第十九話 天魔
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「ヴァン、いい加減にしろよな!波気のコントロールが全然出来ていないぞ!」
ヴァンはデルタと激しい特訓を繰り返す日々であった。騎気を縦横無尽に使いこなすデルタにとって、不器用なヴァンは何とも歯痒い。
風の石であるデルタは騎気使いだが、ブレスの主はヴァンであり主の能力が低ければ、騎気は使えない。
まずは基本である波気がしっかりとコントロール出来なければ、到底騎気を使用するまでには至らないのだ。
「なぁ、俺サマには気のコントロールのような戦い方は向いていないんじゃないか?波動力を上げていって、それをぶちかます方が俺サマには合っている気がするぜ。」
《ヴァン、騎気使いになれれば今の四倍のパワーが出せるんよ。ウチは騎気のことってよく解らないけどさ、波気のコントロールはコツがあるんだって。》
「私がわざわざ組み手に付き合ってやっているのだ。少しは期待に応えてくれよな。お前には可能性があると見ているんだぞ。」
コツっていうのが解れば苦労しないよな。ヴァンにとってはそれが不得意で、器用なゲンが正直羨ましく思えていたのだ。
「俺サマだって使いこなせるものなら、そうしたいがうまくいかないんだ。リン、そのコツって教えてくれよ。」
《お前、モードフェニックスの時は波気が使えていたじゃんか。何であれが他の時は使えないんだ?要は一緒だろ?ウチは体内にある波気を感じて、それを自分の考えとイコールになるように掌握しているよ。》
目の前の岩に続けて二つのサイクロンをぶつけてみせるデルタ。一つは亀裂が入る程度で、もう一つは粉砕まで至った。
「ヴァン、最初の一撃は騎動力を放出したもの、後の一撃は騎気を放出したものだ。この破壊力の差は解るであろう。飛行の際にも騎動力と騎気とではタイムラグが生じたり、スピードに差が出るぞ。」
「デルタ、その違いは解ったぜ。諦めないで気のコントロールが出来るように意識していくわ。おい、ブラールお前の能力を試させてもらうぞ。」
デルタと話をしていたかと思いきや、いきなりブラールの魔動石に語りかけるヴァン。
こいつ、逃げたな・・・と思える瞬間であったが、リンは黙っていた。ヴァンは瞳を閉じて、意識を集中する。
「いくぜ!モードブラール!」
ヴァンの体は漆黒の鳥状となり、周囲の粉塵をその体に吸い込んでいく。
「うむ、思った通りに出来たぜ!どうだ、ブラール。お前のブラール波を応用したこの技は。カッコいいだろう!」
イメージ通りに出来て、高らかに笑うヴァン。それを観ていたデルタがツッコミを入れる。
「おい!ヴァン。何でこういった技には波気が使えるんだよ。お前、今は波気を使っているぞ。」
「えっ?そうなのか?自分では波動力を出したつもりになっていたぜ。まぁ、いいじゃねえか。新技の発動だ、デルタお前のサイクロンを俺サマに放ってみてくれよ。」
デルタはやれやれといった表情でサイクロンを一発放つ。騎気で打ち出したサイクロンは磁気を帯びていて、その破壊力は予想が出来ていた。それを漆黒の鳥となったヴァンは自らの体で受け止める。
サイクロンは一瞬でヴァンの体に吸い込まれ、何事もなかったようにヴァンは鼻歌を歌っていた。
「ヴァンお前、その技スゴイな。私のサイクロンが一瞬で吸い込まれたぞ。じゃあ、これはどうだ?」
デルタは無数の風矢をヴァンに向かって撃ち放った。通常であれば相手の体を貫通し得る、磁気の力で高速回転する風の矢。それが無数にヴァンに向かって襲い掛かる。対するヴァンはその風矢に向かって突っ込んでいった。
無数の風矢がヴァンの体に吸い込まれていく。その攻撃が収束し、ヴァンは元の姿に戻った。
「どうだ、このモードブラールは。プラズマ系の攻撃ならば吸い込むことが出来るんだぜ。物質に関しては小さいものしか吸い込めないがな。」
《ヴァン、おいらの力を応用してくれてありがとう。漆黒の鳥、カッコイイよな。他にも技が出来たら、教えてくれよな。》
「ヴァン、私の負けだ。だが、その気の使い方を他の技でも使えるようになるように努力するのだぞ。」
ゲンはプラズマスターの力を自分なりに解析していた。プラズマ全ての掌握か・・・
太陽、光、稲妻、炎などのエネルギー体はこの世界全体でかなりの度合いを占めている。それら全ての掌握とはいっても、出来ること出来ないことがある。
まず遠方からでは、この能力は機能しない。実際にそのプラズマに触れてこそ、機能する能力だということだ。動きが遅い炎系には相当な効果を発揮するだろう。火量の増減は勿論、その温度変化も可能である。
