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第十七話 挑戦

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 よろしくお願い致します!

 俺たちはキャンティを念波でリアトリスに呼び出し、キャンティの工房まで空間転移してもらった。

「それにしてもヴァン、お前のブレス・・・やっぱおかしいぞ!」

 俺は唐突にヴァンに言い放った。

 ヴァンは何のことだ?と言わんばかりの表情だったが、俺が何かを感じたことにすぐに反応したのだ。

「カイ、どうした?俺サマのブレスの何がおかしいんだ?全く違和感ないが?」

《そうだよ~ウチはブレスの中にいるケドさ、いつもと何ら違和感ないよ。》

《カイトの勘違いじゃないの?二人がそう言ってるしさ~。それとも、二人でも感じられないめっちゃ微妙な変化を感じたの?》

「あぁ、デルタの石がセットされてから、何かが変化した感じがするよ。いや、正確には変化の兆しかな?」

 

 俺は不確かなことではあったが、やはり気になった感覚なので皆に伝えた。するとブレス内で振動が始まったのだ。それは、俺のブレス内で結合魔動石が出来た時と同じ現象だった。

 二つの魔動石の激しいぶつかりあいが終わり、ゆっくりと液状化して一つの結合魔動石が誕生した。

「おいおい、何かスゴいことになったぜ。ブレスが振動して終わったって思ったら、ブレスの石が一つ減っちまったぞ!」

 俺もいきなりの出来事に驚いてしまったが、ブレスの生みの親であるキャンティに質問をした。

「おい、キャンティ。結合魔動石って二つでも誕生する可能性はあるのか?」

「ん?二つで結合魔動石?ないない!そんなことは理論上有り得ないよ。結合魔動石っていうのはね、三つの魔動石の優れた所が複雑に融合してナイスバランスになった状態でなるものなの。二つだったら、どちらかの能力が絶対に特化してしまい、その融合は有り得ない。それがヴァンのブレスで今起こったのか?信じられんぞ・・・」

 

 キャンティの解説を皆が聴いたが、デルタは不敵な笑いを込めて念波に入ってきた。

《フッ!案ずるな。全ては私に任せておけば良いのだ。ヴァン、お前の炎の力は私の風の力と融合して【風炎】として生まれ変わったのだ。ハッキリ言ってお前の炎の力よりも私の風の力の方が遥かに強い。だから、私がお前の炎の力にピッタリとレベルを合わせたのだ。これはお前の炎の力が上がっても私がそれに合わせていくから問題ないぞ。私が騎気の持ち主だからこそ出来たのだ。感謝しろよ。》

 

 えっ?と思うようなデルタの発言。

 俺がそう思うのだから、ヴァンやリンにとってはそれ以上のサプライズだろう。確かにヴァンのブレスを観ると【風炎】の文字が入った石があった。でも、フツウは【炎風】じゃないのか?何で【風炎】なのか?

 

 デルタの話は続く・・・

《色々と疑問はあるだろうから、説明してやろう。まずは風炎だが、これは私の力の方が上だから炎風ではない。まぁ、当然だな。次に騎気についてだが、カイも騎気持ちだがお前は思考能力が元々極めて高かったのだろう。それにお前自身の気に対する尋常ではない努力があって波気と魔気のスパイラルをうまく使いこなせていると私は推測する。本来騎気は人間では絶対に使いこなせないし、魔人の中でも限られた者にしか使いこなせないのだ。》

 デルタはこんな説明をしてきたが、恐らくその表情はドヤ顔だろう。

 

 俺が知っている魔人・・・

 キャンティとブラールは魔気を使っていて騎気は使えていない。他の魔人にはまだ遭遇していないが、恐らくデルタの言う通りなのだろう。騎気は魔気の四倍の力がある。

 それだけで、デルタの強さを裏付けるものがあるし、覚醒魔人のスキルの高さを感じさせる。何故ならば、自らの考えで半強制的に結合魔動石を作ってしまったのだから・・・

《これでヴァンが狙っていた【熱風】の魔獣とも互角に戦える可能性が上がったろ?実は私も楽しみなのだ。【風炎】と【熱風】のどちらが強いのかということが。同類の力だが、太陽風の磁気がパワーの私の方が強い風だとは思うがな。何で結合魔動石を作り出したかって思うだろ?通常ならば、技は一つずつでしか発動出来ぬのだ。折角相性が良い炎と風だ。同時に複合技として使っていかなければ勿体ないだろ?》

