第十一話 占師
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俺たちの占いの順番になったので呼び出しがかかった。
さて、どんなカリスマ占い師なのか楽しみな俺たち。このクロちゃんこそ、俺たちにとって最も重要なキーパーソンであることを俺たちはまだ知らない。
呼び出しがかかった俺たちは奥の特別部屋に案内される。薄暗い中にテーブルが一つと手前に椅子二つがやっと見える状態の明るさ。
その椅子にティナと並んで座る俺。段々と目が慣れてきて、テーブルの対面がうっすらと見えてきた。
「よく来たね。ワシがクロス、皆からはクロちゃんと言われておる。占い師をしておってな、今日は気が向いたのでこちらまで出張鑑定に来たというわけじゃ。」
なんと!クロちゃんっていうから、可愛らしい女の子の占い師だとばかり思っていたら、こんな小さい爺ちゃんだったとは・・・
見た目、ティナよりも二回りほど小柄で年は九十歳位の爺ちゃん。俺はその姿を見て正直ガッカリしたが、ティナは逆にテンションが上がっていた。
「わぁ~クロちゃんって、お爺ちゃんだったんだ。あたし、どんな占いしてもらおうかなぁ・・・でも体、小さいねぇ~ねぇカイト。」
「うん、占いって何に関してでも出来るのかなぁ?俺たちは今旅をしていて・・・」
俺が話をしている最中にクロちゃんは話をかぶせてきて俺の話をさえぎってきた。
「お前さんたちは光の魔動石もちの魔獣を探している。違うかな?」
な・なんでそんな個人情報が解るんだ?しかも光の魔動石もちの魔獣に関しては、ティナも会ったことすらないのに・・・
「驚いたかね?ワシはもう歳で占い位しか楽しみがなくてな。カイくんじゃな?ワシの手のひらに君の手のひらを重ねてくれないか?通常ならば水晶やらタロットカードやらを使うのだろうが、ワシは直接手を合わせることで色々見えてくるのじゃ。」
俺はこの爺ちゃんに名前を直接言っていないし、ここのマカロンの主にも言っていない。
そして、ティナもカイトとしか言っていない。なんで俺の本名が解ったんだ?
この不思議な爺ちゃんに言われた通りにしてみようと爺ちゃんの手のひらに俺の手のひらを重ねてみた。
不思議な感覚が俺を取り巻く。無意識にサーチを使って爺ちゃんの行動を探る俺。当の爺ちゃんはピクリとも筋肉が動かない。
そして、何故か俺の騎気が爺ちゃんにサーチされているような感覚に襲われる。
そんなことは有り得ないのだろうが、俺の今までの出来事が全て見透かされている感がしてたまらない。
次の瞬間、気が付くと爺ちゃんの手がいつの間にか俺の手を離れていた。
サーチをかけていたので、爺ちゃんの手の動きは事前に把握出来ていたはずなのに、全く反応出来なかったのだ。
「ありがとう。君の全てが解ったよ。面白い、非常に面白い。君の生き方、考え方、現在の能力と今後の目標・・・なんといっても騎気を持っていることが非常に珍しいの。」
な・なんてことだ。ハッタリか?だとしても、この爺ちゃんにそのメリットは無いし、何よりも騎気を感じている。
俺のサーチを無効化したこと、全身を見透かされた感覚・・・この爺ちゃん、只者ではない。
只の占い師なわけがないと結論付けた。
「なぁ、爺ちゃんの目的は何なんだ?俺たちの敵って感じは全くしないケド、俺のことを見透かした感じは正直怖いよ。俺のサーチも無効化したみたいだし、只者じゃないな。」
「ワシ?ワシはヒマを持て余した只の爺さんだよ。ワシの目的は楽しい旅を送ること。マスコミに引っ張りだこにされる日常は、もうまっぴらご免だしの。カイくん、君の成長の一部を一緒に見届けさせてはくれないか?勿論、君たちの旅の邪魔はしないと約束しよう。天空の力、どこまで飛躍するのか楽しみじゃ。あとカイくん、これは忠告じゃ。君はそう遠くない未来に君が君で無くなる時が必ず来る。これは運命じゃ・・・」
間違いない・・・この爺ちゃんは俺の、イヤ俺たち九人の全てを知ったのだ。しかも、この短時間で・・・
「解ったよ、俺たちの全てがあの一時で解るなんてスゴイと思う。でも、俺は爺ちゃんのことは何も知らない。ホントは何者なのか・・・真実を話してくれなくても良いよ。爺ちゃんの波気を俺に感じさせてくれないか?それだけで俺はある程度、その人のことが理解出来るからさ。」
俺がそう言うとクロちゃんはコクリと頷き、俺のサーチを受け入れてくれた。
今度はハッキリと感じる、爺ちゃんの波気。イヤ、これは波気とは異質な気だ。魔気とも騎気とも異なる気、なんなんだ?
