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変化

 季節も巡り、少し肌寒くなってきた。あの日から三か月、神社の奥の森に通う頻度は日に日に少なくなっていった。いつも僕としか遊ばなかった大樹には新しい友達ができて、ニジカミキリムシ探しに熱中していた僕はひとりぼっちになった。


「ねえ、今日こそニジカミキリムシ探しに行こうよ」

「……今日はやめようぜ。ほら、ちょっと雨が降りそうだし」


 冬の始まりを告げる冷たい風が顔に吹き付ける。空は厚い灰色の雲に覆われていた。


「じゃあ、俺は純也と遊んでくるから」


 大樹は僕を園舎の入り口に置き去りにして、新しくできた友達のいる砂場へと走っていく。取り残された僕は両手で図鑑を抱えて、幼稚園の昇降口に座り込んで、黄ばんだページを開く。一言一句頭の中に入っている図鑑説明、毎日眺めている昆虫の写真。僕はまだニジカミキリムシと出会う夢を諦めていない。僕は葉の落ちて枝がむき出しになった森を見つめる。

 憧れは捨てられない。たとえ、何か月も、何年もこの森にいるのが見つけられなくても僕はニジカミキリムシを探し続けてしまう気がする。

 僕はカバンに入った自由帳と鉛筆を取り出す。



11がつ15にち  くもり  ニジカミキリムシなし



 大きく不格好な字で記して自由帳を閉じる。これで森に行かないのは今日で十日連続、今までで最も長い。この十日間の間、あの日のような快晴で地面がぬかるんでいる日を見逃したことは三度もある。本格的な寒波が訪れる前にニジカミキリムシを探しに行きたいのに、大樹と交わした()()が頭をよぎる。


「雨だ!」

「早く中に入らないと濡れちゃうよ!」


 灰色の空からは大粒の雨が降り始め、急激に雨脚を強める。濡れた靴で建物の中に駆け込んできたみんなは昇降口に座り込む僕の横を通り過ぎていく。僕に声を掛けてくれる人は誰もいない。


「……ニジカミキリムシいないかな」


 ぽつりと漏らした独り言の割には大きな声が出たことに驚く。しかし、雨音と騒がしい周りの声にかき消されて誰の耳にも届かない。

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