day1.異世界は突然に
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「みゃあみゃあ!」
目の前には成人女性が立っていて何やら喚いている。
「みゃあみゃあ!」
「え、なに? なんですか?」
―スキル“猫語”を習得しました。これにより、猫の言葉で話された会話を理解することが可能です―
システム的な音声が頭の中に流れる。え? なにこれゲーム?
「”君は地球で死んだので、不可思議な能力を与えられて異なる世界に転生するのにゃ”!」
急に、目の前の人の言っていることが伝わってきた。
俺は、白い空間の中に立っていた。床は無機質な白い床が広がっており、視界を真横に向ければそれはどこまでも広がっているように見える。天井はなく、壁もなく、ただただ白い空間の上。作り始めの3Dゲームの初期画面みたいな景色。
俺はそこに……あれ、下を向いても俺の足がない、手を動かそうと考えればやはり手がない。すぐそばに鏡が置いてあり、それを通して“俺”を見れば、そこには揺れる玉のような炎が浮いている。これが、俺……?
俺は目の前の女性に目を戻す。ここにあって頼れそうなのはそれくらいであり、俺はいろいろをこの人に聞くしかない。彼女は大人の女性だったが、昔のギリシャみたいな白い布で大雑把に体を隠しており、素肌が深いところまで見えていたりでいろいろ際どい。あと猫耳が生えてる。
「君は地球で死んだので、不可思議な能力を与えられて異なる世界に転生するのにゃ!」
「あ、はい。それはもう聞きました。え? 異なる世界って何ですか?」
俺が質問をすると、目の前の彼女はぱちくりと目を瞬かせる。
「君はそこでなすべきことがあるにゃ! 現在、その世界では悪の神様を信仰する軍勢が力を増していて私たちの可愛い信者が危険にゃ! 行ってそいつらをやっつけて欲しいにゃ! どうか力を貸して欲しいにゃ!」
会話は進んだがどうやら俺の話を聞いてくれないな……語尾に“にゃ”が残っていて翻訳も中途半端だし。
―語尾に“にゃ”を付けているのは彼女の意志であり、翻訳の精度とは関係ありません。あと、スキル“猫語”は猫の話す言葉が分かるようになるだけで、あなたの言葉が猫に通じる訳ではありません―
頭の中にシステム的な音声が響く。そうか、翻訳の制度を疑ってすまなかった。でも出来れば双方向に会話の出来る能力が欲しかったな。
―あなたの話す人語をそこに居る彼女が理解するには、彼女の方でスキル“人語”を習得する必要があります。しかし彼女の知力ではスキル“人語”を習得できないので、それは不可能です―
そ、そうか。いろいろと制約があるんだな。ところで君の方がいろいろと詳しそうだし、君の方でこの状況を説明してくれないかな?
―すみません。よく分かりません―
どうして急によく分からなくなっちゃうんだよ。
「分かったかにゃ? 分かったら“はい”か“いいえ”を選ぶにゃ! “はい”と答えたら、君を異世界に送るにゃ!」
知らぬ間に話は進んでおり、目の前の女性は何やら決断を問うてくる。
「あぁえっと、もう少し詳しく状況を説明してくれませんか? ここはどこで、あなたは誰で、俺はどうやって死んだのか、行く先の世界の情報とか……」
俺が目の前の彼女にまくしたてると、彼女は困ったような顔をする。
「は……“はい”か“いいえ”を選ぶにゃ……」
くそっ、会話をするのに知力が足りてない……っ! 誰が配置してるのか知らんがここにこの子を置いているのは人材ミスだろ……っ!
「……じゃ、じゃあ……“はい”」
「“はい”にゃ!? 今“はい”って言ったにゃ!? それでは異世界に送るにゃ! 頑張って我が同胞たちを助けてくれにゃ!」
俺の足元……今の俺に足はないのだが、3D座標で言うところのZマイナスの方向に、光る白い魔法陣が現れ、それは段々と光を強めていく。
な、なんだ? もう行くのか? 正直に言って状況に全然頭が追い付いていないのだが、まぁ現地に行けば何かしら説明してくれる人は居るだろう、たぶん。そうであってくれ。
俺は至極まっとうな願いを心に抱いたまま白い光に包まれ、視界は白に焼き尽くされた。
気が付くと、そこは森の中だった。何の変哲もない森の中、そこかしこに広葉樹が生えており、空は枝葉に覆われて地上は少しくらい。ここが異世界か? 湿った土の匂いがする。俺は地面の上に尻もちを付いていて、俺の座る地面には拙く地面を掘って出来た魔法陣があった。目の前にはお皿があり、干からびた魚の死体が上に置いてある。
そして、俺を取り囲んでいたのは、何十、いや、何百もの―
「みゃぁ「みゃぁ「みゃぁ」みゃあ「みゃぁ」みゃあ」みゃぁ」「みゃぁ」みゃあ」
ネコ、ネコ、ネコ、俺を取り囲むたくさんの、小型の四足の言葉の通じない無力な獣たち―
「ネコしか居ねぇ!!!!!!」