第十二話 雷魔
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朝になった・・・
俺たちは宿ぴよぴよの前でクロちゃんが来るのを待っていた。
後で聞いたのだが、ぴよぴよは【ひよこ組】という組織が運営しているそうだ。
しかし、組織長は滅多に表に出てくることはなく、組織員のみで意思決定しているらしい。
ぴよぴよの運営やら、その他決めごとは組織長の意思は反映されていないようである。そして朝気付いたのだが、ぴよぴよの裏側には闘技場があったのだ。
闘技場の名前は「魅和ノ刻」・・・
何ともオシャレな名前の闘技場である。受付の子がいたので、声をかけたらティナよりも元気な女の子であった。
「魅和ノ刻へようこそー!残念だけど、今の時間は受付のみでバトルは夜じゃないとしてないよー。あっ!バトルは、めいめいも出るよー!」
めいめいって誰?って思ったが、どうやらこの受付の子がめいめいらしい。
話を聴くと、魅和ノ刻はママと呼ばれる謎の人物が主で、この闘技場を運営しているそうだ。
「めいめい強いよー!でも、もっと強い子たくさんたくさんいるから、夜に遊びに来てねー!絶対だよー!」
俺たちは旅の途中であったが、また近辺に来たら魅和の刻に寄ってみたくなった。何でも闘技場四天王というのがいるらしくて、めっちゃ強いのだそうだ。
「俺たちは旅の途中だからさ、また近くに来る時があったら、この闘技場にくるよ。その時は君ともバトルしたいな。」
「わーい!めいめい楽しみにしてるよー。その時は、ぺのダンスでお迎えしてあげるねー。」
ぺのダンスって何だ?とか思いつつ、俺たちはめいめいと別れて、ぴよぴよの前にてクロちゃんを待つ。
しばらくすると怪しい格好の人物が近寄ってくる。見た目、全身バトルスーツでかため、顔は全く見えない。
そして首からは【一年中、ハロウィン実施中】のプレートがかかっていた。
ハロウィンの時は確かに色んなコスチュームをしても違和感ないケド、【一年中】ってアリなのか?
おいおい、これがクロちゃんか?
こんなバトルスーツなんか身にまとっていたら重たくてすぐにバテちゃうんじゃないか?
ティナが心配してバトルスーツの中のクロちゃんに小声で話す。
「チョッとクロちゃん。これって目立ちすぎるし、こんなのずっと身にまとっていたら体力もたなくなっちゃうよ。」
「ティナちゃん、心配してくれてありがとう。こうでもしないとワシは有名人だからの、どこで騒がれるか解らないんじゃ。それにこのバトルスーツは重たくないんじゃよ。バトルスーツに見える質感のフィルムが体を覆っている感じといえば解るかの?」
確かにバトルスーツに触ってみると簡易性のフィルムっぽかった。俺はこれでもずっと旅をしていくのは色々大変そうだから、クロちゃんに提案してみた。
「あのさ、クロちゃん。こんな大げさにしないでもっとシンプルに仮面だけにしてもいいかもよ。そっちのが身軽だしさ、トイレに行くのも楽なんじゃないかな?」
「そりゃそうなんじゃケド、折角の旅じゃ。ハロウィンみたいに楽しみたいではないか。」
「イヤイヤ、ず~と同じ格好って飽きると思うよ。俺が仮面を何個か用意してやるから、日替わりで使っていったらどうだ?」
「うん、クロちゃん。カイトの言う通りだよ。仮面だけの方がシンプルでカッコイイと思うな。」
「そうかのう。ティナちゃんがそう言うならそうしようかのう。」
おいおい、俺の意見じゃなくてティナに言われたから仮面にするんかい!って突っ込みたくなったが、まぁいいや。
「お~い、キャンティ。お前の工房の入り口から百メートル位奥に行った所の右側周辺に仮面が二十個位あったろ?あれはどんな仮面だ?」
俺はブレスのカスタマイズ化をした時にキャンティの工房に仮面があったのを思い出し、魔動石を通じてキャンティに問いかけた。
《カイ、おはよ~。えっ?そんなことまで覚えていたの?一緒に奥まで歩いていっただけで何も説明しなかったよね?》
「フッ!キャンティくん、俺を誰だと思っているんだ?記憶力ならそんじょそこらの奴には負けないカイ様だぞ。恐れ入ったか?」
