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二人のブレス  作者: ビッキー


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26/40

第二十六話 深愛

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 よろしくお願い致します!

 宇宙へと旅立ち、二つのメタルの欠片をゲットした・・・

 次なる目的地は、プラティナ星にした。

 そこにいるというキャンナ、一体どんな奴なんだろう?まぁ、顔や声はキャンティと一緒らしいから、髪の色が何色かということと、どんなスキルを使うのかしか興味ないんだケドな。

 

 俺たちは超電磁リングを使って、プラティナ星へとやってきた。

「ここが、プラティナ星か。ティタン星と違って、人も沢山いるみたいだな。」

「そうだね!カイト、でもここの人たち何か気の質が違うみたいだよ。」

《うむ、ここの連中のほとんどは妖人だな。あちこちで妖気が漂っている。中には妖気をコントロール出来ている強者もいるようだ。》

 そうか、ティタン星でも少しはいたが妖人が多い星なんだ。でも、妖気って不思議だよな。全く感じさせない奴もいるし、フツウの人間って言われても解らない。

 コタローたちは妖怪の末えいとはいえ、人間となんら変わりなく感じたしな。かと思えば、妖気ダダ漏れの奴もいるし・・・

 やはり、力のある奴は妖気もコントロール出来るのだろう。そういった奴は目力を強く感じる。しばらく様子を伺っていたが、特に問題もなさそうだ。こちらが手を出さなければ、争いごとになるようなことはないだろう。

 さて、ブレスのキャンティの石をチェック!うん、キャンティの石はキャンナを指し示している。

「ティナ、ゼブル行くぞ!」

 俺はティナをブレス内に転移させて光速で移動する。目の前にいたのは黒髪のキャンナ。

 キャンティの一族は今まで派手な髪色の奴ばかりだったから、黒髪もいいもんだな・・・そんなことを俺は考えていたが、俺の考えはティナに筒抜けで、後でこっぴどく叱られることになるなんてこの時は考えもしなかった。

「あたいはキャンナ。キャンティから事情は聴いてるよ。メタルの欠片が欲しいんだろ?だったら、あたいと勝負しな。久々に魔力をもった奴とバトルするの楽しみにしてたんだよ。」

「そっか、この星は妖人ばかりだもんな。まぁ、魔人もいるのかもしれないケド、数は少ないのか?」

「魔人も多少はいるんだがな、あたいと遊んでくれる奴がいないんだよ。」

「解った。じゃあ、早速始めようぜ。バトルステージは奥にあるのか?」

「あぁ、奥にあるよ。でも、あんたとはバトルはしないよ。あたいは男嫌いなんだ。ティナって娘も来ているんだろ?その娘とバトルしてやるよ。」

 マジか?ティナ単独指名なんて初めてだぞ。ブレスから出たら、ティナの力は半分になっちまうケド、こいつに勝てるだろうか?

《カイト!バカにしないでよね!》

 ティナは次の瞬間、ブレス内から出てきて俺のことをめっちゃにらんでいる。そんなににらむほどのことじゃないだろ。そんなことを考えていたが、実際今のティナの実力はどうなんだろう。

 以前はよく組み手をして俺を鍛えてくれていたが、ある一定ラインを俺が乗り越えてからはティナとは組み手をしていない。

 ほとんどファイとの組み手に変わり、俺のレベルも一気に上がっていった。ティナが不在の時には、たまにゼブルと極秘特訓も行っていたしな・・・


 ティナは知らない。

 俺が新たなる力を得ていたことを・・・

 ピンチになったときに披露してビックリさせてやるのだ。

「解ったよ。あたしがあんたの相手をしてやるよ。あたしが勝ったら、あんたのメタルの欠片を貸してもらうからね。」

「あぁ、約束は守るよ。どこからでもかかってきな!」

 俺はキャンナを注視する。この余裕は何なんだ?観た感じ、こいつの戦闘力はそこまで高くないような気がする。

 俺は危険な匂いがするこいつの動向を見守っていた。

「じゃあ、あたしからいかせてもらうよ!」

 ティナはキャンナに向かって、技を繰り出す。

「ヘルスピン!」

 ティナは魔力を高めて回転を始める。

 そして魔力のこもった大気の拳をキャンナに撃ち放った。ティナの奴、魔力的にはデルタと遜色ないんじゃないか?

 今の俺の半分の魔力がこのレベルなら、俺はデルタの二倍位の力があるということか?

