第十三話 選択
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昨晩は貴重な組み手を経験出来た。世の中は広い。ブレスなんか無くても十分に強い人はいるのだ。
「やあ、おはよう!」
「カイさん、ティナさん、クロさん、おはようございます。」
俺たちは翌朝、昨晩知り合ったマイちゃんとコウさんの所を訪問した。コウさんは相変わらず礼儀正しい。見習うべき大人である。
マイちゃんの人見知りは相変わらずで、そこに笑顔は無い。
「昨日のケーキ、めっちゃ旨かった。」
小さい声でボソリとマイちゃんから俺は感想を言われた。おっと!初めて言葉が聴けたぜ!こみ上げる嬉しさを押し殺して、俺は事前に打ち合わせをしていたことを思い出す。
俺は焦らずにマイちゃんが心を開くことが出来るようにティナとクロちゃんに事前に今日のミッションを伝えていたのであった。
今日の重要ミッション
一:マイちゃんに笑ってもらう
二:雷魔と出会う
以上、である。
雷魔に出会うことは勿論大事だが、折角知り合ったコウさんやマイちゃんに笑ってほしかったのだ。親子二人だけの旅じゃ楽しみもそんなにないだろう。
ましてやマイちゃんはまだ八歳・・・本来、友達が一杯いて一緒に遊びたい年頃なのだ。そんな彼女に今日一日は笑ってもらいたい。ただひたすらにそう思うのであった。
朝は近くの街まで買い出しに行き、食材をゲットしてきた。ティナにはマイちゃんと一緒に料理を作るように言ってある。たき火しかないし、大層な調理器具もないがそんなことはどうでも良いのだ。楽しく食材をカットしたり、混ぜたりして料理の楽しさを共有する。それを食べてもらい、【美味しい】を引き出せた時の達成感は何ものにもかえがたい。そんな喜びを共有してもらいたいのだ。
俺はその間に池で遊べるボートを作成することにした。これも途中まで準備してマイちゃんと一緒に作っていこうと思っている。俺とクロちゃん、コウさんは池周辺にあった丸木や強度があるツルをゲットしていた。
丁度、デカいジャイアントベアーが俺たちを襲ってきたので倒し、その毛皮を切り取り使うことにした。
その際にゲットした魔石はコウさんにプレゼントした。
マイちゃんとティナの料理が完成し、朝食タイムとなった。
「いただきます。」
俺たちが料理を口にする瞬間を見守る二人の女性。
「旨い!」
「こりゃ朝から幸せな気分になったよ。」
「マイ、サイコーだな!」
男衆三人から絶賛の声が上がるとティナとマイちゃんは笑顔で手を取り合い喜んでいた。こうして、料理作戦は大成功となったのである。
さて、お腹も満たされたし、予定通り俺たちはボート作りに取りかかった。ツルを切ったり縛ったりという単純作業はマイちゃんとクロちゃんでやってもらった。
俺はその間、大気を操り大気カッターでの丸木のカットや、さっきゲットしたジャイアントベアーの毛皮を急速に乾かす為、超高速で大気を当て続けた。
こうして皆で作った丸木ボート。結構しっかりと出来たものだ。ボートの帆はジャイアントベアーの毛皮を使いイイ感じだ。俺たち五人でボートに乗りオールでボートを進める。このオールがミソで変な角度に作ってしまうと思うように進まないと思ったので、クロちゃんに知恵を借りオールの作製は特にこだわったのだ。
結果は素晴らしく、オール四本で息を合わせて漕ぐことで行きたい方向に進むようになっていた。
まぁ、時折曲がったりしてヤジを飛ばしたりしてからかうこともあったケド、それがマイちゃんも楽しかったらしく自然なスマイルが出ていた。
一時、ボート漕ぎやボートから池に飛び込んだりして遊んだが少々疲れたので、ランチタイムとした。
ランチはきのこパーティ。池の周辺には食用のきのこが色々あったので、俺たちはワイワイ言いながらきのこ狩りを楽しんだ。ティナは面白いくらい毒キノコを採ってきてはクロちゃんにダメ出しを食らっていた。
ウン千年間生きていても、関心のないことは全く知識のないティナ。