《どんだけ記憶力がイイんだ?ビックリしたよ。工房の通路は五百メートル位でその両サイドにはあたいが作った作品が無数に置いてあるっていうのに。確かにその場所には仮面が二十個あるよ。あの仮面はね、魔糸持ちなんだよ。仮面を被った者から魔糸で魔力や波動力を吸い上げる。吸い上げた力を解析変換し、力のない若者には将来見込めるMAXのパワーにして還元する。力が衰えた老人には過去に存在していたMAXのパワーにして還元する。あと、仮面に付いているスイッチを切り替えれば声もイメージした感じに変えることが出来る優れ物だぞ。どうだ!素晴らしい仮面だろう?》
キャンティ、こいつ本当に天才だ・・・何かえらく難しい説明だったケド、要は仮面を被った者の生涯を通じて一番あぶらがのった強さを引き出すってことだろ。
しかも、ボイスチェンジャー付きってスゴすぎるだろ。
「キャンティ、素晴らしい。流石だな。その仮面を五~六個欲しいんだケド、もらえるか?」
《カイ、実は今仮面の予約が殺到していてな。どこで噂を聴いてきたのか解らないが手元には二個だけしかないんだよ。二個でも大丈夫か?チョッとお茶目な【おかめ】と【ひょっとこ】だぞ。》
「あぁ、この際贅沢は言っていられないよ。ありがとう。悪いケド、その仮面を持ってきてくれ。今すぐに超電磁リングをセットするからさ。」
俺は地面に超電磁リングをセットしてキャンティが現れるのを待つ。クロちゃんにはキャンティの魔動石の念波は聴こえないので、俺の手のひらに触れてもらって会話の内容を理解してもらおうと思ったが、それは不要のようだった。
「カイくん、ブレスは共有アイテムなんじゃよ。今はワシの石がハマっているから、ティナちゃんの石とキャンティちゃんの石と君も含めて四人で念波はお互い共有出来るんじゃ。」
そうなのか?それはキャンティからは説明を受けていなかった。それならいちいち説明する必要も無いから楽だよな。
でもクロちゃん、よくそんなこと知ってたよな。ワシの石も特殊だし、何かと不思議な爺ちゃんだよな・・・
しばらくするとキャンティが超電磁リングから現れて仮面二つを持ってきてくれた。
「よう!お待たせ。っていうかカイ、二日連続で呼び出すなよな。あたいも何かと忙しいんだぞ。」
キャンティの手にあるのは、チョッとひょうきんな【おかめ】と【ひょっとこ】の仮面。早速、クロちゃんにひょっとこ仮面を試しに着けてもらう。
俺には魔糸が見えるので、ひょっとこ仮面を観ていたが確かに魔糸は出ていて、クロちゃんに絡みついていた。しかし、いくら待ってもクロちゃんの様子は一向に変わる気配がない。
「コレ、なにか変わったのかの?ワシにはよく解らないが。」
クロちゃん自身も自分に変化がないのを理解しているようだ。
「おいおい、キャンティ。これ不良品じゃないのか?クロちゃんの見た目、変わってないし潜在パワーもなんら変化ないみたいだぞ。仮面から魔糸は出ていたケドな。」
「え?こんなこと有り得ないよ。どんな人だって強さのピークの時期があるから少なくても多少の変化は出るハズなんだけどな。故障したんかな?ボイスチェンジャーの方はどうだ?」
クロちゃんは仮面のスイッチを切り替えて、話しかけてきた。
「ワシの声、どう?カッコよくなったかの?」
ボイスチェンジャーの機能はしっかりと生きている。クロちゃんの声は渋くて大人の男って感じだ。
「クロちゃんめっちゃ渋くてカッコよくなったよ。でもさ、その声で爺ちゃん言葉はおかし過ぎるよ。ワシとかさ・・・まぁ、意識して自分で直してくれよな。」
クロちゃんからひょっとこ仮面を取り外したキャンティは魔眼で仮面の細部をチェックしていたが、ティナが興味を示してきた。
「ねぇねぇ、あたしもその仮面被ってみたいよ。あたしでも変化しなかったら、どこか故障してるかもしれないってことになるんじゃない?」
「うむ、そうだな。ティナ、被ってみてくれ。」
ティナはキャンティからひょっとこ仮面を預かるとすぐに被ってみせてくれた。ティナは小顔なので、ひょっとこ仮面は顔に対してデカい感じがする。クロちゃんの時と同様に魔糸が出てきたのを俺は確認した。
