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第二話 秘密

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 よろしくお願い致します!

突然訪れたファーストキス。

 ファーストキスってもっとロマンチックなものなんだろうなぁと思い込んでいたのだが、そんな余裕はなくパニック状態でそれどころではなかった。


 どれだけの時間が経ったのだろう・・・

 気が付いたら何やら柔らかい枕の上に頭を置いていて、目の前には薄いブルーの髪の少女の顔が近くにあって、再びあたふたしてしまったのだ。

 枕と思っていたのは彼女の膝枕。これも人生初体験であった。慌てて状況を整理しようとした俺だが心臓がバクバクいっているのを自覚していて、しばらくはフリーズしていた。

「ねぇ、ビックリした?」

 彼女は微笑んで質問する。

「そりゃ、いきなりあんな事になったらビックリするよ!」

「あなたが十六歳になるのをずっと待っていたの。」

「えっ?」

 なんのこっちゃ?もしかしてストーカーか?と思ってしまった俺。

「今から話す事は全てホントの事で、あたしはあなたに理解してもらいたいの。それを全て受け止めた上であなたの気持ちを教えてほしいの。」

 俺はそれを聴いて、黙って小さく頷いた。


 彼女の話はこうだ。

 名前はティナ、見た目は十六歳くらい・・・だが実年齢はウン千歳らしい。つまり、十六歳になった時点で成長は止まり不老不死となる。

 今は人化で人間の状態になっているが、実際は魔獣のドラゴン。あぁ、だから不老不死っていうのも何か解る気がする。

 って、俺はドラゴンとキスしたのかよっ!と理解不能になりそうになるのを何とか踏みとどまった。

 人化した彼女はドラゴンだっていう事実を全く感じさせないほど、どこにでもいそうな自然体の女の子なのだ。

 しかも、トップモデルや芸能人顔負けのプロポーションとルックス。俺は彼女の傍にいてしばらくの時間は経っているハズなのに、その可愛さに未だに慣れないでいる。恐らく俺の血圧や脈拍は正常値でないのは間違いない。

 なんでも彼女と同じタイプのドラゴンはこの世に他に二体いて、彼女は破壊竜。

 他には時元竜と万力竜がいて全て女性。人化した三人は三竜姫って呼ばれてるんだって。

 同じタイプというのは、人化が可能、不老不死、特殊能力持ちということらしい。彼女たちは次なる生を産み出す為に自分に最適な相手を竜眼で見つけることが出来る。

 まぁ、どんな生物でも種族繁栄は考えるよな・・・とか思いつつ、でも破壊、時元、万力って何かとんでもないな。フツウのドラゴンってファイヤードラゴンとかじゃないのか?

 まぁ、ファイヤードラゴンもいるんだろうけれども彼女の説明からすると明らかに格下で同タイプではないのだろう。とか思いつつ話の続きを聴く。


 最適の相手というのは性格・考え方・支えあうことが可能などという人間として当たり前なことは勿論・・・

 重要なのはドラゴンと人間との間でのDNAの愛性で、次なる生を産み出すことが可能かどうかということもこのDNAの愛性が最適でないとムリらしい。フツウの人間とでは次なる生、つまりは自分の子孫を残すということが出来ないということだ。

 

 また、DNAの愛性が最適でないと相手の人間は彼女を受け止めきれずに消滅してしまうという。消滅って簡単に言うケド、人が一人消えてしまうことが恐ろしい。

 まぁ、俺もまだ十六歳になったばかりだから、すぐに結婚だとか子供を作るなんて気はさらさらないから、解らなくて当然である。

 彼女はウン千年もの間、人を観続けてきてやっと自分に最適な相手を発見できたというのだ。

 それが俺?マジで大丈夫なのか?っていうか、こんなへなちょこな俺がそんな大それた相手で間違いないの?あっ!ゴメン!間違いだった。

ってオチで俺が消滅・・・なんてことはシャレにならない。

 折角武闘家としての心得を持ち、ブレスもゲットして輝ける未来にワクワクしてるのにそんなオチはマジで勘弁してほしい。この世に生を受けたからには生きた証というか誰かしらの記憶に残ることをしたい。

