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第十四話 風魔

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 よろしくお願い致します!

《おーいクロちゃん、話は聴いていただろ?俺たちは風の魔動石を探している。知っている情報があったら、教えてくれないか?》

 俺はブレス内のワイの石に問いかける。

 普段はスリープモードでその存在感を全く現さないワイの石・・・

 しかし、俺の問いかけにはキチンと対応してくれている。石そのものの活動を示さないが、今回も念波だけが俺たちに届くのであった。

《やれやれ、風の魔動石か?随分と厄介な石を目指すことにしたな。まぁいい、ワイが今から話すことは全て真実だ。ティナちゃんは特にしっかりと受け止めて聴いてほしい。》

 クロちゃんがこんなことを言うのも珍しく、俺は違和感を覚えた。

 いつもならば気さくに知識を教えてくれるクロちゃんなだけに、俺は少し慎重に話を聴くのであった。


 クロちゃんの話はこうだった。

 時は遥か太古・・・人類は今と変わらない世界情勢だが魔獣は少し情勢が違っていた。魔獣は力を誇示したい者が多く、力の強い者に挑戦するのがステータスになっていた。

 しかし、人類にその力を向ける者はおらずにあくまで魔獣同士のいざこざであった。強者に勝利出来れば、それは魔獣の中では称賛され、その立ち位置は上位となる。逆に弱者は誰にも相手をされず、生きていても何も得るものがなく、ただいたずらに時間だけが経過し一生をムダにするのであった。

 魔王や魔人、一部の魔獣は不老不死であるが、一般の魔獣には当然ながら寿命がある。その限られた寿命の時間をバトルに捧げるのが太古の魔獣では常識であった。

 

 しかし、今は異なる。

 現在の魔獣は人類と共存し、支え支えられる関係にあるのだ。それだけ人類は魔獣には魅力的な存在になっている。

 製造分野、食文化、戦闘スキル、娯楽など・・・戦闘のみ特化した魔獣には到達出来ないレベルに人類は進化したのだ。これらを魅力的だと感じない魔獣は少なくなっているのである。それが、遥か太古での魔獣はオール戦闘モード。

 この時代でも三竜姫の存在は群を抜いていて、魔獣の中では憧れの強さを誇っていた。

 破壊竜ティアラ・・・ティナのご先祖様であり、この時代でのカリスマ的存在である。このカリスマに対して挑戦し続ける魔獣が存在した。

 リザードマンのデルタである。

 リザードマンは竜騎士であり、純粋なるドラゴンではない。ドラゴンの圧倒的なパワーもないし、不老不死でもない。通常の魔獣と比べたら体皮はドラゴンのように硬いが、破壊竜の体皮とは比較出来ないほどモロい。

 炎は口から吐くことが出来るが、耐熱効果がある破壊竜には全く効果が無い。そんな中途ハンパな強さのデルタだが、諦めずにティアラに毎日挑戦し続けていた。ティアラはその圧倒的な強さ故に自ら好んでバトルを行うことは無い。

 ただ、挑戦者には敬意を払いバトルを断ることは無かった。強さのステータス欲しさに毎日挑戦し続けるデルタ、フツウならうっとうしいと思うのが当然であるがティアラは違った。ティアラの場合、そのチャレンジは愛おしいと思えるのであった。

 

 ティアラもデルタも女性である。

 同性で力が全く下の者がこれでもか!というほどの気迫で毎日チャレンジしてきてくれるのだ。最初は退屈凌ぎにしか考えていなかったティアラだが、日々魔力が上がっていき魔気も充実しているデルタはいつしか可愛い存在になっていた。

「今日はどんな面白いものを見せてくれるの?あたしをもっとワクワクさせてよね!」

「今日は秘剣を手に入れてきたからな。覚悟するが良い。」

「秘剣って、なになに?そんなにスゴい剣なの?」

「竜斬剣といってドラゴンの体皮がスパスパ切れる剣なのだ。私がお前に挑戦し続けているのを耳にしたものが、ありがたいことにプレゼントしてくれたのだ。」

「えっ?そりゃスゴいじゃん!楽しみだね~。」

 デルタの気迫とは異なり、ティアラはほんわかした表情で話を聴いていた。間合いを詰めていったデルタであったが、自分の剣の間合いに入った瞬間、ティアラに向かっていき剣を抜いた。