しばらくするとティナと仮面は眩しい閃光を放ち、デタラメなパワーを発するティナに変化した。
「あ~これってあたしの昔のパワーだよ。見て見て、ヘルブレイク!」
そうティナが言うと遠くにあった岩が粉塵も発することなく、跡形もなく消滅した。俺がヘルブレイクを発した時は岩が木っ端みじんになっただけで、岩のカケラや粉塵なんかがめっちゃ飛び散っていた。
しかし、今ティナが発したヘルブレイクでは岩そのものの存在が無かったようにキレイに消滅したのだ。
ここまで同じ技でレベルが違うものなのか?俺はショックを受けるどころかむしろ、こんな高みの領域があることに興奮してテンションが上がっていた。
「ティナちゃん、スゴいな。岩の原子まで破壊してしまうとは。ワイ、ビックリしたよ。」
クロちゃんは早速意識して自分の言葉使いを直していた。
周囲の意見を受け止めて素直な良い爺ちゃんだが、ワシがワイになっていたのは笑えるというのは本人には内緒にしておこう。
「じゃあ、次は俺。その前にキャンティに聴いておきたいことがある。この仮面による潜在パワーの開放に有効時間はあるのか?有効時間が無いと体のどこかに大きな負荷がかかるんじゃないかって思うんだケド。」
「ふぅ、故障じゃなくて良かったよ。でも、なんでクロちゃんには変化が生じなかったのかが意味不明なんだケドな。カイ、仮面の有効時間は人間なら一日五分間だけで時間になると自動的に元に戻るから安心するが良い。お前が言うようにそれ以上になると体に与える影響が大きすぎて体に反動がきてしまうからな。仮面の力でムリに体を変化させているわけだから。」
「そうか、解った。さぁ、俺はどれ位今と変わるのか楽しみだな。皆、観ていてくれよ。」
俺は未知なる自分の潜在パワーを知ってみたかったのだ。パワーのゴールが解っていなければ、今後暗中模索になりかねない。俺はこの仮面はあくまで予測の範疇での、仮初の姿を現してくれるアイテムという認識をしている。
だから、今その仮初のゴールが解っても、それが全てではない、努力次第でそれ以上にもなれるに違いないと予測している。恐らくキャンティはこの仮面にAIを組み込んでその予測を具現化させているのだろう。
そんな想いを抱きながら、俺はひょっとこ仮面を被る。仮面から出てくる魔糸を感じる。さぁ、俺の騎気を感じろ!そして、仮初のゴールを見せてくれ!
そう思った瞬間に仮面は閃光し、激しく木っ端みじんに吹き飛んで壊れてしまったのだ。俺はとっさにガードを発し無傷で済んだが、キャンティやティナなどは驚いて大騒ぎする始末。
「嘘だろ!あの仮面はハイパーダイヤモンドを要所要所に組み込んでいるから滅多なことでは壊れない代物なんだぞ。それがこんなにも跡形もなく壊れるなんて・・・なんでカイの時だけこんなことになったんだか、あたいにも解らないよ。」
「カイト~、ビックリしたよ。あたしたちは不死身だケドさ、いきなりこんな展開は心臓に良くないね。」
「あぁ、とっさにガードを発動させたからな。キャンティ、ハイパーダイヤモンドってダイヤモンドの三倍位硬度があるって言われているあれか?よくそんな硬い物を加工出来るな。そっちの方がビックリするよ。」
俺たちは仮面が突如爆発したことでビックリしたが、クロちゃんが冷静に話をしてくれた。
「カイくん、これはな仮面がカイくんの潜在パワーに耐えられなかったんだよ。いかにハイパーダイヤモンドとはいえ、その圧倒的な力の前には無力だってことだ。とはいえ、この仮面の耐久度は決して低くはない。ワイが計算した所、ティナちゃんのMAXパワーの三倍位までなら耐久出来たと思うよ。つまり、君の潜在パワーは将来それ以上になるってことだ。あくまで仮面の予測の範疇だがな。」
えっ?俺の仮初の潜在パワーがティナの三倍以上だっていうのか?クロちゃんの言葉使いは大分マシになってきたが、今はそんなことよりも俺は自分自身の未来が少し恐ろしくなった。
こんなに俺のパワーは強大になり得るのか?この強大なパワーを果たして俺はコントロール出来るのか?