それに対してマイちゃんは的確に食用きのこを採取していた。何やら難しい名前のきのこの名前も沢山知っていて、俺たちをビックリさせてくれたのだ。コウさんいわく、きのこ図鑑を何冊か持っていたらしいし、きのこを食べるのも好きということだった。
きのこステーキ、きのこの蒸し焼き、きのこ
の天ぷら、きのこの茶わん蒸し・・・と、きのこ尽くしで俺たちの楽しいランチはスタートした。
コウさんは、俺の正面だったので俺の話を聴いてくれた。今は光の魔動石を探していること、親友と共に世界崩壊の可能性を食い止めるのを目的にしていることなんかを話したが、コウさんは笑顔で聞き入ってくれていた。
ランチ後は、おかめちゃんの登場となった。
なんといってもボイスチェンジャー付きというのが楽しい。クロちゃんにおかめちゃんを被ってもらい、様々な声を出してもらった。一番盛り上がったのがコウさんに似た声を出した時。
コウさんもどきのクロちゃんとコウさん本人での早口言葉対決やマイちゃんに目をつぶってもらってのどっちが本物でしょうクイズなど楽しいひと時を過ごした。
時は夕刻・・・楽しい時間はあっという間に過ぎる。そして、別れの時。
「じゃあな、マイちゃん、コウさん。俺たち、めっちゃ楽しかったよ。俺たちのこと、忘れないでくれよな。コウさん、あなたとの組み手、勉強になったよ。ありがとう。」
「こちらこそ、皆さんありがとうございました。マイも喜んでくれていて、わたしも久々にこの子の笑顔を見ることが出来ました。」
「マイちゃん、また会うことがあったら、一緒に料理を作ろうね。あたしもきのこの勉強をしておくから。」
しかし、コウさんはそれだけに留まらず俺たちに言葉を更にかけてきた。
「あの、カイさん。宜しかったら何かわたしたちに出来ることでお礼をしたいのですが、何かご希望はありますか?」
「そんなの別に気にしなくてイイよ。俺たちも楽しませてもらったし、お互いさまだって。」
「イヤイヤ、わたしがそうしたいって思ったのもありますが、マイからの願いでもあるのです。わたしたち二人の気持ちです。どうか、受け取ってください。大したことは出来ませんが、わたしの攻守法を教えましょうか?カイさんのスキルの幅がきっと上がりますよ。」
「うん、ありがとう。マイちゃんとコウさんの気持ちありがたいよ。でもさ、その攻守法はコウさんだけのものだ。俺はそれを教えてもらえればもっと強くなるとは思うケド、今は自分の努力で成長していきたいんだ。」
俺は折角の申し出を断った。今の俺は心身共に充実している。この充実期にただもらいの技術は贅沢だ。そんな思いでいたら、コウさんは違う提案をしてきた。
「それでは、これを差し上げましょう。先程頂いたジャイアントベアーの魔石です。私の気で表面の質を変えておきました。」
見た目、黒っぽい色の魔石だったものが、金色の輝きを放つ金魔石に変わっていたのだ。気でそんなことが出来るのか?今までそんなことが出来るって聞いたことないよな。宝石屋に持っていったら、きっと破格な買い取り金額を出してくれるだろう。コウさんは色んな意味で俺たちにサプライズを用意してくれる。
「これは受け取れないよ。これはコウさんにプレゼントしたもので、コウさんの気で価値が上がった物に変化したからね。これを売ってマイちゃんに可愛い服や靴でも買ってあげてよ。」
それを聞いたコウさんはフッと溜息をつく。
「カイさん、あなたは欲がありませんね。解りました。」
「あっ!あのさ、もしそのお礼って別なコトでもイイかな?マイちゃんとコウさん、俺たちと友達になってくれないか?それが俺たちの願いだ。なっ!ティナ、クロちゃん。」
「そうだよ~、折角仲良くなったしね。旅人同士だから、次に会えるのはまた先になっちゃうかもしれないケドね。」
「ワイもそう思う。マイちゃんとコウさん、通信機器があればSNSで連絡も取れるし、是非友達になってほしいぞ。」
俺たちの願いを聴いて、見つめ合うマイちゃんとコウさん。二人は笑い合い、笑いが止まらない。それは笑いのツボにハマったのか大きなパワーを発し、空から落雷を引き寄せたのだ。
ドッカーン!!