 

 俺たちは更に驚いた。

 デルタの奴の独りよがりの行動かと思いきや、ヴァンのことを思っての行動だったのだ。

「お前、そんなことを考えていたのか?俺サマにはそこまでの思考がなかったぜ。流石に覚醒魔人はレベルが違うな。」

 ヴァンはデルタのことを褒めるのを忘れていない。自分の仲間を褒めていくことは、とても重要なことなのだ。その気にさせることで、次なる成果にもつながる可能性が高まる。

 これはゲンの教えでもあったが、忠実に実行しているヴァンが微笑ましい。

《でもさ、デルタ。もし、ヴァンが熱風の力をゲットした場合、またそこで結合魔動石になるのかな?ウチはよく解らんケドさ。》

そう言われて、すぐに答えられないデルタ。風炎と熱風・・・確かに似た感じの能力だ。

 結合して更なる力をもった石に変化する可能性はあると思う。

《それって、きっと【風牙】の力になるよ~。あたし、そんな気がする。なんか楽しみだね~!》

 

 キャンティは驚いた。

 ティナが満面の笑みで風牙の言葉を発したことに。古の魔界文献に風牙の言葉が記載されていたことを思い出したのだ。

 しかし、それは【究極の風】を示していただけで、その具体的な内容までは記載されていなかった。

 今誕生した風炎と強大な力を持つと言われている熱風がもし結合したら、その風牙になるかもしれない。

 キャンティはゾクゾクした。自分が作ったブレスが古の魔界文献に出てくる究極の風を生み出すかもしれないのだ。

 鍛冶師冥利に尽きるな・・・

 キャンティは剣の達人ソードマスターであると同時に鍛冶師としても超一流だ。科学工学を駆使して、時にはAIを用い、時には古の魂をも復活させるという二刀流の魔人。カイたちに出会ってからは、キャンティの魔人生は激動の連発だ。

 まさか自分の剣の魔動石を託す人間に出会えるとは夢にも思ってもいなかったし、それがレアな結合魔動石にもなった。

 そして、今回は自分が作ったブレスで究極の風の能力を持つ風牙の力が誕生するかもしれないのだ。ここウン千年間は、こういった刺激的な日常は全くの皆無であった。

 それだけにキャンティのアドレナリンは大量に分泌され、心拍数は増加される時が多くなった。

 カイたちに感謝だな・・・


 ここは異次元のとある場所・・・

 ゲンはブレス内にキールを転移させて単身で空間転移してきた。ブレスには竜水晶をセットした。そして、プラズマスターを念ずる。

 示されたホットラインに従ってやってきた場所、それがココであった。異次元といっても、それは場所場所で全く異なった環境である。目の前に広がるのは活気あるイベント会場。そこでは、スーパー・ネイリスト・フェスティバル、略してSNFが行われていた。

「SNF?キール、なんかSNSと間違いそうだね?」

《うふっ!そうですね。でも、なんかココはスティール星と似た感じがしてわたくしは好きな雰囲気です。》

 確かに、ココはスティール星とよく似た感じの場所だ。

 

 異次元獣は人化が出来る。

 何故、人化をする必要があるのか?それは人化の方が気の消耗が少なくてすみ、非常に合理的な生活に繋がるからだ。異次元獣は魔族だが、魔人と異なり、戦いを好む者が比較的多いという。

 しかし、そうではない者も当然存在するわけであり、一概には決めつけられないのだ。


 ただし、戦闘を好む異次元獣が人化をしている理由をもっと深く考えると二つ考えられる。一つは、急なバトルになっても気の消耗が少なければ戦いには余力が出るということ。

 もう一つの理由は、相手を油断させることが考えられる。まぁ、どちらにしても注意に越したことはないんだケドね。

「ブレスが指し示した場所がこの会場か。ここでホットラインが切れてしまったので、半径五十メートル内には目的の異次元獣はいると思うんだケド・・・しかし、これだけ人がいると最早お手上げだね。ここはこのイベントを楽しもうよ。こういった機会もナカナカ無いじゃない?」

