day1.能力とかの説明はここにあるよ
「異世界より来る“異世界人”さま方は、それぞれ何やら奇異なる力を使い、思い思いの方法で世界を無双していると聞きます。あなたも“転生者”と言うのならば、何やら不思議な力を持っているのではないですか?」
生活スペースのような私室へと通され、俺は彼女と向かい合って一つのテーブルに座る。すぐそばにはキッチンや、食べ物を入れる棚などが見えている。
「不思議な力……」
そう言えば、あの神様も何か“不思議な力を与えて転生”とか言ってた気がするな……。
「どうしました? もしや、心当たりがござらないのですか? 外れ枠ですか?」
「人を簡単に“外れ枠”とか呼ばないでください。能力は、貰ったはずなんですけど、確認する方法が分からなくて……」
シスターは俺の話を聞いてふむと頷いている。
「異世界より来たる方々は、何やら“すてーたすおぷーん”なる呪文を唱え、自分の状況を把握する術が使えるとか」
何だか知らんが“能力値開示”だろ。俺は言われるがまま試してみる。
「ステータスオープン」
俺が試しにその呪文を唱えてみると、しかし何も起こらなかった。うん?
「“ステータスオープン”!」
俺は手のひらを前に掲げ、強い意志を込めて再びその呪文を唱える。しかし何も起こらなかった。静寂が場を包み、シスターが怪訝な顔で俺の顔を眺めている。……。
「すてーたすおぷーん」
ぶわん、と、目の前に半透明なウインドウが表示される。誰だこの呪文設定したバカ。
「どうされました? 呪文は発動できたのですか?」
「君にはこれが見えてないの?」
俺が机の上に広がったそれを指しても、彼女の視線は宙を泳ぐだけだ。ふむ、リテラシー対策はばっちりみたいだな。
「なにか、書かれてましたか?」
「今読んでみるよ」
俺はウインドウに表示された情報を読み取る。
名前:アシタバ ユウト
レベル:Lv.1
ステータス:
体力:82
筋力:37
魔力:51
知力:21
素早さ:72
幸運:100
状態:
スキル“猫語”
スキル“異世界転生を経るにあたって人間が必要そうな庶スキル群”
スキル“猫の気まぐれ”←転生者特典にゃ!
ブルーノートの加護
「ふむふむ……俺の名前、レベルはいち……」
「ひっくw」
「すみません、笑うのやめてもらっていいですか? 気が散るんで。……ステータスは、体力82「ひゃちじゅうに!?」筋力37「さんじゅうなな!?」魔力51「ごじゅいち!?」」
うるさいなこいつ……後は黙読するか。知力が21……知力だけやたら低いな。俺は馬鹿なのか? でも幸運は100だ。無限に当たり棒出そう。
「すすすすみません、もう一度ステータスの欄を読み上げてもらっても」
彼女が俺の腕を引っ掴んでぶんぶんと体を揺らしてくる。
「え、なに? どしたの? 何かあった?」
「何って、この世界のステータスの能力は、一般人の平均は10程度とされているのですよ? 今あなたすごい数値読み上げて無かったですか?」
は? この世界の平均が10? 改めて見ても、最低値の知力でさえその二倍はある。俺頭良くね? 全体的に、まるでサイコロで振って決めたみたいなでたらめな数字だが……平均を考えると、俺のステータスはとんでもないことが分かる。俺やばくね? これが転生者特典という奴か。
「あのあの、あのあのあの」
「今読んでる途中なんで」
続いて“状態”の欄を見る。スキル“猫語”はあの空間で貰えた奴だろう、スキル“異世界転生を経るにあたって人間が必要そうな庶スキル群”……なんだこの分かりやすいやつ。よく分からんが、たぶん異世界語の翻訳とか異世界ウイルスに対する免疫とか入っているのだろうか。まぁ俺が気にしなくても良さそう。
そして、俺は目当てのものを見つける。
「スキル“猫の気まぐれ”……?」
「な、なんですか? 何か見つけたんですか?」
わざわざ但し書きで、これが“転生者特典”だと書かれてある。分かりやすいな。書いたのたぶんあいつだろ。しかしスキルの内容に関しては一切書かれてないし、その名前から内容を知ることも難しい。
「……これどういうスキル?」
