは、海よりも深い理由があるからだ・・・
「随分とスッキリした体になったな。でも、かなりのパワーアップが感じられるぞ。ヴァンとリンの一体化だから、名前はヴァリンか?」
俺が勝手に名前を決めたが、どうやら気に入ったようだ。
「ヴァリンか・・・いい名だ。体は軽いし、力がみなぎってくる感じだ。これにグリフォンのパワーもこれから加わるって考えたら、ワクワクしてくるぜ。」
「あの~ところでヴァリン。さっき問題視していた体は男なのですか?女なのですか?」
新たなる体に満足していたヴァリンにキールがツッコミを入れる。
「ん~それなんだがよ・・・どうやら、どちらでもないようなんだ。新たな種族って感じかもしれん。まぁ、無事に成功したんだからそんな細かいコト、どうでもいいんじゃねぇか?」
自分たちが問題視していた件をどうでもいいと切り捨てたヴァリン。まぁ、あいつららしいと言えばあいつららしいがな・・・
「さて、次はゲンとキールの番だな。名前は・・・二人の名前を合わせるの難しいな。」
「それなら、ボクたちはもう決めてあります。魔人化に成功したら、ゲキハと呼んで下さい。」
一瞬、周囲が凍り付いた。ゲキハって・・・センスが無い俺が言うのもなんだが、ネーミングセンスないよな。恐らく、ゲンとキールとハルさんの頭文字を合わせたんだろうケドな。
「あたしさ~その名前もいいなって思うんだケド、ゲールっていうのはどう?折角のゲンとキールっていうステキな名前を活かさなくっちゃ!」
ティナが珍しく人をたてて話をしている事に俺は驚きを隠せなかった。あんなに自由奔放で、周囲の事など全く気にしないティナが成長したものだ。ていうか、そうでも言わないとゲキハに決まりそうだったからな。ティナ、隠れたファインプレーだったぞ。
「ゲン、キール。それじゃ、いくぞ!赤の一撃マキシマム!」
ヴァンとリンの時と同様に、俺は二人を破壊した。続けて編成に入る。
「次だ!青の二撃マキシマム!」
そして誕生した新たなる生命体。ヴァリンと同じく、しなやかな筋肉とムダが省かれた肉体のゲール誕生と思っていたのだが・・・
二人目の魔人は少し様子が異なっていたのだ。確かに、しなやかな筋肉をもった均一の取れた肉体ではあったが、その瞳は開くことなく常に五感を研ぎ澄ましているかのように感じられたのだ。
ヴァリンの方は、どこか内心にギラギラしたものを感じさせるものがあった。それは、ヴァンやリンが本来持ちあわせていた強さへの欲求からなのかもしれない。
一方のゲールの方は、感情の全てを封じた神のような存在として誕生した。正直、戦うとしたらゲールの方が不気味な存在だなと誰しもが思うであろう。元々、ゲンもキールも感情を表に出すタイプじゃなかったからな。
「おう!終わったな。」
「うん、予定通だね。ヴァリンはボクと違って闘神が宿ったような雰囲気があるね。」
「イヤイヤ、ゲール。お前の内に込められし潜在パワーは俺サマには恐ろしく感じるぜ。」
二人が双方を認め褒める光景は素晴らしいものがあったが、俺の新スキルが無かったらこれも不可能だったんだよな・・・
と俺は改めて考え込む・・・っていうか、イプシロンの奴は俺がこの赤の一撃と青の二撃を使えると知っていて、ヴァンとゲンにフュードブレード化を教えたんじゃないのか?