 キールはそう言われるとブレス内から外に転移してきた。

「そうですね。何かデートをしているようで嬉しいですわ。どこから回りますか?」

「ボクはネイルに関しては全く無知なんだよね。キールは詳しいのかな?」

「わたくしもネイルは未体験です。今日はまず見学からしていきましょうね。」

 二人はそんな会話をしながら、会場の端から回っていった。そこでは、特別人気のあるネイリストたちによる共演が行われていた。

 それは、パフォーマンス的な感じで一人の女性客に対して行われていた。いくつかの作業工程を流れ作業として数人で分担していたのであった。


 ゲンはそれを注意深く見つめる・・・

 ゲンの観察眼はフツウの人とは異なる。手足の動かし方、呼吸のタイミング、指先の角度、道具の選択方法とその微妙な使用状況・・・面白いな・・・デザインも無限だし、何よりも相手に対して自分がアーティストになれるのがイイ。

 ゲンは観察眼を途切れさせることなく、様々なケースでのネイリストたちの対応方法を吸収していった。

 爪の長さと表面を整え、甘皮を処理し、保湿やコーティングをするのが基本・・・

 なるほど、でもやり方は人それぞれか。一緒に観てきたキールの関心度は高い。やはり、キールも女性だね。でも、ネイルまで気にしなくても、君は十分に美しいよ!と心で思うゲンであった。


 イベント会場の奥の方では、【ドキドキ!チャレンジコーナー】というのが大々的にやっており、ゲンの興味を引いた。

「キール、これにチャレンジしてみたいと思うんだけど、少し待っていてもらえないかな?」

「ゲン、ネイルは未経験なのですよね?大丈夫ですか?さっきまで、他の方がやっているのを真剣に観ていたのは知っていますが。」

「安心してよ。チャレンジだから、失敗しても問題ないしね。まぁ、初めてすることだし楽しんでくるよ。」

 キールはゲンのチャレンジを実は楽しみにしていた。ゲンがこういったことに関心をもち、自ら動くときは何かしら考えがあってのことなのだ。

 キールはワクワクしながら、観客席でゲンの様子を見守る。


 チャレンジコーナーでの受付・・・

 ここでプロフィールの登録を行う。ゲンは戸惑うことなく、ありのままの真実の情報を登録した。

 ここは異次元、恐らく自分以外は異次元獣、魔獣、魔人であろう。そんな世界に人間が単身で来た!なんてことになれば注目を浴びるだろう。

 空間転移や瞬間移動以外はゲンに特殊能力は無い。あるのは器用さと巧みな話術くらい。ある意味、無謀すぎる行動だがゲンには思惑があった・・・


 自分はホットラインを伝って、ココに来た。ホットラインは一方通行ではない。相手であるプラズマスターにも、自分が接近してくることは察知されているハズ。

 そこで敢えてこのイベント、SNFにプラズマスターは誘ってきたのだ。遠くから様子をみるか、接近してきて自分のことを理解しようとするかのどちらかが考えられる。もし自分が相手の立場なら、どう考えるだろう・・・


 プラズマ系の操作が自在である以上、その能力さえあればバトルになれば相当な強さだ。そんな強さを持っているならば、無意味なバトルは自分からは仕掛けないだろう。バトルをする時は何かを守る為か、どうしようもない状況の時に限られる。

 

 そんな性格のプラズマスターだ。わざわざ、こんなイベント会場に誘ってきた以上、自分に興味があると考え必ず接触してくるハズだ。

 何故ならば、遠くから様子をみるだけじゃ、その楽しみが半減されてしまうから・・・

 このイベントは参加者がスラックラインを片足でしながら、特殊ドローンを操作していく。その特殊ドローンを使って女性客にネイルをしていくという、かなり難易度が高いものだ。