 俺は武闘家となったのだから、すぐにではないにしても武闘大会で優勝してその名を刻みたいと思っているのだ。


 落ち着いて彼女の話を最後まで聴いて判断しよう。

 ん?チョッと待てよ・・・

 さっき、俺たち三人の前に現れたリンとキール・・・もしかしてティナと同タイプの人化したドラゴンなのか?っていうか彼女たちはティナのことを知っていたし、ティナが待っているのが俺だと断言していたことからもまず間違いないだろう。

 あぁいかんいかん、彼女の話を最後まで集中して聴くんだった。


 DNAの愛性が最適でも最後の関門として折角の相手が自分と同格の強さでないと子供は誕生しないというのだ。

でも、俺じゃ絶対にムリじゃないか?と思ったのだが、俺の同意があれば俺の努力次第で将来ドラゴンと同格の強さを得る可能性はあるというのだ。

 ここで武闘家になった際にゲットしたブレスの出番である。

 通常ブレスとは魔獣の生死を問わず魔獣がその者を認めた場合、魔獣の能力をコピーした魔石を装着することが出来るアイテムである。

 例えば地を颯爽と駆け抜ける獅子の魔獣とバトルをし、獅子がその者を認めたら、その能力を宿した魔石を得る事が出来るのだ。

 ここで注意しなければならないのが、ブレス装着者はその能力を使えるだけの身体能力が伴っていないと体が壊れてしまうということである。

 そりゃそうだ、体が暴走して筋力が伴っていなければ体に負荷がかかりすぎて体を壊すのは至極当然である。能力の発動はブレス装着者の意思でいつでも可能なので、能力のゲットはしておいても問題はないらしい。

 ちなみに魔石は五つまで装着が可能である。五つ魔石をフルにゲットして更に一つの魔石をゲットした場合、六つの魔石から五つの魔石をセレクトし直しが出来るので能力の組み換えは可能なのだ。

 その場合、捨てなければならない能力が出てくるんだけどね。

 じゃあ今回、ティナとバトルし俺を認めてもらい、その能力をゲット!・・・なんて出来る訳がないじゃん!!

 不老不死の破壊竜と運動音痴の俺じゃあ、どううまく事が運んでも、俺の武闘家としての能力を認めてもらうなんてことは、絶対に有り得ない。

って思っていたら、ティナは突然こう言った。


「ねぇ、あたしの事好き?」

「えっ?だ・だって今知り合ったばかりだし、急にそんな事言われても・・・」

とりあえず即答はムリなのでごまかした俺。

 ルックスや声なんかは文句なしに可愛いんだけど、ホントはドラゴンなんだよな・・・ってことがふと頭をよぎる。

「あたしはあなたが生まれてから十六年間ずっと好きで見守り、支えてきたよ。」

 やっぱりストーカーか?と思ったけど、ふと昔の出来事が頭をよぎる・・・

 俺が三歳の時・・・転んで泣いていたら、そっと手を差し伸べ抱き起してくれたお姉さん。


 七歳の時・・・夏祭りにお金を落としてリンゴ飴を買えずにいたらそっとリンゴ飴をくれた売り子のお姉さん。


 十三歳の時・・・海で溺れた所、人工呼吸で助けてくれた海の監視員のお姉さん。

 あ!この時がファーストキスだったんだ。


 その他にも俺がピンチの時には決まってお助けお姉さんが登場してくれていたのを思い出す。

 そのお助けお姉さんの顔を思い出すと・・・どれもティナだ!

