第十五話 激闘
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ヴァンはドキドキしていた。
初めてブレスに竜水晶をセットしてデルタを探すのだ。デルタの強さに自分は対応出来るのか?自分が考え出した必殺技は果たして効果があるのか?自分もデルタも不死身の存在である・・・
しかし、生死よりも恐らく格上と思える存在との一騎打ちにヴァンのアドレナリンは活発に溢れ出す。
「我が願いに応えよ!竜水晶セットオン!」
ヴァンはリンの竜水晶をブレスにセットし、風の力を検索する。
しばらくすると風の魔動石とのホットラインが繋がり、行き先を示してくれた。ホットラインには【魔界】の表記があり、今いる亜空間からの空間転移が必要だった。
「ゲン、お前は自分の目標を探してくれ。プラズマスター、だったよな?俺サマは力になれそうにないというか、今は全く余裕がない。こっちは心配するな。カイの持つ、超電磁リングを使って魔界に行って一発かましてくるわ。お前は時間を有効に使ってくれよな。」
「解ったよ。ヴァン、朗報を期待しているよ。何かあったら、ブレスで連絡するように。すぐに空間転移して駆けつけるので・・・カイ、ヴァンをサポート頼むね。」
「あぁ、心配するな。状況を考えて俺も出来ることを行っていくよ。」
《ゲン、大丈夫だよ。ウチがついてるんだからさ~。安心しててな。》
《リン、それが最大の心配かもしれませんよ。わたくしもヴァンとカイなら問題ないって思います。》
《ゲン、キール、あたしもついてるから大丈夫に決まってるじゃん。デルタなんてバーンって殴って、ドーンとブッ飛ばせばイイんだよ。ねっ!クロちゃん。》
急に振られたクロちゃんだが、とっさにVサインしつつ、その表情は苦笑いだった。
そりゃそうだよな・・・ティナの予測不能な言動には時々困る。本人には全く悪気がないのだが、巻き込まれないようにするのが賢明である。
「それじゃ、ボクたちはプラズマスターを目指していくよ。」
ゲンたちは空間転移でその場を後にした。俺たちも超電磁リングを使って魔界に移動した。
久々に来たキャンティの工房・・・
ゼロ、レイちゃん、グリフォンのチェックを行ってくれるというので、俺たちは魔剣三本をキャンティの前に並べた。こうしてみると明らかにゼロからは破格の魔気を感じる。一番最初の頃のゼロとは雲泥の差。
それは俺自身にも言えることで、昔とは比較のにならない位現在の状態は充実している。
レイちゃんはゼロと比べても遜色ないレベル。イヤ、今や同レベルの潜在魔気を感じる。こいつはゼロに遠慮して魔気を封印しているな。こんな短期間でよくゼロレベルにまで成長したと思う。
キャンティいわく、怠け者だというレイちゃん。イヤイヤ、キャンティが怠け者なのであって、レイちゃんはそうじゃない。それは、主が俺に変わってからの成長度合いが物語っている・・・
チョッとしばらくは二人を静観しておこう。
グリフォンの魔気は高めだケド、めっちゃ効率が悪いな・・・
恐らく、ヴァンに似たのだろう。気の練り上げが出来るようになれば、もっと強力な剣になるだろう。
「ゼロ、レイファリー、お前たち成長したな。剣自体も魔気でコーティングしているとは。
グリフォンもヴァンに似たのか、潜在パワーは相当なものがあるな。でもな、パワーだけじゃ相手にならない強者がいるのも事実だぞ。三人とも特に問題ない状態だ。」
魔剣三本はキャンティのチェックを終え、一時の安堵につく。
「なぁ、ヴァン。お前、デルタにチャレンジするのか?」
「あぁ、俺サマの現在の力を最大限に活かすのは風の力だとカイに言われてな。」
「デルタは破格の強さだぞ。今まで太古の破壊竜ティアラに負けた以外では誰にも負けていないと聴く。ヴァン、それでも挑戦するのか?」
「当然だ!高みを目指すのは男として当然。強い奴に背中を向けられるか。なぁ、カイ。」
えっ?さっき、俺のゼロトルネードから逃げたの誰だっけか?
