第二十七話 覚醒
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「それでは・・・」
「チョ・チョッと待ってよ。」
ゲンがコウさんの話を止めて、口を挟んできた。
「コウさん、今あなたはリンやデルタと念波をしていたよね。ボクたちは【念波のグループ化】でボク、カイ、ヴァン、キール、ティナ、リンだけならば、無言でも念波で意思疎通が出来る。しかし、コウさんはそういったことをしなくてもブレス内の者とも念波が出来るのかい?」
「ゲンくん、先程わたしを軸としてループを作りましたよね。あのループは只のループではありません。あの時、情報の全ては共有されたのです。つまり、ヴァンくん、ゲンくんのブレスの情報も共有しました。ブレスとは極めて特殊な周波数の中で念波が成立しています。ですから、通常では外部にその周波数内での念波はもれません。ですがループによって、ヴァンくんのブレス周波数、ゲンくんのブレス周波数は共有されました。だから今はヴァンくん、ゲンくんのブレス内の石の元である魔獣や魔人たちとも話が可能ですよ。」
何と便利なループ。個人情報ダダ漏れ感も否めないが、この場では必要なことではある。
「では、ボクもブラールやデルタとも話が出来るのかな?先程のデルタの声は聞こえなかったケド・・・」
「ヴァンくんの情報をゲンくんは理解しているハズです。その情報の中からブレス周波数をあわせてみて下さい。ヴァンくんもやってみて下さいね。」
ヴァンとゲンはコウさんに言われた通りにお互いの情報からブレス周波数を合わせてみる。
「おい、俺サマの声がルギア聴こえるか?」
《私を呼んだか?ん?ゲンではないのか?》
「これはスゴイね・・・戦いがスムーズに出来るよ。コウさん、カイが宇宙から帰ってきたら再びループをしてもらってもいいかな?ボクたち全ての意思疎通がもっとスピーディに出来れば、きっと大きな成果になるハズだからね。」
「イヤ、カイくんには必要ないですよ。本人はまだ気づいていないでしょうが、彼が音の力を得た段階でパルスの能力でループと同様なことが可能ですから。今の彼にとっては周波数のコントロールは容易いでしょう。」
こうして、情報の共有がスムーズに出来るようになったヴァンとゲン。
この時点で俺がまだその輪の中に加われていないが、今はお互いにすべきことをしていくのだ。
「さて、ヴァンくん。君も騎気を使えるようになりましょう。騎気が使えるようになれれば、トルネード技やグリフォンによる剣技のパワーも上がりますからね。」
「コウさん、それは先程聴いたけど具体的にどうするのかな?ボクは騎気を使えているが、ヴァンにはそのコツをうまく伝えきれなかったんだよね。」
「俺サマはデルタの能力で強制的に騎気を使ったことがあるが、その気の流れに体がついていくのがやっとだったぜ。本当に出来るのか?あの時は時間も短時間だったしな。」
「はい、口で説明しても難しいので、早速いきましょうか。騎気とは波気と魔気の融合です。二種類の気のコントロールが出来、それをスパイラル状に形成してキープしていかなければなりません。しかしこれは本来、上位魔人並みの超魔力があることか、卓越した器用さがあってはじめて可能なのです。しかし、ヴァンくんにそれを求めるのは適切ではないでしょう。そこで騎気使いであるデルタの出番です。デルタは過去に自分の騎気をヴァンくんに与えて、騎気を使ったことがありましたね。それはデルタの騎気であって、ヴァンくんには適合しない。その為、使用時間に限界があるのです。気とは自分自身のものです。特に騎気は心と体のバランスが大事なのです。デルタにはヴァンくんの波気とリンちゃんの魔気を取り込んでもらい、それを騎気として作ってもらいます。二人の波気レベルと魔気レベルのバランスはとても良好なのでこれがベターな選択でしょう。」
《解った。私の騎気を放出していくのでは、ヴァンにとっては体に合わないだろうからな。だから、以前に私の騎気を与えた時も短時間しかもたなかった。しかし、騎気を作ってもそれをヴァンが受け止めきれるかどうか・・・》
