第十八話 節目
●「二人のブレス」全40話 配信していきます
★書籍はアマゾンにて「二人のブレス」を検索したら出ます(全4巻 紙書籍、電子書籍両方あります)
●続編「二人のブレス ゼータの鼓動」執筆中です
●「二人のブレス」LINEスタンプ配信中です
LINEのホーム→スタンプ→二人のブレス 検索 で出ます
よろしくお願い致します!
時はデルタを打ち破った後のこと。
俺たちはキャンティを呼び出して彼女の工房まで空間転移した。俺たちは目的を無事に達成出来て上機嫌。そんな時にクロちゃんから突然の申し出が・・・
「カイくん、ティナちゃん、それに皆・・・ワイはそろそろ皆とお別れだ。もう、ワイというのもやめて元に戻そう。ワシは君たちとの旅が楽しくて仕方なかった。純粋で成長力著しい姿を見せてくれてきた君たちはワシにとって生き甲斐そのものだった。しかしの、そろそろワシも寿命が尽きる。君たちには心から感謝しておるぞ。ありがとう!」
「クロちゃん!そんなこと言うなって!またそんな冗談言ってさ。観た感じ、そんな風には全然観えないぞ。」
「そうだよ!クロちゃん、これからもっと旅も楽しくなるよ。あたしが薬膳料理作ってあげるから、元気出してよ。キャンティ、厨房借りるよ。」
俺たちの言葉を聴いたクロちゃんは薄っすらと涙ぐむ。
「カイくん、ティナちゃん、ホントにありがとな。ワシは幸せ者じゃ、人生の最後で最高の友達が出来たよ。」
「嘘だろ?嘘って言ってくれよ!俺たちはクロちゃんにまだ恩返しが出来てないよ。今まで色んなことを教えてくれて、俺たちを助けてくれたじゃん。おい!ティナ。お前の血を与えたらデルタみたいに不老不死になるんじゃないのか?」
「カイト~デルタの時はレアなケースだよ。色んな条件がたまたま重なって、奇跡的な復活をしたんだって。無茶言わないで。」
「もういいんじゃよ。老人の時代は終わってるんじゃ。これからは君たちの時代。過去を振り返らずに全力で駆け抜けてほしい。そうそう、おかめちゃんをブレスに入れておいてくれ。もし、託したい人が出てきたら、おかめちゃんを渡してやってほしい。色んな人で試してみたが、おかめちゃんの能力継続時間は人間では、やはり五分間が限界のようじゃ。しかし、魔人ではその能力によって時間が延びるようじゃぞ。」
「おい!クロちゃん。俺サマが折角守ってやった命、もう無くなっちまうのか?もう少し頑張れよ!一緒にもっと楽しい旅を送ろうぜ!」
「ヴァンくんもありがとう。しかし、無茶言わんでくれ。カイくんとティナちゃんを頼むよ。カイくん、ワシの石じゃがこれにはワシの魂がこもっている。ワシが消滅しても石は不滅じゃから安心してくれ。何か困ったことがあったら、いつでも相談しておくれ。大ピンチの時には念じておくれよ、その時は石の封印が解除されて絶対に助けてやるからの。そろそろお別れじゃ・・・ば~い!」
クロちゃんは最後にそう言うと、蜃気楼のように消滅してしまった。人間じゃなくて、幽霊か妖怪だったのか?って思うほどに最後まで人間離れしていたクロちゃん。
「ありがとう・・・クロちゃん、俺たちはやるよ!前を向いて突き進む。ワシの石はあるからな、すぐに声を聴かせてくれよ。」
ティナ、リン、キャンティは涙が止まらない。ヴァンは瞳を閉じて歯を食いしばっていた。
俺は、おかめちゃんを握りしめ天空を見上げグッと涙をこらえるのであった。
「こうなるとおかめちゃんは形見だな。ブレスに保管しておくからな。」
俺たちは気持ちを新たに突き進む。更なる強さを求めて・・・
超電磁リングでスティール星に戻ってきた俺たち。一人いないと随分と寂しい気持ちになる。何か気を紛らわすことはないかな?