 ティアラはこの時は人化しておらず、ドラゴンフォームの状態だったので、爪を剣代わりに使って剣を捌いていった。激しく剣と竜爪がぶつかりあう音だけが何度もこだまする。

 次第にデルタの剣速も上がっていき、その剣にはムダとは解っていたが炎をまとわせ振っていった。

 竜斬剣と竜爪の激しいぶつかりあい・・・

 竜斬剣にまとっていた炎が辺り一面に炎弾となって多数拡散する。周辺が火災にならないようにティアラは大気を真空状態にして炎弾を鎮火していく。

 それを確認したデルタ。自分の攻撃の無力さを感じたが、自身の魔力全てを込めた剣をティアラに突いてきた。ティアラの体皮の硬度に剣が負け、折れる竜斬剣。折れた剣先がデルタに向かって飛んでいき、デルタの体皮に突き刺さってしまった。

「イッテ~!!何でティアラを斬れないで私に突き刺さるの?竜斬剣って名前だけじゃないのさ。」

「お前も竜族の一員だろ?見事、竜の体皮を斬ったじゃん。あたしの体皮はめっちゃ硬いからしょうがないよ。」

「くっそ~!昨日まで特訓してきた新必殺技を喰らいやがれ!竜騎トルネード!」

 デルタは両手を合わせて上に掲げ、空中で高速回転し自らを台風のような状態にしてきた。両手は魔力を全開にしつつ爪をとがらせていて、高速回転によりまるで硬質ドリルのような武器へと変わっていた。

 ティアラは交わそうと思えば交わせたが、あえてその攻撃を受ける。硬質化した竜皮と硬質ドリルと化した竜騎トルネードの激突。激しい爆音が発生し、三キロメートル周囲がその衝撃波で跡形もなく吹き飛ぶ。

 白煙が周囲を覆っていたが、しばらくするとその白煙が消え視界が開ける。破壊竜ティアラは無傷、渾身の一撃を放ったデルタは両腕が消失していて地面に倒れこんでいた。

「お前はよくやったぞ。今まで日々ずっとお前とバトルをしてきたが、その成長力は素晴らしい。リザードマンとしては破格の強さだぞ。誇りに想っても良い。あたしも最後の攻撃は少しビックリしたぞ。」

「フッ!私も命をかけてお前に挑戦したつもりだ。この両腕は時間が経過すれば復活するが、私の心は癒されない。このリザードマンの体や能力ではこれが限界と思うのだ。いっそのこと、この命お前に刈り取ってもらいたい。頼む。」

 デルタはそう言うと脱力感からか、今まで張り詰めていた魔力を消去して瞳を閉じる。

「そんなことは出来ないよ。あたしはお前とバトルするのが楽しくて仕方なかったんだ。待ってるからさ、またチャレンジしてきなよ。なっ!」

 それを聴いたデルタの閉じた瞳から涙が溢れる。それは悔し涙ではなく、戦友として認めてくれた友への感謝の気持であった。

「ならばこれを食らうがよい!」

 どこからか響き渡る声・・・一瞬の出来事であった。神撃一つが天空から落ちてきて、デルタを直撃した。


 ドドーン!!!

 黒焦げになったデルタ・・・弱っていた両足もこの一撃で消失してしまったが、頭部や腹部は黒焦げながら残存していた。

「誰だ!こんなことをするのは。これはあたしとデルタのバトルだよ。横やりを入れるなんて許さないよ!」

「ワシはゼウス。人間や魔獣からは絶対神と言われているようだがな。お前とそいつのバトルがもたらした影響。見てみろ周辺を・・・跡形も無くなっているであろう。バトルするのは勝手だがな、結果死している者も多数おるのだ。お前は先の炎弾を消火したから、存在自体を消失させてしまうことはやめておいてやろう。感謝するが良い。」

 そう声だけが聴こえたと思うとその気配は消失した。

 絶対神ゼウス、その存在だけは知っていたが接触したのは初めてだ。存在自体を消失?そんなことが可能なのか?神ならば、そういったことも可能なのかもしれないな。

 今はそんなことよりもデルタの方が大事だ。

ティアラはデルタの元へ直行し、意識はないものの命の鼓動がまだ尽きていないことを感じて安堵した。

「待ってなよ。あたしがお前を何とかしてあげるからね。」

 その強度な体皮の防御力を限界まで下げ、自らの右手の爪で左腕を切り裂くティアラ。真っ赤な竜血が出たと思うとそれをデルタの口に含ませる。一定量を飲ませた後、自らの傷口は瞬時に自己修復させた。