炎は千五百度位から一万度位まで温度変化が可能で、赤色よりも青白い方が高温だ。ヴァンは炎と電磁力を含んだ風の力を得たという情報がブレスを通じて入っている。この二つの特性を利用しての「風炎」か。
面白いな・・・仮にこの炎を超高温にすることや、電磁力のパワーを上げていくことで技の威力はケタ違いになるだろう。カイに関しては光や雷の力を手にしている。光の速度を考えると光や雷系の技が発動した後に自分の出番はない。秒速三十万キロメートルで動く光に対応することが不可能だからだ。
技の初動と同時に、そこに自分が触れて変化をもたらす。そういった使い方になるな。
あと、この能力は同時に二つのプラズマを変化させることが出来ないということだ。自分自身の能力が上がってくれば、同時に二種類のプラズマを操作出来ることが可能なのかもしれない。
しかし、現状ではそれが不可能である。プラズマとはエネルギーの塊である。その膨大なエネルギー二種類を巧みに操作することは非常に困難なのだ。一歩操作を間違えれば、周囲に甚大な損害をもたらしかねない。
そういった重責を感じながら、能力と向かい合おうと決意を新たにするゲン。そして、手足のプラズマ化。これは攻撃防御ともに、とても有効に使えるだろう。
しかし、ゲンはいつもこう考えている。自分は攻撃特化のタイプではない。攻撃に関してはヴァンやカイに任せて、自分は戦局を見極めフォローしていくのが最も適していると・・・
その中でも自分の努力次第で、このプラズマスターのスキルは無限の効果を発揮するということを認識している。
《お~い、カイ、ヴァン。久しぶりだね。順調にいっているかい?スキルの情報は入ってくるケドさ、その他で何か問題や新たな情報はないかい?》
《おう、ゲンか。俺サマは波動力を使うのがメインでナカナカ波気までいっていないのが現状だ。それをデルタに毎日叱られているんだよな。あいつは騎気を使えるようになってほしいって思っているみたいだが、人には向き不向きというものがあると俺サマは思っている。まぁ、努力はするがな。》
《俺は毎日ファイと組み手をして充実しているよ。この間、ゼロの能力で人魔合身を行って王気というものが騎気の上のレベルであるのが解ったんだ。俺単独ではこの気にまでは達していないんだケドね。》
《そうか、修行のやり方は人それぞれだからな。ヴァンは騎気が使えるようになってほしい。それが出来るようになったら、ボクは新たな力を目指したいと思っている。力の名前は【阿修羅】だ。何か情報が入ったら教えてほしい。それと二人にはプラズマ系の攻撃の精度を極限まで上げてほしい。ボクに考えがあるからね。頼むよ。》
《それならクロちゃんに聴けば教えてくれると思うよ。ゲン、聴いてみようか?》
《あっ!そうだったね。カイ、頼むよ。》
《お~い、クロちゃん。阿修羅について知っていることを教えてくれないか?ゲンが阿修羅の情報がほしいんだってさ。》
スリープモードだったワイの石だが、念波だけは機能する。
《阿修羅か・・・ゲンくんは、また難しいのに挑戦するのう。阿修羅は【三身合身】が可能になる力がある。カイくん、ヴァンくん、ゲンくんの三人で合身出来るのじゃ。カイくんはファイくんと人魔合身を行ったと思うが、この三身合身はまた違ったタイプの融合じゃ。三身合身は人魔合身ほどの戦闘力が発動しない。通常、君たちは結合魔動石の力でないと複合技は発動できない。しかし、三身合身の力があればスキルが三つ同時に発動可能になる。しかも、その威力は個々のスキルを超越したものとして。》
なんと、とんでもないスキルだな。ゲンはこんなことを考えているのか。やはり、俺とヴァンが考えていることとはレベルが違うな。
クロちゃんは続けて念波を行う。
《しかし、気の質が異なるとこの三身合身は発動が出来ない。今、ヴァンくんは波気、カイくんとゲンくんは騎気が使えるじゃろ?これではムリなのじゃ。ヴァンくんが騎気を使えるようになるのが必要じゃな。まぁ、カイくんかゲンくんが【無限魔力】を得れば話は別じゃが・・・無限魔力は全てを超越した力。他の気をも巻き込み、コントロールが出来るからの。それとゲンくん、現状では絶対に阿修羅の力を得ることは不可能じゃよ。その答えは自分たちで気付いてくれ、それが君たちの為になる。》
クロちゃんは意味深な言葉を残して念波を終える。絶対に得ることが不可能な力、阿修羅って・・・でも、何故なんだろう?それに無限魔力って何なんだ?