でも、邪悪さは微塵も感じない・・・
むしろ、穏やかで和やかな気だ。戦いとは全く無縁なその気は俺を安心させるに十分なものであった。
俺はサーチを解除して爺ちゃんに伝える。
「爺ちゃん、あんたが何者かは解らなかったケド、あんたの気は平和そのものだ。俺たちに敵対するとは全く思えなかったよ。イイよ、一緒に旅をしようじゃないか。但し、危険な状況になったら自己防衛だけは心がけてくれよ。他のことは求めないし、俺たちに干渉しないでくれよな。」
「チョッとカイト~、何で勝手に決めちゃうのさ。折角、カイトと楽しい旅になるぞって思ってたのに~。まぁ、クロちゃんが邪魔しないって言ってくれてるケドさ。」
「ティナちゃん、ムリ言ってスマンの。老い先短い人生じゃ。楽しい旅を最後にしたくての。最後の旅は武闘家の成長度合いを間近に観て楽しみたいって思ってたんじゃ。だから、武闘家の中で今、一番面白い成長をしていて今後も楽しみな子を探していたんじゃ。それがカイくんで、彼がココに来るのに合わせて占いの出張鑑定を設定したというわけじゃ。」
爺ちゃんは俺に会う為にわざわざココで待っていたというのか。
まだまだ力不足の俺なんかの為に・・・
「解ったよ、今の俺にアドバイス出来ることはどんどんしてくれよ。俺は心技体、全てにおいて成長を望んでいる。後さ、ティナとゼロも観てやってほしい。俺からを通して感じる情報とダイレクトに本人から得る情報じゃ違うだろ?」
「うむ、そうじゃな。ではティナちゃん、ワシの手のひらに君の手のひらを合わせてくれないか?」
ティナは黙って頷き、言われた通りに手を差し出す。
「こ、これは・・・老体にはこたえる歴史じゃな。ティナちゃん、君は凄まじい経験をしてきたな。君たち三竜姫の竜水晶が最後にカイくんたちを救うことになるやもしれんの。君はお母さんからドラゴンハートのことを聴いているのかい?」
ドラゴンハートって何なんだ?