まぁ、俺にはティナがいるしゼロもいる。それにヴァンやゲンもいるのだ。俺がピンチになったら、俺を支えてくれる仲間がいる限り、何とかなるだろう。
「キャンティ、悪いな。大切な仮面を一つ台無しにしちまって。おかめの仮面は大事にするよ。」
「カイ、気にするな。形ある物、いつかは壊れるものだ。お前の未来、益々楽しみになって来たぞ。あっ!そういや昨日言い忘れていたが、ゼロとレイファリーは元々複雑な状態の一卵性双生児で不完全な存在だったのだ。そのままだと不完全が故に二人の魂さえも崩壊しかねない状況だったから、それをあたいが二本の魔剣として分けたのだ。だから本来は一つにあるべきものなのかもしれないな。それが元の一つの体に合剣として蘇れば完全体になるから、そのパワーは圧倒的になるのは当然かもしれない。」
なんと、キャンティはサラリととんでもないことを言い出した。ゼロとレイファリーが複雑な状態の一卵性双生児だった?それを二つに分けて一つに戻す?よくよく考えたら、俺たちがやろうとしていることって魔人や人間がやってよいレベルなのか?
ゼロもレイファリーも精霊だが今は命ある魔剣として生まれ変わっているからだ・・・まぁ、難しいことを考えすぎても混乱を招くだけだ。
本人たちが同意の元であればいいんじゃないのか?という結論に至ったので俺は難しい考えをやめた。もっと考えなければならないことは山ほどあるのだ。
俺は、おかめの仮面をキャティから受け取るとクロちゃんへと手渡した。しかし、おかめの仮面って言いにくいな。おかめの仮面じゃなくて、おかめちゃんと呼ぶことにしよう!うん、その方が愛嬌もあるしな。
「クロちゃん、おかめちゃんはあんたに託すから大切にしてくれよな。何か不具合があればキャンティが直してくれると思うしな。」
クロちゃんはおかめちゃんを顔に被せたが、やはり閃光もしなかったし、体の変化もない。キャンティは納得いかない様子だったが、クロちゃんはおかめちゃんのボイスチェンジャーがお気に入りで色んな声を試していた。
「よし、これで問題は一つ解決したな。さてと、雷魔を探しに行くぞ。」
俺たちはキャンティと別れて進路を決めるべくブレスに竜水晶をセットして、雷魔とのホットランを作ろうとした。
しかし、ただ単に竜水晶をセットしても盛り上がらないので俺は掛け声を付けてみた。
「我が願いに応えよ!竜水晶、セットオン!」
俺はそう叫びながら、竜水晶をブレスにセットした。
そして、「光」をイメージする・・・
しばらくすると竜水晶の強力な魔力がブレスを通じて発信される。気が付くとブレスからは赤外線のようなものが一本、北東方面に向かって伸びていた。
これは魔糸のような物質にも見えたが、天才キャンティに聴いてみないとそれは解らない。
俺は一刻も早くこのホットラインに向かって進むべく、ティナにはブレス内に転移してもらい、クロちゃんには俺の背中に乗ってもらった。
「さぁ、行くぞ!雷魔の元へ!」
俺はホットライン通りに騎気を使って飛行を開始した。クロちゃんには風圧で苦しくなったら背中を叩いて知らせるように言ったが、ワイのことは気にしなくていいから目一杯のスピードで飛んでくれと言われた。ホントに大丈夫なのか?