 デルタの奴が俺とバトルをした時は、こいつとんでもない奴だと思ったものだが俺も結構成長していたんだな。

 そんなことを考えながら、俺はバトルを静観する。キャンナはヘルスピンをかろうじて交わしたかに観えたが、わずかにかすったのか体に傷が生じていた。

「次はこれ!ヘルクラッシュ!」

 続けてティナは大気に重力をかけつつ、高重力の拳をキャンナに叩きこんだ。これは流石にキャンナには全く避けきれずに、地面に倒れ込む。

「グ・・・これは流石に骨身にこたえるな。」

観た感じ、キャンナは大量の出血で立っているのもやっとのようであった。

「あんたの方から攻撃はしないの?あたしは次の攻撃に全力を込めるよ。」

「さぁ、それはどうかな。」

 キャンナはほくそ笑み、腕組みをしながら立ち塞がっていた。


 何だ?この空気は・・・俺はその異常に気付いたが、時すでに遅かった。

「何なのこれ?あたしの体が動かないよ。あんた一体何をしたの?」

「うふふっ!どう?思うように体が動かない感想は?」

 キャンナはいつの間にか傷が自然回復していて復活していた。

「あたいはやられた振りをして、大気中に特殊な神経ガスを撒き散らしていたんだよ。勿論、あんたが天空の力をもっているのは解っていたからさ、こうでもしないと油断しないだろ?確かにあんたの技は凄かったケドさ、魔力だけに頼っちゃダメだって。魔気を使っての攻撃だったら、ヤバかったかもしれないケドね。」

 何てこった。ティナは膨大な魔力に頼っていた所があったからな・・・

 俺みたいに気の力をメインにした攻撃にしないと、ムダに力を振うだけになっちまう。

 今まで俺とバトルを一緒にしてきたから、ティナも気の力の大切さは解っていたと思っていたが、誤算だったな。

 キャンナはゆっくりと動けなくなったティナに歩み寄ってきた。

「さぁ、どんな攻撃をしてやろうかね。あたいも痛い思いしたからさ、あんたにも可愛そうだケド、痛い思いしてもらうよ。出でよ!ポイズンソード!」

 キャンナのその手には紫色の剣が転送されていた。何やら毒々しい感じの剣で、切られたら毒が体内に回りそうである。

《カイト、あたしもうダメなのかな?体がいうこと効かなくてさ、まぁ死ぬことはないケド悔しいよ。》

《ティナ!諦めるなよ!神経毒なんて神経がマヒしているだけだろ?お前には天空の力がある。俺たちにはロックオンⅡがあるじゃないか。あれの応用をしてみろよ、なっ!》

 俺たちはキャンナに気付かれないように念話で想いを伝えあった。俺はにんまりと笑いながら、ティナにヒントを与えた。

 ティナもそのヒントで気付いたのか動けない体で大気を操りロックオンⅡの応用をしていった。

 ロックオンⅡは大気を操って神経情報を感知するもの。ならば、大気を操りマヒした神経を無理やり動かしてやればよい。

「ゼブル!あたしに力を貸して!」

 俺のブレスからゼブルを呼び出し、それを手にするティナ。俺専用の武器なんだケド、緊急事態だ。そうも言ってはいられない・・・

 ティナはゼブルの適合者ではないが、俺のパートナーとして共に行動していた為にゼブル準適合者となっていた。しかし、あくまで【準】なので体への負荷は否めない。長時間のゼブル使用は逆にダメージを喰らってしまうのだ。そんなことを考えていたら、ゼブルが反応してきた。

《カイ、安心しろ。我はティナの限界以上の力は出さない。体に負荷がかからない、ギリギリのラインで力を出していくからな。》

《ゼブル、頼んだぞ。》

「バ・バカな!あたいの神経ガスをまともに喰らって体が動くわけない。どうなってるんだ。」

「残念だったね。あたしは破壊竜ティナだ!相手が悪かったってこと。ゼブル、あたしも赤の一撃出来ないの?」

《ティナ、あれは特訓してきたカイだけの必殺技だ。だが、お前にはお前の必殺技があるのではないのか?》

《えっ?それってカイトと知り合うずっと昔にあたしが使っていたあの技のこと?何であんたが知ってるの?》

《いや、キャンティが魔眼で観ていたようでな。あの技を試しにやっていたのを我は観たことがあったのだ。ソードマスターとして様々な技に興味があったのであろう。人の技をパクルのは良くないとは思うがな。》

