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 突然レナードに呼ばれて、エリザベスは目を見開いた。

 ちら、と両親とマデリンの様子を伺うと、3人揃って、してやられたな、と言わんばかりの表情を浮かべている。


 ……レナード様の元に行ってもいいのでしょうか。


 エリザベスが悩んでいると、もう一度名前を呼ばれてしまった。来賓の視線も痛く、エリザベスは腹を括り、レナードの元へゆっくり歩いて行った。


「……レナード様?」


 久しぶりに会ったレナードは少し痩せて見えた。しかし次にエリザベスの視線を奪ったのは、エリザベスの瞳の色そっくりの紫宝石がはめられたブローチだった。

 安物ではない。最高級の宝石に、繊細な細工が施されたブローチ。エリザベスは思わず顔を綻ばせる。


「——会場にお越しの皆様はすでにご存知でしょうが。エリザベス・バートリー侯爵令嬢はこの国になくてはならない存在だと、私は考えております」


 うんうん、と会場中が頷く。国王夫妻とマークとリリィがさらに顔を歪める。


「しかし、彼女は真実の愛によって婚約破棄を言い渡されてしまった。こんな素晴らしい令嬢をみすみす逃すなど王家の恥、そこで私は——」


 レナードが跪いた。金色の目には、エリザベスの姿しか映っていない。


「エリザベス・バートリー侯爵令嬢。私と、結婚してくれませんか?」

「——」


 瞬間、エリザベスの時間が止まった。

 結婚、…………結婚?わたくしが、本当に、レナード様と?


 あらゆる考えがエリザベスの脳裏をぐるぐるめぐる。

 

 確かに求婚はされた。熱烈なアプローチだってされた。ドレスだってレナード様の目の色を纏っている。それにレナードはこんな場で冗談を言う人間ではないことを、エリザベスはよく知っている。


「わ、わたくしは」

「待て待て待て待て!どういうことだ!なぜ僕たちを差し置いて勝手に盛り上がっている!」


 ——しかし。

 雰囲気をぶちのめすが如く、マークの邪魔が入った。


「皆様!皆様はご存知ないでしょうが!リジーは!リリィを!これでもかと虐め抜いた極悪人なのです!」

「そ、そうよ!エリザベス様はとってもいじわるでっ!学園にいたときにたっくさん虐められたんだから!だから王妃様にはふさわしくなくて!」


 加勢するようにリリィも叫ぶ。しかし待ってましたと言わんばかりに、レナードが宰相に目配せした。


「皆様。今お配りしているのは、王家と、それにバートリー侯爵家による『影』の記録です。リリィ様の証言、それに影の記録が噛み合っていない様をぜひご覧いただければ……」


 配られたそれはエリザベスにも見覚えがあった。

 婚約破棄会議のあの日。エリザベスが作成した資料だ。確かにあの資料は持ち帰らずそのままにしてしまっていたが、こんなところで再利用されるとは……。……というか、わたくしが作成したものより、厚さが2倍になっているように見えるがきのせいだろうか?


「春の月8日。エリザベス様に階段から押されてしまった?……おかしいな。春の月8日といえば、エリザベス様はうちの国にいらしていたはずだが」

「秋の月14日もそうだ。池に突き落とされたとあるが、この日は、……それこそこの王城でエリザベス様と会食があった」


 リリィの言葉など嘘で塗れている。だからエリザベスは一度として自分が悪いと思ったことはなかった、が、こんな風にリリィの嘘が暴かれるのは胸がすく思いだった。


「こんな嘘の証言を信じる王太子なんて、ねぇ」

「ちょっと本気で協定を考え直す必要があるのでは?」

「本当に。レナード様とエリザベス様でしたら、こんな失態犯さないでしょうに」

「他国ではありますけれど、この国の行く末を思うと胃が痛くなる思い出すわ」


 もはや誰も声量を気にせず話している。


「それで、エリザベス。君の返事が聞きたいな」


 レナードの言葉に、再び二人に注目が集まった。固唾を飲んで会場が二人を見守る。国王夫妻とマークとリリィは、いつのまにやら騎士たちに押さえつけられていた。


「わ、わたくし、は……」



 短い旅の道中。戸惑いはありながらも、エリザベスは確かにレナードに惹かれた。

 マークとの嫌な記憶も、レナードのおかげで胸をときめかせる思い出になった。それにレナードなら。自分と同じように真実の愛に辟易し、そして国を民を思い行動することのできる方なら。きっと、この国を立て直すことができるのでないだろうか。

 もちろん現時点で、レナードは王弟のままで、マークとて廃嫡には至っていない。けれどもレナードの隣でなら。きっと、この国のために生きていくことに従事できるのではないだろうか。


 ちらりと両親に視線を向ける。うんうん、と頷く母と、がっくり肩を落とす父。けれどその父だって、どこか安堵した顔を浮かべている。


 だからエリザベスは決心した。

 大きく息を吸って、胸を張る。


「レナード様からのプロポーズ、謹んで、お受けさせていただきます」


 それがエリザベスの精一杯の言葉だった。


「……本当に?」

「……本当ですわ。力不足かもしれませんが、わたくしと共にこの国の未来、を、きゃあっ!?」


 跪いていたレナードがエリザベスを抱き上げた。それを皮切りに会場中がわぁっと明るい声で湧いた。


「リジー!リジー!本当に私の妻になってくれるんだね!」

「レレレナード様っ!下ろして!下ろしてくださいませ!」

「おめでとう!いやぁこれはめてたいなぁ!」

「エリザベス様にはマーク様は勿体無いと思ってんですよ!」

「おめでとうございます!」


 それから会場は飲めや歌えの大騒ぎになってしまった。国王夫妻と、マークとリリィを除いて。

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