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海沿いをひた走り、次に訪れたのは巨大な港のある国だ。
先に訪れた国とは違い、ここは造船を産業としている国だった。それ故、漁船の並ぶ先の国とは違い、港には建造中の船が並んでいる。造船業という生業上、職人が多く見られる……そんな国だった。
王宮に通され、今回はすぐ食事の場を用意しておりますので……と、客間に案内される。果たして客間には、国王夫妻、それにその息子が一人、レナードとエリザベスを待っていた。
「リジー!君も来ていたなんて!」
挨拶もそこそこに、一人息子のロックが歓声をあげた。年も近く、また、これまで何度か交流があったため、エリザベスも笑顔でロックを受け入れる。
「突然の訪問、申し訳ありません。……お久しぶりですね、ロック様。お元気そうでなによりですわ」
「こちらこそ久しぶり!さ、食べよう食べよう!」
はしゃぐロックを尻目に、ちらりとレナードの方を窺うと、神妙な顔つきでエリザベスの方を見ていた。
なにか気に触ることはしたかしら……?疑問に思いながら、ロックの対面に腰を下ろす。
「しかしまぁロックの言う通りだ。エリザベス嬢もご一緒だとは。今の時期は……学園を卒業して、政務の仕事を振られる時期では?」
豊かな髭を撫でながら王が言う。
その言葉に、レナードが頭を軽く下げた。
「申し訳ありません。実は並々ならぬ事情がありまして……」
そこまで耳にして、エリザベスはすぐにピンときた。
これは、わたくしが婚約破棄されたという話をする流れなのでは?
「実は……」
レナードや先の国王夫妻の言葉を信じるなら、この国の国王夫妻もハリーとジャネットの『真実の愛』騒動を知っているに違いない。なぜレナードがここまで婚約破棄の話を吹聴したがるかは不明だったが、話すなら自分の口から話したい、そう思ったのだ。
「実は、先日、王太子であるマーク様から婚約破棄を言い渡されたのです」
「……なんだって!?」
いの一番に声を驚きの声を上げたのはロックだ。
「男爵令嬢と真実の愛に目覚めてしまったようで……。まだ公にはされていませんが、件の男爵令嬢がマーク様の婚約者に変更となりました」
「そんな!」
「婚約破棄宣言も、つい先日行われた学園の卒業パーティーで言い渡されたもので……。急な婚約破棄、しかもまだ公にはされていない話。暇を持て余すわたくしに、レナード様が補佐としての役割を与えてくださったのです」
「…………なるほどな」
なにか納得したように王が呟いた。鋭い眼光をたたえながら、なぜか、値踏みするようにレナードを見る。
「レナード様。エリザベス嬢を補佐として連れ回すとはよく考えたな」
「お褒めにあずかり光栄です」
髭を撫で、王がワイングラスを手にした。真紅の液体が、グラスの中で揺れる。
「それならリジー、次の婚約者候補はもう決まってるの?」
身を乗り出してロックがそう尋ねてきた。いいえ、とエリザベスは静かに首を横に振る。
「まだなにも。めぼしい貴族はほとんど婚約者がいらっしゃいますから。国に帰ったところで相手がいるかどうかも不明瞭ですわ」
「そりゃそうだ。……うーん、なにかツテでもあれば、」
「お言葉ですが」
ぴしゃりと。ロックの言葉を遮るようにレナードが口を開いた。
「エリザベス嬢は王妃教育を終えた令嬢。今更他国に嫁がせるわけにはいきません」
強い物言いに、エリザベスの方が驚いてしまう。
「それに、エリザベス嬢は……国にとって大切な人間です。どうかお相手の斡旋などはご容赦いただければと」
大切な。
その言い方に、場違いながらエリザベスの心臓が跳ねた。
「そうだ、ロック。あくまで他国の政治にこちらが首を突っ込むわけにはいかない」
「……申し訳ありません。少し熱くなってしまいました」
しゅん、と肩を竦めて、ロックが素直に謝った。
「ふふ、良いのです、ロック様。気にしておりませんわ」
「……リジーがそう言うのなら良いんだけど」
そうして食事会は粛々と進んだ。
なぜだかレナードだけは、いつもより少し不機嫌な様子だった。