悶々とした気持ちであったがその足は、クロちゃんと出会った宝石屋マカロンに向かっていた。そこに行ってもクロちゃんに出会えないというのは誰しも解っていた。それでも、そうすることが何か必然であると思えて仕方がなかったのだ。
光速で飛んでいけば一瞬で到着するのだが、こうやって人として、一歩一歩踏みしめていくことも大切なのだ。観ているだけでは、その真実は理解が出来ない。実際に触れてこそ、その状態や大変さが理解出来るものだ。
例えば、スポーツなどは観ているだけでは簡単に出来るような気になるが、実際に自分がやってみると出来ないことに気付く。歩んでいくことで、人と出会い人と関わっていく・・・
それが人を成長させていくのだ。
「よぉ!お前ら、どこに行くんだ?」
えっ?誰?って俺たちは顔を見合わせた。
「ねぇ、君~。君こそ、どこに行くの?あたしたちはこの先の街に向かってるんだケド。」
ティナも彼に対していきなりの問いかけ。彼は見た目、俺たちと同年代だな。ここはスティール星だから、人間の可能性は高いが魔人や魔獣かもしれない。
「オレは特に決まっていない。お前ら、何か楽しそうだからさ、声をかけてみたんだ。」
って言うのは、とりつくろった嘘だ。こいつは随分前から、俺たちの動向に合わせて追尾していた。俺たちが魔界に行って、いきなり大気を変えたあの日から・・・そんなことはこの時の俺たちは全く知らないこと。
だけど、クロちゃんがいては全部見透かされてしまうような気がしたから、彼は接触してこなかったのだ。クロちゃんがいなくなったこの機会を逃すわけにはいかなかったという所だろう。
「おい、俺たちはお前のことを知らない。まずは名前から名乗るのが筋だろ?」
「あぁ、そうだったな。オレの名前はフ・フ・フ・・・」
「さっきから何なんだ?フ・フ・フって?お前、俺たちをバカにしてるのか?それじゃ、解らないよ。」
「カイト~きっと名前はフー君だよ。人見知りでもしてるんじゃないの?フー君でいいのかな?」
「男ならハッキリしゃべれよな。俺サマはハッキリしない奴は好かんぞ。カイ、こんな奴は放っておいた方がいいんじゃねぇか?」
「ヴァン、まぁまぁ。言葉が詰まることって、よくあるじゃん。ウチはないケド、ヴァンはたまにあるしな。」
それにヴァンは反論をしようとしたが、思い留まった。リンには、口ではかなわない・・・そう思ったのだ。それは懸命かもしれないぞ。
俺もティナには、口ではかなわない。いつもまるめ込まれてしまうのだ。
「あぁ、その通り。オレの名前はフーだ。ヨロシクな。何せヒマなものでな。こうして当てのない旅をしている。」
こいつのホントの名前はファイ。五人いる魔王の中の一人で、魔界をこっそりと抜け出してきたのだ。魔王は本来、魔界の治安と秩序を保つ為にテリトリーを監視している。その日々は平穏で実につまらないものであった。だから、ファイは職場放棄をして抜け出してきた。自分のテリトリーの監視は部下のガンマに押し付けて・・・
だが、ここで本名を名乗ってしまうとファイのことを知っている奴らに魔王ということがバレてしまう。それに自分を魔王とここで明かしてしまったら、俺たちに警戒されてしまうからだ。ファイはただ単に楽しい時を過ごしたい。俺たちと一緒にいることで、退屈な日々を刺激的な日々に変えることが出来ると思ったのだろう。
しかしこの時、彼の真意は別にあることを俺たちはまだ知らない・・・
とっさに名前を名乗るように求められ、慌てた為にドモってしまったというわけだ。ここは偽名でやり過ごそうとするファイ。
「ねぇ、ヒマな旅人さんならさ~あたしたちと一緒に旅をしようよ。絶対人数が多い方が楽しいよっ!」
おいおい、いきなり過ぎないか?って、いつもティナはいきなりだよな。こいつも急に言われたら困るだろうし、俺たちもどこの誰だか解らない奴と一緒に旅をするリスクは避けたい。