二人に落雷が直撃したので、俺たちは慌てて二人の姿を確認する。砂煙が巻き上がり、辺りの視界を遮るが徐々に視界が開けてきた。そこに見えるのは、雷を帯びた体で放電している女魔獣と光輝く精霊。
「皆さん、スミマセン。わたしたちが皆さんの探していた雷魔と光の精霊です。人は私利私欲が強い。そんな人間とばかりわたしたちは出会ってきて、うんざりしていました。人間に光の魔動石の力を託してはいけない。だからこそ、このウン千年間この力を封印しておりました。それだけ、この力は超破格的なのです。」
「えっ?マイちゃんが雷魔でコウさんが光の精霊なの?あたしと同じで人化してたんだね。全然解らなかったよ。」
「でもさ、ティナのお母さんの話だったら、光の精霊は天空高き所より現れるっていうからビックリしたよ。池では天空高き所から何かが降ってくるって感じは無かったからさ。」
「わたしたちは大分前に皆さんの前に天空から光速でやってきていましたよ。わたしたちの正体に気付かれてはマズいので極力、気は発していませんでしたが。」
「そうだったんだ。俺たちはウン千年間、誰も出会えなかった幻の魔獣に会えたんだな。何かスーパーラッキーって感じで光栄だよ。でも何で俺たちの前に正体を現したんだ?」
今までコウさんが話をしていたが、マイちゃんがついに心を開いた。
「皆からは私利私欲が感じられなかったよ。タヌ子さんにかんざしプレゼントしてたよね?それから魚のリリース、無償の食事の提供、魔石のプレゼント、金魔石受取の拒否、世界崩壊に向けての取り組み・・・それに光の力教授の拒否。これだけで皆の人間性が解ったしね。だから、私たちは皆と友達になると決めて真なる姿を現したの。これが友達の証だよ。」
マイちゃんの声を初めてハッキリ聴いて、俺たちはビックリした。なんて透き通った声なんだ。声までも光のように透明感があるとは思ってもいなかったのだ。
一番初めに聴いた声はつぶやきに近かったから、全くそうは感じなかったんだよね。見た目、八歳位の女の子だケド、ティナと同じで不老不死。
ただ、聴くところによるとマイちゃんの場合は心を媒体の体に二百年に一度移していくみたい。有り余る光と電気のパワー。これに体が耐え得る期間が二百年間だというのだ。
八歳~十六歳で魔力の波長が一致する魔獣の体を二百年間に一度頂いているらしい。基本ベースはマイちゃんのままなので、体の媒体が変わっても人化した声や顔姿はなんら変化しないそうだ。
でも、タヌ子と会っていたときから俺たちの様子を伺っていたなんて全く解らなかったな。
そんなマイちゃんから、光の魔動石が俺に手渡される。
「いいのか?俺なんかが光の魔動石をもらってしまっても。もしかして、コウさんの攻守法って光の力だったのか?だとすれば、そのスピードと破壊力には納得がいくよ。」
「そうだよ。あれは私の力の一部。実は光の精霊は私のスキルが少し使えるの。でも、私本来の全力パワーを精霊が使ってしまうと精霊の体が維持できなくなり崩壊してしまうからセーブしてたケドね。」
ゲッ!そんなに強大なパワーなのか?セーブされていた力にも圧倒されていたケド、全開だったらどんだけのスピードとパワーなんだよ!
俺はそんなことを考えながら、ゼロに問いかける。
「おい、ゼロ。お前、コウさんが光の精霊だって解らなかったのか?同じ精霊同士だから解りそうなもんだケド。」
《うむ、全く解らなかったぞ。それは精霊としての気配を消して、完全に人化していたからな。それよりもカイ、お前名前で解らなかったのか?コウって光だろ?我は何となく怪しいとは思っていたがな。》
おいおいゼロの奴、完全に開き直っているな。でも、確かに名前は言われてみれば、その通りだよな。
雷魔、ライマ・・・あっ!順番入れ替えたら、マイちゃんも解りそうなもんだったな・・・
「マイちゃ~ん、これからはいつでもお話出来るよね。あっ!今まで通りマイちゃんって呼んでいいよね?あたしのことは好きに呼んでいいからね。」
「マイちゃん、ワイもブレスにワイの石がハマっているから、いつでも話しかけてなぁ。」
おいおい!クロちゃん?いつの間にワシの石がワイの石に変わったんだ?