「そこは心配無用です。ブレスでのヴァンくんとリンちゃんは一心同体ですから。デルタは作り上げた騎気をリンちゃんへ放出して下さい。リンちゃんは竜姫。騎気を受け止めることは容易いでしょう。リンちゃんへと渡った騎気はヴァンくんが共有出来ます。」
「なるほど!そういうことか!ヴァン、これならイケるよ。」
《ん~ウチは騎気を受け止めるのは初めてでさ~正直不安だけど、ヴァンの為だ!やってみようよ。ウチとデルタとヴァンのトラアングルパワーだね!》
「わ・解った。難しいことは解らんが、リンとデルタを頼ればいいってことだな。リン、デルタ頼むぞ。」
デルタはヴァンの波気とリンの魔気を取り込んで騎気を作り上げ、それをリンへと放出した。
リンは竜姫ゆえに気を受け止めることくらいは造作もないこと。
こうしてヴァンはリンと気を共有し、騎気使いとなることが可能となったのだった。
「こ・これが騎気・・・前にデルタから受け取ったときは体への負荷が強すぎた感じがしたが、今回のはすんなり適合している感じがするな。それにこの体の中から湧き出る力・・・今までの比じゃない感じがするぜ。まぁ、俺サマの波気がベースだから当然か。リン、デルタ、サンキューな!」
《フッ!このようなこと、容易いものだ。問題ない。ヴァン、イプシロンに勝てよ。ただし、奴は手強いぞ。覚醒魔人の中でも三強の一人と認知されているからな。》
「あぁ、ゲン、コウさんイプシロンと対決だ!絶対に負けないぜ。」
「そうだね。ボクは全力でサポートしていくから、コウさんとヴァンで攻撃面は頼むよ。」
「わたしにはイプシロンの情報がありません。ですので、出たとこ勝負になりますがヴァンくんのパワーアップとわたしの光の攻撃でどこまでいけるか・・・精一杯のことはしていきましょう。」
こうしてヴァン達の臨戦態勢は整った。
まだみることのなかった覚醒魔人イプシロンへの挑戦・・・
ゲンが阿修羅の能力を是非得たいと思った理由をこの後、皆が知ることになる・・・
「それでは、行くよ。我が願いに応えよ!竜水晶セットオン!」
ゲンは阿修羅の力を探すべく、ブレスを使ってサーチした。そして、ブレスが指し示す一筋の方向。
「ヴァン、コウさん、ボクにつかまっていてよ。これからイプシロンの元へ空間転移するから、心の準備だけはしておいてよね。」
ヴァンもコウさんも黙って頷く。
三人は最高のコミュニケーションツールとヴァンのパワー覚醒という新たな力を得て、強者イプシロンへと立ち向かうのであった・・・
一方、俺たちの宴はどうなったのかというと・・・
かくし芸をしようということになり、各々が趣向をこらした一芸を行っていた。
ゼブルは華麗なる剣舞を行い、観る者を魅了させていた。
剣には柔と剛の両面がある。ゼブルは自らの姿を変化させ、しなやかな柔を表現しながら、時折剛の面も見せていった。
キャンティとキャンスリーで腹踊りを。女の子が腹踊りっていうのもどうかと思ったが、これはこれで面白かった。
キャンバールとキャンナはレイバーを使って雑技団を。
様々な難しそうな技を巧みにこなしていく。
こんな才能あったんだなと改めて感心する。
特にキャンナは寂しい時期が長かった為、めっちゃ楽しそうであった。
さて、俺の順番。正直、かくし芸なんてやったこともないし、思いつくこともない。俺はパスで・・・などと言える雰囲気でもない。
キャンティたちがめっちゃ注目しているからな。
仕方ない・・・ここはゼブルの力を借りてアレをするか。
バトルの際、いざという時の為の切り札。ティナにも内緒でゼブルと特訓していたんだよな。
それはティナに心配をかけてはならないという俺の愛情からではあるが・・・
「じゃあ、俺の番だな。いくぞ!ゼブル!チェンジ、ドラゴノイド!」
俺はゼブルを天高く掲げ、騎気をゼブルに送り出す。
ゼブルの方からは俺が送った騎気を取り込んで竜魔力を練り合わせたものを俺に還元してきた。
そうして完成された、新たな騎気には竜魔力が複合されている特殊な気だ。
俺はその気を受け入れて全身に巡らす。次の瞬間、俺の全身はドラゴンのオーラをまとい薄いブルーの光を放つのであった。
光が落ち着き、俺の体があらわになった瞬間ティナが大騒ぎしだした。
「キャー!!カイト!カイト!何で竜魔人化しちゃったの?皆、逃げて!大変なことになるよ!」