ここで突っ込んだら、ヴァンの顔を潰すことになるので黙っておこう。
「あぁ、俺も立ちあって事を見届けるつもりだ。ヴァンにも必殺技があるらしいので、楽しみだしな。」
「そうか、気をつけろよ。奴は台風のパワーをも操るという噂だ。もし本当ならば厄介だぞ。」
俺たちはキャンティと別れ、ブレスのホットラインが指し示す方向へと飛んでいく。ヴァンは大きなピンクの翼だが、何となくお似合いだ。おかしなもので見始めの頃は見た目のギャップが激しく、笑いを押し殺していたが、今はそうではない。
そこには恥ずかしさは微塵も感じられず、むしろ誇りをもった翼という感じだ。リンとグリフォンとの絆がそうさせたのか、ヴァン自身が成長したのかは解らない。
おっ!そうだ。ヴァンに聴いてみたいことがあったんだ。
「なぁ、ヴァン。ブレスの改良後、竜水晶をブレスにセットした頃位から、俺とティナ、ゼロはお互いの思った事が念波や言葉を発しなくても理解出来るようになったんだ。お前たちもそういった変化はあったか?」
「イヤ、俺サマたちにはそういった変化は無いぞ。もし、それが出来るのであれば、バトルにおいてはお互いの意思疎通や相談なんかも瞬時に出来て非常に都合がいいな。」
《え~!ティナ、ズルいよ。ウチもヴァンやグリフォンとそういった関係になりたいわ。何かあれば毎回伝えようって思わなければならないって、とっさの時は絶対にパニくるじゃん。》
《そんなこと言ったって~あたしも何で出来るようになったんか解らないんだよ。カイトが解らないのにあたしなんかが解るわけないじゃん。》
そんな話が交錯する中、俺は再度冷静に考えてみた。俺に出来てヴァンには出来ていない。ブレス内に竜水晶をセットしているのは、同条件だ。だから、これは関係ない・・・
俺はてっきりこれが要因かと思っていたんだケドな。俺にあって、ヴァンに無いもの・・・
信頼関係っていう線も考えてみた。
しかし、今のヴァン・リン・グリフォンは俺たちと変わらない位の信頼関係にあるって感じる。だから、これも違うよな。
じゃあ、何なんだ?結合魔動石をゲットしたのは竜水晶をセットした次の日だったから、少しタイムラグがあってこれも違うな。
ん?魔動石か?キャンティの石とワイの石。
これは俺にしか存在しない。ヴァンには現状、ブレスにセットしてあるのはリンの石のみ。キャンティは魔人で魔人の持つ魔動石。片やクロちゃんは人だと思うが正直謎だらけだ。
ティアラとデルタの古のバトルをこと細かく知っていたし、おかめちゃんを被っても変化しない不思議さ、その他俺たちが解らない未知なることを聴けば何でも知っている博学さ・・・
もし、仮にデルタの石をヴァンがゲット出来てブレスにセットしたとする。
それでも、俺たちと同じ変化が起きなければ要因はワイの石って可能性が極めて高いだろう。これは見届けないといけないな。
俺はこうして、自分なりの考えをまとめた。勿論、この考えはティナやゼロと共有出来ている。
しかし、この時俺たちは知らなかった。もう一人、俺たちの念話をしっかり聴いている存在のことを・・・
相変わらず魔界は大気が重苦しい。
俺たちはデルタの元へと向かっていたが、俺はたまらず天空の力で大気をスティール星と同じ状態にした。なんと快適な大気だろう。やはり人間、育ってきた環境が一番心地よいのである。そんなことを思っていたら、目の前から突然バカデカい竜巻がやってきた。