竜の心のことなのか?そんな憶測をしていたら、ティナが思いつめたように答えてきた。
「あたしのお母さんからは、この竜水晶が全ての問題を解決してくれるから大切にしなさいねって言われてたよ。でも、ドラゴンハートのことは聴いてないな。お母さんが言うには、竜水晶は必要な時に必要な使い方が竜水晶自体から伝わってくるんだって。だから、将来パートナーとなる相手とともに竜水晶を守ってねって。あたしは最初、お守り的なものなのかな?って思ってたケド、やっぱ違うみたい。」
「竜水晶はの、遥か太古に古の秘術で造られたんじゃ。それは竜一族が作ったものではない。もっと遥か上の存在の者がこの世の平和維持の為に作り、竜一族に託したのじゃ。それよりもティナちゃん、お前さんのフルパワースゴいの~。破壊力だけならば絶対神ゼウスのフルパワーの七割位はあるわい。将来、カイくんが成長しティナちゃんのフルパワーを活かす時が楽しみじゃわい。もし、邪悪なる者が出現し絶対神ゼウスが倒されたとしても二人の力が合わさった破壊力ならば、その者を倒せるやもしれんの。」
そうか、竜水晶ってそんなに重要な物だったのか・・・
今回のブレス改にも役立ったし、今後も何か困った時には出番があるのかもしれないな。それにしてもティナのフルパワーってそんなにスゴいのか?まずは俺がそのスゴさに追いつくようにならなきゃいけないな。
絶対神ゼウスが倒される時がこないにこしたことはないケド、その時は俺たちの出番になるかもしれない。
しかし、この爺ちゃん何でもお見通しだな。スゴいを通り越して尊敬に値するよ。
俺が俺でなくなる時って・・・正直怖いが、運命というならば受け入れていくしかないし、その真なる詳細、今は聴かないでおこう。
「じゃあ、次はゼロくんか。まずはゼロくんを出してくれ。ワシではゼロくんを手にすることが不可能じゃ。ゼロくんにワシが手を添えよう。」
爺ちゃんに言われてゼロをブレス内から取り出し、爺ちゃんがゼロに手を添えてきた。
「ほう~、これはスゴい。人魔合身か。人と魔族の合身で能力が一+一で十倍にもなるとは・・・恐らく人と魔族がお互いを高めあう起爆剤のような関係になっているんじゃろうな。これは楽しみじゃな。ゼロくん、君はもう少しで覚醒し魔剣改になりそうだぞ。後、覚醒後はレイファリーちゃんと合剣することでゼロWに超進化するようだ。」
おいおい、人魔合身って能力が十倍になるのか?フツウならば一+一の二倍だから、個々に換算すると五倍ずつになるのか・・・
これはスゴい!奥の手として人魔合身は使えるな。それにしてもゼロの覚醒とは成長の予測を凌駕するな。覚醒したらどうなるんだろう?
「なぁ、爺ちゃん。ゼロは覚醒したらどうなるんだ?」
「カイくん、それを今聴きたいか?その時が来た時に知る方が楽しみは増すと思ったが、せっかちじゃのう。ゼロくんが覚醒したら、ゼロくんに切られた箇所は再生不能となる。君たちも含めて、自己再生が可能な生命体は戦闘が不利になるじゃろう。また、剣としては規格外の攻撃が可能となる。こんな説明で理解出来るかのう。」
規格外の攻撃ってのが気になるが、それはその時の楽しみに取っておこう。
で、レイファリーとの合剣でゼロWになる?
合剣って、キャンティに頼まないと出来ないのかな?そもそもキャンティが合剣を許すかどうかも解らないしな・・・
でも、未来を見た爺ちゃんが言っているのだ。先々、ゼロとレイファリーでの合剣はするのであろう。
この合剣も威力は数倍に膨れ上がるのかな?っていうか、あのキャンティのことだ・・・
ゼロとレイファリーの合剣を想定して剣を作っているハズだ。彼女が作った物で、予測外の能力発動は有り得ないだろう。
《カイ、聴いていたぞ。その爺ちゃん、スゴイな。只者じゃないぞ。あたいが先々のことを想定して組みこんだゼロの覚醒や合剣の仕組みを見切るとは恐れ入ったよ。》
キャンティはブレスを通じて念波を送ってきた。
「キャンティ、合剣ってなったら、レイファリーはお前の手を離れるが良いのか?お前の相棒なんだろ?」
俺はそこを心配して質問した。自分の周囲だけ良くてもダメなのだ。俺たちは全体最適を目指す。全員の都合が良くて、お互いに成長していける環境こそ後悔することのない理想。