「ティナ、落ち着いてくれ。俺なら大丈夫だよ。ゴメンな、このドラゴノイドはお前に内緒で俺とゼブルで特訓して編み出した技なんだ。ファイがメタル化したあの時、俺は暴走したろ?自分では意識が無かったんだケドさ、物凄いパワーだったって聞いてる。そのパワーをさ、暴走しなくても自然体で出せればとんでもないパワーアップになるんじゃないかって思ったんだ。」
《ティナ、我は考えたのだ。あの時、カイがどうして暴走して竜魔人化したのかを。恐らくカイは騎気のコントロールが出来なくなっていたのだ。ティナの魔気は竜種のもの。その特殊な魔気にマイとパルスの魔気も複雑にミックスされたのだ。マイとパルスは共に波長の特性がある。この特殊な魔気にカイの波気は飲み込まれたのだ。まぁ、あの時カイは心が壊されかけていたからな。無理もあるまい。》
「そ・そうなんだ。良かった~。難しいことは、あたし解んないからゼブルに任せるよ。」
「ティナ、このドラゴノイドフォームはな、光速で移動することは勿論、ゼブルを使って放つことが出来る赤の一撃、青の二撃がゼブルをブレス内に収納していても出来るんだぜ。しかも、パワーは王気と遜色ないって俺は感じている。そして、究極奥義ロゼオンの発動も出来る。」
「えっ?王気って、前にカイトとファイが人魔合身した時に出来たヤツだよね。確か、MAX三十倍のパワーを出せるんだったっけ?でもさ、あの時はあまりのパワーでものすごい負荷がかかって五分間しか体がもたなかったじゃない?大丈夫なの?」
「うん、俺は今や無限の石を持っている。それにゼブルも無限のパワーを得ている。この新王気は俺の騎気をゼブルが取り込み、ゼブルの竜魔気を練り込んだものなんだ。だから、俺の騎気がベースの気で、体にとっての負荷はほとんどない。よって、このドラゴノイドフォームのタイムリミットは無い、無限に受けられる気なんだ。」
《お~い、カイくん久しぶりじゃのう。クロちゃんだよ~ん。遂に究極の気を会得したようじゃのう。後は気の習熟度を上げることと、パワーを間違えるととんでもない破壊力を生み出すから気をつけんとな。じゃが、無敵になった訳ではないからの。カイくんはファイくんには絶対に勝てんし、それに準ずる能力をもった者もいるということだけ忠告しておくからの。あ、そうそう!君にはまだ秘めたる力が眠っているということだけは伝えておくとしよう。そんなこと言ったら気になるかもしれんがの。じゃあ、バ~イ。》
いきなり念波で現れたクロちゃん。そういえば、ファイの能力は俺も知らなかったな。
圧倒的なパワーと防御力、それに魔王としての威圧感。それだけで、十分な強さだ。
ファイが戦いを好まない理由も自分が強すぎて面白くないということだから、それもうなずける。
俺と仲良くなって組み手なんかして特訓に付き合ってくれたのも、俺に対しての好意もあるんだろうが、自分と対等のレベルの友達が欲しかったからなのかもしれない。
そういえば、ファイが俺には覚醒魔王の資質があるとか言ってたな・・・
俺にはその気は全くないが、それだけ魔王が認めてくれたんだ。
クロちゃんが言っていた、【秘めたる力】ってそのことかもな。まぁ、この旅が無事に終わったら、ファイの能力は教えてもらおう。
「ねぇ、カイ。ロゼオンって何なのさ?あたいたちにも見せておくれよ。」
興味があったのか、キャンティがロゼオンをリクエストしてきたのだ。今、見せるのは簡単だ。
しかし、この技は大ピンチになった時に使おうって決めていたから、今回はリクエストには応えないことにした。
キャンティたちはブーブー言っていたが、ティナがおかめちゃんを被り、七色の声で一人コントをして、その場を収めてくれた。
ティナに感謝である。
別に出し惜しみする訳ではないが、ロゼオンを発動させる時は、俺が追い詰められた時だろう。
今は大ピンチのときのとっておきにしておきたい。
それに発動後のリスクがデカいからな・・・
一方、ヴァン達は・・・なんと、イプシロンはヴァンたちを仁王立ちで出迎えていたのだった。
「よく来たね。ミーが阿修羅の力をもつイプシロンだよ。君たちの会話は悪いが全て聞かせてもらった。ヴァン、ゲン、コウ、折角来たんだ。楽しもうじゃないか。」
イプシロンは気さくに話しかけてきた。