 間違いない・・・

 次の瞬間、俺の体を何かが駆け巡り、心の温度そのものが上がっていく・・・イヤきっと遺伝子自体が彼女の遺伝子を愛おしく思えてきたと直感したのだ。


「もう一回聴くよ。あたしのこと好き?」

「うん、好きだよ。」

 驚くことにドモることなく自然に言えた人生初の好きの言葉。

「愛してるって言って!」とチョッと強めに言う彼女。

「愛してる。世界で一番。」

 こんな照れるセリフも想いを込めて初めて言えたのだ。

 それを聴いてホッとしたのか、優しい笑顔で更に言う彼女。

「名前つけて言って。」

「ティナ、愛してるよ」

「愛してるよ、カ~イト」

 おいおい俺の名前、カイトじゃなくてカイなんだけど・・・

 って思った瞬間、俺のブレスが薄いブルーに変色し魔石が一つセットされていた。


「で、話って何なんだ?手短に頼むぜ。」

「ヴァン、大事な話って言っていたから、そんなあっさりと終わる話じゃないと思うよ。きっとね。」

 ゲンはヴァンに伝えるとヴァンは苦虫を噛み潰したような微妙な表情で沈黙する。

 何で微妙な表情なのか・・・それは彼女たちのルックスや雰囲気が只者ではないとヴァンが悟ったからだとゲンは予測していた。

「ウチらは回りくどい話はしないから安心してな。でもビックリする話かもしれんから、落ち着いて聴いてほしい。」

 リンがそう言うと隣のキールも黙って頷く。ゲンとヴァンも黙って頷き、ヴァンに至っては珍しく緊張した面持ちで待っているので、それを観ていたゲンは思わず吹き出してしまった。

「ップ!チョ・チョッと待った。ゴメン、ヴァンが普段見せない表情だったから、こらえきれなかったよ。」

「ゲン、お前失礼だぞ。俺サマはいつも大事な話は真面目に聴いてるし、彼女たちに対しても失礼だぜ。大事な話って言っていたじゃねぇか!」

 ヴァンは少し顔を赤らめてゲンを責める。その表情と発言を聴いたゲンは、再び吹き出しそうになるのをグッとこらえて黙って頷いた。

「えっと、まずはウチからいかせてもらうな。ウチとこっちのキールは人化したドラゴン。あと会場外にいるティナっていう子も同類のドラゴンや。今頃ティナもさっきの彼にこういった話をしていると思うけどな。」

 

 突然、ドラゴンだと宣告する彼女・・・

 それに対して想定以上の話であった為、ゲンとヴァンは驚きを隠せない。

「えっ?マジか?どうみても人間にしか見えないぜ。」

「ヴァン、人化って言ってたから、今は人間と変わらないんじゃないかな?そうなんだよね?」

 実は冷静を装っていたゲンも実際は内心ドキドキしていた。二人ともまだ若干十六歳の男子・・・如何にいつも度胸が据わっていようがクールさをキープしていようが動揺してもおかしくはない。

「そうそう、人化って便利だよなぁ。人間と同じ目線で何か斬新に感じるし、食べ物も美味しく感じる。そりゃ不便さもあるケド、ウチは気にいってるわ。」

 ニッコリと微笑みながらリンが答える。隣で同じくキールも黙って頷いていた。

「で、何でウチがヴァンに話があるっていうのかっていうと・・・簡単に言えば運命の人だから。」

 さっきまでサクサク話を進めていたリンだがヴァンが運命の人と告げた時は流石に顔を赤らめて、ヴァンから目をそらしていた。

「ブッ!!チョッと待てよ。何だよ運命の人って勝手に決めるなよな。俺サマは女には興味がない!だから特定の彼女も作っていない。まぁ面倒だしな。だからノーサンキュウーだ。」

 この時点でリンは実質振られてしまった訳だがあっさりと引き下がる彼女ではなかった。

「いいわ、ヴァン。ウチと腕相撲しない?それが終わってからでも振るのは遅くないでしょ?」

「は?腕相撲?俺サマは未だかつて負けたことがないぜ。でも、お前がホントにドラゴンだっていうのなら俺サマは勝てないかもしれないがな。だから、勝敗をここでは重要視はしない。それでも良いか?」