 スラックラインとはベルト状のラインの上を歩いたり飛んだりする綱渡りスポーツ。この不安定な足元の中でドローンを操作し、ネイルを行うのだ。

 集中力、運動神経、ネイリスト力のどれかが欠けても決してレベルの高い作品は出来ない。


 イベントでは百名の参加者が一気に参加出来る。参加者各々のプロフィールはAIによって瞬時にデジタル処理がされ、女性客が自由に閲覧出来る仕組みだ。

 女性客はその情報を元にネイルをイベント参加者に希望していく。ゲンは人間でネイルは未経験、特技は器用さと話術。

 このような情報だけを発信したのだ。フツウならば、このような者にネイルをしてもらおうとは思わない。何故ならば、女性客は最低五千エンドをそのパフォーマンスに対しての報酬として支払わなければならない。

 だが、納得いくパフォーマンスでないと女性客が判断したのであれば、その報酬は支払わなくても良いのだ。

 パフォーマンスをする前に、参加者と女性客とでお互いを知る為のフリータイムがある。それはあくまで、参加者に興味がある女性客がいての話であるが・・・


 さてさて、ボクに興味があるお客様はいらっしゃるのかな?爽やかなスマイルで待機していたゲンであったが、【ネイル未経験】が最大のネックになりゲンを希望する女性客は二名だけであった。

 ちなみに参加者が九十八名いた中で、ルックス人気ナンバーワンはぶっちぎりでゲンであった事はスゴいことである。


 そして、フリータイム・・・

 ゲンの前には女性客が二名いた。一人目の女性客は多少せっかちで、あれこれゲンに質問をしてくる。

「彼女っているんですか?」

「私は異次元獣なんですが、やっぱ人間じゃないと違和感ありますか?」

「ネイル初めてのようですが、自信あるんですか?」

 怒涛の質問に笑顔でさらりと答えるゲン。その辺の所はゲンらしく、優しい対応であった。ゲンからの質問は特になく、ゲンは彼女の手のひらに手を合わせたいということだけを望んだ。

 手相を観るように手を合わせるゲン。

 時間にして十秒もかかっていなかったが、それだけでゲンは十分であった。

「あの~私に質問なんかは無いんでしょうか?ネイルの好みとか好きな色とか、解った方がこの後に活かせるんじゃないかな~?って思うんですが。」

「大丈夫だから、ボクに全てを任せてよ。よろしくね。」

 そしてパフォーマンス本番。スラックラインを片足で行うゲン。それは微動だにしない状態で特殊ドローンを操作する。九十八名同時に参加者がパフォーマンスをしていたが、ゲンのその安定感はピカイチであった。

 まるで体操選手のような体幹と集中力。

その素晴らしさに観客たちは魅了され、拍手が巻き起こった。それを観客席で観ていたキールはウンウンと頷き、誇らしげに想う。

 

 そして、メインのネイル。

 ここでゲンは彼女と手を合わせた時に得た情報を活かしていく。

 ゲンは波気をコントロールして、彼女の魔気を感じ取っていた。

 彼女の性格、好みの色、好きなデザイン、過去にしたことがあるネイル・・・これらは魔気を情報源としてゲンに伝わった。

 そして、今回彼女が望むネイルの実践。

 初めてとは思えない作業の正確さとセンスの良さ・・・

 しかも、それは自らの手ではなく、特殊ドローンを通じてのものであり、不安定なスラックライン上での行動・・・

 

 そんな悪状況の中で完成された作品。

「わぁ~ありがとうございます!これですよ、これ!私はこういうのを望んでいたんです。ありがとうございました。ネイル、初めてって言ってましたがホントはプロなんじゃないですか?」

「イヤ~喜んでもらえて良かったよ。ネイルはホントに初めてなんだよね。今日、やり方の基本を観させてもらって、自分なりのやり方でやってみたんだ。こちらこそ、ありがとう。」