俺はその竜巻から膨大な騎動力を感じていた・・・
「ヴァン、ヤバいぞ。どうやら、お目当ての方からわざわざ俺たちに会いに来てくれたようだ。」
「どうやら、そのようだな。膨大な力を感じるし、あの竜巻もヤバい。ものすごい威圧的な竜巻だぜ。」
ヴァンは騎気を感じないが、直感的に目の前の竜巻が異質なものであると思ったらしい。この竜巻は騎気でコントロールされている。しかも殺傷能力が高く、もし巻き込まれでもしたら体はズタズタにされ、フツウの人間や魔獣ならば即死であろう。
「お前、破壊竜か?」
竜巻の中から響き渡る大きな声。デルタであれば、元は女性で現在は性別ナシの竜人。
しかし、その声は威厳のある感じの女性らしきもの。
「あぁ、そうだ。俺は人間のカイ。今の破壊竜ティナは俺と共にある。お前、デルタか?」
「フッ!よく私を知っているな。いかにも、風神とも言われている風師のデルタだ。ちと、大気の質が変わったのでな、もしかして破壊竜がこの魔界に来たのではないかと確認に来たまでだ。天空の力でなければこういったことは不可能であろう。」
恐るべしデルタ・・・俺の騎気を感じ最速でここまで来たというわけか。
「おい、俺サマはヴァン。万物竜と共にある。お前とバトルをしたくて、はるばる人間界からやって来た。いざ、勝負をお願いしたい。」
「私は破壊竜と話をしたくやってきたのだ。お前とバトルする気はない。そもそも、お前の潜在パワーでは私を倒すのは絶対に不可能だ。」
圧倒的な自信と誇りの高さを感じる。
不老不死の体でティナの数倍の期間を生きてきたのだ。様々な経験をしてきているだろうし、相手を見極める能力にも長けていると思われる。
「俺は魔界に来たのは二度目だが、前回来た時も大気を変えたぞ。その時は、大気の変化を感じなかったのか?」
「あぁ、恐らく長期の瞑想に入っていた時だと思うよ。瞑想に入ると外気のことは一切気にしなくてな。」
「そうか、俺たちはお前と過去の破壊竜であるティアラの事は知っている。お前の実力は未知数だが、この騎気レベルはとんでもないな。相当の実力者と解るよ。でも俺たちには目的があって、その目的達成の為には是非お前の風の力が必要なんだ。それは俺ではなく、このヴァンにとって。」
しばらく俺たちを静観していたデルタであったが、俺が騎気を感じたことに興味をもったらしい。
「お前、騎気が解るのか?人間ならば波気、魔族ならば魔気が常識だ。騎気は選ばれし者のみに与えられる気。どうやって騎気を学んだのだ?」
俺は今まで抑制していた騎気を一気に開放してデルタに見せつけるのであった。もし、これで奴の興味を引くことが出来なかったら奴とのバトルは難しいと悟ったからだ。
俺が持つ騎気の全て・・・
恐らく初めてであろう、全開騎気の放出。そして俺のブレスからはゼロとレイちゃんの魔気も全開放出されていた。
これは俺が頼んだわけではなく、二人が空気を読んで独自に行ったものである。俺の騎気と魔剣たち二つの魔気がスパイラル状態になり魔界の世界に拡散した。
「な・なんと!人間が騎気使いだと?それも私と同格なレベルのもので。それに加えてこの二種類の魔気は何なのだ?お前、面白いな。」
よっしゃ!食い付いた!