 リンからの腕相撲の申し出にヴァンがそう返答する。

「勿論!勝敗はウチも気にしないわ。腕相撲のチャンスが欲しかったの・・・」

 そうポツリとリンは呟き、ヴァンとの距離が徐々に近づく。この時、二人とも顔は赤いし表情はドキドキしている感がもろに伝わってきていた。

 ゲンは横で見ていて、それがおかしく再び吹き出しそうになったのはここだけの話である。


 ヴァンの奴、口では彼女に興味ないって言っていたケド、どうしてどうして・・・脈あるじゃないの。そんなことを思いながらゲンは二人の腕相撲を見守る。

 キールにとっては腕相撲の話は正直どうでも良く、自分がゲンに話をする番になった時に話す内容や段取りを考えるだけで頭が一杯になっていた。

 そして、ヴァンの右手とリンの右手が触れ合った瞬間、薄いピンクの光が二人を包み込む。

 ヴァンは腹をくくって状況を見守る・・・


「ねぇ、ボクらもただ待っているだけじゃ時間のムダだから、君の話を聴かせてほしいな。」

ゲンはキールに話を切り出す。

「は、はい。わたくしはリンが言っていたようにドラゴンが人化した状態で今、あなたと話をしております。」

 ゲンは黙って頷き、キールの話を聴き続ける。

「わたくしはリンと違って、男の方とうまく話が出来るかどうか正直不安です。ですので、時間をかけてゆっくりと話をしたいのですが、あなたがたのご都合もあると思います。そこで場所を変えたいのですが、如何でしょうか?」

そうキールは小さい声でゲンに伝えてきた。

 確かに男性慣れはしていないようで、自信も感じられないしドラゴンとしての威厳も全く感じられないとゲンは冷静に分析する。

「場所を?場所を変えるとナゼ時間をかけても大丈夫になるのかな?ボクらに対して時間の配慮をしてくれた事には感謝するけど、矛盾が生じるかと?」

 ゲンは疑問に感じたことをストレートに伝える。

「あの、わたくしは時元竜。能力としては異次元にも行けますし、亜空間にも行くことが可能です。そんな訳なので時間がこの星よりもゆっくりと進む空間に行き、そこで落ち着いて話が出来ればと思います。そこでの一時間経過が、こちらでは一分ほどの経過で済むことが可能な場所もあるんですよ。」

 それを聴いたゲンはクールな表情の中でも焦りを感じた。一時間経過が一分経過と同じ?そんなことが可能なのか?確かにこの世には様々な空間があると言われており、可能性としては十分にあり得る。ノッてみるのも面白いか?でも彼女と長時間二人きりで話をするのにも正直照れるし・・・

 と様々な見解をしていったゲン。特定の彼女を作っていなかったゲンだが、面倒という理由もあった。しかし、目の前のキールほど魅力ある女の子に出会っていなかったこともその原因の一つである。


「もし、時間の流れが異なる空間に行けるものならば行ってみたいよ。そこでは酸素はあってボクみたいなフツウの人間でも呼吸は可能なのかな?」

 ゲンは優しい表情でキールに質問する。

「はい!フツウに酸素もあり、あなたでも呼吸可能です。わたくしにもリンのように手と手を合わせる事で思ったことを伝えることが出来る能力があればそうしたほうが早いかもしれないのですが、わたくしにはムリなのでそうして頂けると助かります。」

 そう自信なさげな小声で答えるキール。

 それを聴いたゲンは二つ返事でこう言った。

「じゃあ、今から行こうか!ボクも初めての体験なので楽しみだよ。よろしくね。」

「はい!ではチョッと眩しいと感じられるかもしれないので、目を閉じて右手を前に出して下さい。わたくしが手を引いてご案内しますね。」

 キールはそう言うとゲンも言われたままに目を閉じて右手を前に差し出す。次の瞬間、二人の姿は消えたもののスティール星の日常は何も変わりなく流れていった。


 魔人・・・

 魔族と人間の間で産まれた生命体を指す。

 この世には魔界というものが存在し、人間が生存している世界とは別の世界らしい。大方の魔人は魔界に存在する。俺も魔族や魔人については文献やネットの情報でしか今まで知らなかったがティナに色々教えてもらったのだ。