《キャンティの奴、ヒドイよ~。盗み見していたなんて。後で文句言ってやらないとね!》

《イヤ、それは勘弁してくれ。我がお前に告げ口したことになってしまうではないか。》

《だって、ひどいじゃん!文句の一つでも言ってやらないと、気が済まないよ!ゼブルの名前は出さないからさ。》

《う・うむ、解った。我は何も知らんからな。》


「ちくしょう!あたいの神経ガスが効かないなんて、とんだ誤算だよ。これでどうだ!ポイズンブレイク!」

 キャンナは毒が含まれた剣を高速で突いてきた。

「こっちもいくよ!竜爪撃!」

 ティナはゼブルを突きの構えから、全魔力を込めた打突の一撃を撃ち放った。


 突きVS突き・・・ゼブルの剣先はキャンナの剣先と衝突し、次の瞬間ポイズンソードが砕け散った。

 毒々しかった剣ではあったが、これは妖剣。

 その妖力が作り出した毒をまとった剣というだけで、それが竜魔力をまとったゼブルに勝るわけがない。

「や・やった!カイト、ゼブル、あたし勝ったよ!」

 その瞬間、ティナはその場にへたりこんで動けなくなっていた。

 無理やりに神経を動かし、体を動かしてきたのだ。

 その反動はあるだろう。俺はティナをそっと抱え上げ、じっと見つめていた。

「ティナ、よくやったな!」

「カイト、ありがとう。あたし勝ったんだよね。良かった。これでメタルの欠片がゲット出来るね。あたしは毒耐性があったケド、流石に神経をやられたら動けなかったよ。」

 しかし、流石は破壊竜のティナ。竜の回復力はハンパない。ものの数分で神経毒は体内で中和され、完全復活となったのである。

「ところで、カ・イ・ト!」

「ん?どした?ティナ。」

「あんた、さっき黒髪のキャンナがイイなって思ってたでしょ?えっ!どうなの?あたしも黒髪に染めてあげようか?」

 あっちゃ~!ティナはブレス内にいたから、俺の考えはティナに筒抜けだったんだった。

 俺は開き直って、ティナに自分の考えを伝えるのであった。

「ティナ、確かにさっき俺はキャンナを観て、黒髪もイイなって思ったよ。でもさ、それは一瞬そう思っただけで、決してキャンナがいいなってわけじゃないからさ。俺にはお前しかいないって、勿論解ってるだろ?」

「ま・まぁね!あたしもそうじゃないかなぁって思ったんだけどさ、何か気になっちゃって・・・」


「お取り込み中の所悪いんだケド、あたいはまだ負けたってわけじゃないよ。ポイズンソードは破壊されちゃったケド、奥の手があるんだからね。」

「しぶといなぁ、毒が効かないあたしにこれ以上何をしようっていうのさ。悪いコト言わないからさ、もう諦めちゃいなよ。」

「ざれごとはそれ位にしときなよ。フリュージング!」

 キャンナは次の瞬間、人化した状態から流動化した状態に変化を遂げる。

 それは見るからに毒々しい紫色の流動体。

 あまりにグロテスクなので、これが女性の魔人なのかと疑うくらいであった。魔人ってこんなことも出来るのか?まぁ、魔族自体特殊な存在だしな。

 でも、心臓などの内臓系は人として必要なんじゃないのか?