《ぼんやりと阿修羅が見えてきたが、やはり厳しいみたいだね。とりあえず、ヴァンは騎気が使えるようになってよ。それが最低条件みたいだし。ボクは違う力も考えているので、もう少し熟考してから行動に移すからさ。》
《あぁ、やっぱりそこが必要だよな。俺サマはデルタとリンと努力して、必ず騎気が使えるようになってみせるぜ。ちと、頭が痛いがな。》
ヴァンは前向きな言葉を発し、俺たちを安心させた。まぁ、強気なデルタとリンが付いているのだ。任せておいて問題ないだろう。
俺は念波を終えると、次の目的である天魔をブレスで検索した。天魔とのホットラインが繋がり、その行先はスティール星の樹海を指し示す。
この樹海では方位磁石などは機能しない。何でも神聖な場所で、電界や磁界は無効化されてしまうようだ。
俺の光の力は問題ないのだろうか?デルタの太陽風の力は磁気がパワーの源なので、この場所は鬼門だろう。俺も電気を扱う者として、対象なのかもしれないな・・・
なぜならば、ゼロトルネードなどはゼロを媒体として、コイルの特性を利用したスキル。そこでは、電磁力を生み出しているから恐らく俺の力も無効化されてしまうだろう。光の力が封印されてしまうならば、天空の力と剣の力で天魔に挑まなければならない。
俺は一抹の不安を抱えながら、天魔とのホットラインの最終地点の樹海に到着した。やはり、何やら神聖な感じが漂う場所である。試しに光弾と雷弾を発動してみようとした。
しかし推測通り、電界と磁界は無効化されてしまい、光弾と雷弾は不発に終わった。
「はぁ~やっぱり光の力はここでは使えないな。天空の力と剣の力でどこまで食い下がれるかだな。ゼロ、レイちゃん、頼むぞ。」
俺は最近、キャンティとの修行でゼロとレイちゃんの二本を使い二刀流を試していた。二本の魔剣を片手に一本ずつ持ってみると、不思議なことにゼロとレイちゃんは同質であるが異質でもあるように感じていた。
元々、一つの生命体であった二人はキャンティの手によって二つに分けられた。だから、ある意味同質であるのは理解が出来る。
しかし、異質を感じたのは何故だろう?育ってきた環境が異なるので、性格や成長度合いが異なるのは理解が出来る。
だが、俺が感じているのはそういったことではなく、もっと本質的なことだ。俺が推測する所、レイちゃんは恐らく自己防衛力が極めて高い。それは自分が未熟な状態で生を受けたことにもよると思えるが、それ以上に何か巨大な恐怖に怯えているのかもしれない。
レイちゃんの心の中にある恐怖・・・それは何なのか?俺はキャンティにこっそりとその事について聴いてみたのだ。
「魔剣同士は基本的には干渉しない。しかし、レイファリーはあたいがずっと主であった。ずっとあたいの工房に置いてあったからな。それが問題だったのだ・・・実はもう一本あるんだよ。封印してある五本目の魔剣がな。恐らくそれがレイファリーの怯えている原因だろう。勿論、二本の魔剣が交わったことは一切ない。しかし、交わることがなくても直感的に感じるのだ。こいつは危険な奴であると・・・レイファリー自身は無意識だとは思うがな。」
「その五本目の魔剣って何が問題で封印してあるんだ?そんなに危険な魔剣なのか?」
「あぁ、あたいも奴の存在自体を記憶の奥に葬ってあったのだ。悪いがもうこれ以上詮索しないでくれ。頼む。」
キャンティはそう言うとその後は一切、五本目の魔剣についての話をしなくなった。
あいつがそこまで拒否するからにはよっぽどの魔剣なのだろう。俺もその後は、敢えてそこには触れなかった。
しかし、その件を放置してしまったが為に俺たちは取り返しのつかない事件に巻き込まれるのであった。
「よぉ、待ってたぜ。僕がお目当てなんだろ?」
いきなり声をかけてきた少年。俺と同年代の少年はいきなり目の前に現れたが気を押さえているのか、その接近に全く気付かなかった。俺はモデル並みの体型と言われていたが、目の前の少年は俺以上にスリムであった。かといって、筋肉が全くないというわけではない。恐らく骨が極めて細いのであろう。