 魔人ってなんか、めっちゃ強そうで魔人の中でも強さがハンパないのが魔王。その中でも大魔王は別次元の強さをもった存在のような気がする。

 でも実際は魔人には人間の血も交じっているので、そこまで残忍ではない。魔王や大魔王になると風格も出てきて強さの誇示や争いなど、そんなどうでも良いことには関心がない。

 如何に楽しめるか時間を有効に過ごしているかの方が大事らしい。そりゃ楽しめるかもしれない存在を惨殺なんかしたら、一瞬でその楽しみも消滅してしまうから納得である。だから俺のようにケーキ作りにハマっている魔王がいてもおかしくはないのだ。


 魔人には十六歳になった時点で、その後の生き様を選択できる。

 一つは不老不死で特殊能力を有する魔人生を歩むこと。

 もう一つは寿命には限りがあるが、人間としての人生を歩むこと。

 魔人生を歩んだ場合、不老不死ではあるがその存在を自ら消滅させたいと願う場合は自爆機能を有し、それが可能という。

 また、魔獣と同じく魔人が認めたブレス所有者にその能力を魔石として託し、魔人の能力はその魔石に宿る。そして、ブレスを通じ念波としてお互いの想いが通ずる状態になる。


 もう一つの寿命に限りがあり、魔人が人間としての生を全うするパターンはよくあるらしい。

 魔人の多くはこっちを選択し人として人生を謳歌するようだ。

 多くって言っても決して魔人が誕生する数が多いという訳ではない。

 魔族と人間が出会い、魔人が産まれる確率は高くはないからだ。人と変わらないとはいっても魔人は魔人。魔人がうようよ存在したら、生体バランスが崩れかねない。

 

 ちなみに魔人と人間の子はクォーターになるのだが、魔人の血の方が濃いので無事に出生まで至るのは、ほぼ皆無だそうだ。まぁ、魔人生を選択し不老不死であれば、子孫繁栄しなくても魔人の血は絶える事はないよね。


 そんな魔人だが不老不死の魔人生を送っていてもたまに人間界に遊びにくる変わり者もいるのだ。

 

 魔人キャンティ・・・

 三竜姫とは人間界でたまに会っている見た目十六歳位の女の子。そんなキャンティが数百年ぶりに人間界にやってきたのだ。何故かというとティナ、リン、キールの三竜姫が同じ場所に集まっているのを感じ取ったからだ。

 人化した彼女たちからでもドラゴン特有の存在感はあり、上位魔獣や上位魔人にはそれが十分に伝わるのだ。

「あたいを差し置いて三人で何を企んでいるのかしらないが、見過ごす訳にはいかないよね~。」

と独り言を言いながら、空間転移して人間界に現れたキャンティ。

 

 彼女は不老不死で特殊能力は鍛冶師。

 女鍛冶師なんて人間界でも珍しいのだが、彼女は敢えて鍛冶師としての腕を磨き上げた魔人なのだ。

 カリスマ鍛冶師としての地位も名誉も築いた彼女。刀、剣、槍、防具、特殊アイテムなど、このウン千年の間に作り上げた物は数知れない。

 それを考えたら天才・・・かもしれない。

「ん~と、あれ?三人ともバラバラな場所にいるじゃない。さっきまではほぼ同じ場所にいたように感じたんだけど、何かあったのかな?」

 この時、ティナは会場外、リンは会場内、キールは亜空間に転移していたのだ。

「しょうがないわね。もう少し様子を見るか。その間、剣士ブースに行ってみよっと。剣士として大成する可能性がある子がいたらラッキーだしね。」

 キャンティはそう言って剣士ブースまで向かっていった。


 女鍛冶師として幾多の武具防具を作ってはきたものの、中には使い手不在という物も存在する。その武器を使いこなせる者が今まで存在しなかったのだ。

 それが魔剣にあたり、四本存在している。もっとも内一本は彼女自身が剣に主はあたいなんだと半ば強制的に認めさせたのではあるが・・・。

 剣に認めさせたとはどういうことか。キャンティが作り上げた魔剣はどれも自我を持った生きた剣なのである。一本作るのに、ゆうに五百年はかかっていよう。それだけ信念、愛情、魂など全身全霊を込め叩き上げて作った名剣。