「ん?別にいいぞ。特に行くあても無かったしな。オレはフー、十六歳。趣味食べる事、特技食べる事、無職だ。以上、自己紹介おしまい。」
一同がフリーズした。無職で食べる事が趣味で特技だと?どんだけのおぼっちゃんだよ!まぁ、外見はヴァンに似ていて体格はしっかりしたイケメンだが・・・
本来ならゲンを呼び出して、気の鑑定をしてもらいたかったが、あいつも忙しい時期だろうとヴァンが言い出したのでそれは思い留まった。ゲンならば、気を読み取ることに長けている。今までの生きてきた経歴や個性などピンポイントで捉えることが出来るのだ。
もっとも、相手の気が高レベル過ぎると読み取ることは難しいこともあるらしい。だが、気の読み取りくらいなら、俺も少しは出来る。
「じゃあ、チョッと手を見せてくれよ。」
俺の申し出にフーは素直に手を差し出した。その手に俺の手が触れる。俺の騎気がフーの気を鑑定する。気の種類は波気で穏やかな流れだ。特に邪悪な気でもないし、気のレベルは低い。こんなんじゃ、俺たちがバトルになった際に自分自身を守ることが可能なのか?と俺が思った瞬間にフーは笑顔で応えてくれた。
こいつは俺の気が読めるのか?今の絶妙なタイミングはそうでないと説明がつかない。
一応、事前にロックオンをフーにかけていたが、見事に反応がなかった。ロックオンⅡでないとこいつの行動は捉えきれないのか?イヤ、フツウに筋肉が動く場合はロックオンで十分に反応が伝わってくる。それが無反応ということは、考えられないが天空の力を無効化することが可能ということ。ティナはフーの同行を望んでいたが、俺は微妙に気になる点があった。相手の気が読めるかもしれないということとロックオンで捉えきれない謎の力、それにこいつが接触してきたタイミングだ。
丁度、クロちゃんがいなくなった時というのが妙に引っかかる。クロちゃん自身は謎の老人ではあったが、全てを知っているという位の博学さと冷静さ。もし、クロちゃんがいたらフーは接触してきたのか?何かを察知されるかもしれないと接触を避けてきたということも想定出来る。
俺はあれこれ考えていたが、ティナはそんなことはお構いなしに話を進めていた。
「フー君は何でも食べられるの?好き嫌いはない?あたしは好きだよ。何でもガツガツ食べる男の子って。でも、一番好きなのはカイトだケドね~!キャー!言っちゃった!」
「オレは好き嫌いないよ。宿は自分で探してお前たちには迷惑をかけないし、自己防衛はするから危険な場所にも同行したい。ヨロシク頼むな!」
ふと見るとフーは背中には槍を持っていた。
「おい、お前の槍ってナカナカ雰囲気があるな。名槍なんじゃないか?俺サマに少し見せてくれよ。」
「悪いな、この槍はオレの命とも言える物。故に誰にも触らせていないんだ。というか、オレ以外の者が持てば槍が拒絶反応を起こすしな。」
ん?それって俺たちの魔剣に似ているんじゃないか?もしかして、魔槍なんじゃ?
俺はキャンティに念波を送り、魔槍を作ったことがないかを尋ねてみた。
《魔槍か?作ったことがあるぞ、遥か大昔にな。でも、それは魔王専用魔槍でスティール星にあるわけがない。何故なら魔王が魔界を離れ、人間の元に行くことは考えられないからな。》
俺は確信した・・・こいつは魔王だと。こいつが魔王ならば、さっきまで考えていた疑念が全てクリアされる。
俺はすぐに念波でキャンティを呼び出した。
目の前に突然現れたキャンティ。その姿を観たフーは驚きを隠せない。
「な・なんでお前が急にココに現れるんだ。」
「ま・魔王ファイ様!ナゼ、このような所に?テリトリーの監視はどうされたのですか?」
「イヤ、チョッとヒマすぎてな・・・気分転換にこの星まで遊びに来ちゃったのだ。」
詰んだ!俺の読み勝ちだ。俺たちの存在を感じてからの今までの行動や魔王としてのヒマな日常からの逃避。魔王ファイは素直に全てを白状し、俺たちに謝罪してきた。
「悪かった!決してお前たちを騙すつもりはなかったのだ。だが、オレが魔王だと解ったら一緒に旅をしてくれなくなると思ったのでな。許してくれ。それにカイ、お前には運命を感じたんでな・・・」
