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二人のブレス  作者: ビッキー


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第二十二話 略奪

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「カイト~あたしにも何か解るようになったよ。カイトとファイの雰囲気、観えない所にいてもどこにいるのか解るんだ。きっと、カイトにも出来るよ。」

 ファイにお前らにも、もしかしたら出来るかもしれないから練習してみろって言われた俺とティナ。練習を始めて何日かして、ティナに先を越された俺。

 ファイに出来るってことは、天空の力が無くても出来るのか?要は魔力や波動力の代わりに、【雰囲気の個性】を感じれってことだろ?

ティナは直感的なというか、動物的な感性の持ち主だ。

 ファイもそういった動物的感性を持っていると思う。頭で考えるな!感覚で捉えるんだ。俺はそれから人を観ては、雰囲気の個性を感じるように意識をしていった。

 

 そしてティナから遅れる事数日後、俺にも雰囲気の個性が解るようになってきたのだ。これが出来れば、俺は光速で移動が可能なので目的の相手の所に瞬時に行ける。

 これは瞬間移動よりも速い。瞬間移動って言葉だけ観ると速い感じがするけれど、やはり光速は何よりも速い。

 光速を超える速度は、時空の壁を乗り越えるって聞いたことあったもんな。コツを掴めば意外とカンタンなものだと俺は勝手に思っていた。

 しかし、ファイが言うにはこの雰囲気の個性は本来、魔王以上のレベルでないと不可能だとか。じゃあ、俺とティナが出来るようになったのは何故なのか?

 俺もティナも魔王ではないし、全くそれ以下のレベルである。ファイの推測だが、俺もティナも【覚醒魔王】の資質があるからなのかもしれないということだ。正式には【俺】に覚醒魔王の資質があるかもしれないということらしい。

 なんてとんでもないことを言いだすんだ!有り得ない!と俺はファイに言い返したが、ファイの推測はこうだった。

 

 俺たちは特殊な存在らしい・・・

 まずは天空の力、ティナの力とはいえ大気を自由に操れることは魔王でも困難だという。

 それに加えて光と音の力。激レアなこの二つの力を得た人間は皆無らしい。

 特に光の力、マイちゃんの心を開く人間は、もう今後誕生しないと言われていたようだ。剣の力が合わさった四個の魔動石は無限の力を生み出した。

 ティナやゼロ、レイちゃん、クロちゃんの協力があってこその成果だが、主体的に考え行動していったのは俺。

 俺自身、無限の力はまだ未開の力で、何も試技は出来ていない、正に未知の力なのだ。ここまで人間が力を増していくこと自体が異常事態であり、驚異的であると。

 しかし一方、ファイは俺と深く関わっていく中で俺の純粋さと人に対しての接し方、考え方に違った意味で驚きの日々だったという。

 フツウならば、力ある者は利己的な考えを持ち行動していくが、俺が力を持っていても利他的な行動をいていくことが不思議でならないらしい。

 自分より他人を大事に思い行動していく俺を観ていて、ファイはどんどん俺に惹かれていったと。


 魔王はバトルや人間には興味を抱かない。それはバトルこそ、力を誇示したい下等な奴らの愚かなる行動という認識からくるものである。

 人間も利己的な存在ばかりで、権力や地位、名誉ばかりに目がくらむ下衆な連中であるという認識だった。

 

 だが、目の前の人間カイはどうだ・・・

 利他的な行動と人間離れした力を次々と獲得していく存在、それに心惹かれる者たち・・・

 キャンティ、マイ、デルタ、パルス、それに謎の老人クロス、そしてオレファイ・・・

 覚醒魔王としての資質は十二分にある。何故なら、魔王である自分が認めているのだから。あとは二つの力が、カイに備われば・・・

 驚いたことにこの雰囲気の個性を感じれば、魔界にいるキャンティやブラールの所にも瞬時に行けるのだ。恐らく俺が光速で移動するので、異世界である魔界への次元の壁を突き抜けているのだろう。