「俺とバトルをしたくないか?同じ騎気を持つ者通しで。でも、俺とバトルする前にこのヴァンと一戦交えてほしい。実はさ、ヴァンはまだ魔人とのバトルの経験が無くて。経験させてやりたいんだよ、最高の魔人デルタと。お前なら一瞬で片付くだろ?そうしたら、俺と心置きなく戦おうぜ!お前がティアラとバトルしてた時と同じような充実感を与えられるかもしれないぞ。」
デルタとヴァンがバトルするには、この駆け引きしかない!って俺はこのやり取りの中で思ったので、途中でヴァンには念波で伝えておいたのだ。
ヴァンは正直面白くないだろうが、ここは作戦に乗ってくれた。
「そうだな、久しくバトルはしていないがお前とならば少しは楽しめそうだ。ナゼ、ティアラとのことを知っているのかは不思議だが。彼女とのことは誰も知らないはずなのだ。魔界の暗黒空間リアトリス内でのバトルだったからな。まぁいいだろう。おい、ヴァンとやら。準備が出来たらかかってこい。」
よし!ゲンじゃないケド、俺の話術も少しは上がってきたようだ。
それにしても気になる事を言っていたな。ティアラとのバトルが暗黒空間内だったって?そんな特殊な空間に行ける奴って限られてくるし、そもそもウン万年前の出来事だし・・・
その暗黒空間をぶち破って周辺を壊滅させたバトルってどんだけスゴいんだ?その詳細を知っているクロちゃん、謎が謎を呼ぶ・・・
暗黒空間は、リアトリスっていうのか。
何かミステリアスな名前だよな。
しかし、今はデルタに集中しよう。
「よし!決まりだ。じゃあ、そのリアトリスでバトルをしようぜ。その場所に俺も行ってみたいしな。それでだ、同じ過ちを繰り返さない為に一応俺がリアトリスの外側にバリアを二重に張っておくよ。絶対神ゼウスなんて邪魔者でしかないからな。」
何でこいつは絶対神ゼウスのことまで知ってるんだ?という表情をするデルタ。そんなことはお構いなしにデルタに案内される俺たち。場所をリアトリスに移しての壮絶なバトルが始まる。
俺たちはリアトリスに入った。
暗黒空間というだけあって視界が開けない特殊な空間であったが、時間が経過するにつれて徐々に周囲が見えてくる。
まぁ、俺が光の力を使えば解決する問題だったケド、能力の種明かしはしたくなかったので助かった。デルタいわく、何でもこのリアトリス内にも特殊な魔人がいるそうだが、こうしたバトルには干渉しないらしい。
全員をリアトリス内で待たせて、外側にバリアを二重に張る俺。ガードに破壊光を混ぜ込んだ、光のガード。大気の壁に破壊光をブレンドし、大概の物質や衝撃波、プラズマ系の干渉などはココで止めることが出来る。
その外側にはガードに一億ボルトの雷撃を混ぜ込んだ、雷のガード。仮に光のガードで処理しきれないものに関しては、雷の威力で消滅させる。
この二種類の特殊ガードがあれば、滅多な事では暗黒空間をぶち破っても魔界には損害は与えないハズ。俺はすぐにリアトリス内に戻り、ヴァンとデルタのバトルを静観する。
「よぉ、待たせたな。バリアは張ってきたからな、遠慮しないで全開バトルを楽しもうじゃないか。ヴァン、楽しみにしてるぞ。」
「カイ、サンキューな。このチャンス、絶対に活かしてやるぜ。リン、グリフォン、頼むぞ。俺サマに力を貸してくれ。」
《ヴァン、全力でいこうな。ウチ、期待しているからな。》
《拙者も最初から全力でいくぞ。期をみて、あれを仕掛けるからな。》
ヴァンはコクリと頷き、波動力を高めていく。一方のデルタからは騎動力や騎気はあまり感じられない。普段はセーブしていて必要な時のみ発動させるタイプのようだな。俺は自分を観ているようで、デルタの行動を注視する。