しかし、三人の名前を知っている時点で、遠方でも会話が聞こえる魔耳によって話を聞かれていたと知って少しばかり後悔をしたヴァン達であった。
《不覚でしたね・・・念波で全て話をしておけば良かった。ヴァンの覚醒も含めて、こちらの手の内はある程度知られてしまったと考えるべきでしょう。》
《あぁ、そうだな。折角、コウさんが力を貸してくれるっていうのに失敗したな。》
《なぁに、想定内ですよ。魔眼や魔耳なんて魔人なら使ってきても何ら不思議はありません。こちらも腹をくくっていかなければならないですね。》
ヴァンたちは、いつでも交戦出来るように身構えていたが、一向に仁王立ちしていたイプシロンは行動を開始しない。
《なぁイプシロンの奴、全く動き出す気配がないぜ。こっちからいくか?》
《相手の情報がほとんどない中、無闇に攻撃にいくとカウンターを喰らう可能性があります。ここはこのままが妥当ではないかと。わたしも長いこと精霊をしていますが、ここまで不気味な存在感を出す相手は記憶にありませんね。》《ゲン、わたくしたちはいつでも空間転移出来るようにまずはそこだけ意識をしていきましょう。》
《はいキール、ですが何かが変です。その何かは解りませんが・・・》
《ヴァン、拙者を早々に出しておいた方が良いぞ。相手の雰囲気が異様だ。》
《グリフォン、解ったぜ。リン、デルタ頼むな。》
ヴァンはグリフォンをゲンはハルさんを手に取っていたが、依然こう着状態が続いていた。
ヴァン達は様々な念波を送っていたが、イプシロンのみえる方向とは別の方向から突如、圧倒的な威圧を感じて全員身動きが取れなかった。
「はい、ユーたち全然ダメダメですね。目の前に観えているミーは幻影ですよ。本当のミーはユーたちの後方にいます。そこにまずは気付かないとね。目視出来るものだけが全てではありません。魔力や魔気などの気配を感じるようになって下さい。」
「な・なんとあれが幻影・・・明らかに存在感を発し、魔気も感じるのに。なんてことだ、精霊のわたしが全く気付かないなんて・・・」
コウさんは想定外の相手に脱帽していた。
《ヴァン、ちょっとしっかりしなよ!ってウチも気付かなかったわ。格が違い過ぎるんじゃないの?それにさっきの威圧感、ハンパないって!鳥肌がまだ消えないよ。》
《ゲン、元々私は半人半獣の身・・・魔人の特性は解っていましたが、強さの次元が違いますよ。ここは一旦引きましょう。》
ハルさんの一言に誰も異論を唱えなかった。
「おいイプシロン、俺サマ達は出直してくる。正直、今はあんたには勝てそうにない。少し待っていてくれ。必ず、再戦しにくるからな。」
「う~ん、正直なのは良いことです。このままではユーたちは一瞬で全滅だったでしょう。」
「よし、ヴァン、コウさん、ボクにつかまって。撤退するよ。」
ヴァン、ゲン、コウさんがその場を去ろうとした時にイプシロンから思わぬ一言があった。
「チョッと待って下さい。ユーたちは何か対策があるのかい?何もないならば、ミーには絶対に勝てないよ。でもさ、ユーたちはラッキーだよ。その手に持っているのは魔剣だろう?だったら、ユーと魔剣が一つになって【フュードブレード】したらいいよ。今は騎気みたいだけどさ、騎気の数倍の戦闘力にレベルアップ出来ると思うよ。」
「えっ?魔剣と一体化?フュードブレードって・・・そんなことが出来るのか?コウさん、知ってるか?」
「いえ、わたしも初耳です。そもそも、この世に魔剣はキャンティが作った四本とメドゥーサ一本の合計五本しかないはず。ですから、前例がないのではないでしょうか?」
「ノーノー、魔剣はその五本だけだと思っているの?宇宙は広い、この世には魔剣を作れる魔族は他にもいるんだよね。【古の魔界文献】にも記されているよ。それを調べてごらんよ。そしてもっと強くなっておくれ。ミーは強者大歓迎だからさ、期待しているよ。ちなみに、フュードブレードは【フューマンドッキングブレード】の略だからね。人と剣が合体する・・・解るよね?」
ヴァンたちは、フュードブレードはカッコいいネーミングだなと思った。
だが、その原語に関してはノーコメントにしようと思いつつ、とりあえずその場を空間転移で去った・・・
イプシロンがしようとしていることは敵に塩を送ることだ。敵が有利になることをわざわざ助言してくるだろうか?