 これならば異次元や亜空間にも、もしかしたら行けるかもしれないな。但し、知っている奴がいないとムリなんだケド・・・


 ゲンの空間転移で俺たちは、秘密基地グリモアに全員が合流した。

 ファイの発案から俺たちは魔人ルーツと急遽、激突することになる。

「いきなりの招集、すまなかったな。オレはバトルが正直好きではないし、出来ればしないに越したことは無いと思っている。しかし、今回は事態が異なる。魔人ルーツの奴の暴動であるとオレは思う。今もルーツの奴は魔獣から力を奪っているようだしな。お前らも無意味なバトルはしたくはないだろう。オレが出ていき、一瞬でルーツを消滅させることは可能だが魔王が下界にいることが知れ渡ってはマズいのだ・・・今はオレの管理する魔界は、部下の覚醒魔人ガンマに任せていて、オレの管理責任が問われるのでな。オレが下界にいることがバレてしまったら、オレは魔界に戻らなければならない。それだけは避けたいと思っている。身勝手だが、お前たちの力で何とかルーツの奴を止めてほしい。頼む・・・」

 普段はあまり言葉を発しないファイであったが、余程の想いだったのであろう。長々と自分の気持ちを全員に伝えていった。

「ファイ、魔人の行いが魔王の責任ではないと俺は思う。そういった、ねじ曲がった考えを生み出した魔界そのものの問題だ。それは人間界でも有り得るのかもしれない。だが、俺たちはそんな個人的な欲望で多くの命を失うことの方が悲しいよ。ヴァン、ゲン、俺たちの今ある力で何とかルーツの奴を止めようじゃないか。」

「あぁ、そんなくだらん奴はいずれ身を亡ぼすだろうが、今も魔獣がその命を失っているのならば早いにこしたことはないからな。」

「ボクたちは、まだ力不足。だが、そんなことは言ってはいられないよね。今ある戦力で如何にして勝利を得られるか、全員で考え協力していこうよ。」

 ティナたち三竜姫も言葉は発していなかったが、同じ想いというのはその真剣な眼差しから受け取れる。

「ティナ、リン、キール、お前たちはブレス内に転移していてくれ。いきなりバトルになるかもしれないからな。ファイ、三人の転移が完了したら、ルーツの居所までゲンに指示してやってくれ。頼むな。空間転移したら、お前は少し離れた所で待機していて見守っていてくれよ。ゲン、そういうわけでルーツの居所をファイから聴いたら、少し離れた場所に空間転移してくれ。」

「カイ、お前いつの間にかリーダーシップ取れるようになってきたな。俺サマの出る幕はないな。でも、俺サマはお前のそういった成長が嬉しいぜ。」

「カイ、了解だよ。ファイ、ルーツの場所を教えてほしい。少し離れた場所に移動するからさ。ファイは気配を消しておいてよね。」

 作戦通り三竜姫はブレス内に転移し、ファイはルーツの居所をゲンに伝えるとピタリとその存在感を消すのだった。

 全く、魔気を感じさせないファイ。それでも俺にはファイから、雰囲気の個性を感じることが出来る・・・

 これで、バトルになってもファイの居所が解るので安心だ。

「さて、行くよ。心の準備はOKだね?」

 ゲンの言葉にうなずく俺、ヴァン、ファイ。

 次の瞬間、ゲンの空間転移により森林地帯へと場所を移す。


「じゃあな、ファイ。チョッとそこで観ていてくれよ。相手の強さが未知数だが、俺たちも慎重に相手をするからな。」

「あぁ、奴がどれくらいの魔力を上積みさせたのか解らんからな。十分に気をつけてくれよな。」

 俺、ヴァン、ゲンはルーツがいるという場所まで気配を消して近付くのであった。空間転移で間近に現れて不意をつくのも考えたが、相手がどんな奴なのか不明というのが問題であった。