俺ならどういう行動を取っていくのか・・・自分の予測とデルタの行動を比較していく俺。明らかに経験値はこいつの方が段違い。
バトル最中の柔軟な対応も得意だろう。そんなことを考えていると、ヴァンは拳に波動力を集中させデルタに急接近していく。
「ヒートナックル!」
ヴァンの拳は熱拳となり、それを連撃していく。デルタをサンドバック状態にして連撃を繰り返すヴァン。
しかし、デルタはその圧倒的なスピードで瞬間的な回避を繰り返し、拳は一度も当たらない。ヴァンの方も諦めずに波動力を少しずつ上げていき、エンジンの回転数が上がっていくように連撃のスピードを上げていく。
先程まで余裕で熱拳を回避していたデルタだったが、徐々に余裕が無くなってきた。そして、自らの手腕の周りを小型のサイクロンで覆いヴァンの熱拳を打ち払っていく。
「くそっ!流石にナカナカ当たらないな。」
「イヤイヤ、今のは見事だったぞ。私にサイクロンを使わせるとはな。では、次は私の番だな。」
デルタの言葉を聴いて、少し間を取り身構えるヴァン。
「ウインディマシンガン!」
デルタは右手の人差し指のみをヴァンに向けていたが、そこから無数の風弾が撃ち放たれヴァンを襲う。
風弾の為に目視は出来ず、ヴァンに何かが当たる音だけが暗黒空間をこだまする。
「グッ!身体硬化を使っていたが、それでもこれだけのダメージを受けるとは。流石に格が違うか。」
「ほう、これに耐え得るとは驚いたぞ。流石はドラゴンの能力を授かっているだけのことはあるな。では、これではどうだ?」
デルタは先程とは段違いの風弾を撃ち放ってきた。スピード、破壊力ともに別物のそれはヴァンの意識を奪うのに時間を要さなかった。
《ヴァン、ヴァン、しっかりしろよ!まだバトルは始まったばかりだぞ。必殺技も出さずにここで負けちまうのか?ウチはそんなヴァンを観たくないぞ。》
リンの声が頭に響き、意識を正常に戻すヴァン。
「まだまだ、これからだぜ。」
「往生際が悪いな。ここで引いた方がお前の為だぞ。」
「へっ!俺サマはピンチになればなるほど、燃えるタイプなんだよ。こいつは効くかな?フレイムアロー!」
ヴァンの背中にあるグリフォンの羽が燃え上がり、連続した炎矢となって無数にデルタに向かって放たれ続ける。そのスピードはヒートナックルの比ではなく、デルタといえども余裕で交わすというわけにはいかなかった。
「サイクロン、うっとうしいから薙ぎ払え。」
デルタは裏拳を放つような構えを取り、サイクロンを腕から放った。次々とヴァンの炎矢はサイクロンに薙ぎ払われ炎は消失した。
「ゲッ!俺サマの炎矢が・・・次いくぞ次!」
「何をやっても一緒だぞ。お前も解っていると思うがお前の攻撃は炎系だろ?私の風系の攻撃とは相性が悪い。諦めたらどうだ?」
「イヤ、やっとエンジンがかかってきた所だぜ。もうちょっと付き合ってくれよ。」
今まで波動力を全開にしていたヴァンだったが、嘘のように波動力は感じられなくなった。瞳を閉じ、何やら内に秘めたるパワーをコントロールしているような感じだ。
「モードフェニックス!」
そう叫んだヴァンは何と今まで出来ていなかった波気をコントロールして、炎鳥に変化したのだ。
一羽の燃えさかる炎鳥・・・頭から尾までが激しく燃えている。その炎は赤色ではなく、青色。炎の赤は約千五百度、青は約一万度と段違いなのだ。
これは波動力ではムリな相談で、波気を練りこんで使いこなしてこその成果である。青の炎鳥は波気を使っての高速飛行でデルタを追い詰める。不死身で竜人のデルタも超高温の炎鳥には驚きを隠せない。