そうファイが言った途端に、俺は雷拳でファイの顔面を殴りつけた。激しい雷撃がファイの顔にヒットした。轟く雷鳴と爆音に皆は驚いたが、俺の怒りはそれに集約されていた。
「お前、ふざけるな!お前にとってはヒマつぶしかもしれないケドな、俺たちは真剣に毎日を生きているし、何でクロちゃんが消失した瞬間を狙って接触してきたんだ。あの爺ちゃんは、俺たちのかけがいのない友達だ。俺たちが意気消沈している時に、お気楽で登場しやがって、何が楽しそうだ?・・・クソッ!」
俺は膝を地面に落とし、うなだれていた。再びクロちゃんを失った悲しみが押し寄せてきたのだ。
「ホントに悪かったよ。お前たちの仲間を想う気持ちを踏みにじったみたいになっちまって。すまなかった・・・旅の件は諦めるよ。」
顔に一億ボルトの雷拳をまともに食らったファイであったが、信じられないことに全くの無傷であった。これが魔王の強さの片鱗。ティナ、ヴァン、リンはそのスゴさに脱帽した。俺はまだ怒りが収まらずにうなだれていたが、ブレス内から念波が送られてきた。
《カイくん、ワシじゃ。それ位で勘弁してやってほしい。ファイくんも悪気は無かったんじゃよ。そして・・・スマン。ワシはファイくんの動向を感じていたのじゃ。だが、知らぬふりをして彼が自然に君たちと旅をしてくれるのを心から望んでいたんじゃ。ワシからのお願いじゃ、彼を仲間に加えてやってくれ。彼は今まで魔王として孤独で、常識や人としての心に欠けている所があるんじゃよ、これから一緒に彼の未熟な心を育ててやってほしい。ワシからの頼みを聴いてくれるかの?》
「ク・クロちゃん!何で教えてくれなかったんだよ!解ったよ、あんたの望み叶えてやる。まだ恩返しが出来ていなかったからな。おい、ファイ!お前のことはクロちゃんに免じて許してやる。その代りに俺たちに約束しろ。二度と人を騙すような姑息なことはするな!」
「お・おい、カイ。魔王ファイ様に対してその態度は失礼だぞ。ファイ様、カイの無礼をお許し下さい。後でよく言って聞かせますので。」
「おい!キャンティ。俺とファイは仲間になったんだ。仲間通しで隠し事はナシだし、立場が上も下もない。それともファイ、お前見かけだけの仲間になりたいのか?俺たちとどんな関係になりたいんだ?そこをハッキリと自己開示をしろよ。」
「カイ、そして皆。オレは魔王という肩書を捨てて皆と友達になりたかったんだ。だから、正体を隠してしまった。今後はお前たちに隠し事はしないし、立場が上も下も関係なしでいきたい。心が未熟なオレだが受け入れてくれないか?頼む!オレは生きているという実感が欲しいんだ。今までは生きた屍のようにただ無駄に時間だけが過ぎていた。」
ファイの心の叫びを聴いた俺たちはこいつを受け入れることにした。友達として・・・こうして俺たちは新たなる仲間、ファイを加えて旅を続けるのであった。
丁度、その頃・・・
各地にある多数の宝石店から、連続して魔石が盗難されているという事件が発生していた。クロちゃんと出会ったマカロンも被害は同じく受けていて、大量の魔石が盗難されていた。不思議なことに魔石泥棒は他の宝石類には目もくれず、魔石のみを狙って犯行に及んでいた。確かに魔石からは宝石には無い、神秘的な輝きが放たれている。その独特な輝きが好きで魔石コレクターがいるくらいなのだ。
俺たちは事件が発生していることは知っていたものの、自分たちの修行の方が大切だったので次第に事件のことは頭から離れていった。
俺はティナとの組み手が減っていた。その減った分は、ファイとの組み手に変わった為である。
ファイは決して自分の強さを誇示しない。それどころか、ファイは俺の為にいつも俺よりも少し高いレベルの強さを発揮してくれている。
勿論、俺は全力を出している。これがどういった意味を表すのかというと、明らかに強いレベルの者との組み手では成長の度合いが低い。