魔眼と魔耳を使えば、そんな情報入手はいとも容易いはずだから・・・でなけりゃ、魔人と魔剣の合身であるフュードブレードを人間に教えるはずがない。
だって、人間には不可能な合身だから・・・まいったな・・・
俺たちは完全に奴に踊らされている。
いや違う!昔父ちゃんが言ってたっけ。起こる現象は全て必要かつ必然であり、ベストなタイミングで発生すると・・・
何かが発生するには、必ず原因がある。例えば虫歯になるのは、歯を磨かずに口の中が不衛生だからである。
そして歯が痛くなるのは、これ以上放置してると歯が抜けることにつながるサインなのだ。
つまり虫歯は必要かつ必然な現象で、歯痛はベストなタイミングでのサイン。
いきなり、歯が何の前触れもなくボロボロ抜けたら困るもんな・・・
だから、ゲンが阿修羅の力に目をつけたのは必要なことであり、イプシロンがフュードブレードをヴァン達に促したのも必然。
そして、そのタイミングで俺が赤の一撃と青の二撃をマスターしたのも同時期・・・
必要かつ必然、ベストのタイミングで事が進んでいるのだ。
そして、その先にはキールが予知夢で見たゼウスを倒す者が現れ、阿修羅の力を必要とする・・・
全てがつながっているな・・・
そしてファイがメタル化されなければ、星々を回ることもなかったし、リアトリスで無限の力をマスターしようとも思わなかった・・・
こりゃ、ゼウスを倒す者が現れるのもそう遠い話ではないかもしれない・・・
俺が考えていることは、ヴァリンやゲールたちと共有される。そんなことを考えていたら、コウさんが周波数のループ化を教えてくれた。
すでに俺のチーム以外は完了しているそうで、やり方はパルスの力を使えば容易に出来たのであった。
こうして、俺のチーム、ヴァリンのチーム、ゲールのチームとコウさんの計十八人の念波グループが完成したのであった。
この展開なら、俺、ティナ、ゼブルだけの意思疎通ラインである念話は、もはや使わなくなるかもな・・・
しかし、よくよくサーチしていくと、念話とは念波の一種であり、周波数が異なる意思疎通ラインということが判明した。
どうやら俺は、無意識に周波数の設定を行って念波の回線を作っていたらしい。
こういったことが出来るから、無限の力に俺が合わせることが出来たんだと思う。
俺の周囲で起こることは、全て俺自身にとって決して無視出来ないことだらけだったんだと再認識させられるのであった。
さてと、ヴァリンとゲールは無事に魔人化することが出来た。
続いて、フュードブレード化だな・・・クロちゃんは簡単そうなことを言ってくれていたケド、決してそんなことはないと思う。
特にヴァリンの奴は、生き方が不器用だからな。
何かに合わせるということは、ゲールは得意で心配はしていないが、ヴァリンは一抹の不安がある。
いや、一抹どころか不安しかない・・・
「おいおい、カイそりゃないぜ!確かにお前が考えている通りかもしれんが、今やお前の考えは俺サマに筒抜けだってこと忘れんなよな。やる気無くなるぜ!全く!」
ヴァリンは苦笑いしながら、そんなことを言い出す。
確かに俺はデリカシーに欠けていたかもしれんな。今後は気をつけていこう。
俺はハッと閃き、すぐに行動に移した。よし!俺単独の周波数を設定したぞ。これで独り言のようなことはここで考えるとしよう。ここなら、ティナの干渉もない安全地帯だ。
だが、俺が考え込んでいる仕草で何も念波が伝わってこなけりゃ、勘のいいティナに感づかれるかもしれないからな・・・
そこだけは注意していこう。周波数の設定が可能な俺だけの特権なのだ。
「よし!ゲール、先にお前やってみろよ。ハルさんを手にして、ハルさんと気を同調させるんだぞ。気の同期がドンピシャになった瞬間に気をまとめあげるんだ。お前なら簡単だろ?」
俺はゲールについては心配していなかったが、初めての試みだ。百パーセントの安心は抱いていない。万が一、失敗して大参事になったとしても俺が再び、青の二撃を使うまでだ。
気を集中するゲール・・・ゲンは魔人化したが、キールの髪色がそのまま現在も継承されており、キレイな薄い黄色髪は美しい。
俺は不覚にもヴァリンの全貌をチラ見してしまい、思わず笑いをこらえるのに必死だったことを思い出す。
だって、あのいかついヴァンが今はリンの髪色が継承されて薄いピンク色の髪色なのだ。そんな俺の異変にティナとゼブルは真っ先に気付き、もう使わないであろうと思っていた俺たち三人の念話ラインでこっそりとネタバレをするのだった。
ティナは肩がピクピクと小刻みに震え、ゼブルに至ってはチカチカと発光する始末・・・こりゃ、ヴァリンに気付かれると思い俺は急遽意味不明な咆哮をあげ、誤魔化すのであった。
その咆哮は俺も意識していなかったが、次元の壁を突き破り、空間に亀裂を生じさせる。その切れ目から覗けた、未開の空間・・・
一時したら、空間の裂け目は徐々に消滅し、普段見慣れた光景へと戻ったのであった。ゼブルに聞いたのだが、目の前のそれは異次元や亜空間ではないと・・・どうやら異なる空間らしい。別の空間って何なんだ?とか思い知りたくなるのが人間の性・・・
人間界、魔界、精霊界、冥界、神界とこの世界は五つの世界で構成されているとゼブルは言う。そして、異次元と亜空間という異なる特殊な場所も存在する。じゃあ、俺が作った切れ目の先にある空間って何なんだ?