 俺はそんなことを考えていたが、流動化しブヨブヨになっていたキャンナはその場から消えていった。

「えっ?キャンナ?どこにいったの?」

 ティナも動揺し、キャンナの動向に対応出来るように身構える。そうか、流動化しているから地面の下にも移動が可能なんだな。

「ティナ、奴は地面の下にいると思われるぞ。空中に移動しろ!」

「フッ!もう遅いよ!」

 流動化したキャンナはティナに取り付き、全身にまとわりついてきた。

 ティナは魔力を全開にし、それを振り払おうとしたが、流動化したキャンナはビクともしない。

「カイト~このヌメヌメ、取れないよ~。魔力開放してもスルーしちゃうし・・・」

「ティナ、何とかして振り払うんだ!奴は何か仕掛けてくるぞ。」

「残念だったな。もう手遅れだよ!」

 キャンナはそう告げると、ティナを完全に取り込んでしまったのだ。

「カ・カイ・ト・・・」

「ティナ~!!!」

 ティナは言葉が途切れ、俺はティナの名前を叫んだが、それは届かなかったようだ。


 ティナの体は紫色のキャンナに覆われたと思ったら次の瞬間、肌の色が紫色のティナが現れたのだ。

「ティナ、俺の事が解るか?紫色の肌になっちまったが、キャンナに取り込まれちまったってことはないよな?」

「カイト~、残念だがあたいはティナと一緒になったよ。もっとも見た目だけがティナであって、中身はあたいそのものなんだけどね~。」

「嘘だろ?ティナの魂はそこにあるんだろ?雰囲気の個性では俺の目の前にはティナとキャンナがいるし・・・」

「あぁ、ティナの魂はココにあるし死んではいないよ。ただし、心は封印させてもらったからな。二度と元には戻らないよ。ティナは可愛いからさ、これからはあたいがいつも一緒にいてあげるんだ。これで、あたいの目的が達成されたよ。」

 俺は怒りに押しつぶされそうになった。

 こいつの目的はこれだったのか。そして、ティナを守ってやれなかった自分自身を責めた。

「キャンナ!お前ふざけるのも大概にしろよ!人の命を何だと思ってるんだ。ティナは人形じゃないぞ。」

「おいおい、あたいは命を奪ったわけじゃないよ。言いがかりはやめておくれよ。」


 あたしは・・・あたしはどうしちゃったんだろう?細胞がある限り、あたしが死んじゃうってことはないから、多分生きてるとは思うんだけどな・・・

 でも、声は出ないし体も動かせない。夢でも見てるのかな?そうだ、カイトは?目の前は何もない真っ暗な空間・・・

 雰囲気の個性では、確かにカイトは目の前にいるはずなんだけどな。そっか、多分あたしはキャンナに取り込まれちゃって、心は封印されちゃったんだ。

 だから、身動きが取れないし言葉も発することが出来ないのかな・・・

「あたいは寂しかったんだよ。でもさ、ティナっていう可愛い子とこれからはいつも一緒。カイト、気に入らないんだったら、あたいと勝負するかい?もっとも、傷つくのはティナの体だけどね。」

 ん?でも、キャンナの声は聞こえる。聴覚は生きてるんだ。

 五感の内、一つでも生きてるんなら、あたしは復活出来るよ!何てったって、あたしは破壊竜のティナ!こんな所で負けてらんない!

 ロックオンⅡの応用で聴覚以外の視覚、嗅覚、味覚、触覚の神経を呼び覚ますんだ!

 そして、あたしの心を解放させる!だって、あたしの心はカイトといつも一緒だから!

「キャンナ、お前そんなに卑怯者だったのか?キャンティは一族皆、素晴らしい奴等って褒めてたぞ・・・でもな、残念だったな。ティナは復活するよ。あいつの能力はハンパない。それに俺とティナの絆を壊すことは誰にも出来ないんだよ。お前に封印された、ティナの心も復活するって俺は信じてる。」

「フンッ!バカを言うな。それは科学的に不可能だ。諦めが悪いな・・・まぁ、その気持ち解らなくはないがな。」

 キャンナはティナの体でゼブルを振り回して俺を攻撃してきた。

 俺は光速で移動し、その攻撃をかわしていく。

 これをしばらく繰り返していたが、流石に飽きてきたので光速で移動しキャンナの手からゼブルを奪還した。

《おぅ、カイ。すまなかった。今の奴はティナのパワーを使いこなしている。故に我も自由に動けなかったのだ。で、どうするのだ?【青の二撃】を使うか?実践で使うのは初めてだが、今なら有効であろう。》

《あぁ、青の二撃は今ベターな選択かもしれない。でもな、ティナならきっと問題ないよ。まぁ、観とけって・・・》

 【青の二撃】とは、編成に超特化したスキル。簡単に言えば全てのものを新たに作り上げることが出来る剣技、超編成と言った方が正しいのかもしれない。超編成であれば、細胞さえあれば死者の復活や若返りも可能。まさに神レベルのスキルなのだ。