少年は目の前で器械体操のいう所の【床】のパフォーマンスを行い始めた。
細身の体に似合わぬ体幹とその運動量。少年にとっての準備運動なのか、その動きは更に加速して目視で捉えるのは難しいスピードになってきた。気が付けば、音速で動き回る少年。
何やら空を切るような音だけが耳に入る。
一時した後、少年はその動きを止めて話しかけてきた。
「いや~暇だったから、お客さんは大歓迎だよ。君も一緒にどう?体を動かすのって気持ちいいよ!」
そう言うと、少年は爽やかな笑顔を見せてくれた。
「なぁ、君が天魔なのか?俺は・・・」
俺が自己紹介をしようと思った矢先、気を開放する少年。
「悪いね、自己紹介の途中で。あまり長ったらしく話をするのは苦手なんだ。暇なんだケド、無駄な時間は使いたくない性格でね。僕は天魔、音の力を司るものだ。名前はパルス、勝負しに来てくれたんだろ?イイよ、いつでもどうぞ。」
短気な奴だな・・・でも暇つぶしとして、相手には関心があるようだ。それにこの魔気はスゴイな。一気にここまで放出出来るものなのか?上位魔人クラスの魔気を持つ、魔獣天魔。人化している状態での接触であったが、その魔気レベルはかなり高レベルだ。
さて、光の力は使えない。ゼロトルネードも使えないからな、どうしたものか・・・
とりあえず、音速で動かれたら捉えきれないと思いロックオンⅡを作動させる。これで神経からの指示は瞬時に捉えられる。相手の攻撃に対して事前に対応していく準備は完了した。俺は騎気を高めていき、自らの攻撃の準備を行った。
「ヘルクラッシュ!」
大気の重力をコントロールし、パルスの動きを抑制し騎気での攻撃を試みる。その瞬間、俺の周囲四方八方から激しい超音波が俺を襲う。
「グアッ!頭が割れる・・・何なんだ、この頭痛は?ダメだ、意識が飛ぶ・・・」
俺は瞬殺で意識が飛んでしまい、その場にダウンしてしまった。
《カイト!カイト!大丈夫?しっかりしてっ!》
ティナの呼びかけに対して反応することもなく、その意識はココにはない。コウさんとは組み手での敗北を喫したが、実戦形式では初めての敗北・・・
その様子を観ていたファイは終始無言であった。ファイは通常はフツウの人間として生活をしている。魔王としての能力や片鱗さえも封印し、目前で親友がノックアウトされても平然としているファイ。
魔王である彼は敢えて行動をおこさなかった。それは親友であるカイの成長の為であり、ファイの思いやりの表れであった。
「またいつでも来いよ~。遊んでやるからな~今度はもう少し楽しませてくれよなっ!」
パルスはそう言うとその場を去り、気配を消したのである。
「カイト!カイト!目を覚ましてよ!あんなんで負けちゃうなんて、カイトらしくないよ!」
「ティナ、少し休ませてやれって。カイは脳波をやられたんだ。今は休息が必要だぞ。」
ティナは涙ぐみ、俺の両手を自分の両手で包み込む。
「ねぇ、ファイ。あんた魔王なんだから、あいつの弱点とか解るんじゃないの?カイトに教えてやってよ!あっ!クロちゃんでもイイや。クロちゃんもあいつの弱点わかるんじゃないの?ねぇ、誰かカイトを助けてやってよ~!」
沈黙している俺の傍で、大声で叫ぶティナ。それは愛情の表れであり、混乱した彼女なりの発信であった。
「なぁ、ティナ。カイトの為を想うんだったら、ここは黙ってあいつに考えさせるんだ。今、オレたちが手を貸してやっては、あいつの成長には繋がらない。あいつはこんなことじゃ、腐らないよ。それはお前が一番解ってるんじゃないのか?そんな弱っちいやつじゃないだろ?」
ファイはティナに対して諭す。それを聴いてハッと我に返るティナ。
自分が愛する彼はこんな程度じゃない。順風満帆では物事運ばないって、いつも彼が言っていたことじゃないか!