 彼女は報酬として一万エンドを払おうとしたが、ゲンはそれを受け取らなかった。

「ボクは素人・・・これを受け取るわけにはいかないよ。その代りといってはなんだけど、あそこの募金箱に、このお金を入れてもらえないかな?ここでの募金はお金がなくて、道具が買えないネイリストさんたちに渡されるって聞いたから・・・こんな素晴らしい職業をもっと発展させるためにも、必要な方の為にこのお金を使ってほしいんだ。」

 これを聴いた彼女は感動のあまりに涙が零れ落ちる。

 その一部始終は観客たちも観ていたので、ゲンが彼女を泣かせたというわけではないのは共有されていた。

 ゲンの心の素晴らしさに観客たちの惜しみない拍手と歓声が響き渡る。

 キールは、再び黙って頷いていた。流石はわたくしのゲン・・・

 最初は一番魅力ない参加者だったのに、最後には一番素晴らしい結果をもたらしたわ。


 そして続く二人目の女性客・・・

 黙って手のひらを差し出す彼女。

 それに黙って応えるゲン。

 ゲンの手のひらが彼女の手のひらに触れ、ゲンの波気が彼女の魔気を読み取っていく。

「ありがとう。ところでキミからの質問は何かないのかな?ボクで答えられることは答えるよ。」

「私からは特に何もないよ。先程のお前の行動を観て、不安は何もない。よろしく。」

 言葉は少な目だが、真っすぐな目線でゲンを見つめる彼女。そして、始まるゲンのパフォーマンス。再び安定したスラックラインと特殊ドローンの操作。

 しかし、特殊ドローンはこの場を離れ、しばらくして何やら箱のようなものを運んでいた。

「よし!完了。」

「よし!じゃないよ。私のネイル、まだじゃないか。さぁ、頼むよ。」

「キミのネイルはもう完成しているよ。その箱の中にね。」

 彼女も周囲の観客もゲンが言っていることの意味が解らなかった。

「キミはネイルを心から望んではいなかった。ネイルとは爪に負担をかけてしまうもの。爪を削ることが必要なのに、キミはそれを嫌がっていた。爪を削らない方法のネイルもあるよね?でも、それは作品としての寿命は短い。要はモロいんだよ。だから、ボクは飾ることが出来るテイクアウトのネイルをキミの為に作ったんだ。」

 

 それを聴いた彼女は目の覚める想いをした。

 確かに自分はそう思っていたと・・・

 そして、ゲンが作ってくれたネイルが入った箱を開けてみた。

 それは決して派手な作品ではないが、彼女の心を引き付ける魅力を存分に発していた。

「う・美しい。この悪条件で、こんなにも精工で美しいネイルが作れるものなのか?しかも、ここから離れた場所でモニター越しでしか確認出来ないのにだ。有り得ない、頭に浮かんだイメージが特殊ドローンを巧みに操作して具現化出来るなんて・・・。」

「イヤ~ドローンの操作は慣れていたんだけど、流石にこの細かい作業をモニター越しで感覚だけで行うのは苦労したよ。でも、お陰様で実に充実した時間を過ごすことが出来て、ボクも満足だ。ありがとう。」

 ニッコリと微笑むゲンに心から癒される彼女・・・

 周囲の観客たちからも先程以上の拍手が送られる。

「おい、これを受け取ってくれないか?私からの報酬だ。」

「イヤ、お金なら先程の方と同じく募金で頼むよ。ボクはチョッと人探しをしているので、これで失礼するから・・・」

 

 それでもゲンの行く手を遮る彼女。

 彼女は差し出した手のひらを開くと、そこには超魔石がキラキラと輝いていた。

「私がお前の探していたプラズマスターの力を持つ、シャインだ。お前なら我が力を託すに相応しい。この力は莫大過ぎてな、コントロール出来ずに体が崩壊してしまう奴も今までにはいたのだ。だが、お前ならば大丈夫であると確信した。それにお前の魂は清らかで純粋だ。先程、手を触れたときに察知したよ。お前の旅の目的も利他的なものだしな。」

「キミがプラズマスター?ボクはここにはいないと思っていたよ。手の平から感じられた魔気からは、そういった情報は全く感じられなかったしね。キミの爪を削るのは非常に困難であるとも感じたけど、その理由が解かったよ。キミは特殊な体なんじゃないの?」