それに対して、自分の限界値よりもやや強い者との組み手は成長の度合いが高くなるのだ。筋トレでも同じことが言える。明らかに負荷が高すぎると筋肉を傷めてしまうし、回数をこなせない。
一方、やや高い負荷であれば筋肉には適度の負荷がかかり傷めにくいし、回数をこなすことが出来る。ましてやファイには、天空の力と光の力が効かない。
他の力も効かないんじゃないか?とかって思うのだが、それはまだ聴けていなかった。それにより、俺が強力な技を試す相手として絶好なのだ。
俺の修行の場は今、暗黒空間リアトリスになることが多い。リアトリス外に被害がいかないように、二重のガードを事前に設置しておけば思う存分力を発揮することが出来るのだ。
キャンティには新たに超電磁リングBを作ってもらった。
今まで使っていた超電磁リングはAと名付け、色は赤色にしてもらった。
これは俺とキャンティの工房とをつなぐもので主に使用している。
この度作ってもらった超電磁リングBは色を青にしてもらって、俺とリアトリスとをつなぐものとして使っている。
ブラールもヒマを持て余しているので、俺たちが訪れると大歓迎してくれるのである。日々の組み手で俺は明らかに成長していた。それは組み手をしていないティナにも理解は出来ていたが、俺との組み手は一種のコミュニケーションの場として彼女は楽しんでいたのだ。
その機会がガクッと減ってしまったのだ。それはティナのストレスとなり、最近は機嫌が悪い時が多い。
「カイト!早く買い物に行こうよ。いつまでもたもたしてるの!ファイ!あんたの魔槍、最近手入れしてるの?ホントに二人ともだらしがないんだから!」
とまぁこんな感じである。仕方がないので、定期的に俺がケーキ作りを一緒にやろうとティナを誘うのだ。料理作りが元々好きなティナにとって、ケーキを作るのは楽しいらしい。
しかも、俺と一緒に作るのだ。組み手で取れなくなったコミュニケーションをここで補うことが出来る。正に一石二鳥の作戦である。
しかし、ファイもケーキ作りには興味があったようで、横で見よう見まねで作っている。俺とティナの邪魔にならない場所でのケーキ作りなので、うまくいくはずがない。
それでもあいつは努力家で、少しずつ旨いケーキが出来るようになってきたのだ。
まだまだ、俺のケーキレベルまでには達していないケドね。
俺とファイは毎日関わっている中、いつしかマブダチ以上の関係になっていた。俺はファイの気持ちが解るようになってきたし、ファイも俺の気持ちが解るようになってきていた。
勿論、ヴァンやゲンとの関係が薄くなったわけではない。あいつらとは定期的に連絡も取っているし、ゲンに空間転移してもらって会うこともしばしばだ。
ティナは俺とファイの関係に少し焼きもちをもちながら、たまに行うデートの時にはめっちゃおしゃれをしてきて俺を驚かせる。そして、周囲の目を釘付けにするのだ。そりゃ、トップモデル顔負けのルックスとスタイルのティナがめっちゃおしゃれをしてくるのだ。
一緒に写真を撮ってほしいと頼まれると快く受けて神対応、それがSNSでも評判らしい。
そんな彼女が愛おしいし、出しゃばらない奥ゆかしさも素敵だなと思う。
俺は久々にゼロとレイちゃんの二本の魔剣を取り出した。そして、潜在魔力の高さを比較してみる。
「おっ!ゼロ、お前レイちゃんには少し及ばないが大分その差が詰まってきたじゃないか。やれば出来るんだな。レイちゃんも更にレベル上がったな。俺の騎気も少しずつ上がっているが、今は正直伸び悩んでいるかもしれないな。何か騎気の壁みたいなのを感じるんだよ。」
「カイ、お前面白い魔剣を二本持っているな。そっちの魔剣、ゼロっていうのか?お前、【人魔合身】が出来るんだろ?カイ、俺と合身してみないか?」
あっ!すっかり忘れていた。ゼロの能力【人魔合身】出来るのは知っていたが、まだ未体験であった。確か十倍の能力発動になるんだったっけ?