解らないことはクロちゃんに聞くのが一番だ。
「おーい!クロちゃん、この切れ目の空間は何なんだ?ゼブルに聞いても解らなくてさ。教えてくれよ。」
「カイくん、この空間はな・・・秘密じゃ。今は教えられん。時が来たら教えてあげるがな。今君たちは知らない方が良いんじゃ。まさか、こんなことが起きるとはワシも想定外だったがの・・・」
クロちゃんはそう言い残し、スリープしていった。なんか意味深な発言だったけど、まぁいいか。時が来たら、教えてくれるって言ってたしな。クロちゃんの状況判断にミスはないからな。
俺たちは気を取り直して、ゲールのフュードブレードを見守る。遠くから見ていても解る。ゲール、いやゲンの奴は天才だ。
一瞬でハルさんの気と同調し、同期をスタートさせる。薄い黄色の閃光が眩く光ったと同時にゲールは言葉を発する。
「魔剣合身!フュードブレード!ボクに更なる力を!」
閃光が消失すると、そこにはゲールいや新生ゲールが立ちはだかっていた。
明らかにパワーアップした感がハンパない。ゲールの騎気とハルさんの魔気が融合したとはいえ、気の充実度は目を見張る。そして、体皮の強度は魔剣の恩恵により格段にアップしたのであった。
「これがフュードブレード・・・恐らく上位魔人の比ではないね。あの時のルーツとも渡り合えそうだよ。」
「どうやらうまくいったようだな。次はヴァリンの番だぞ。うまいことやれよな。期待しているぞ。」
目の前で親友がフュードブレードを成功させ、次は自分の番を意識しだしたヴァリン。
正直自信がないぜ・・・とぼんやり考えていた矢先、キツイ一言がヴァリンを襲う。
《こら!ヴァン!・・・いやヴァリン!お前、何弱気になってるんだい。お前には最高の戦友、このデルタがついてるってことを忘れたのかい?》
表情は見えないが、恐らくデルタはドヤ顔であったろう。
百戦錬磨のデルタは今までに無数の失敗を喫し、そしてその失敗を糧に無数の成果を得ている。これほど頼りになる戦友は他にいない。
《そうだぜ、ヴァリン。オイラもデルタとティアラの幾多のバトルを見てきたが、それは凄まじい成長を遂げていたよ。じゃなけりゃ、あの竜騎トルネードは生まれてこなかったって。》
ブラールもブレスを通じて、デルタのスゴさを語ってきたのだ。
確かにティナの竜爪撃のように、一撃必殺の技の威力は凄まじい。
竜爪撃は一点に集中して、その全ての魔力を撃ち放つもの・・・
しかし、打突系のスキルは所詮回転系スキルの破壊力の比ではないのだ。例えば草を切るという行為にしても、どんなに切れ味鋭いカマより、草刈機の切断力の方が勝る。
それほど高い回転系のスキルだが、回転を継続して行うという行為は、正直難易度がかなり高いのだ。
俺のようにゼブルを鉄芯にして磁気をコイル状に巻き付け、電流を流して回るモーターの応用をするのは仕組みを構築するのは難しいが動いてしまえば後は容易い。
だが、デルタやヴァンのトルネードは魔力や騎力などをフルに活用しなければならない力技だ。
その力技を継続して使用するのは、言葉にならないほどの労力を駆使することになる。
特に竜騎トルネードは太陽風の恩恵があったにしても、そのパワーは段違いのレベルである。それを構築した自信は大きいものがある。
そのデルタがついているのだ。
ヴァリンは気持ちを新たに、やる気と自信に満ちた表情で俺たちに目をやる。その表情を見た俺たちは最早、ヴァリンの髪色を笑うことさえ出来なくなっていた。
「いくぜ!魔剣合身!フュードブレード!俺サマに新たなる力を!」
デルタが軸となり、ヴァリンとグリフォンの波長はピッタリと半ば強制的に同期されたのであった。