 相手に接近したら、少し様子を観ようと俺たちは打ち合わせを行い、感じたことや緊急事態は念波を使っていくと決めた。


「フッ、お前の魔力はこんなものか。こんなんじゃ足しにならんな。」

 ルーツは腹の中心に巨大な口を開き、魔獣を喰らっていた。それは丸のみであったので、エグい感じは無かったがやはり一つの命が消えたことに変わりはない。

《あいつなのか?腹の口が何かヤバい気がするね。魔力的にはどうなんだろ?》

《魔力的には抑えている感じがして、どれくらいの力があるのか解らないな・・・それよりも何かあいつ、フツウの魔人と何か違うんじゃないか?》

《キャンティやブラールと比べても、そう対して変わらないような気がするケドな。》

 俺たちは念波で、思ったことの情報交換をする。しかし、俺には感じられた。何とも得体の知れない何かを持っている奴だと・・・


《よし、じゃあそろそろいくか!考えていても仕方ないしな。》

 俺たちは意を決して、ルーツの前に現れた。

「なんだ、お前たちは?観た所、魔人じゃないだろうから、人間か?人間には用がないからな、さっさとどこかへ行ってくれ。」

 俺たちを虫けらの如く、追い払おうとするルーツ。しかし、血の気が多いヴァンが気のこもった拳をルーツに叩きこむ。気は波気であったがヴァンの奴、波気が使えるようになったのか?

 今までは波動力しか使えていなかったヴァンが、波気を使って攻撃をしたのだ。ムダにエネルギーを消耗しなくなったし、気の充実度も以前とは段違いだ。しかし、ルーツには全くダメージを与えられない。

「ん?なんだ?お前、このルーツ様にケンカを売る気か?止めとけよ、人間風情が魔人の僕に歯が立つ訳ないだろうが。」

「魔獣を襲うのはやめろよ!勝負はやってみなけりゃ解らないさ!これならどうだ・・・昇・龍・波!」

 ゲンがブラックホールのプラズマパワーである高エネルギーのガス噴出を撃ち放つ。

「ほう、これは大したもんだ。これは騎気か・・・騎気使いが人間にいるとはな。上位魔人でなければ有り得ない話だが、素晴らしいぞ。」

 ルーツはそう言うと、自らの腹の口をあんぐりと開き、昇龍波を喰らっていく。気のせいか、少しずつルーツの肌の張りが良くなってきているように感じた俺。

 俺はハッと思い、ゲンにストップをかける。

「ゲン、やめろ!昇龍波はダメだ。奴をパワーアップさせるだけだぞ。」

 それを聴いて、すぐに昇龍波をストップするゲン。

「カイ、どうしたんだい?ボクはプラントの力も手に入れているし、パワーの使い過ぎで力尽きることは無いんだよ。奴が昇龍波を喰らうっていうのならば、どこまで喰らうことが出来るか試してみようよ。」

「ゲン、ダメなんだよ。お前の昇龍波は確かに高エネルギーだし、その限界値は無くなっただろう。とんでもない、必殺技に観える。でもな、奴はお前の昇龍波を喰らってパワーアップしていたように俺には観えた。騎気は波気と魔気のスパイラルだからな。恐らく、魔気を喰らう奴には騎気は魔気の一種でしかない。だから、お前の気を喰らってパワーアップしてしまうんだよ・・・それにこれだけ多くの魔獣が喰われているんだ。奴にはもしかしたら。魔力吸収の限界がないのかもしれないって思わないか?」

 それを聴いたルーツは、拍手を俺に送ってきた。

「フッ!よくぞ感じ取ったな。人間の観察眼としては素晴らしいレベルだ。そう、僕は魔力や魔気を喰らう者。それを自分の力に変換し使うことが出来るのだ。それも無限にね。必要以上の魔気はある特定の場所に転送させることが出来るからキャパオーバーは皆無だよ。だから、君の技は僕には通じないよ。残念だったね、ステキな技だったケドさ。」

 

 やはり、そうか・・・俺とゲンの騎気は奴には通用しない。じゃあ、どうする?