今の俺と魔王ファイの合身・・・これが十倍になったら、とんでもない強さになるんじゃないのか?その前に聴いておこう。
「おい、ゼロ。人魔合身って継続時間はどれ位なんだ?」
《うむ、人魔合身のタイムリミットは五分間だ。その後は一時間あけないと再び人魔合身は使えぬからな。時間は気をつけないといけないが、そのパワーも気をつけなければならないぞ。》
五分間か・・・微妙な時間だが、緊急事態の時には使えるかもな。俺たちはリアトリスに移動して、人魔合身を試みる。
俺とファイは手と手を取り合い、気の波長を一つに合わせて叫ぶ。
「人魔合身!」
俺のブレス内にあったゼロが媒体となり、俺とファイの体が赤く光りだす。ファイはこの時は騎気へと気を変化させていた。
こいつは波気、魔気、騎気へといつでも瞬時に気を変換出来るのだ。流石は魔王。であるならば、一気に四倍の強さになれる騎気がベストだよな。
通常の人魔合身であれば、人間の気と魔族の気を合わせるので波気系と魔気系でしか合身は発動しない。
だが、騎気は波気と魔気がスパイラル状態になったものなので条件をクリア出来るのだ。俺たちを包み込む赤い光が消滅し、一人の人魔が誕生した。
見た目はほぼ人間だが、その存在感は最早人間ではない。
ファイの魔槍は背中にそのままある状態で、ゼロとレイちゃんは俺のブレス内に存在している。
「こ・これが人魔合身・・・」
俺の中で、今までに感じたことのない異質な気の流れを感じる。それは、最近感じていた騎気の壁を遥かに超越したものであった。
突然、念波でクロちゃんが教えてくれた。
《これは王気じゃな。カイくん、生命体としての最高位の気じゃよ。騎気と比較したら、王気は騎気の最大三十倍までパワーを出すことが可能になる。人間は波気から騎気へと昇格が可能じゃ。だが、騎気とは選ばれし者のみが可能な気と言われており、人間は本来到達が非常に困難。その選ばれし者が限界を突破したその先が、この王気じゃ。カイくんが単独でこのレベルになるのには、まだまだ上を目指していかなければならないのう。》
この異質な気が王気・・・
俺は試しに、目の前を軽くデコピンしてみた。圧縮された気弾がリアトリスの壁を突き破り、外のガードにぶち当たり爆音となってこだまする。
おいおい、この気弾ってハンパないぞ。観た感じ、斬光・撃雷・超電磁気・灼熱なんかが圧縮された超危険なもの・・・
俺は灼熱の力は無いのだが、他のプラズマ系の干渉で灼熱が生まれたようだ。
軽いデコピンでこの威力かよ。全力でパワーを放出したら、一体どうなることやら・・・王気発動は、ファイの力が大きいのは理解で出来る。
この試技には感謝だな。目指す出口が見えたのだ。
最近は騎気の壁にぶち当たっていたので、俺もこれ以上の気のレベルアップが可能かどうか疑心暗鬼だったしな。
ついでにファイの魔槍キュベルを手に取ってみた。
「何だ、この魔槍!全てを貫くような圧倒的な魔気を感じるぞ。ファイ専用というのも納得できる。ファイでなければ扱えないのだろうな。」
だが、次の瞬間キュベルはドリル状に変形したのだ。
どうやら、俺の王気を喰らって進化したようだ。その中心部からは、王気が循環しているのが感じられる。
最早、言葉にならないな・・・
さっきの魔槍状態と比較したら、パワー自体は感じられないがサイズはいくらでも変化し巨大ドリルになるようだ。
しかし、無駄な部分が無くなりシンプルになった感じだ。恐らく実際に使用する時は、その秘められたパワーが一気に発動されるのだろう。
そうこうしていたら、人魔合身のタイムリミットになり、俺とファイの合身状態は解除された。
「おい!カイ、凄かったな!オレもあの王気にはビックリしたぞ。新感覚で無限のパワーを感じられた。キュベルの変形は現状出来ないが、ドリル状になったときの巨大化は無限のパワーを生み出すだろうな。」
とてもスゴい合身だったが、妙に虚脱感を感じる俺。あのレベルを目指していく目標が出来たのは収穫だったが、この虚脱感は何なんだ?
ある意味、これが合身に対しての反動なのだろう。
思うような動きが出来ない・・・
ファイはそんなことがないようでケロリとしていたが、恐らく俺がメインでファイがキッカケ的な存在だからであろう。
これは時間制限があるし、反動もあることが解った。
無闇に使っては後々困ってしまう可能性があるな。人魔合身は封印しておいて、大ピンチの時のとっておきの切り札として使っていこう。
俺は今後の方針を考えた。次は天魔にチャレンジだ!
現状、俺自身伸び悩んでいるが、偉大な相手とバトルをすることで何かキッカケを掴めるかもしれないと思ったからである。