誰かが不満を持っていては、ホントに良いチームは作れないし、ベストな展開にはならないのだ。
《ん?気にするな。別にレイファリーが死ぬわけではないからな。ゼロの中で生き続けていくだろ。あたいたちには大目標があるんじゃないのか?世界を守るという大きな志を忘れるな。何かを得る時には何かを捨てなけりゃならない時がある。そんなもんだ。まぁ、その時が来たらあたいは心より喜ぶよ。だって、あたいが望んで自分で組み込んだ仕組みが活きてくるんだ。科学工学の粋を尽くして作った魔剣達ということを忘れないでくれよ。》
キャンティは思ったよりもサバサバしていて気持ち良い奴だ。
俺の成長が無ければ、俺の騎動力や騎気を喰っているゼロの成長も有り得ない。全ては俺の成長がキーなのだ。
キャンティの希望はゼロとレイファリーの合剣、ゼロWの発動。俺は焦る必要はない・・・
ただ、自分に厳しく日々の鍛錬を欠かさないでいこうと改めて思うのであった。
「さて、そろそろ終わりにしようかのう。カイくんたちは、ぴよぴよに宿泊するのじゃろう?君たちの気から読み取らせてもらったよ。毎晩、ワシは自由行動で別の所に宿泊するから気にしないでくれ。また翌朝からヨロシク頼むわい。あ、そうそうこれをブレスにハメてもらっても良いかのう。」
手渡されたのは一つの石・・・
魔石でもなければ、魔動石でもないと思われるそれは異質な感じを受けさせる。
「爺ちゃん、これは?この感じは魔石でもないし、魔動石でもないだろう?もしかして超魔石か?これは爺ちゃんの石なのか?」
「これはワシの石・・・とでも言っておこうかのう。普段はスリープモードになっているし、この石の能力は発動しない。ワシが遠くにいても念波が送受信出来た方が便利かと思ってのう。君たちの旅にずっと付いていくのは体力的に難しい。ワシが君たちの旅から外れて君たちがホントに困った時にワシの石に念じておくれ。必ず君たちの力になることを約束しよう。」
俺は爺ちゃんからの説明を受けて、石をブレスにハメてみた。
石はスリープモードなので何も感じない・・・
但し、爺ちゃんのスゴさは十二分に感じたので五つしかハメられない貴重なストーンスペース。
ここに石をハメることに迷いは無かった。
これで俺のブレスには、天空の石、剣の石、ワシの石の三つがブレスにハマった。残りのストーンスペースは二つ。
俺たちは爺ちゃんと別れ、翌朝から一緒に旅に出ることを約束した。
特別部屋を出ると、そこはまだガヤガヤとしていて沢山の占い待ちの人たちの長蛇の列が・・・
勿論ヘビ男、タヌ子、ゴリラくんの三人の姿もあった。俺とティナは顔を見合わせ、言いにくい事をヘビ男たちに言わなければならなかった。
「あの~今日はもう時間なのでクロちゃんの出張鑑定占いはお終いみたい。次回は未定でしばらく長期休養するって言ってたよ。ねぇ。カイト」
ティナが言いにくいことをやんわりと言ってくれた。でも、俺に無茶振りしてくんなよな。
周囲から溢れる超絶ブーイング。
こりゃ、収拾がつかないな・・・そんなことを考えていたら、意外な人物が吠えてきたのだ。
「皆、クロちゃんはご高齢だ。一日に出来る占いにも限界があるだろう。そこはファンとして配慮すべきじゃないのか?折角並んで待っていたのにという不満は確かにあろう。じゃあクロちゃんにムリをしてもらって心不全で死亡などとなった場合、皆は責任が取れるのか?自分にはそんな恐ろしいことは出来ない。それでもクロちゃんにムリをさせるというのであればその覚悟を持つが良い。」
そう叫んだのはなんと!ゴリラくん。
デカく遠くまで通るその声はめっちゃインパクトがあり、占いの順番待ちをしていた人々の心にしっかりと届く。
「おう、その通りだ。ご年配の方は大切にしないとな。」
「ファンならクロちゃんの健康をまずは望むわよ。健康だったらまたいつか占ってもらえるしね。」
今までブーイング一色だった周囲が、ゴリラくんの叫びと完全同調し、百八十度変化したのだ。
ゴリラくん、スゲ~!俺とティナはそのカリスマ的なパフォーマンスに感激し拍手をした。それにつられるように、店内にいる全ての人々もゴリラくんに一斉の拍手を送る。
