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理解はできるが納得はできない。正論パンチはやめてくださらない?

 リュカオンの挑発……いや、質問はとても簡単だった。


「ドークス殿下との婚約破談、オキシェンとの同盟も白紙になるでしょうね」

「そう。そして後ろ楯として私がオリクト殿下を娶ればどうなるか。オーラムと恋愛戦争真っ只中のマグネシアなら解るだろ?」


 ちらりとドルドンに笑みを向けるが、まるで子供に言い聞かせるような見下した態度にムッとする。


「ええ。おそらくカルノタス殿下も怒らせるでしょうね」

「その通り。最悪、オーラムとオキシェンが組んでコーレンシュトッフを潰しに来るかもしれない」


 ああその通りだ。リュカオンの推測はオリクトも考えていた結末。

 現在のコーレンシュトッフの国交、その楔をぶち壊してしまえばどうなるか。そんな先を考えるより今の利益や感情を優先する連中。それがオリクト達の敵。

 そして彼はその首領……のはずだった。


「成る程成る程。確かに貴方には私も同意見ね。その上で王家派に着くと利益があると読んで鞍替えする。納得はしたわ。けど」


 ちらりとフリーシアを見る。彼女の目は警戒する獣のように鋭くなっていた。


「フリーシアに声をかけるのは不可解ね。ブラーク家との繋がりを狙っているのでしょうけど、貴方はそれを()()()()()と言っていた。他に何があるの? 貴方は何を隠しているのかしら?」


 リュカオンがやれやれと肩をすくめる。信用されていない、その事に辟易しているようだった。


「やれやれ。隠す気はありませんよ。派閥の鞍替えなんて大事だ。殿下の信頼を得られるよう、隠し事はしません」


 フリーシアへウインクを送りテラスを見回す。


「簡単ですよ。殿下がトライセラ嬢へ、この場所で言った事です」

「盗み聞きとは破廉恥な……」


 ドルドンが苦言を溢すも他の面々は別の事に意識が向かう。

 トライセラの名前が出た。そしてここで言った事をしっている。

 そうなれば話しは簡単だ。この男の目的もすぐに察せる。


「あんた……」

「シッ」


 指を唇に立てて静かにとジェスチャー。まだ話しは終わっていないようだ。


「さてフリーシア嬢。俺は正直な所、オキシェンとの同盟がなければ王太子妃は君だと思っていた」

「それはそれは光栄ですわね」


 それはオリクトだけでなくノルマンも同意見だ。公爵家、元帥の娘。シルビラとアンガスの婚姻があったように、王家と軍が協力できるよう関係を深めるのは当然だろう。


「武家の娘故の勇敢さ、胆力、家柄や血筋だけでなく……とても美しい」


 ただのナンパに聞こえるがどれも正しい評価だ。

 フリーシアはそこいらの軟弱な男とは比べ物にならないくらいに根性もある。それにオリクトから見れば羨ましい限りのワガママボディ。学園でも鼻の下を延ばしている男達が後を断たない妖艶な美少女。

 彼女が王妃に相応しい人材であるのは事実、過大評価ではない。


「だからこそ、俺は君のような娘が欲しいんだ」


 手を差し伸ばしフリーシアを誘う。


「これでも王家の血が流れているんだ。一瞬くらいは王に憧れた事もある。だが俺が座れば玉座は泥舟になる。ならば国王に自身の血を継がせればいい」


 そう。この男の目的。それは()()()()になる事だ。


「成る程。確かにフリーシアが必要になる訳ね。二人の娘なら血筋は完璧だもの」

「もちろん、美しい妻を娶りたいのもありますがね」


 笑っているが嘘には思えない。言っている事は論理的だし矛盾も無い。王家に自身の血筋を入れたい、そう思う貴族だって自然だ。

 だが彼を信用できない。


「リュカオン。貴方の要求は解ったわ。でも……」

「ああ理解していますよ殿下。元帥閣下に……今はブラーク公爵であるアンガス様に話しを通さねばなりません。ウルペス陛下にもね?」


 そう言いながら懐から一通の封筒を取り出しオリクトの前に置く。


「これは?」

「ポタシウム侯爵が銅の闇取引をするようでして。その日程と段取りの手紙を手に入れました。陛下にお渡しください」


 封筒に視線が集まる。


「貴様、仲間を売るのか?」

「人聞きの悪い事を言うなブラーク。俺はあいつらの仲間ではない。だから裏切りは誤解だ」


 相変わらず一切悪びれる様子が無い。裏切りなんて卑怯な事ではない、敵対者の尻尾を渡しただけと言いたげだ。


「さて殿下。これは私が王家派に付く証明、そして正式な宣言です。必要とあらば反王家派へのスパイとして喜んで働きます」

「随分と入れ込むわね」

「当然。敬愛すべき王女殿下、そして大切な従妹。これでも王家の血が流れる身としてコーレンシュトッフ王国を愛しています。国益を考えれば当たり前の選択です。ああそれと……」


 今度はドルドンの方に微笑みかけ、次にオリクトの方へ。


「マグネシアとオーラムの恋愛戦争。個人的にマグネシアを支援するので。殿下の開発した可動式ベッド。あれは素晴らしい」


 そう笑い手を叩く。つまりオリクトの発明品を評価し、それがオーラムとの国交よりも利益があるから応援している。どこまでも現金な男だ。

 いや、こうなると非常に理解し易い。


「……では今日はここまでにしますか。元帥閣下ともご相談があるでしょう。それに、殿下も陛下と……ね?」


 その通り。この話しはオリクト達だけで終わらせられない。家の今後に関わる重大な事件だろう。

 何より政敵の公爵家の嫡男が寝返るのだ。ウルペスの耳に入れなければならない。


「さてフリーシア嬢。返事は一旦保留となるだろう。答えはパーティー当日、ブラーク邸に迎えに行く。受け入れてくれるならこちらの馬車に乗ってほしい」

「断れば?」

「俺は寂しく一人でパーティーに出るだろうな」


 踵を返し手を振りながら立ち去る。その背中から見えるのは自信だった。


「良い返事を期待している」

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