「よくそこも感じていたな。流石だ・・・私は、プラズマ系に関わることが今まで多すぎたゆえに手足だけはプラズマが凝縮した状態にも変化が出来るようになったのだ。」

「それはスゴい。でも、良いのかな?キミは本来、戦いは望んでいない。ボクも戦いは望んでいないが、必要な状況になれば戦うことになるし、キミを巻き込んでしまうことになってしまうよ。」

「案ずるな。お前が言うように、私は平和を望んでいる。今の宇宙全体は平穏だ。しかし、お前が危惧するような可能性も否定は出来ない。もし、私の力を使ってその平穏が保てるのであれば、喜んで協力しようじゃないか。」

 ゲンは頷き、シャインの石をブレスにセットした。そして、試しに拳にプラズマエネルギーを集中させてみた。

 拳はオーラで覆われ光輝き、その攻撃力や防御力はゲンには十分に予測できた。

「これが魔気か・・・波気とは同類だね。これならば両方扱えそうだ。」

 ゲンはそう言うと瞳を閉じて集中力を高める。気を練って波気と魔気を均一にコントロールするゲン。そして波長がピッタリ一致した瞬間に波気と魔気はスパイラル状態になり、騎気が発動した・・・

 ゲンの気は今までの四倍となり、一気に成長を遂げた。

「こ・これは!お前、騎気になっていないか?人間では有り得ないぞ。選ばれし上位魔人クラスでやっと得られる気だと聴いている。」

「そうか・・・イヤ~実はボクの親友が既に騎気を使いこなしているんだよね。人間なんだけど、気の力はボクよりも段違いに高い奴なんだ。」

「な・なんと!お前以外の人間が騎気使いとは。騎気はただ単に高レベルの気を使っていても発動しない。純粋な波気でどんな魔気をも掌握しコントロールしきらないとダメなのだ。故に人間の精神力では不可能。人間とはその程度の者だと魔族は思っているのだからな。今度、そいつに合わせてくれ。」

「OK!カイっていうんだケド、天空の力をベースに結合魔動石の斬滅極を持っているよ。あいつの成長力は素晴らしいし、シャインもきっと気に入ると思う。今はもう一人の親友、ヴァンの為に魔界に行って風魔とバトルしているんだ。」

「フッ!スゴすぎて言葉が出なかったぞ。天空の力って噂に聞く破壊竜のことか?斬滅極っていったら、光と剣の力も得ているというのか?マイがよく人間に心を開いたな。あいつが他人に力を託すことは絶対にないと思っていたぞ。それに魔界でデルタとバトルしているって?あいつは覚醒魔人だが、その強さはこの異次元にも広まっている。お前たち、最早人間の域を完全に超えているな。」


 ゲンは誇らしかった。

 親友のカイが褒められたこともそうだが、自分たちが歩んできたことが異次元の強者にも認められていることに・・・

「それでお前はこの後、どうするんだ?まだ考えている能力があるのか?異次元のことならば、ある程度は協力出来るかもしれないぞ。」

「うん、ありがとう。今考えている力は二つあるよ。でも、これは時期尚早だと思っている。ボク自身がもっと強くなることも必要だし、その内の一つはカイとヴァンの力が必要なんだ。だから、二人にももっと強くなってもらわなければならない。まずは君の力を完全に使いこなせないとだね。しばらくはこの辺にいて、君にも修行を付き合ってもらいたい。よろしくね。」

「解った、そうだな。独自に能力を使いこなす修行もアリだが、直接スキルマスターと組み手をするのが一番なのは確かだ。お前のパートナーにもちゃんと説明しておいてくれよ。」

 

 ゲンはキールと合流し、自分の考えを伝える。

 キールに反対する気持ちは皆無で、しばらくは人気の無い所での共同生活が始まるのであった。


 俺たちの旅は順調そのものだ。

 しかし、悲しい別れが俺たちに訪れる・・・

 出会いがあれば、別れがあるのも現実だ。

 解っちゃいるケド、天空を見上げグッと涙をこらえることが訪れるなんて予想だにしなかったから・・・

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