―スキル“猫の気まぐれ”。ステータスに記載される六つのパラメータが1から99の範囲でランダムに変動します。ステータスは起きて寝る間は不変であり、寝て、次にまた目を覚ました瞬間にステータスがランダムに変化します。なお、幸運のみ、稀に100に上書きされます。これは猫神ブルーノートが極めて上機嫌なことを指します―
あの神様ブルーノートっていうのかよ。名前やたらかっこいいな。しかしステータス操作系の特殊能力か。この世界の人間の平均が10で、変動幅が1から99なことを考えると、1から99まで出やすい確率が変わらないなら期待値は大体50、平均で普通の人間の5倍すごいということになる。猫神上機嫌反映システムは何なんだ。ずっと上機嫌で居ろ。下振れが怖いが、二度寝すればリセットを掛けられること考えると、この能力にデメリットらしいデメリットは無いだろう。
この能力は……どうなんだ? すごいにはすごいが、“転生者”としてはすごい力なのだろうか? 俺はもっと分かりやすい、例えば“なんでも切れる剣”とか、“絶対に傷つかないバリア”とか、“不死身の体”とか、“知力は低いが女神が付いてくる”とか、そういう分かりやすく強そうな力を期待していたのだが。ウィンドウに目を戻すと、残るスキル“ブルーノートの加護”は、あの神様の加護。名前だけは強そう。
「ふむ。俺の能力は、ステータスが……」
俺は今得たスキルの情報を言いかけて、俺は口を噤む。……待て、これはべらべらと喋っていいものなのか? この人には、まぁいいにしても、魔王とやらと戦うなら、この能力は隠しておいた方がいいのでは? 上振れだけ見せ続ければ、俺はステータスオール99の化け物だ。
「……ステータスが高いというのが、特徴の一つだな」
「そうですね! これはすごいことですよ!」
「貰った能力については、まだ詳しいことは分からんな」
「そうですか……でも所有していることは分かったし、ステータス一つ見てもやっぱり“転生者”ってすごいですね!」
「なぁ、さっき俺がレベル1だって笑ってなかったか?」
「レベルは人生の獲得経験値の総量、赤子が大体レベル1ですね。這って歩けるようになればレベル3には到達してます」
そら笑うわ。俺赤子かよ。
「まぁこの世界に来たばかりなら仕方ないのでは? この世界に来てからあなたは何かしましたか?」
「猫にまみれたくらいですかね」
俺がそう言うと、彼女は身を震わせて自分の体を抱きしめる。
「そ……それは、恐ろしい経験をなさりましたね……」
急に何言ってんだ。猫アレルギーか?
「え? いや、言うてネコですよ」
「何を言っているんですか、あんな身の毛のよだつ恐ろしい生き物。普通なら目の前に一匹来ただけでも悲鳴を上げて逃げ出しますよ。この世のモノとは思えない……まるで異世界から来た侵略者のような……」
……。
「お前らがそこの牧場で飼ってるよく分からん生き物の方がよっぽど化け物だろ」
「は、はぁ? 神聖なる獣“ウィーズィズ・ィア”に向かってなんていうこと言うんですか! 罰当たりですよ! これだから異世界人は!」
もう名前からしてきもいじゃん。ここに来てカルチャーギャップすごいな……。
「……え、何。じゃあこの世界でネコって化け物なの?」
「そうですよ。あんなの、見つけ次第人を呼んで駆除対象です。王令で決まってますよ」
「……」
俺は記憶の中の彼女の言葉を思い出す。あの猫の神様は、確か“我が同胞を助けてくれ”とか何とか言ってなかったか? そして転生先に待っていたのは大量の猫。おそらく俺が助けるべき同胞とは、まさか人類ではなくこの猫たちのことではないのか……?
俺は心の中でそっと問いかける。待って、俺が倒すべき魔王って誰……? 彼女には聞こえないシステム音声が、俺の頭の中で語りだす。
―回答します。猫神から遣わされたあなたが為すべきことは、“見つけ次第猫殺すべき”の王令の撤回、あるいは王令を出している現在の人界の国王の討伐です―
人類敵じゃん……。国王を討伐って言うな……。と、脳内に響くシステム音声はまだ続いている。
―また、魔王軍は元来ひどく猫を忌み嫌っており、魔王軍も猫を殺すため魔王も討伐対象になります―
敵と敵の敵の敵じゃん……。