彼を信じるんだ!この壁を越えたら彼はまた一歩成長する・・・そう想い考え直したティナは、ファイに対して礼を述べる。
「ごめん、ありがとうファイ。あたしが間違ってたよ。そうだよね、あたしがついてるんだ。もっとあたしが信じてあげなきゃね。何もかも手を差し伸べてあげるのが、愛情じゃないよね。」
それを聴いたファイは黙って小さく頷く。今は彼の休息が最優先だ。クロちゃんからは、ティナにアプローチはしてこなかった。
ファイが自分の伝えたかったことを全て伝えてくれたからだろう。俺は幸せ者だ。俺の周囲には、こんなにも俺のことを考えてくれる仲間がいる。感謝だな・・・
俺は、どれくらい意識を失っていたのだろう・・・気が付いて周囲を観ると、そこはキャンティの工房であった。
「よぉ、カイ。やっと、お目覚めか。腹減ったろ?今、ティナが準備しているから伝えてくるな。」
キャンティは厨房にいるティナまで、カイの意識回復を伝えに行った。しばらくして、ものすごいスピードで突進してきたティナ。その勢いで俺に抱きついてきて、少しよろけてしまった。
「カイト~やっと目覚めたね~!あたし、ホントに心配してたんだよ。良かった。めっちゃ美味しい料理作ってきてあげるから待っててね。」
「心配かけて、ゴメンな。ありがとう。」
ティナは安心したのか、鼻歌交じりで厨房まで戻っていった。
「完敗だったな。ああいった特殊な奴は、まともにいっても勝てんぞ。この後のことは、まぁ自分で考えろ。それがお前の成長につながる。期待しているぞ。」
ファイがバトルの感想を言ってきたが、俺もクロちゃんやファイに頼らずに自らの頭で考えて答えを出すつもりだったので問題ない。
「ファイ、ありがとな。俺は、まだまだ未熟だ。これからもどんなタイプの敵と遭遇するかもしれない。お前の方が俺の何倍も強いのは解っている。何かあったら、ティナを支えてやってくれよな。」
「バカ言うな。ティナを支えてやるのは、お前の役目だろ?オレはお前の親友として出来ることをしてやる。お前と関われて、オレは楽しいぞ。この刺激的な日常をこれからも頼むな。魔界にいた時は、暇すぎてすることが無かったからな。」
ファイは爽やかな笑顔で俺に語った。無論、俺もファイと関わることが出来て感謝している。バトルのことに関しては、無双そのもののファイ。俺のレベルまで、自分のレベルを下げて合わせてくれているが、本来ならば格下の俺と組み手をするメリットは無い。
その理由は、俺を観ていると無性に楽しいらしい。毎度毎度、少しずつ成長していく姿。面白い思いつきで、それを具現化していく柔軟な発想力・・・
そして、何よりも人を大事にして、自分よりも他人のことを考えている俺に惹かれたようだ。
魔王として君臨しているときは、自分のことしか考えていない傲慢そのものだったファイ。
自分と相反する俺に興味があるのは、何となく解る気がする。
一方、言動に関してはまだまだ未熟なファイ。人に対する接し方、利他的な行動力、言葉が与える影響力なんかは俺について勉強中だ。
俺もファイも自分に欠けているものをお互いに得ていく楽しみがあるこの日常。
この日常を大切にして、今後もしっかり大地を踏みしめていくことを今思い返す俺であった。
「いや~完敗だったな。何も出来なかったよ。あれが超音波か・・・」
俺たちは、ティナが愛情たっぷり込めて作ってくれた料理を堪能していた。ファイはこのティナの料理の虜であった。誰よりも沢山食べるし、その準備や後片付けを率先として手伝っている。