そりゃ正式名称じゃないってのは解るケド、あくまでもワイにこだわるんだな・・・
そして、俺は躊躇なく光の魔動石をブレスにセットした。さて、次は音の魔動石もちの魔獣、天魔を探そう!
そう俺が思った瞬間、ブレスが小刻みに振動を起こす。
俺はブレスに故障でも発生したと思い、慌ててキャンティを呼び出す。
「おい、キャンティ大変だ!ブレスに魔動石をハメたらブレスが小刻みに震えてきたよ。これって故障なのか?どうしたらイイんだ?」
《ブレスが振動?それって、結合魔動石を作っている状態だよ。カイ、お前やったな!何の魔動石が集まったんだ?チョッとブレス内の波気と魔気をみさせてもらうよ。》
キャンティはそう言うと念波をブレス内に送り調べ始めた。
《天空、剣、光か・・・もう一つは、なんだコレ?スリープ状態だが、魔石や魔動石でもないし超魔石でもない。魔力じゃない何かが秘められた石?強力なロックがかかっていて調べられないな。天空、剣、光で結合魔動石が出来るのか?そもそも光の魔動石が激レアだから解らないのも仕方ないか。》
そんな念波をキャンティから受けた俺たち。
クロちゃんの石、【ワイの石】はやっぱり謎なのか。
まぁ、おいおい解るだろう。少なくてもクロちゃんは今の俺たちにとって色んな意味での師匠で敵ではないのだ。
キャンティでも解らない結合魔動石。一体どんな石になるのか・・・
俺のブレスは振動が止まった。ブレス内では三つの魔動石の激しいぶつかりあいが終わり、ゆっくりと液状化して一つの結合魔動石が誕生した。
【斬滅極】・・・これが新しい石の名前。
ブレスには斬滅極という文字が入った石とワイの石の合計二つが存在している。
ティナやゼロにこの石はどうなのか聴いてみたが、未知なる力は感じるもののよく解らないとのことだった。
そこでワイの石のクロちゃんから助言をもらうことになる。
《カイくん斬滅極はな、ゼロくんを使って光と天空の力を操れる剣技が可能な力。これはとんでもない破壊力を有するぞ。光には君も解っているとは思うが、光弾や光斬の様なスキルと雷撃のスキルがあってこれが可能になった。それに天空の力が加われば、相手を騎気で捉えた上での攻撃が可能だ。勿論、ゼロくんを使わないで、光と雷撃のスキルを天空のスキルとコラボすることも可能だ。》
クロちゃんの説明を聴いて、なんか一気にとんでもない力を得てしまった感がハンパない俺。
でも、このスキルと相性が悪いスキルには勝てないことも想定済みだ。この世に完璧な強さやスキルは存在しない。必ず上には上がいるし、勝てないスキルというものが存在するものだ。
しかし、クロちゃんは何でも知っているな。もはや、ティナやゼロに聴くまでもなくなったんじゃないか?
おっと、こんなことをティナとゼロに知られたらめっちゃ逆切れされそうだから、悟られないようにしよう・・・
《カイ、必要ならばレイファリーはいつでもお前が使ってくれて構わないからな。あいつもゼロやお前の力になりたいって言ってるしな。そうだ!超電磁リングを使って、今からお前にレイファリーを届けるよ。ブレス内に収納してお前の騎気を喰わしてやってくれ。》
キャンティはそう言うと超電磁リングを使ってレイファリーを俺に託してきた。
本来、魔剣は持ち主を選ぶという。自分にそぐわない者が魔剣を手にすると魔剣の方が拒むようだ。
俺のことをレイファリーが認めてくれたようで手に取っても何の違和感もない。
キャンティはレイファリーには魔気を喰わしていないと言っていたので心配していたが、その心配が当たってしまった。
一気に俺の騎気を喰らうレイファリー。
彼女は空腹状態が続いていたようで、俺の騎気はMAXの二割ほど喰われてしまったのだ。
キャンティの奴、俺の為とか思わせるようにして実はレイファリーを持て余していたんじゃないのか?レイファリーの空腹を満たす為に手放したとか?