《ヴァン、ゲン、聴いてくれ。奴には魔力や騎力、それに伴う魔気や騎気は通用しない。喰われてしまって、逆にパワーアップさせちまう。対策としては、二つ考えた。》

 俺が念波で話していたが、ルーツは準備運動と言わんばかりに一人で手足を伸ばしたり、パンチのジャブを周囲に放っていた。そのジャブだが、気弾のようなものを伴っており、周囲に爆音が響き渡る。

《おっと!こいつは軽くジャブした感じなのにこの破壊力。意外とやるかもな。》

《ヴァンの言う通りだ。気をつけろよ。話は戻るが、二つの対策がある。一つは騎気系の攻撃を奴の腹以外の場所にぶち当てる。これでは騎気の吸収は出来ないハズだ。だが、これはリスクがあって奴の動きがこちらの想定以上であれば、喰われてしまうだろう。もう一つは俺とゲンの騎気をランクダウンさせて波気系の攻撃を行う。これならば、問題はないと思えるが正直攻撃力はMAXの二十五パーセントになっちまう。》

 ヴァンとゲンは小さく頷いた。

《対策としてはこの二つが今思いついた限りだが、ティナ、リン、キール、ゼロ、レイちゃん、グリフォン、ハルさん、皆も思いついたことがあったら、念波で伝えてくれよな。思い付きでもいいから、頼むよ。》

 皆からの発信はなかったが、気の流れがその時に変わったのを感じ、俺はそれをYESと捉えた。

 全部で十人いるのだ。各々が返事をするだけで、念波はうっとうしくなってしまうということを全員が理解している結果である。まずはヴァンが先制攻撃をぶちかます。

「ヒートナックル!」

 ヴァンの拳は炎に包まれ、ルーツに向かって放たれる。今までは波動力だけを込めて撃ち放っていたが、これにも波気を込めた攻撃となっていた。

 明らかに炎のレベルも上がり、ムダな力を使わないで済んでいる。徐々にヒートナックルはスピードを増し、青白い超高温の拳は当たればダメージになるだろうと思われた。

 更にヴァンの勢いは止まらない。ヒートナックルにひねりを加えて、そこに磁気のパワーも上乗せしてきたのだ。それをまともに喰らったルーツ。

 当たった箇所は黒焦げになったが、己の魔力で超回復をして見せる。

「お~ナカナカ良い攻撃だったよ。人間が行ったものとは到底思えないな。でもね、これくらいの攻撃じゃあ僕は倒せないよ。パンチってのはこうやってやればいいのかな?」

 今度はルーツがヴァンに向かってパンチを連打する。それはヴァンのヒートナックルに似た感じで、青白い拳にひねりが加わったものであった。

 流石に磁気は帯びていなかったが、恐らく超スピードによる空気摩擦で拳が高熱をもったのだろう。ヴァンは両腕を顔の前に盾として、そのパンチの連打を受け止めた。

「アッチいな!俺サマに炎の力があったから良かったようなものの、それでも激アツパンチだったぜ。フツウの奴ならば、超高熱で体皮が溶けているか細胞が死んでいるだろうな。まぁ、カイやゲンも身体硬化の体皮だし、特殊能力で無効化出来るから心配はしていないが。」

「ほう、お前ら面白いな。僕を楽しませてくれるじゃないか。実はさ、魔王の奴らを片っ端らからぶちのめしてやりたいんだケド、丁度いい練習相手がいなくて困っていたんだよ。僕もどんだけパワーアップ出来たのか知りたかったしね。」

 

