第1話
「もうすぐ着くわよぉ」
そんな母の疲れ切った声を聞き、少し酔った様な頭の痛さを覚える。吐き気をぐっと抑え、錆びついていた身のように踏ん張って体を起こす。体を起こすと不意に車の窓の外の景色に感心を持った。
都会では到底見かけないビル一つない景色だ。しかし僕はそれが何か特別ないつか見たことがあるような景色をしていたのだった。思い出そうとしたがすぐに元に戻される。窓の景色を意識が飛んだかのように眺めていると、ポケットの中の携帯が僕の身を二回震わせた。僕には到底そのバイブ音が何の着信なのか通知なのかを判断する気力は起きず、それが何なのかを判断することは出来なかった。
ゆらりゆらり揺れる車の中、しーんとした雰囲気が車内から外へと溢れ出し、それに合わさるように景色は色づかない悲しいものを出している様な、そんな気がした。
僕には前世の記憶がある。前世といってもアニメのようなヒーロー、王様のような大きいものではない。前世の僕は今の僕と同じ地球に住んでいるごく普通の人間だった。僕は今世多分誰かを探している。
普通、人間は前世の記憶を持って生まれない。そもそも二度目の人生などないのだ。僕は異例なのだ。人間をウイルスで例えるのなら変異種。間違った存在。でも神様は僕を生まれ変わらせた。これは何かの暗示しているのではないか。
その人を探せと
だから今世僕は君を探している。
◇◆◇
目的地に着いた後、僕はめいいっぱい空気を吸い、ゆっくり吐いて、少しでも酔いを冷ました。少し酔いが収まったら、車に積んであった段ボール二つを重ねて新しい家の中に入れる。
これが僕の日常茶飯事だ。日常茶飯事ではないが、一ヶ月に一回ほどだ。僕の母親は画家で、一ヶ月に一回引っ越すのだ。母が言うに画家は風景を描くことが多いので、すぐにいろんな場所に移動して、絵を描かなければならないのだ。曖昧だが、僕の記憶では八歳からこの生活を続けている。
僕が八つの頃、仲が良かった友達がいた。とても良い人生を歩んでいて、父親もいて安定した暮らしをできていた。だが、急に父が癌で死んだ。そこから母は性格が一変し、温厚であった性格から少し冷徹気味な性格へと変化した。
どうやら母は僕の事よりも父の事がとても好きだったようで、僕に罵倒的な言葉を発して来た時もあった。少したって、母が僕に謝り冷徹な性格であったのが、少し軽減された。
元の生活ではないけど、それなりの生活が戻れてきた所に急に母から引っ越すというのを告げられた。父が死んだので、僕を成長させるために母は仕事をするしかなかった。当然僕は反論した。行きたくないと。子供だった。父が死んで、僕を生かすために母は働こうとしてくれていたのに。勿論、その言葉は僕の母にはそう届かなかったようで、仕事だから。と言ってぴしゃりと吐き捨てられたのだ。
それから僕は母には何を言っても聴く耳をもたせてくれないと自分に嫌と言うほど言い聞かせた。