リアトリスには何も物体が無いのだが、もし仮に木や建物などがあれば一瞬で消失したであろうことが予測される。
「フツウの人間が竜姫の能力を授かったとはいえ、初めての実戦でここまで使いこなせるものなのか?それにこいつのタフな精神力と強靭な肉体・・・これからが楽しみだな。」
独り言ではあるが、ヴァンのことを見くびっていたことを認めるデルタ・・・だが、これでこいつのことを認めるわけにはいかない。
私もティアラとのバトルの時はこんな感じであった。敵うことのない相手とのバトルは自分を成長させるし、何ものにも変えがたい充実感を得られる。
そんな遥か太古の思い出をふとフィードバックさせながら、デルタは必殺技を繰り出すのであった。
「ヴァン、思いのほか楽しめたぞ。だが、これで終わりにしよう。一瞬でお前の意識も体も粉砕してやるよ。竜騎トルネード!」
「この時を待っていたぜ!出でよ、グリフォン!」
モードフェニックスから通常のフォームにヴァンは戻り、グリフォンをブレスから素早く取り出すとヴァンは両手で持ち天に掲げた。
グリフォンはヴァンが持つことが可能な大きさにまで変形し、ヴァンは翼を出し波動力で高速回転しながら天に舞う。
「こっちもいくぜ!ヒートトルネード!」
高速回転しながら、炎を全身にまとうグリフォンとヴァン。おいおい、これって俺がやってみせたゼロトルネードのパクリじゃん!
もしかして、必殺技ってこれのことなのか?さっきのモードフェニックスはナカナカの技だったと感心したのを後悔する俺・・・
パクリ技が元祖の技にどこまで通じるのかは見ものだけどな。でも、さっき使えていた波気はここでは使っていない。まだまだ、急仕上げというわけか・・・
「お前、私の技をマネして。だが、所詮私には通じぬぞ。」
数秒後、元祖とパクリの激突となる。
ドッガーン!!
激しく回転と回転のスキルがぶつかりあう。
「ふんぬ~!!踏ん張れ!グリフォン!」
《拙者の潜在パワーの全てをぶつけてるケド、全く押し切れないぞ。ちくしょう!どうなっていやがるんだ。》
グリフォンもヴァンも目一杯持てる力を出し切っている。
しかし、デルタにはまだ余裕が感じられた。それは波動力と騎気の違いが大きい。これが波気と騎気の勝負でも分が悪いであろう。それだけ騎気というのは格別であり、波気と魔気の混合で四倍相当の力を発する。単純に波動力は波気の半分位しか潜在パワーを発揮できない。
なので、計算上はヴァンを一としたら、デルタは八倍の力を発揮できるということになる。結果、ヴァンはデルタの回転力の餌食となり、敗北を喫することになる。
「お前、やっぱ強いな。予想はしていたが、それ以上だった。俺サマの完敗だ。」
「ヴァン、お前こそ私の予想以上だった。少し舐めていたことを詫びる。すまなかった。ラスト二つの技はもっと磨け。お前はもっと強くなれるぞ。」
ヴァンは苦笑いをし、少し離れた所にいるクロちゃんの元で休息をとる。
「ヴァン、お前よくやったよ。ここまで成長しているとは正直驚きだった。ワイはこのバトルを観れてラッキーだったぞ。」
「俺サマはやれることは全てやった。正直悔しいが、これからもっと高みを目指していくぜ。」
「お前は十分に私を楽しませてくれた。最後は私の技のマネのようだったが、よく思いついたな。」
「さてと俺の出番だな。イヤ~ヴァン、お前ホントに強かったよ。炎鳥は波気を使えていたな。波気をもっと使えるようになれば、もっと強くなれるぞ。お前の波気の流れは悪くなかった。」
「カイ、もしかしてお前波気が観えるのか?私でさえ観えぬのに。お前、何者だ?ただの人間ではあるまい。」