 そして、デルタの腹部に自らの手をかざし魔気の放出を続けるティアラ。

 ティアラの竜血は彼女の強大な魔気を得て、驚くほどの活性化を発動させた。

 躍動する竜血・・・

 同じ竜族ということもあって、デルタの体もティアラの竜血を拒絶することなく受け入れる。しばらくすると大きな鼓動とともに薄いブルーの光がデルタを包み込む。

「これで良しっと!」

 ニンマリとティアラは笑みを浮かべ、デルタの動向を見守る。絶対神ゼウスの気配が再びないかを確認していたので、万が一の襲撃にも瞬時に反応出来るようにして・・・

 デルタの体が急激に進化していく。外見は魔獣形態であったが、竜人形態に変化し、消失した両腕両足は完全な状態になっていた。先程まで黒焦げ状態であった半死の体が嘘のように完全回復したのだ。


 しばらくして目を覚ますデルタ。

「よう!目が覚めたか?感謝しろよ。あたしがお前を復活させてやったんだからね。」

 間近にあった池の水面で、自分の姿を確認するデルタ。

「私は・・・両腕が復活している。しかも、何で容姿が変化しているんだ。それに体から溢れ出る魔気・・・ではないなこれは何なのだ?訳が解らん。」

「お前はな、絶対神ゼウスの怒りに触れ半死だったんだよ。それをあたしの竜血と魔気で復活させたってわけ。リザードマンから竜人形態に進化してパワーアップしたろ?あたしの血がお前にも流れているから、あたしと同じ能力が少しは使えるよ。」

 デルタは一気に色々言われて頭が混乱状態になっていた。まずは一つずつ整理していこう。そんなことを考えていたら、せっかちなティアラから畳み掛ける様な話が続く。

「えっと、まずお前はあたしと同じ不老不死になったから。で、身体硬化も使えるよ。後、お前の超スピードをあたしの天空の力で増幅させて風の力が使えるようにしたから。あの竜騎トルネードの高速回転はすごかったからね。あっ!お前の魔気は騎気になったからさ。」

 嘘だろ?私が不老不死?

 身体硬化って、ティアラの如く硬質化した体皮が可能ってことか?風の力って?確かに私はスピードには自信がある。それが増幅されて風を操れる力になったってことか?

「あのさ、一気に色々言われても訳解んないよ。まず、命を救ってくれたこと感謝している。ありがと。私の進化やパワーアップ、能力なんかはいきなり過ぎて正直パニック状態だから、おいおい確認しておくよ。ところで、騎気って何なんだ?初耳だが。」

「お前は魔獣だったから、魔力や魔気を今までは使っていた。魔力はパワーそのもので魔気は魔力の元の気の流れや質っていうのは解るだろ?人間は波動力や波気を使っている。そして、お前は今から竜人、即ち半分竜族で半分人間だ。魔力と波動力が混合するとスパイラル効果で騎動力になる。これは通常の魔力や波動力よりも強力だ。ちなみにあたしはドラゴンフォームの時は魔力や魔気しか使えないし、人化した時は波動力や波気しか使えないからお前の方が恵まれているぞ。」

 まぁ、何となく解ったがあまり実感無いよな~。だって今まで魔力や魔気を使うのが当たり前だったからな。そう思っていたら、ティアラは話を続けていく。

「でもね、優秀な気の使い手は人間でも条件が揃えば騎動力や騎気を使えるんだって。古の魔界文献に書いてあったよ。あたしはそんな人間は今まで観たことないけどね。あたし自身も魔力か波動力のどちらかしか使えていないしさ。後、お前は女じゃなくなって性が特になくなった。竜人になるとそうなるらしい。まぁ、特に問題ないだろ?」

 騎動力や騎気のことは良かったケド、女じゃなくなったって・・・まぁ、不老不死みたいだし子供が欲しいってことも考えていなかったしな。生きているだけで十分だよな。デルタは自問自答して納得していた。