 【赤の一撃】が破壊に超特化した剣技で、青の二撃は編成に超特化した剣技・・・

 これは俺の能力とゼブルの無限竜魔力のコラボによって初めて可能となるスキルなのだ。

 実はもう一つ【ロゼオン】という究極スキルがあるのだが、それはまた機会があれば使うことになるだろう。


 俺とゼブルは沈黙してティナの様子を静観していた。時にしてどれ位経ったであろうか?ティナの体が突如眩い光を放つ。

 次の瞬間、紫色の流動体であるキャンナと元通りの色白のティナに別れたのだ。

「な・バカな!お前の心は封印しておいたはず。科学的にムリなんだよ!一体どうやって元に戻ったのだ?」

「そんなの簡単だよぉ~それは愛の力ってヤツ・・・イヤイヤ恥ずかしいこと言わせないで。あたしのカイトへの想いの強さをなめないでよねっ!」

「クッ!とんだ誤算だ。参ったよ、あたいにはもう勝算が無くなった。メタルの欠片、持っていきな。カイ、ティナ、悪かったな。あたいは孤独でさ、ついこんなことしちまったんだ。許してくれ。それにしても、お前スゴイな。旅が終わったら、たまには遊びに来てくれよ。あたいと友達になってほしいんだ・・・ダメかな?」

「ん?友達?いいよ!ネッ!カイト、イイよね?」

「ティナ、お前がいいなら俺は反対しないよ。雰囲気の個性と光速移動があれば、一瞬でここまで来れるしな。キャンナ、今度はティナの手料理を食べてみな。それだけで幸せを感じるからさっ!」

「ありがとう!散々なことをしちまったからさ、断られるかと思っていたよ。また会えるの楽しみにしているよ。ところで、カイ。お前、人間としては不思議な感じがするな。何となくだが・・・」

「俺が?まぁ、人間としてはかなり珍しいらしいよ騎気使いって。上位魔人じゃないと使えないらしいからさ。でも、俺の友達も人間だけどさ、騎気を使える奴もいるよ。」

「イヤ、騎気がどうって訳ではない。感覚的にお前が特殊な感じがしてな。」

 俺たちはそんな会話をして別れたが、キャンナの謎の問いかけの答えは不明なままであった。

 まぁ、解らないことはそのうちに解るであろうし、キャンナの思い過ごしってことも十分に有り得るしな。

 だが、実はキャンナは超感覚の持ち主。俺の中のあるものに気付いたというのは、後で知ることになる・・・

 

 俺たちはキャンティの工房へ戻ってきた。

 これまで三つの星を回ってきたのだ。

 少しばかりの休息と慰労を兼ねてキャンティの工房でチョッとした宴会を行うことにしたのであった。

 そこには、キャンスリー、キャンバール、キャンナも招待した。

 これにキャンティも並ぶと四人の同じ顔と同じ声が揃ったので何とも不思議な状況であった。

 特に声が全く同じだと対応が、めっちゃ戸惑う。

 その様子をティナは何気なく楽しかったようで常に笑顔であった。

 俺は四人の同じ声に翻弄されながら、ティナの笑顔を観るたびにホッと落ち着く。

 この笑顔をこれからも失うことなく邁進するんだと強く思うのであった。


 一方その頃・・・

 独自に修行を積んでいたヴァン、ゲン、コウさんは合流し、打倒イプシロンを目指す。

「俺サマとゲンはお互いの性格や能力は大体把握している。しかしコウさん、あんたのことはほぼほぼ解らない。カイからはある程度のことは聞いているがな。」

「そうだよね。ボク達三人が各々のことをしっかりと把握していないと、イプシロンに認めてもらえる力を発揮できないよね。」

「わたしは元々精霊なんですよ。ですから、人間の皆さんとは感覚が違う所があるとは思います。しかし、カイくんの心は素晴らしい。何の為にするのかというのがしっかりと軸にあるので行動がブレない。自分以外のものに対しての気づかいもある。そんなカイくんの親友であるお二人です。わたしは何の心配もしていません。ですが、お二人の意見はもっともなことですね。」

 そんなやりとりをしていたが、ヴァンはせっかちなのでこんな提案をしてきた。

「それじゃあ、組み手をしていこうぜ。そうすりゃお互いの技や能力は解るだろう。」

「ヴァン、それはあんたが腕を振るいたいからってだけじゃないの?ウチにはそうとしか思えないんだケドな。」

 リンがヴァンに対してチャチャを入れる。

「リン、そんなことを言ってはダメですよ。わたくし達はこれから心を一つにしてイプシロンに向かっていかないといけないんですから。SNSではイプシロンは覚醒魔人という書き込みがありました。その力は圧倒的で常勝無敗らしいです。顔が三つで腕が六本、能力も同時に三つ繰り出すことができるらしいですよ。」