こうしてゴリラくんは拍手喝采を浴びるのであったが、このパフォーマンスはチョッとした才能である。格闘家を辞めてマイクパフォーマーやDJなんかの方が意外と適職なのかもしれない。
俺たちはゴリラくんたちにお礼を言い、今後の活躍を楽しみにしていると伝えた。
そして、今日のお礼にまだブレス内に残っていた魔石三個をゴリラくんたちにプレゼントした。なにかあった時に売ろうと思っていた魔石三個。
こういった時に使った方が有効だ。
「えっ?いいのか?三個だったら、三千六百エンドにはなるだろう?そんなにはもらえないぜ。君たちも苦労してゲットしたんだろうし。」
別に俺はそこまで苦労はしていない。今ある魔石はサーチの訓練の際に魔獣がそのスキルに感動してくれたものなのだ。
だから、その魔獣たちとはバトルはしていない。魔獣とバトルをしなくても心が通い合ったり、リスペクトしてもらえれば魔石はゲット出来るのである。
「いいからいいから、受け取ってくれよ。俺たちの気持ちだ。クロちゃんもゴリラくんの気持ちをきっと嬉しく思ってるって。」
「そうか、悪いな。ムダ使いしないで大切に使っていくよ。明日からまた旅に出るんだろ?道中気をつけてな。また会う時には自分たちも成長している姿を見せられるよう頑張るよ。」
そんなやり取りをしていたが、タヌ子はモジモジしながらティナに話しかけてきた。
「ティナちゃん、あなたのようにモデルみたいにキレイで心も澄んでいる子に今まで会ったことないの。これにサインもらえないかな?」
ティナはにっこりと微笑んで喜んでタヌ子が希望した剣術の本にサインをする。
「ねぇ、タヌ子さん。写メも一緒に撮ろうよ。カイト、カメラマンヨロシクね。タヌ子さんだったら、右四十五度の辺りからが一番イイ角度だからね。主さん、もうチョッと明るくしたいから、照明ヨロシクお願いしま~す。あっ!チョッと待ってね。タヌ子さんにさっきもらったイヤリングしないと。タヌ子さんはその剣術の本も可愛く持ってね。」
とティナはやる気満々で写メの段取りを取り仕切った。
ヘビ男とゴリラくんはどうしていたかというと、場所のセッティングやら照明の角度調整やらをするアシスタントとして忙しくしていた。
「よ~し、二人とも準備OKか?じゃあ、いくぞ。はい!魔石ぃ~。」
俺はシャッターを切る合図を魔石にした。魔石なら最後は「い」なので撮影される側も「い」を言うと口角が上がり、笑顔になるのだ。こうして何枚か撮影し、楽しい撮影会は終了した・・・かに思えた。
でも、ここからが大変だったのだ。ティナがあまりにもキラキラ輝いていたのでギャラリーの女の子たちも写メを一緒に撮りたいと騒ぎ出したからたまらない。そりゃそうだよな。キールがSNSでフォロワーが百三十五万人だって言っていたからな。
キール、ティナ、リンの三竜姫は負けず劣らずのルックスとスタイルなのだ。一流モデル並みの女の子と一緒に写メが撮れるのだ。
それを希望する女の子は、ゆうに百人は超えていた。当然、店内には入りきれず店外にまで長蛇の列となった。
俺は引き続きカメラマン、ヘビ男とゴリラくんはアシスタントでティナにこき使われたのだ。
マカロンの主には迷惑をかけることになったので、撮影希望者から店に対して百エンドを払ってもらった。俺たちとヘビ男たちは無報酬の完全ボランティア。
それでもティナはプロ顔負けの意識を持ち、カメラや照明の角度、アイテム選定に妥協は無い。撮影希望者の表情が硬い時にはリラックスしてもらうべく、くすぐりや変顔をしてみたりとその柔軟な対応には頭が下がる思いだ。
こうして数時間に及ぶ撮影会は無事終了し、俺たちはくたくたになった。実はマカロンの売り上げは撮影会の時間帯が一番高かったらしく、主はホクホク顔でそれを報告してきた。
まぁ、順番を待っている間の時間はヒマだからな。陳列されていた宝石や魔石が売れるのも納得である。
ヘビ男たちは疲労困憊だったが、主に俺たちがプレゼントした魔石の買い取りを求めていた。主が出した金額は一万三千エンド。通常の十倍の買い取り価格である。
「えっ?こんなに?何かの間違いじゃないのか?