 その後、デルタはスキル神によって覚醒魔人となる。そして、太陽風の恩恵まで得たデルタは風の力を完全にマスターし、風の魔動石もちの魔獣となる。ティアラは人間と結ばれ子供に全てを託し、その生涯を終える。ティアラの血の宿命は彼女がデルタに説明していたので、子供が出来た際には喜び半面、やがて来る生涯の終わりに悲しみ半面の複雑な気持ちになったという・・・


 クロちゃんの話は衝撃的だった。

 絶対神ゼウスの存在とその強さが確信に変わり、俺たちの目的もより現実的になったのだ。風の魔動石もちの魔獣がティナのご先祖様の血を受け継いでいる。そして、その者デルタの強者への執着心とティアラへの憧れと感謝。

「ヴァン、お前大丈夫なのか?相手は高レベルの騎動力使いだぞ。騎動力は一気に潜在パワーが上がり、俺も波動力だけだった時と比べて四倍の潜在パワーになったし。」

《まぁ俺サマも同じ不死身になったから、すぐに認めてもらえなくてもいつかはチャンスが来ると思うぜ。》

 それって俺が光の力を目指した時に思っていたことと同じじゃん。

 俺とヴァンは考え方も同レベルなのか?それを考えるとゲンは現実的だと思える意見を言ってきた。

《ヴァン、それは甘いよ。相手のレベル、バトルへの妥協の無さ、こちらのバトルの経験不足・・・どれも不安しかない。相手は破壊竜に毎日バトルをしかけた強者。こちらも手を打たなければ・・・》

 手を打つってどんな手だよ。と皆が思っていたが、ティナがある提案をしてきた。

《ヴァン、それならカイトに特訓の相手をしてもらったらイイよ。その竜騎トルネードってのと同じのは出来ないケドさ、似たようなので良かったら出来ると思うし。ネッ!カイト。》

 おいおい、お前そんな無茶振りしてくんなよな。クロちゃんから聴いた感じのイメージでしかない技と似たようなのってどうしたら出来るんだ?こいつの何とかなるさ!というポジティブ思考にはホント頭が下がるよ。

 っていうか、クロちゃんは何でこんな太古の話をいかにも観ましたよ~的な感じで話が出来たのか?古の書物に書いてあったのか、人から聴いたのかは聴いても、そこははぐらかされてしまい真実を知ることは出来なかった。

 謎の多いクロちゃん・・・いつかはクロちゃんの秘密を知りたいと思う俺。

 あっ!今はヴァンの特訓についての話だった。とりあえず、受けて方法は後から考えよう。やり方は一つじゃないだろうし、皆で考えればきっとイイ方法は考えつくもんだ。

「よし!ヴァン、特訓開始だな。皆も対デルタに関して良い方法があったら提案してくれ。俺は俺なりになんちゃって竜騎トルネードの方法を考えてみるよ。」

《それなら、ヴァン、カイ、亜空間に行こう。亜空間での一時間がここでは一分間で済む所があるんだよ。ボクがキールと初めて行った場所だけど、時間を有効に使えるからね。特訓にはもってこいだろう?行った時にはカイ、気圧がかなりこちらの世界と異なり行動しにくいから、大気変化を頼むよ。》

 ゲンは素晴らしい提案をしてくれた。早速、ゲンの空間転移で亜空間へと移動し、俺はゲンに言われた通り、大気変化を行った。うん、これで思うように特訓が出来るぞ。

「ヴァン、早速始めるぞ。とりあえず、相手はスピード自慢のようだから、俺もスピードに特化した動きをしていくよ。」

 俺は光の力を発動させてMAX光速の動きが出来るように準備をした。それを風の動きを想定したスピードまで落とした動きをする。

「どうした?ヴァン。動きについてこれていないぞ。まずはこのスピードに慣れるんだ。」

「くそっ!風のスピードがこれ程までとは。俺サマの攻撃が全部空振りだぜ。」

 ものすごい波動力の炎弾が俺に襲い掛かるが、俺はあっさりと全てかわしてみせる。


 さて、準備運動はこれで終了・・・

「おい、ヴァン。俺はチョッと自主練するからさ、お前はお前で自主練していてくれよ。」

「おう、解った。俺サマもまずはイメージトレーニングから始めるわ。」

 俺は俺なりに竜騎トルネードについて考えてみた。デルタって、かなりスゴい奴だ。

 自力で風を作り出して、そのパワーを維持し攻撃力に活かすなんてフツウは出来ないよな。

「なぁ、ティナ。天空の力じゃ、やっぱ風を作り出しコントロールするのは出来ないんだよな。」

《うん、天空の力じゃムリなんだよ。出来ても、キッカケ作りくらいかなぁ・・・風って外力が生み出すものだからさ、台風みたいに継続した風の力はホント、スゴいよね。天空の力で出来るのは、大気の性質を変えたり、コントロールや情報収集くらいだからさ。》