「イヤだな~俺はただの人間だよ。でも、波気や波糸は観えるし、使えるぞ。今は騎気や騎糸だけどな。上位魔人や魔王でないと観えないんだってな。別に観えても観えなくてもイイんじゃないのか?」
波気だけでなく波糸も観えるとは・・・波糸の存在はティアラに聴いて知っていた。
しかし、覚醒魔人の自分にはそれがどういったものなのか解らなかった。それを人間が観えるし使えるとは。どこまでも私を驚かせてくれる奴らだ。
面白い、ティアラが去ってからというもの自分には目標やライバルがいなかった。魔王は自分よりも格上だが、バトルには無関心な奴らばかりであったしな。
魔人や魔獣、人間、異次元獣とは幾度となくバトルをしてきたが、熱いものを感じさせてくれる奴はどこにもいなかった。そこにきてヴァンとカイの登場だ。
人間が魔界に来ていることにも驚いたが、ヴァンのレベルは上位魔人並み、カイはきっとそれ以上の存在であろう。あの方からの指示であったが、やはり意図あってのものだったか・・・
久々に血がたぎる・・・
「なぁ、デルタ。ここでただのバトルをしてもつまらない。そこで、俺とカケをしないか?バトルをしてお前が勝ったらティアラの子孫であるティナとのバトルをする機会を与えよう。俺が勝ったら俺の望みを一つきいてほしい。どうだ?悪い話じゃないだろう?」
ん!そうだった・・・
私はまだ破壊竜の子孫と会ってはいなかった。私の永遠の憧れの存在ティアラ。彼女の子孫とバトルが出来る・・・この上ない喜びがデルタを奮い立たせた。
最早、自分が敗れるなどとは微塵も思っていなかったのだ。
「いいだろう。そのカケにのろうじゃないか。私も久々に全力を出せる相手に出会えたようだしな。」
よっしゃ!食い付いてきた!
これで俺が勝てば俺たちの望みが叶うぞ!
《チョッと!カイト!勝手に人をカケの餌に使わないでよ。なんであたしがデルタとバトルしなくちゃならないわけ?なんかヒドくない?それに今のあたしはMAXパワーを封印されちゃっているんだよ。解ってるの?》
《ティナ、大丈夫だよ。俺は決して負けるつもりはないし。勝手にカケの餌にしてゴメン。でも、これが俺たちの目的を果たす最善の方法なんだ。解ってくれよ。この件が片付いたら、お前の望みを一つ俺が何でも叶えてやる!それでどうだ?》
今の俺たちは思ったことがストレートに共有出来るので嘘を言っても仕方がないのだ。ありのままの気持ちをティナにぶつけた。ティナからの反応はしばらく無かったが、一時して念話が届く。
《カイト、解ったよ。それでイイよ。カイトが勝った時の望みも考えておくね。カイトの心を覗いたケドさ、あたしへの愛情に変わりはないって解ったから今回だけは特別に許してあげる。感謝しなよ。》
ヒエ~、そんなことを考えて俺の心を覗いていたのか。まぁ、今回は俺が一方的に話を進めちゃったし、ティナへの気持ちに嘘はないしな。
《ゼロ、今回はお前がキーパーソンだぞ。俺が観た感じ、デルタは耐光効果があるようなんだ。恐らく絶対神ゼウスの神撃を食らって覚醒魔人として復活した時に得たんだろう。だから、光の攻撃や雷の攻撃は一切通用しないと思う。一応、小手調べでは少し使ってみるケドな。だから、天空の力とゼロトルネードの改良版でやってみるよ。頼むな。》
《承知した。そこまで見抜けるとはカイ、お前スゴイな。我には全く解らなかったぞ。》
《あいつの騎気を探ってみたんだ。そうしたら、耐光効果の情報が解ったんだよ。俺もこんなことが出来るようになって、チョッと驚いているんだケドな。》
ティナとゼロは安堵した。
自分たちの相棒が大物であるということに・・・
そして、リアトリスではこのあと壮絶なバトルが繰り広げられるのであった。