 やはり、こいつの狙いはファイたち魔王五人。魔王がそうカンタンにやられるとは到底思えないが、魔獣たちの被害を食い止めるためにもココで俺たちが踏ん張らないとだな。

「次はこいつでいくぜ!モードフェニックス!」

 ヴァンの体は炎鳥となり、青白く燃え盛る。

「そんな攻撃は、さっきの感じで効かないって解りそうなものだケドな。ムダなことはしない方がいいよ。消耗するだけだからさ。」

「さぁ、それはどうかな?もう一丁いくぜ!太陽風フェニックス!」

 ヴァンはデルタの力を使い、太陽風鳥を発動させた。それは太陽のパワーを巨大台風に凝縮させたのだ。

 そのパワーはケタ外れで、しかも高磁気の嵐がバチバチと行き交う太陽風鳥。

ルーツに対して炎鳥と太陽風鳥が攻撃態勢を整える。

 それに対してルーツは魔気をバチバチと発散させて、体全体が漆黒に染めていった。次の瞬間、ルーツの体は弾け飛び、細身のシャープな魔人が現れたのだ。

「こいつ、体が変形しやがったぜ!」

「ヴァン、ヤバいよ!さっきまでとは全く潜在パワーが違う。かなりのパワーアップをした感じだ。俺も手を貸そうか?」

「イヤ、俺とデルタが編み出した二鳥のクロス技。こいつでダメージを与えられなかったら、その時は頼むぜ。」

 

 天高く二鳥が舞い上がり、高速でルーツに襲い掛かる。

「喰らいな!バードクラッシュ!」

 ルーツの両サイドから炎鳥と太陽風鳥がクロスする。一方のルーツは両腕を水平に伸ばし、魔気を練り上げる。激しい爆音、磁気嵐、風炎が混ざり合い、辺りに大衝撃が響き渡った。

「どうなった?」

「クッ!この周辺は木っ端みじんだよ。」

 ゲンと俺はヴァンの勝利を願いながら、戦いの行方を見届ける。そこに立ちはだかっていたのは、変形したルーツ。

 ヴァンが作り出した二鳥を右手では炎鳥、左手では太陽風鳥を受け止めたのだ。細身のその体には、キズ一つないとてもキレイな状態がキープされている。

「嘘だろ?俺サマの必殺技が・・・」

《ヴァン、しっかりしてや!まだ負けたって決まってないよ。ウチはヴァンなら、まだまだやれるって思うよ。》

《そうだぞ、ヴァン。私との特訓で編み出した技だが、仕方がない。次の技にかけよう。》

 うなだれるヴァンに対して、リンとデルタが激励の言葉をかける。

 ヴァンには今の所、炎と風、ブラックホールの力しかないからな。ヒートトルネードや他の技も同様に効かないだろう。

 ゲンの能力もプラントの力は使えるが、それは波気が切れそうな時に使えるだけだ。攻撃系としては昇龍波が効かない以上難しい。

 

 俺の出番か・・・

 しかし、変形した途端に一気に強化されたよなこいつのパワー。恐らく、攻撃力においても相当なものになったに違いない。

 俺の想定を遥かに超えたものだとしてかからないとヤバいな・・・


「今の攻撃はこっちもヤバかったよ。思わず変形してしまったしな。僕に奥の手を出させるなんて、お前よくやったよ。でも、残念だったな。僕には炎系や磁気系の攻撃は効かないよ。」

 ルーツはヴァンの攻撃を褒めたが、うなだれたヴァンの耳には届いていなかった。

「さてと、俺の出番だな。よろしく頼むよ。俺はヴァンよりもへなちょこだし、ゲンよりも器用ではない。だとしても!俺の精一杯を出してやる。それでも、お前には勝てないかもしれない。まぁ、その時はお前の強さだけは認めるよ。だけどな・・・」

 俺は怒りが収まらずに波気が暴走する。

「お前のやり方だけは絶対に許せない!魔獣は魔族のお前の仲間じゃないのか?自らの欲望のためだけに仲間の命を奪い取るなよ!そんなメッキだらけの強さじゃ、魔王に相手にされないぜ!」

「黙れ!お前に僕が惨めに過ごした日々の辛さが解るものか!この世は弱肉強食、強さこそ全てだ!弱い者は淘汰されちまうんだよ!だから、僕は強さを求めた。そして、この能力に目覚め強さを得た。それのどこが悪い?悔しかったら、僕よりも強い所を見せてくれよ。それでお前の正義を見せてくれ。」

 

 俺の正義?なんだそれ?俺が言っているのは、当たり前のことじゃないのか?