と思ったが、クロちゃん自体とんでもない爺ちゃんなので多分問題ないのだろうと勝手に結論付けたのである。
俺の飛行スピードもかなり上がってきていると思われる。急な方向転換や微妙な角度調整も問題なく出来ている。これにはゼロがしっかりと活躍してくれていて、俺の騎気を魔糸で喰らって自分へ吸収し、それを俺に還元してくれている。
俺の気が騎気になる前は波気を還元してくれていたが、今は魔気を還元してくれている。俺自体、今はどちらでも良いような気がしていたのだが実際は大きな違いがあったのだ。ゼロ的には波気吸収、魔気変換、波気変換放出という流れよりは、騎気吸収、魔気変換、魔気放出の方が楽らしい。騎気は魔気と波気の混合気だから、これを魔気に変換するのはたやすいらしい。
そして、魔気変換→魔気放出の所がノンストレスなので良質な魔気が放出されて俺自体の魔気もより充実されていたというわけだ。
その為、良質な魔気の有効活用+俺の日々の騎気の練り上げ効果で飛行スピードが上がっていることを付け加えておこう。
時間にして数分ほどの飛行を経て俺はホットラインの最終地点まで辿りついた。ブレスと竜水晶を使ってのホットラインは目的の魔獣に対して半径五十メートルで切断される。ここからは自力で目的の魔獣を探さなければならない。
ゲンからの情報では、俺が雷魔の使者である光の精霊に認めらえれば俺の所に光の精霊が天より現れる。そしてその周辺に雷魔がいるであろうということだった。
俺たちは野宿を決めて池のほとりに寝床やたき火、食事の準備をしていった。
池のすぐ近くは宿屋街だったが、雷魔と出会うには宿屋街よりもより自然を感じる環境の方が良いと思ったからだ。野菜は事前に準備していたのでブレスに保管してあった。
魚はクロちゃんに言われたやり方で不思議なほど沢山捕れたが、俺たちが今日食べる分以外は全てリリースした。魚を捕るのはとても楽しく、ティナも楽しんでいた。
しかし、命は大切にしなければならない。この世は弱肉強食だが不必要な殺生を俺は好まない。
夕飯も終わり、その後は交代で睡眠をとった。どんな敵が来るかもしれないし、光の精霊が現れても良いようにと・・・
しかし、いくら待っても光の精霊は現れない。通行人や魔獣の気配はいくつも感じられたが、特別何か斬新な気配は全く感じられなかった。
今日の所は空振りか・・・それとも光の精霊に認められなかったのかもしれないなとも思っていた。
ふと池の対岸にも俺たちと同様に野宿をしている親子がいるのに初めて気が付いた。
たき火もしていなければ、食事をとっている様子もないので、全く気付かなかったのだ。ただ毛布にくるまっているだけの状態できっと空腹に違いない。
俺はティナとクロちゃんを起こしてわずかな食料を持っていくと伝えた。ティナとクロちゃんも一緒に行くと言ってきたので、俺たちは三人で対岸にいる親子の所まで歩いて行った。
「ねぇ、君たち食事は済ませたの?もし良かったら俺たちの食材があるから、食べないか?大したものは出来ないケドさ。」
「あぁ、スミマセン。実はお金を落としてしまって宿代がなく、急遽野宿をすることになったのです。わたしは大丈夫なのですが、この子には何か食事をお願いしても宜しいでしょうか?」
そうなんだ、そりゃ大変だ。見た感じ、八歳位の女の子と三十歳位のお父さん。
名前は女の子がマイちゃんでお父さんがコウさんだと教えてもらった。マイちゃんは人見知りなのか、俺たちの方を見ようとはしなかった。
「よし!ティナはブレスの中にある野菜を使って下準備を頼むよ。クロちゃんはたき火の準備をしてくれ。俺はさっきの要領で魚を捕ってくるからさ。」
各自、自分の役割に取りかかる。俺はクロちゃんに教えてもらったやり方を再度試みた。魚も人と同じで呼吸をしている。
俺は天空の騎気を発動して、池の水中全体をサーチする。この際にサーチする対象は水中の酸素である。
もし、俺が水の力を使えるのならば、水中の魚の動きも把握出来るだろう。
しかし今はその力がないので、天空の騎気で把握出来る水中の酸素をターゲットにしている。サーチで水中の酸素が減っている所には魚がいる。
その場所に事前に作っておいた網を一気に投入するのだ。
ちなみにこの網は天空の騎気で作った【見えない気の網】の為、魚には察知されない。そして、針を使わずに魚を捕るので、魚自体も傷つけずに済むのだ。意味なく魚を傷つけるのは好きではないからな。
俺が魚をこんな感じで捕っているのをマイちゃんは横目でチラ見していた。人見知りだケド、何か気になるって所だろうか?