ヘビ男は驚いて主に問いかける。
「イヤイヤ、本日はお疲れさまでした。お陰様で店も大繁盛でした。これは私のほんの気持ちです。どうかお受け取り下さい。そして、また魔石をゲットされたら、是非当店までお持ちくださいませ。ありがとうございました。」
なんと素晴らしい神対応の主だろう。俺も魔石をゲットしたら、次回もこの店に買い取ってもらおうと思うのであった。
こうして、宝石屋マカロンを後にしてヘビ男たちとも別れた俺とティナ。
「今日は疲れたな。ティナもお疲れさま。大変だったろ?でも、楽しそうでキラキラしていたよ。」
「ううん、大丈夫だよカイト。カイトもカメラマン、ありがとう。ムリな注文もつけちゃったかもしれないケド、あの子たちが一番映える写メを取りたかったんだ。」
俺たちはそんな会話をしながら、宝石店主に予約してもらった宿、ぴよぴよへと向かっていた。
宿へと向かう途中で出店が多く立ち並ぶ。
「ねぇ、カイト。リンゴ飴買おうよ~。なんか小さい時のカイトって、いつもリンゴ飴買ってたよね~。」
「ん?そうだっけ?そういや、俺が七歳の時にお金落として、リンゴ飴買えなくて困ってたらティナがリンゴ飴くれたんだよな。」
「そうだよ~、だってカイト泣きそうだったじゃん。」
「そりゃそうだよ。握りしめてたお金をコケてどっかに無くしちゃったからさ。子供だったら、泣きそうになるよ。」
「これから晩御飯だから、今はリンゴ飴はやめとくよ。それよりもあっち行こうよ。」
俺はそう言うとティナの手を取り一緒にアクセサリーの出店に小走りで行ってみた。さっきの宝石店の宝石は見た目いいんだケド、高級過ぎて俺たちには不向きだ。婚約指輪だとか結婚指輪とかじゃないんだから、気持ちを伝えるのに俺たちにとってはこういった出店の簡易的なアクセサリーの方が向いている。深紅の敷物の上にキラキラと輝くアクセサリーたち。
俺がナゼこういったアクセサリーを買う気になったのかっていうと・・・さっきのタヌ子だよ。彼女が初めて会ったティナに手作りのイヤリングをプレゼントしていたからだ。いつも一緒にいるパートナーの俺が女の子の喜びそうなアクセサリーを未だにプレゼントしたことがないのは問題であろう。
俺がそうゆうのに関心が無いからなのかもしれないが、きっとゲンならキールにこういった物をさりげなくプレゼントしているに違いない。
タヌ子はイヤリングをプレゼントしていた。
じゃあ俺はどうするか・・・
指輪やネックレスなんてありきたりだしな~などと思っていたら、ティナが興味を示したものがあった。
「カイト~あたし、かんざしがイイよ。今までは髪をフツウにしてたケド、これからはたまには髪をまとめてさ、浴衣や着物なんか着てみたい。少しおしゃれもしたいかな?って感じ。勿論、旅に出てるからいつもおしゃれが出来るわけじゃないのは解ってるよ。でもね、カイトが一番大変だから、あたしを観て少しでも癒されたらいいな~って思ったんだ。」
こんな時までティナは俺のことを考えてくれてたんだ。俺はタヌ子に先手を取られて後手だけど、義務感としてアクセサリーをプレゼントしなきゃなって思ったのに・・・
ダメだダメだ!もっと色んなことに気を配っていかないと俺はティナをホントの意味で幸せにしてあげることなんか出来やしない。義務感や責任感で行うことは悪くはないとは思う。でも、それでは人の心を動かすことは出来ない。
ゲンやタヌ子をもっと見習うんだ。自分じゃなくて周囲の人に喜んでもらう為の思考と行動。人間は思考があって行動に移る。
今の目の前の現実が望むにしても望まないにしても俺自身が導き出した答えなのだ。損得考えて行動するのは良い結果を生みださないって父ちゃんはいつも言っていたっけ。
そういや、ジェニムのおっちゃんも人に優しくあれ!って言っていたしな。どうしたら、ティナやゼロが喜ぶのか。どうしたら、周囲の人にとってより良い結果を導き出すことが出来るのか。
俺は考えることが本来得意なハズだが、いつの間にかぬるま湯に浸かって考えなくなっていたんじゃないのか?