「お前の言っていることがよく解らない。が、強き者が正義ではない!弱き者を守っていくことが正義だと俺は思う。だから、魔王はそうしているんじゃないのか?お前は自分を誤魔化しているだけに過ぎないよ。ホントは解っているんじゃないのか?自分のやり方が間違っていたことに。」

「ええい、黙れ!どちらの正義が正しいか、このバトルで証明すれば良い!お前の攻撃、やってみろよ。全部、受け止めてやるからさ。僕は無敵になったんだ。負ける訳がない!」

 

 俺は戸惑った。折角、結合魔動石で【無限】の力を得たのに技すら考えていないからだ・・・

 時間がないのは言い訳にはならない。俺が時間を作れていなかっただけだ。

 いつも、非常事態を想定して考え行動していかなければならないのだ。


 さて、どうするか?

 こいつのこの余裕感はもしかしたら、プラズマ系の攻撃は全て無効化されてしまうのではないか?数多くの魔獣を喰ったり、魔石から大量の魔力を奪っているのだ。どんな耐性が突然発生しても不思議ではない。

 何故ならば、魔獣からは能力を奪えないにしても、魔獣をエサにして免疫的なものが突然発生する可能性は有り得るからだ。

 色々考えていても始まらないが、ゼロトルネードは封印しておこう。何故かイヤな予感しかしない。

 俺の直感は、比較的当たるのだ。その理由がどうとかは、具体的に説明できないがティナの動物的感性が移ったのかもな・・・

「光弾!雷弾!」

 俺はとりあえず、光弾と雷弾で様子を観た。光の刃をまとった弾丸と雷の二千五百ボルトの破壊力をまとった弾丸、これが効くか効かないかでこの後の攻撃を決めていこう。

 くっそ~本来の騎気だったら、雷は一億ボルトの破壊力だったんだケドな。

 今は波気にレベルダウンしているから仕方がない。相手に合わせて攻撃を変化させる戦術は必要なのだ。

 俺は各十発ずつ、光弾と雷弾を撃ち放った。光の速さでルーツにそれは向かっていき、直撃したのだった。

 激しい爆音が辺りをこだまする・・・そして視界が開けたが、俺の予測通りルーツにはかすり傷一つついていなかった。

「今のスピードはすごかったよ。光系の攻撃は避けようがないな。でも、この周囲がほこりっぽくなっただけ。無意味だったね。」

 予測通りだったのだ、次の攻撃にいこう!俺は超音波をルーツに対して撃ち放った。

 これは視覚化も出来ないし、精神をやられる攻撃だ。

 俺はゼロとレイちゃんのお蔭で対応できたが、こいつはどうなんだろう。

「カッ!」

 ルーツは超音波の攻撃に対して、口から気合を発し超音波をかき消したのだ。

「今のは超音波かなにかだろう?なにか違和感を感じたからな。気合で消し飛んでもらったよ。そろそろ、こちらからも攻撃させてもらうよ。」

 あちゃ~これは想定外だったな。

 こうも敏感な奴なのか。それに気合だけで、超音波をかき消すなんてまいったな・・・

 俺は次の攻撃を考えつつ、ルーツの攻撃に対して備えるのであった。


「メンタルエンド!」

 俺の目の前が突然真っ暗になった・・・

 暗い闇の中、ここはどこなのか?

 俺は一体誰なのか?

 誰も俺を相手にしてくれない・・・

 俺が話しかけても、無視され続けてしまう孤独感・・・

 足が重たいし、手の感覚が無い・・・

 俺は生きているのか?