 結果、剣は自我を持ち、持ち主を自ら選び、成長し続けていく究極の魔剣・・・。

 剣と共にその主も成長し続けることが可能、故に魔剣の一本レイファリーはキャンティとともに成長するハズなのだが、肝心のキャンティに向上心が皆無な為、現状維持なのだ。

 もっともレイファリーもキャンティの全てを認め、共に同じ時間を過ごしたいと思っている少しダラけた魔剣なんてことは口が裂けても言えない。


 ふむふむ、ここが剣士ブース。ざっと二百人は剣士希望者がいるわね。あたいの魔眼が興味をひくような人間はいるのか鑑定させてもらうよ。キャンティはそんな思惑を持ちながら、遠目で一人一人吟味して現状の能力・将来性・潜在能力・我が魔剣との相性を鑑定していった。

 しばらく鑑定していたキャンティから溜息が洩れた。

「ハ~ダメだこりゃ。凡人ばかりで可能性のかの字も考えられないわ。期待したあたいがバカだった。あたいが五百年間かけて打ち続けた愛剣の使い手がそう簡単に見つかる訳ないか・・・」

 うっすらと苦笑いしつつキャンティは三竜姫が揃うのを待つこととした。しかし、いくら待ち続けても彼女たちが揃う気配は感じられない。

 もっともキャンティがめっちゃ短気だったのもその理由の一つかもしれないが・・・。

「もう、三人とも遅い!いつまであたいを待たせるの?もしかしてあたいの気配を感じて避けられているとか?そんなんだったら、めっちゃショックだわ~。」

 しばらくブツブツ言いながらキャンティは覚悟を決めた。

「も~待ちきれない!あたいが避けられていたとしても折角久々に遊びに来てやったのに無駄足じゃ納得いかないしね。こ~なりゃ魔眼と魔耳使って何してるか調べさせてもらうよ。」

 

 魔人の魔眼と魔耳は遠く離れていようが、亜空間であろうが目を閉じれば映像と音声が頭の中に入ってくるという優れものなのだ。いわば盗撮&盗聴。録画や録音はしていないので、勘弁してねとキャンティは頭の中で三人に謝罪した。

「え~っと、まずは誰と一緒なのか。情報が知りたいわね。ティナはカイ?カイト?本名はカイか。ティナが勝手にカイトって呼んでるみたいね。潜在能力は低いけど、超感覚に目覚めそうで伸びたら面白い子になりそう。リンはヴァンっていう子と一緒か。男らしく潜在能力は高そうね。で、亜空間にいるキールはゲン。本名はゲンヤか。皆からはゲンって呼ばれてるみたいね。この子は器用そうだし、話術力も高そうね。でも何でキールは亜空間にいるのか分からないけど・・・。まぁ三人ともイケメンだし、察するに遂に念願のお相手を見つけたって所かしら?」

 一人盗撮盗聴まがいのことをしているキャンティはほくそ笑んでいて、ある意味危ない人になっている。

「ふむふむ、カイとヴァンとゲンか。覚えやすい名前ね。」

 と独り言を言ったキャンティであったが、ふとしたことに気付いて焦りを感じた。

 あたいの魔剣・・・カイギュラン、ギガヴァン、ドゥラーゲン三人の名前が含まれてる。

 三竜姫が竜眼で選んだ相手ならば、将来それ相応の武闘家になっていてもおかしくない。もしかして、あたいの魔剣の適合者なのか?

 

 魔剣は剣が自ら名前を決める。偶然か必然か分からないが、剣がその名を遥か大昔に選んだのだ。驚きとワクワク感が同時にキャンティの脳裏を刺激した。

「あたいもウン千年間、愛する魔剣の適合者を待ち望んでいたんだ!もしあの子たちがそうだとしたら、こうしちゃいられない!魔剣のチェックと必要ならばメンテナンスしなくちゃね。」

 

 そう言ってキャンティは空間転移して魔界にある自分の工房まで空間転移する・・・

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