「そ・そうなんだ。阿修羅の力って何かネーミングが威圧的だから、とんでもない奴なのかな?っていうのは思っていたんだけどね。キール、他にイプシロンの情報はないの?」

「うん。魔人は基本、魔界から出てこない。魔人自体が力を誇示することにはこだわらないみたいですから。まぁ、ルーツみたいな魔人の道を踏み外す奴もいるから、一概には言えないのかもしれないケド。だから、イプシロンは誰かの為に力を発揮する。逆にいえば必要がなければ争い事は好まないみたい。」

「ありがとうございます。皆さんの不安な気持ち、十分に解りました。わたしに全てお任せ下さい。ヴァンくん、ゲンくん、ボクの性格や能力をお互いに共有していきましょう。組み手も良いですが、もっと簡単に出来る方法がありますから。」

 コウさんはそう言うと爽やかな笑顔を見せていた。

「ヴァン、コウさんに任せようよ。カイ達も宇宙で頑張っているんだ。ボクたちも負けていられないからね。」

「あぁ、解ったぜ。コウさん、どうしたらいいんだ?」

「はい、簡単ですよ。わたしの手の平にお二人の手の平をのせてください。空いた片手はヴァンくんとゲンくんで手を合わせて下さい。これで三人のループが出来ます。わたしは精霊ですから、わたしから精霊力を送り出していきます。その力で三人がお互いの性格、能力を把握出来ますから。」

 ヴァンはよく解らないようであったが、ゲンは何となく理解出来たようであった。

 三人が手を合わせて出来たループ。コウさんが光ったと思ったら、次の瞬間コウさんを軸にして精霊力が行き交う。

「こ・これが精霊力・・・何とも清々しい。色々な情報がスッと頭に入ってくる。」

「素晴らしい・・・人間ではこんなことは出来ないからね。」

 ほんのわずかな時間でヴァン、ゲン、コウさんはお互いの情報を包み隠さずに完全に把握することが出来たのだ。

「お二人の情報、確かに確認させて頂きました。」

 コウさんがそう言うと光のループが終わり、三人は現実世界に引き戻された。

「ヴァンくん、ゲンくん二人とも素晴らしい人間力をお持ちですね。それに人間としては難しいとされる、破格な竜姫の能力もほぼ使いこなしている。ヴァンくんはパワータイプ、カイくんはスピードを持ちながら状況に応じて柔軟に対応していくタイプ、ゲンくんは二人を取りまとめたフォロータイプといった所でしょうか?」

 コウさんはこの一瞬で全てのことを分析して理解している。流石の一言に尽きる。

「イヤァ、それほどでもないぜ。俺サマ達でも敵わない敵はゴロゴロいやがるからな。ルーツには全く歯が立たなかったし。」

「それでなんですが、ゲンくんは騎気を使えていますがヴァンくんも使えばよいですよ。騎気の方が四倍の力を発揮できますしね。」

「俺サマも今まで色々と努力してみたんだが、それが出来なかったんだ。どうしても気のコントロールが出来なくて、波気よりも波動力に頼っちまう。だから、魔気と波気をうまいこと両方使いこなせていないと思うんだ。」

「イヤイヤ、大丈夫ですよ。そんなに難しく考えないでも。リンちゃん、ブレス内に転移してもらってもいいですか?」

 外に出ていたリンだが、コウさんの指示でヴァンのブレス内に転移する。

《コウさん、転移したよ。ウチも何か関係があるの?ヴァンの力になれるのならば、ウチは何でもするケドさ。》

「ありがとうございます。さてヴァンくん・・・君は自分の力を高めたい。誰にも負けたくないと思って今まで必死に自己鍛錬してきましたね。とても素晴らしいことです。努力は必ず成果を生み出します。しかし、一人の力で出来ることはたかが知れています。もっと周囲の仲間を頼ってみて下さい。そこで、デルタとリンちゃんの出番です。」

《なんだ?私も何かするのか?ヴァンの為になるのならば、力を貸すが私はあくまで魔動石を通じて私の能力を与えているだけの存在だ。精霊ならばそこの所は当然理解しているとは思うが。》

「当然です。これから面白いものがみられますから、楽しみにしていて下さいね。」

 

 コウさんは爽やかな笑顔でそう答えるのであった。

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