 何をすべきなのか?

 俺はここにいてもいいのか?

 

 もうどうでもいいや・・・

 このまま、永遠に眠っていよう。そうだ、その方が楽だしな。


 俺は完全に動きが止まっていた。

《ねぇ、カイト!!カイト!!返事してよ。どうしちゃったの?あたしだよ!ティナだよ。いつもみたいにあたしのこと、からかってよ。愛してるよ!カイト!返事してよ!愛してるって言ってよ!お願いだよ、カイト~!》

「残念だったな。こいつは精神が崩壊している。だから、ただ単にここにいるだけの存在だ。どうだ?もう終わりにしよう。正義は僕の方にあったのだ。僕はこれからも魔力をもっと上げていくよ。じゃあな。」

 次の瞬間、ヴァンとゲンはルーツに襲い掛かっていた。グリフォンとハルさんを手にして・・・

 ルーツに切りかかるヴァンとゲン。親友がこんな状態にされたのだ。

 怒りで我を忘れていた二人は、無意識に自らの魔剣で立ち向かっていたのだ。

「ほう、これは魔剣だね。膨大な魔力を感じるよ。ありがとう!」

 ルーツはそう言うと、グリフォンとハルさんを自らの腹の口を全開にして喰うのだった。ヴァンとゲンが正気に返ったのは、自らの手中に愛する魔剣が無くなっていた時点。

「な、なんてことだ。グリフォン!」

「ハルさん、無事かい?すまない。ヴァン、何とかならないのか?」

 グリフォンとハルさんを喰ったルーツ。その魔剣の膨大な魔力全てがルーツに吸収されていく。

 自らの大幅なパワーアップを感じるルーツ。

「素晴らしい、素晴らしいよ!たった二本の魔剣を喰っただけで、ここまで驚異的なパワーアップが可能なものなのか?僕の目的達成に大きく貢献してくれたまえ。」

 その圧倒的な力の前に膝をついて倒れ込むヴァンとゲン・・・

 親友のカイを失い、愛する魔剣までも失った二人には生気がないに等しい状態であった。


 圧倒的な敗北の俺たち・・・

 そこへ我慢の限界を超えたファイが登場するのであった。

「カイ、すぐに助けてやるからな。おい、ヴァン、ゲン、しっかりしろ!」

「なんだ?お前。僕は今最高に気持ちがいいんだ。邪魔だから、どこかに行ってくれないか。」

「オレはお前が倒したがっていた魔王の一人ファイだ。どうだ、オレと勝負したいんだろ?オレはいつでもいいぜ。よくも・・・」

「ひゃっほ~い!魔王だって?こんな下界によくもまぁ現れてくれたもんだ。イヤ~五人まとめてこられたら、どうしようかって思ってたんだよね。今日はホントに最高の一日だよ。魔王の顔ってあまりよく観たこと無かったからさ、近くで見せておくれよ。」

 ルーツはファイの目前に立ち、まじまじとファイの顔を観ていく。

「これが、魔王様か~。やっぱり風格があるし、何といってもイケメンだからもてるんだろうな~。僕とは大違いだ、お会い出来て感激ですよ。」

 ファイの両肩を自らの両手でつかむルーツ。

 次の瞬間、ルーツの腹の口から一本の剣が飛び出しファイの腹部を突き抜けるのだった。

「グ・グフッ!貴様、なにを・・・オレには剣は効かないハズなのに、何故?」

「イヤ~残念でしたね~。これは魔剣メドゥーサ。如何なる生命体をも貫き、それをメタル化してしまうんですよ。短いお付き合いでした。さようなら~。」


 ファイは一気に体全体がメタル化され、体が硬直化した。

 そして、ルーツはファイの魔力をメドゥーサから通じて一気に全て吸収し超魔人へと進化を遂げる。

 それは、絶望という名の幕開けを意味する・・・

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