そりゃフツウの人間じゃ決して出来ない魚捕りの方法だから、観ているだけで面白いかもしれないよな。
そして一回の投網で釣果は魚が十匹、まずまず上出来である。
これを観ていたクロちゃんも教えたことが一回で出来ていたことを喜んでいたようだった。
「マイちゃんとコウさん、魚は何匹食べる?一応、十匹捕れたんだケドさ、必要な分以外はリリースしたいんだ。」
「ありがとうございます。わたしとマイは合計二匹で大丈夫です。先程、あなたたちが魚を捕っていた際も食べない分はリリースしていたようでしたが、何故ですか?通常ならば、全て調理して残しても仕方ないという人が多いような気がしますが。」
俺は自分の食に対する考え方を述べた。そんな大した考えではないのだが、コウさんは真剣に聴いている。俺がこんな話をしている間にティナが魚と野菜を使った料理を作ってくれていた。クロちゃんはたき火担当だったが、完成したので俺たちの話に口を出さずに聞き入る。
「コウさんとマイちゃんはどこに行くつもりだったの?この辺は魔獣も出るかもしれないし子供連れじゃ危険かもしれないよ。」
「心配してもらってありがとうございます。わたしはこう見えて無認可の武闘家なんですよ。無認可なのでブレスは持っていませんがね。少々強い魔獣が来ても何とかなると思っています。ところでカイさん、先程の魚捕りは見事でした。一体どんなトリックを使えばあんなことが出来るのか不思議でした。」
そうこうしていたら、ティナが魚と野菜を使った料理を持ってきた。
「マイちゃん、コウさん、お食事が出来ましたよ。どうぞ食べてくださいね。調味料があまり無くてあるもので作ったから、お口に合うかわかんないケドね。」
二人の前に出された料理は、有り合わせで作ったとは思えないほど完成度が高く流石はティナだと思った。
「こりゃあ美味しいですね。マイ、良かったな。ありがとうございます。」
コウさんは喜んでくれたが、人見知りのマイちゃんは食事を口にはするものの期待していた反応は見られなかった。
そうか、コウさんは無認可とはいえ武闘家なのか。でも、ブレスは無いから特殊能力は無いんだろうな。
俺がそんなことを考えていたら、コウさんから俺と手合わせをしたいと申し出があった。
「俺は魔動石を持っていて、そのスキルを使って戦うんだ。だから、ブレスのないコウさんとはフェアに戦えないよ。」
「イヤイヤ、勝ち負けが目的ではなく、私は魔動石持ちの方と手合わせしたことが無かったので一度経験したいと思っていたのです。是非、お願いします。カイさんのスキルを見せてください。」
「解ったよ、でも気を付けてね。俺は今まで魔獣としか戦ったことはないし、組み手はティナとしかしたことがない。だから、フツウの人と拳を交えたことがないから、加減が解らないかもしれないんだ。」
「構いませんよ。わたしも全力でいきますから、ヨロシクお願いしますね。」
薄暗い池のほとりで見つめあい構えを取る俺とコウさん・・・俺はロックオンをコウさんに対して発動させた。コウさんからの心臓の鼓動、血液の流れを感じる。
さぁ、いつでも攻撃してくれ。俺はコウさんの攻撃に対応出来るように集中していた。だが次の瞬間、俺の足元に大きな衝撃が走った。
ドン!ドン!ドン!
何かが俺の足元の地面に激しく当たり、地面から砂煙が立ち上る。
「な・なんだ?何かが飛んできたのか?コウさんの攻撃なのか?ロックオンをかけていたケド、何も感じなかったぞ。」
俺は慌ててガードを発動させた。俺の周囲に騎気のバリアを張り巡らす。そして念の為にコウさんから一メートル離れた場所にもガードを発動させて、騎気のバリアをセットした。
もし、さっきの攻撃がコウさんのものであれば、次に攻撃した時にはこの騎気のバリアに何らかの反応があるハズ。俺はそうした想いでいたが、セットしたガードは一瞬で消し飛んだのだ。
パーン!パーン!
俺のガード二枚はガラスが割れるような音と共に消滅し、俺は驚きを隠せなかった。
「えっ?今度はなんだ?コウさんの攻撃なのか?何も見えなかったし、何も感じなかったぞ。」
「ハイ、わたしがやりました。カイさんの気だと思いましたので、察知されないようにわたしは筋肉を一切今は使っておりません。」
筋肉を使わない攻撃って可能なのか?確かにコウさんは今まで微動だにしていなかった。心臓の鼓動や血液の流れは感じたのになぜ?