そして二人目の超戦士の誕生・・・
「これが、フュードブレードか。フッ・・・スゴすぎて言葉が出てこないぜ。今までの俺サマたちの戦力の比ではない。」
ヴァリンがそういうのも解る。俺が言うのもなんだが、俺たち三人がブレスを手にしたあの日から比較すると、今のレベルは予想を遥かに超越した三戦士になっている。
「ヴァリン、ゲール、おめでとう!無事に成功したな。イプシロンに見せつけてやれ。お前が望む相手が現れたと。」
「あぁ、これが俺サマ達の現状出来得る最高の状態だ。文句は言わせないぜ。」
「うん、これなら勝つまでいかないにしても、ほんの少し希望が見えてきたね。」
「おい!ゲール!そんな弱気でどうするんだ。俺サマ達は、あいつに認められて阿修羅の力をゲットするんだろ?もっと自信を持てって。」
「それもそうだね。もっと強気にいかないと。」
そう言いながらゲールには、この時解っていた。これでもイプシロンには絶対に勝てないことを・・・
それでも認めてもらえさえすれば、阿修羅の力をゲット出来るのだ。今はそれだけを考えていようと・・・それは、終始無言であったコウさんも同様に考えていた。
それほどの相手だったとは、俺はこの時点でまだ知らない・・・
「カイ、ありがとな!リベンジに行ってくるぜ。楽しみにしていてくれ。ゲール、コウさん一発かましていこうぜ!」
「それじゃあ、再度イプシロンの所に行ってくるよ。何かあれば、念波で伝えるからさ。」
俺たちは互いに瞳を見つめ合い黙って頷き、ゲールの空間転移で彼らは再びイプシロンの元へと赴く・・・
「なぁ、ティナ。俺、思ったんだけどさ、イプシロンって奴はとんでもない強さと知力の持ち主なんじゃないかな。そいつの元で修行したら、格段に強くなれそうだよな。」
《カイト、カイトもイプシロンに挑戦したかったんじゃないの~?そんなことよりも、あたしたちにはミッションがあるんだからね。解ってるの?あっちはコウさんたちに任せておこうよ。ねっ!》
ティナの言うことは、ごもっともだ。俺には、今こなしているミッションがある。
キャンティから聴いている一族は残り四人・・・
キャンシー、キャントニー、キャンメル、キャンサーだ。
特にキャンサーはスキルコピーの技を使うらしい。
俺は俺自身と戦うことになるかもしれないな。
まぁ、それはそれで楽しいバトルになりそうだ。
自分よりもレベルの低い相手とバトルしても、なんら楽しくはない。
自分を高めてくれる相手と切磋琢磨して俺も強くなるんだ。
さてと、宴の途中でのバタバタであったが、赤の一撃と青の二撃を見れたことにキャン一族は興奮を隠せなかった。
そして竜魔人化した、俺のドラゴノイドフォーム。
かくし芸としては、十分に役目を果たしただろう。
「おい!カイ!お前スゴイな。あたいたちとのバトルで全力を出していないのは解っていたが、ここまでとはな。上位魔人でもここまでの存在はナカナカいないぞ。あっ!一人いたな、そういえばとんでもない強さの覚醒魔人が・・・名前なんだっけ?う~ん、思い出せないぞ。」
キャンスリーがそう言い、キャンティ、キャンバール、キャンナもその覚醒魔人を知っていたらしく、その名前を思い出そうとしていた。「なんだっけ?ここまで名前が出ているんだ
けどな・・・うーん、思い出せないよ。」
なんでも、今は魔界にはおらずに人間界で好き勝手なことをして楽しんでいるらしい。
その覚醒魔人はバトルが好きでは無くて、人としての楽しみを謳歌しているようだ。
まぁ、もし出会うことがあったら、一度手合わせをしてみたいものだな・・・
俺はそんな悠長なことを考えていたが、その覚醒魔人とはこの先、運命的な出会いをするのであった。