 そうだよな・・・

 今まで出来てきたのが気圧や重力の変化、ロックオン・アラート・ガード、真空化。ヘルクラッシュやヘルブレイクなんかの大気コントロールでの攻撃。

 だから、強力な風を発生させ維持もしつつ攻撃に変化させるなんて芸当はムリなのだ。ここは発想を変化させて科学の出番だろう。

 実は竜水晶をブレスにセットした頃から、俺とティナとゼロは考えていることがお互い理解出来るようになっていた。

 今までは俺の考えはティナにはそのまま伝わっていた。これは一方通行でティナの考えは俺には伝わってこなかった。それがゼロも含めて俺たち三人の考えが共有出来るのだ。

 これはバトルにおいて、口に出さなくても指示や相談などが可能なのでかなりの利点である。正直、これが竜水晶をブレスにセットした効果なのか俺たちの信頼関係度が上昇した為なのかは解らない。

 ちなみにレイちゃんはこの中には含まれていない。レイちゃんとはレイファリーのこと。何でも自分も可愛く呼んで欲しいって言ってきたので、そう呼んでいる。

 レイちゃんとはまだそこまでの信頼関係が成立していないのか、ブレスに収納してきた時間が短いからなのかは不明だが・・・

 俺はなんちゃって竜騎トルネードの想定をした上で俺たちが今出来得るだろう考えを頭に浮かべてみた。

《こ・これは!こんなことがホントに可能なのか?しかも、我が主役とは・・・自信がないぞ。》

《カイト~、あたしはよく科学って解んないケド、なんかうまくいくような気がするよ。だって、カイトの考えでしょ?間違いないって!》

 二人の反応をみた俺だが、俺の考えはこうだ。風が起こせぬのならば、自らが動力となって同様なる力を起こせばよい。

 それは電磁力の力を応用する。コイル状に巻いた導線の中に鉄心を入れ、導線に電流を流す。そうすると磁力が合成されて磁界の束である磁束が発生する。

 ここで鉄心や導線を太くしたり、電流の強さを上げれば電磁力がより強力になる。鉄心=ゼロ、導線=俺の騎気で俺流の電磁力を発生させる。この電磁力が風同様のパワーを生み出すと考えてみた。

 そして、今の俺には斬滅極の力がある。

 剣と光のパワーを巧みに操り、同時に天空の力を上乗せしていく力、斬滅極・・・

 考えがまとまったので、早速テストである。

《ゼロ、お前以前変形が可能になるとかって言ってたよな?それって今可能なのか?もし可能ならば、俺が両手で抱える事が出来得る最大の大きさに変形してくれ。あっ!鞘は可能な限り太くしてくれよな。》

《うむ!承知した。》

 ゼロは一気に巨大な剣となり、その鞘は太く俺の両手にピッタリとフィットした。俺は巨大化したゼロを両手で持ち、それを天高く掲げる。

 そして、ゼロに練り上げた騎気をコイル状にしてグルグル巻きにする。この時、可能な限り騎気は太く長く巻いていった。こうした地味なこだわりがより巨大な電磁力を生み出すのだ。

《よし!電流をゼロ、俺の騎気に流すぞ。最初は弱めにして結果をみてみよう。》

 流す電流をMAXの十パーセントに調整して騎気へ流す。その途端、強烈な電磁力が発生し俺の体は高速回転を始めた。騎気をコントロールし、そのまま上空へと一気に浮上する俺たち。

 そして、百メートルほど先にある巨大な岩をターゲットにする。巨大な回転魔剣の剣先には雷撃を収縮させたものを帯びさせた。これに触れたものを一瞬で跡形もなくなるだろう。

 もし仮に雷への耐性があっても、回転魔剣の攻撃力は計り知れないので、甚大な被害になる計算だ。


 ドーン!!