そんなことを考えていたが、レイファリーの潜在魔力が一気に増幅しゼロとかなり近づくのを感じた。
ゼロは俺の波気や騎気をかなりの時間をかけて喰らってきたので、今や相当潜在魔力を有している。そのゼロの魔力にこの一瞬でレイファリーは近づいたのだ。
俺は思った・・・こいつは持ち主のキャンティに似て天才だと。
《フゥ、やっと落ち着いたわ。カイ、ありがと!あなたの騎気は素晴らしかったわ。気の質が高いとわたしの成長も早くなる。もうすぐゼロとも並びそうね。キャンティから聴いてるわよ。時がくればゼロと元通り一つになるって。元々、わたしたちは一つの存在だったからね。自由で楽しい時間を過ごさせてもらったから、その時が来たら新しい環境をまた楽しむわ。》
そうだった、忘れてた・・・
ゼロの覚醒、ゼロとレイファリーの合剣。時期がくればやってくるだろう、この二つのイベント。俺も色々と対応していかなければならない。今はキャンティ指導の元、剣技を磨いている。剣技は奥が深くソードマスターであるキャンティの足元にも及ばない。
だが、日々出来ることが増えてくると剣技の修行も楽しいものである。今後はゼロとレイファリーの二刀流の修行も必要だな。
今はゼロに言って剣の重さを通常の百倍にしてもらい修行をしている。重い剣を振り回すのではなく、重い剣と一体になることを意識しての修行。
これはキャンティからのアドバイスである。これが出来るようになると剣が思うように扱え、斬撃や剣盾なんかが可能になるらしいが俺はまだそこまでのレベルには至っていない。
ヴァンは悩んでいた・・・
無い知恵を絞ってヴァンなりに考えたのだ。熱系の魔動石を集めていくのって、今の状態じゃ難しいんじゃねぇのか・・・と。
自分には「赤の炎」の力はある。
しかし、これだけで「紅の熱風」や「朱のマグマ」の力を得ることは可能なのか?当然、紅や朱には耐熱効果があってしかるべきだろう。
それは赤の自分にも言えることで、紅や朱の力にある程度は耐久出来るであろう。
しかし、どう考えても紅の熱風には対応出来ても朱のマグマには勝てるイメージが全くわかない。
炎がマグマに勝てるのか?イヤ、どう考えてもマグマの熱量の方が段違いだろう。故に紅と朱の力にすぐにアタックするのを躊躇しているのだ。
「リンはどう思うんだ?結合魔動石は確かに魅力的だ。しかし、紅や朱の魔獣に俺サマを認めてもらうには気合や根性だけじゃダメなんじゃねぇか?」
「そうだよね~。ヴァンの波動力はとんでもないスピードで成長してきたよ。波気は未だに扱えないケド、ヴァンはそんな繊細なことよりも圧倒的な波動力で押し切る!それにこだわった方がいいと思うな。そんなヴァンだケド、熱風やマグマの力にはかなわないだろうね。カイやゲンと連絡を取って相談してみたら?」
「おぅ、そうだな!俺サマ達が考えるよりもカイやゲンの方が的確なアドバイスをしてくれるような気がするぜ。」
俺とゲンにヴァンから念波が送られてきた。ティナ、リン、キールは話がスムーズにいくようにブレス内に転移している。
《なぁ、俺サマはどうしたら良いと思う?力技だけでは絶対にムリな相手だと思うんだが・・・特にマグマの力は想像しただけでも強大すぎるぜ。》
皆が思い思いに現状を考えて最善と思える対策をヴァンに提案する。
《ねぇ、ヴァン。あなた、地の魔動石を狙ったらどう?マグマのパワーの源って大地からでしょ?そのパワーの源を抑えるんだよ。どう?名案でしょ?流石はあたしでしょ?》
《そうだね・・・ボクも色々考えてみたが、やはりその線がいいかもしれないよ。急がば回れって言うしね。地の魔動石があれば、マグマの力は封印出来るんじゃないかな?》
《地の魔動石は猿魔だな。こいつはタフでスピードやパワーはスゴイらしいぞ。まぁ、ヴァンにとってはやり易い相手かもしれんがな。ウチの情報だけじゃ足りないと思うから、皆にも聴いてきてや。》
