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何処

 僕と大樹の間にはニジカミキリムシについての約束が二つできた。一つ、誰にもニジカミキリムシのことは言わず、僕たちだけの秘密にすること。二つ、ニジカミキリムシを探しに行くときは必ず二人で行くこと。この掟を先に破った方は先生と結婚する。そういった勝手な迷信を作っていた。

 今日も僕と大樹はニジカミキリムシを探し求めて神社の森の中を彷徨っていた。


「……どこにもいねえな」


 麦わら帽子をかぶった大樹が虫取り網で木を突きながら言葉を漏らす。僕たちはあの日から森にあるすべての木を毎日確認している。天気は快晴、時刻は三時を回るところ。あの日と同じ条件で何日も探しているにも関わらず、僕たちはあれからニジカミキリムシに出会えてはいない。


「やっぱり草の中にもいるのかな? あのとき、たまたま木にいただけで」

「そうかもしれないな。草の中も探そう」


 僕たちは軍手を茶色く汚しながら雑草の茎をかき分けて、辺りを隈なく探す。しかし、探しているモノが見つかる気配は全くしない。熱心にニジカミキリムシ探しに取り組んでいると、後ろからがさごそと雑草の揺れる音が聞こえてくる。


「カミキリムシか⁉」


 ふと、後ろを振り返ってみると、そこには神主さんが立って地面にしゃがみ込む僕たちの様子を見守っていた。


「カミキリムシ、なんのことかね?」


 落ち着いた単調な声で聞いてくる神主さんに僕は慌てて答える。


「ご、ごめんなさい、今カミキリムシを探すのにハマってるんです」


 神主さんは焦っている僕を見つめながら怪訝な表情を浮かべる。それでも何かに納得したのか、ゆっくりと二回頷き、手を背中の後ろに組んで、神社に向き直る。


「そうなのかね、くれぐれも蚊には気を付けるんだよ」


 そう言い残して神主さんは立ち去っていく。神主さんが完全に視界から消えるのを確認すると、僕は大樹に耳打ちする。


「ねえ、ニジカミキリムシのことは言わない約束だったでしょ?」

「ごめんごめん、つい、カミキリムシがいるのかと思って。にしても、ニジカミキリムシ本当にこんなかにいるのか?」


 大樹はえへへと、苦笑いを浮かべて僕に謝る。僕たちは再び雑草の中に潜んでいるかもしれないニジカミキリムシを探し始める。

 あの時、僕は確実に虹色のマーブル模様を持つカミキリムシを見た。僕の憧れのその昆虫は、綺麗な色がただ背中に塗ってあるだけではなく、毎秒変わっていく模様がすべて言葉に表せないほど美しくて。どんな昆虫図鑑の中にも載っていない僕たちだけが知っている幻のカミキリムシだった。

 もう一か月前の記憶なはずなのに、ニジカミキリムシを見ていたほんの十数秒の間の模様がすべて鮮明に記憶されている。


「やっぱりいねえよな、ニジカミキリムシ」

「絶対いるよ」


 足元の草に目を落として手探りする僕とは対照的に、大樹は呆れた顔で雑草をねじって遊び始めていた。


「そうか? だってもう一か月も見てないんだぜ?」

「きっとどこかにいるよ」


 そう、きっとどこかにいるんだ。きっと。

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