だが、自分が強すぎて毎日が面白くないということであれば、考えられないことでもない。
そもそも、覚醒魔人は好戦的ではない。
相手から仕掛けてくるのであれば、相手をするといったスタンスを持っている者がほとんどという話である。
そういったことを踏まえて試す価値はあるとヴァン達は結論付けた。
「なぁ、ところでイプシロンが言っていた【古の魔界文献】ってどこにあるんだ?」
《ヴァン、ここからは念波でいこうよ。また魔耳で盗聴されるかもしれないからさ。》
《あぁ、そうだったな。解ったぜ。》
《古の魔界文献なら、確かキャンティが持っていたんじゃない?》
《じゃあ、キャンティの工房へ空間転移しようぜ。ゲン、頼む。》
《解ったよ。それじゃあいくよ。》
ヴァン達は空間転移でキャンティの工房まで移動する・・・
俺たちは宴会のかくし芸の真っ最中・・・
俺がドラゴノイドで竜魔人化していた時にヴァン達が現れたのだ。
ヴァン達は変身した俺の姿を観て、動揺を隠せなかった。
「カ・カイ!またお前、暴走しちまったのか?ゲン、コウさん、気をつけろ!」
ゲンも俺を観た瞬間、顔が引きつっていたが俺の気を感じたのか冷静さを取り戻した。
「ヴァン、大丈夫だよ。あれはカイですが、暴走しているわけではないようだ。気を感じれば解るよ・・・新たなスキルの発動じゃないの?」
「そ・そうなのか?カイ。」
「あぁ、これは俺の新たなる戦闘フォーム。ドラゴノイドだ。それより、お前たちはイプシロンに認めてもらったのか?」
ヴァン達はイプシロンにあっさり惨敗したことを俺たちに告げた。
そして、イプシロンからフュードブレード化したらパワーアップ出来るという情報を得、それが古の魔界文献にあると教えられたという。
ゲンは目の前にいるキャンティに質問をしてきた。
「キャンティ、君は古の魔界文献を持っていたよね?それを見せてもらえないかな?」
「あたいの持っている古の魔界文献?あれならカイに貸してるよ。」
「あぁ、俺はキャンティから古の魔界文献を貸してもらって全て暗記したよ。でも、ゲンが言っているフュードブレードのことは記されていなかったぞ。そういえば、所々破れたページがあったからな。もしかしたら、その破れたページに記されていたかもな。まぁ、数十万年前に記された書物らしいからムリもないケドな。」
それを聴いたキャン一族四人衆が、唖然として揃って驚きのリアクションを同様にしてきた。
「え?まさか、あの文献を全て読んで暗記したっていうの?全部で五千ページはあったよね?」
同じ声で四方から同じ言葉を聴かされるとサラウンド効果のようである。
でも、流石は同じ一族。考えのベースはやっぱ一緒だから同じ反応なんだろうな・・と俺は勝手に解釈をしていた。
すると今更ながら、ヴァン達はキャンティと同じ顔、同じ声の魔人が四人揃っていることに驚いていた。
「な・なんなんだよ。キャンティ、お前の一族って髪の色が違うだけなのか?顔も声も一緒じゃねぇか。」
ヴァンが驚いてそういうのも無理はない。
俺が同じ立場だったら、同様の反応をするだろう。
「あぁ、あたい達のスキルは各々違うケド、声や容姿は全く一緒。髪の色だけが違うケドね。カイが今、メタルの欠片を集めてくれてるケド、あと四人あたいの一族がいて欠片を持っている。八人全員が揃ったら、もっと壮観だよ。」
「そりゃそうだよな。ところで誰かフュードブレードについて知らねぇか?残念ながら、俺サマとゲンはフュードブレード化しなきゃ、イプシロンには太刀打ち出来ねぇみたいなんだ。」