《わたくしは氷の魔動石を目指したらと思います。SNSの情報では氷の魔動石の力で絶対氷化というのがあるそうです。全てのものを氷化してしまう能力らしいです。しかし、マグマのパワーの方が氷への氷化を上回るのであればそれは無効化されるかもしれませんが・・・》
念波でのやり取りが行き交う。
そんな時に俺が黙って聴いているのを察したヴァンは俺に問いかけてきた。
《なぁ、カイはどう思うんだ?こういうのはカイかゲンの意見を聴いたほうが間違いないと思うんだ。》
《カイト~、やっぱここは地の魔動石を狙うべきでしょ~?あたしの考えに間違いは無いよね。》
ティナは自信たっぷりに俺に同意を求めてきた。
《確かにティナが言うように地の魔動石を押さえておけば、マグマの魔動石に対抗出来るだろう。それにキールの情報通りであれば氷の魔動石の力も魅力的だ。でもその前にヴァン、お前ホントにマグマの魔動石の力が欲しいのか?》
《チョッとカイト~、それってどうゆう意味なのさ~?ヴァンは最初っからマグマと熱風の力が欲しいって言ってたじゃん。》
ティナが納得いかない感じの念波を送ってくる。
《カイ、ウチはヴァンといつも一緒にいるケドさ、ヴァンの考えは変わってないと思うよ。今更そんなツッコミしなくてもイイんじゃない?》
リンは自信をもってヴァンの代返を行ってきた。
《イヤ、ヴァンは思い込みが激しいからね、冷静に考えていないときも実際あるよね。》
ヴァンのことを昔から知っているゲンは冷静に分析してきた。
《あのさ、俺は考えが全然違うんだ。ヴァンは恐らく結合魔動石の魅力に流されていると思う。確かにさ熱系の力、煉獄極は炎の力を持っているヴァンにとっては興味深いよな。だから、ティナやゲンが言ってた地の力、キールが言ってた氷の力を求めるのは決して間違いじゃないと思うよ。》
ヴァンは俺の話を真剣に聴いている。
いつも俺はよく考えて行動するのをヴァンは知っている。ヴァンは想い直行型、ゲンはその場対応型、俺は石橋たたき型だというのが個性だと俺たち三人は理解しているからだ。
《別に結合魔動石にこだわらなくてもイイんじゃないかな?熱系の力を極めたい気持ちは解るケドさ、俺がヴァンなら風の魔動石を狙うね。》
全員が俺の意見に対してフリーズした。
なぜ、ここにきて風の魔動石?という考えからだ。
《皆、よく考えてみなよ。炎は風次第で強い炎になるよな?よく解らないケドさ、風の力があれば台風並みの風力も可能なんじゃないかな?その強大な風力とその風力であおられた炎がコラボしたらどうなる?とんでもない戦闘力になるんじゃないか?俺はそれが観てみたいし、ヴァンらしい攻撃方法になるかなって思うよ。》
俺の話を聴いたヴァンは全てを納得して頷いてくれた。
《流石はカイ、俺サマのことをよく理解しているな。確かに結合魔動石にこだわり過ぎた感はあるぜ。そこにばかり意識がいっていて周りが見えなくなっていた。ありがとな。》
ヴァンから礼を言われると俺は何か照れ臭くなった。
普段から俺は人にはあまり礼を言われていなく、人に対しての思いやりや配慮に欠けている。どちらかといえばゲンやティナの方が礼を言われる頻度は多いので、俺的には尊敬しているのだ。
《よし、俺サマの目標は変更する。リンは風の魔動石もちの魔獣について何か知ってるのか?》
《イヤ、ウチは知らないんだ。ゴメンよ、ヴァン。ただ、風の力は激レアだっていうのは聴いたことあるよ。ティナ、キール、魔剣の皆、何か風の魔動石の情報を知らないか?》
そんなリンの呼びかけに対して、ティナ、キール、魔剣たちは無言で答えたのだった。
狙うは、激レア魔動石なのだ・・・
そんなに容易く情報は収集出来なくて当然である。
しかし、俺には知恵袋のクロちゃんがいる。
慌てることなく俺たちはクロちゃんから情報を聴きだすのであったが、それはティナもビックリの事実が飛び出すのであった。