考えられるのはこれしかない!俺のロックオンが捉えられない攻撃方法。それは気による攻撃だ。
気だけの攻撃ならば、筋肉を使うこともないのでロックオンには反応しない。それにその攻撃レベルが高ければガードも破壊することが出来るだろう。
「恐れ入ったよ。魔動石の効果もなく、体一つでここまで自己を高められるとは。じゃあ俺もレベルを一段階上げるよ。」
俺は深呼吸をして騎気を高めていった。そして、発動するロックオン。
イヤ、正確にはロックオンⅡ。ロックオンは筋肉の発動を瞬時に感じるスキルでロックオンⅡは神経をサーチするスキル。神経から筋肉へのアクセスには必ず変化が生じる。もし筋肉を使わなくても気を発するには神経をロックオンすれば良い。
しかし、通常のロックオンに比べてかなり多くの騎気を使用するのがリスクになる。
まぁ、失った騎気はあとでゼロに補充してもらえばいいしな。俺はロックオンⅡと念の為にアラートを発動させた。
次の瞬間、ロックオンⅡに反応が生じた。
思った通り、神経からのアクセスを確認した。俺は瞬時にその攻撃方法、攻撃ルートとその誤差を解析し体を反応させる。
その直後、アラートも反応し俺の後方の大木が消滅したのだ。
「あっぶね~、こんなの喰らったらたまったもんじゃないよな。それにアラートの反応と同時に大木が消滅したぞ。どんだけ、早いんだ?」
「これは驚きました。攻撃をかわされたのは久しく記憶にありませんから。今度はカイさんの攻撃をお願いします。一番自信があるのを是非。」
俺が一番自信のある攻撃?これだけムダのない攻撃をしてくるのだ。ハンパな攻撃だったら、きっと回避されてしまうだろう。
「じゃあ、そうさせてもらうよ。ヘルクラッシュ!」
俺はコウさん周辺五メートルの大気を操り、重力を五十倍にしたと同時に騎気でコウさんの周囲を囲み、その騎気を一気に収縮させた。
超重力で行動に制限が出来るのと同時に騎気の収縮で握りつぶされたかのようなダメージを与えるスキル。
正直もっと重力も上げられたし、騎気の収縮パワーも上げられたのだが組み手でそこまでする必要はないと考えたゆえの行動である。
しかし、結果は想定外のノーダメージ。俺にはコウさんが大気の切れ目をすり抜けて回避したように見えた。
物には切れ目というものが存在する・・・
一見、塊のようなものでもミクロの世界では切れ目や隙間が存在する。大気には窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素、水蒸気が混在するので、その切れ目が存在するのだ。
その切れ目を感じ、そこをすり抜けることが可能なんて予想だにしなかった。
「コウさん、お手上げだよ。お見事だ。コウさんの攻守共に俺の想定外で勉強になったよ。」
「カイさん、お見事でした。とても楽しい組み手でした。ありがとうございました。」
「カイト~、あたしがブレス内にいなかったから、カイトのスピードもパワーも半分しか発揮出来なかったよね。ゴメンね。」
「いいんだよ、ティナ。これは組み手だから勝負ではないし。こんなことが可能なんだって改めてバトルの奥深さを知ったよ。俺はロックオンⅡの改良版もまだ考えているし、ヘルクラッシュの改良版も今閃いたんだ。ありがとう、コウさん。」
「えっと、ティナさんがブレス内に転移していないとカイさんのスキルが半分になるとはどうゆうことでしょうか?」
俺は俺とティナの関係、ブレスの仕組みについてコウさんに説明をして納得してもらった。
「そうだったんですね。カイさん本来の戦闘能力が観てみたかったです。あっ!ティナさんもお食事ご馳走様でした。大変満足致しました。」
「そうだ!ケーキも食べる?昨日の宿屋に頼んで厨房を借りて作ったんだ。」
俺はブレス内に収納してあるケーキを取り出し、二人に差し出した。
「そろそろ寝ようか。また明日ね、おやすみ。」
「今日は色々とありがとうございました。おやすみなさい。」
「マイちゃん、コウさんおやすみなさい。また明日ね。」
俺たちは挨拶を交わし、自分たちの宿スペースに戻り就寝した。
明日も雷魔を探す!絶対に諦めないぞ。そう俺は心に誓い、心身ともに深い眠りについた。