しかし、キャン一族、ブレス内の魔人や魔獣達、コウさんや元精霊だったゼブル、魔剣達誰しもフュードブレードについての情報は知らなかった。
「こうなったら、最終手段だ。お~い、クロちゃん、フュードブレードについて教えてくれ。」
俺はブレス内のクロちゃんの石に問いかけた。
クロちゃんは死んでしまったが、その未知なる知識はクロちゃんの石から教えてもらえるのだ。
そして、クロちゃんの石からの情報はブレスを通じてヴァンとゲンに共有される。
《うむ、フュードブレードか・・・ヴァンくんとゲンくん、ついにそこまでのレベルになったんじゃの。本来、このスキルは上位魔人と魔剣が合身してなるもの。魔人も魔剣もレベルとしてはそれ相応のレベルでないと不可能じゃ。見た所、グリフォンくんとハルさんのレベルも相当なものになっておるの・・・じゃが、残念ながら魔人でないヴァンくんとゲンくんではこのままではフュードブレードはムリじゃ。そこで、カイくんの出番じゃ。》
「お・俺?まぁ、俺で出来ることがあれば何でもするケドさ。」
《うむ、カイくんには赤の一撃と青の二撃を使ってもらう。赤の一撃とはカイくんとゼブルくんが編み出したもの。カイくんのパルスの力とゼブルくんの無限の力がコラボして破壊に特化したものじゃな。》
「あぁ、っていうかクロちゃん、それってネタばれじゃん。まぁ、ヴァンとゲンならいいけどな。赤の一撃はパルスの特殊破壊波長をゼブルの無限の力で増幅して全てのものを破壊するスキルだ。」
「チョ・チョッと待ってくれよ!俺サマたちはカイに破壊されちまうのか?頭がパニックになっちまうぜ。」
「ヴァン、クロちゃんの話を最後まで聴こうよ。」
《まずは赤の一撃でヴァンくんとゲンくん、リンちゃんとキールちゃんを破壊してもらう。本来、生命体は炭素がベースで体が構成されているからの、その炭素を破壊するだけじゃ。》
《チョッとウチとキールも破壊されちまうのかい?大丈夫なのか?》
《リン、ゲンがクロちゃんの話を最後まで聴こうって言ってたよね?》
リンは少し気が動転していたが、キールはゲンの判断を信じているようで落ち着いていた。
《その後、カイくんには青の二撃を放ってもらう。このスキルもカイくんとゼブルくんが編み出したものじゃ。》
「うん、赤の一撃が破壊に特化したのに対して、青の二撃は編成に特化したものなんだ。パルスの特殊再生波長をゼブルの無限の力で増幅させて組織を編成させることが出来る。だから、細胞があれば死者を復活させることが出来るし、新たな生命体を作ることも可能だ。だけど、ファイのようにメタル化したものを生命体に編成することは出来ない。」
「なるほど、解ったよ。赤の一撃でボクとキールを破壊し、青の二撃でボクとキールを編成させるんだね。新たな生命体である魔人として。」
《うむ、流石はゲンくん。理解が早いの。後は簡単じゃ。魔人となったら、魔剣と心を一つにして「フュードブレード」と叫べば魔剣と合身出来るからの。君たちと魔剣はもうすでに心が通ったチームとして機能しているから問題ない。そして、イプシロンとのバトルが終わったら、再びカイくんに赤の一撃と青の二撃で元通りの四人に戻してもらえばよい・・・という訳じゃ。じゃあの、頑張ってなバ~イ。》
クロちゃんの石は、そういうと再び沈黙に入った。っていうか俺のニュースキル、二つがネタばれじゃん。
こうして、俺はヴァンとゲンの魔人化にとりかかるのであった。