 一億ボルトの雷撃を帯びた剣先は巨大岩を完全に消滅させた。俺も予想以上の破壊力に驚いたが、それを観ていたヴァンやゲンたちは言葉に詰まる。

「おいおい、勘弁してくれよ。斬滅極の力ってこんなにスゲーのか?ゼロの巨大化にも驚いたが、雷撃パワーや高速回転による破壊力もハンパないじゃねーか!」

「ヒュ~!ボクもこれには脱帽だね。これって今考えて試験的にやってみたんだよね?もっとパワーを上げることも可能なんじゃないの?とんでもない必殺技になるよ。」


 ゲンが言うように、確かに電流はMAXの十パーセントに落としてやってみた。これを百パーセントにしたら、星をも破壊しかねない。それよりもゼロへの負荷が大きすぎて、それは無謀だろう。現状であれば、二十パーセントが限度だろうな。

 それ以上になるとゼロの魂が崩壊しかねない・・・

 ゼロは不死身ではない。

 魂を剣に宿らせているので不老ではあるが、依り代である剣が完全に粉砕してしまえば魂は浄化されてしまうとキャンティからは聴いている。

 技からの強大なダメージだけは防がなければならない。技の名前はゼロトルネードに決めた。

 しかし・・この技はスピードがある相手には交わされるリスクが高い。俺はこの技を完全型にすべく、そのイメージをティナとゼロに送り付ける。二人とも納得いったようで再度、技を発動させる。


「ゼロトルネード!」

 俺はゼロを天高く掲げ、騎気をコイル状に巻いていった。それと同時にヘルブレイク同様に観えない騎気の手で対象物である岩を固定。念には念をいれて、その周辺は真空状態にした。

 これで通常の生命体であれば、完全に行動が制限されるし、無酸素による意識の喪失にもつながるだろう。

 だが、この固定化はある一定以上のレベルの相手には通用しないと思われる。その固定状態で俺たちは高速回転をし、岩に向かって技をぶちかました。


 ドーン!

 再び岩は消滅し、激しく轟音が響き渡る。技は完成したが、ヴァンはそれを受けようとはしなかった。

 あいつはあいつなりに必殺技が生まれたらしいが、それは言い訳で要は俺の技を受けたくなかったと思われる。ヴァンの必殺技は、あくまでイメージトレーニング上なので実際には行っていない。

 しかし、ヴァンなら多分大丈夫だろう。

 今までのあいつの言動を知っている俺は土壇場に強いのも知っている。それだけの波動力も持ち合わせているようだし、何よりもヴァン・リン・グリフォンの気の一体感を感じる。

 本人たちは自覚が無いかもしれないが、こうした気の一体感は技のレベルを底上げするものなのだ。

 その後はヴァンに付き合い、風のスピードに慣れるような特訓をしばらく続けていった。


 ワイの石は、依然スリープモードであった。

 クロちゃんもこの亜空間に同行しているが、近くにいる俺のブレス内の石とは考えがリンクしないようにしていた。


 やはり、カイくんは面白い・・・

 遠くから観ているだけよりもこうして近くで観ているとよく解る。物事の考え方や人間性、欲の無さ、ピンチの時の柔軟な発想力・・・

 今まで色んなタイプの人や魔獣を数えきれないほど観てきたが、こんなタイプは初めてだ。一緒に旅をしていて、こんなにワクワクしたり、興奮することは今まで無かった。

 ワシが認めるほどの人間ではなければ、ワシの石は消滅させようと思っていたが、その必要はなくなったな・・・

 見ず知らずの人や魔人、魔獣がこんなにも心を開いてカイくんに協力する姿も感慨深いものだ。両親の育て方の影響があるかもしれないが、カイくんの本質がもたらした結果だろう。

 もっと長くカイくんのことを間近で観ていきたかったが、そろそろ潮時かもしれん。大いなる存在が、ずっと様子を観ているからな。斬滅極の力があれば、少々の相手にも対応が出来るだろう・・・

 ワシが間近にいたら彼が警戒し、接触してこなくなるなんてことにもなりかねない。その事態だけは避けなければならない。

 彼の存在はカイくんにとって、ヴァンくんやゲンくんと同様に必ず大きなものとなり、未来の運命を大きく変えるからの・・・

 

 これから降りかかってくるであろう大きな災いを無事に解決してみせてくれ。ヴァンくんVSデルタ、これを見届けたら距離を置いて遠くから見守っていこう。

 

 そう決断したクロス。これから始まる熱いバトルを想像しながら、目を細めて遠くを観るのであった。

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