少し能力が上がったからって、それが何なのだ。うぬぼれるな!こんなことじゃ上手くいくことも上手くいかなくなるし、結果後悔しかしなくなるぞ。
明日からクロちゃんも旅に加わるんだ。ホントの意味で楽しく有意義な旅になるように俺は意思決定をした行動をしていく。
タヌ子、ティナ、ありがとう・・・チョッとしたことだったケド、人としてとても大事なことに気付かされたよ。
そんなことを思いながら、俺はティナに似合いそうなかんざしを選んでいた。
かんざし自体は二十本ほどならんでいたが、俺たちは一本一本手に取り、ティナの髪に似合うかどうか合わせてみた。
その中の一本に漆黒のかんざしがあり、こういうのもティナに合うかもな~などと考えながらかんざしを手に取ったら、明らかな魔力を感じたのだ。
なんでかんざしから魔力を感じるんだ?ティナもその漆黒のかんざしを手に取り魔力を感じたらしい。
「カイト~このかんざしからは魔力を感じるよ。魔界の者が作ったのかな?もしかしてキャンティが作ったとか?」
俺は有り得ると思ったので、キャンティの魔動石に問いかけてみた。
「おい、キャンティ。チョッと聴きたいんだケドさ、お前かんざしとかも作ったことあったのか?今、目の前に魔力を感じる漆黒のかんざしがあるんだケド。」
《えっ?漆黒のかんざし?ブラッシーのことかな?そうそう、昔作ったことあるよ。でもね、人間界のどこかに置き忘れてきちゃってさ~。カイ、超電磁リングをそこにセットしておくれよ。あたいの目で確かめてみるからさ。》
俺はそう言われると、超電磁リングをブレスから取り出し地面にセットした。
しばらくするとキャンティがそこから現れ、ブラッシーらしきものを手に取って確認する。
「カイ、これはあたいが作ったブラッシーに間違いないよ!イヤ~懐かしい。まさかこんな所で巡り合うとは。」
「ティナがかんざしを欲しいっていうからさ、一本一本手に取ってみてたら、このかんざしから魔力を感じたんだ。ところでこれは特殊なかんざしなのか?」
「フッ!このかんざしはな、護身用に作ったものだ。かんざしを身につけているもの以外の魔族が半径五十メートル以内に近づくと魔力を感知して光輝き知らせてくれるぞ。これはどんなに魔力を抑え込んでいても感知するので便利だ。ただし、魔族が人化した状態であれば魔力は波動力に変換されるから、その時は無効になってしまうがな。」
「そうなんだ。カイト~、これタヌ子さんにプレゼントしようよ。そうしたら、魔獣も効率的に倒すことが出来るかもしれないしさ、タヌ子さんたちが万が一ケガをしたら、魔獣がいない方に逃げればいいじゃん。ねっ!そうしようよ。あたしはこっちの赤いかんざしがいいな。」
「ティナ、お前はホントに優しいよな。解ったよ、そうしよう。」
俺はブラッシーと赤のかんざしを買って、ブラッシーはタヌ子に赤のかんざしはティナにプレゼントした。
タヌ子にはブラッシーの使い方をキャンティに説明してもらい大変喜んでくれた。俺たちも嬉しい気持ちになり、タヌ子たち、キャンティと別れ宿で一晩を明かす。
さて、いよいよクロちゃんとの旅のスタートだ。困った時には俺たちを導いてくれる助言をしてくれるかもしれないが、それに甘えずいこう。まずは光の魔動石を目指すのだ。