これが魔王か?と目を疑うような光景。ティナに言われて準備や後片付けをやり始めたものの、本人はやらされ感でやっているのではなく楽しんでやっているのだ。
特に料理の仕込みや作製に関しては楽しいらしく、食材がこんなにも様々なものに変化するその不思議さがたまらないらしい。
ティナもファイをあごで使っているように見えるが、ピンポイントで料理のなぜ?を伝えている。
この愛情がファイの行動に繋がっているのだろう。
「ねぇ、カイト~。パルスに対抗する手段は考えたの?あたしたちで手伝えることは何でも言ってよね。」
「ティナ、ありがとう。それはまだなんだ。あっ!ファイをあんまりこき使うなよな!こいつも楽しんでやっているとは思うケド。でもさ、ティナの料理で力が湧いてきて、めっちゃ頑張れるよ。ホントに感謝している。サンキューな!」
俺はゲンのように口が旨くはないが、想いを正直に伝えることは心がけている。
そのメリハリがティナにとっては、とても嬉しいらしく顔を赤らめてもじもじしている姿が何とも可愛らしい。
「キャンティ、しばらく厄介になったな。俺があんな状態だったからさ、フツウの宿はチョッと部屋を開けるのに躊躇するだろうから。もうそろそろ下界に戻るよ。助かったよ、ありがとう。」
「困った時はお互い様だ。天魔攻略、楽しみにしているぞ。ゼロとレイファリーも必要だったら使ってやってくれよな。二刀流もお前大分、様になってきたしな。」
剣の達人キャンティにそう言ってもらえて、俺は嬉しかった。こいつは滅多なことでは人を褒めないし、認めない。
そんなソードマスターに認められ、俺は剣の魔動石を託されたのだ・・・
その期待に応える責任があるし、ゼロとレイちゃんの成長を見せていくのも俺の役目であろう。
「あっ!そうだ、聴いてみたいことがあったんだ。剣ってさ、振り抜く角度によっても【色】が違ってくるよな?微妙に角度が違うだけで色が変わって観えてきて面白いよ。」
「・・・?カイ、色って何なんだ?剣は振っても色なんて観えないぞ。」
キャンティは俺の言っていることが理解出来ないようで、困惑している様子だった。ファイも意味不明なようだが、そこでティナだけが共感してくれたのだ。
「カイト、あたしは解るよ。ゼロとレイちゃんを振るった時に剣の行く先に色が観えるよね。同じ角度でゼロとレイちゃんを振るっても、その色が何か微妙に違うから、何でなのかな?って思ってたよ。」
俺だけが何か特殊な表現をしている感があるって思っていたが、ティナも共感してくれている。
これって、天空の力の影響なのか?俺とティナだけが天空の力を使っている。
その二人が共に感じていることなのだ。これは何を示すものなのか?
そう言えば、パルスの超音波攻撃を受けた時も俺の周囲に色が観えたような気がするぞ。
「なぁ、ティナ。チョッと思い出してくれ。俺がパルスの攻撃を食らった時、俺の周囲に色は観えなかったか?俺はいきなりだったから、そこに意識はなかったんだ。」
ティナはその時をフィードバックして思い出す。
「そう言えば・・・観えてたよ。青と赤が。あれって光の具合かと思ってたケド、何か違うのかな?その後にカイトが倒れちゃってさ、あたしも気が動転しちゃったから。」
俺の推測が正しければ、これは使えるかもしれない・・・
それから、剣の入射角の解析を始めだした俺。
ティナとファイは興味深く見守るのであった。