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うっっっっっっっっっっっっさんくせぇですわ

 空気が凍てついた。

 ついさっきまでの喧しくも光のあった空気とは違う。得にフリーシアとノルマンの目が違う。敵と対峙し殺意に満ちた戦士の目だ。

 不意にドルドンの袖が引っ張られる。


「……グラファイト家よ」

「!」


 オリクトのその一言で理解した。国王ウルペスの弟タウラヴ。彼はその嫡男だ。

 ドルドンも瞬時に戦闘体制に入る。


「ふむ」


 カルノタスもコーレンシュトッフの敵対心を肌で感じていた。僅かだが彼も警戒する。


「何者だ。名乗れ」

「おお、これはカルノタス殿下。お会いできて光栄です」


 大げさで芝居じみたお辞儀。オリクトは更に不愉快そうに頬を歪める。

 だが彼はそんな視線を無視するように不適に笑うだけ。


「コーレンシュトッフ王国公爵家嫡男。リュカオン・グラファイトと申します。以後お見知りおきを」


 カルノタスが目を細め、ドロマエオも思い出そうとするように首を捻る。


「グラファイト公爵家……なーんか聞いた事あるな」

「私の父は現国王、ウルペス陛下の弟です」

「弟だと? つまりオリクトの……」


 そこまで。そう言うようにガタンと椅子が音を立てオリクトが立ち上がった。それにドルドン達も続く。


「従兄です」


 冷たく剣のような鋭い声。ここまで敵意の籠った声はそう簡単には出ない。

 それでもなお、リュカオンは平然としている。そのポーカーフェイスのせいで、オリクトも何を考えているのか全く読めなかった。


「……ここでは少々騒がしいので、場所をかえましょう」

「オリクト……」


 カルノタスも異変を察している。流石に不安が勝ったのか手を差し伸べようとする。

 しかしそれは彼女の望んだものではない。


「カルノタス殿下、ご協力感謝いたします。ここから先はコーレンシュトッフの問題ですので、巻き込む訳にはいきません。どうか手を引いてくださりませんか?」


 そこにいたのはただの娘ではない。一人の王女だ。関わるな。そう告げる瞳に弱々しさは感じられない。


「承知した。ドロマエオ、行くぞ」


 無言で一礼しカルノタスに続くドロマエオ。

 二人がいなくなり静まり返るも、この異質な空気に嫌でも目立ってしまう。ドルドン達に目配せをしリュカオンを睨む。


「来なさい。場所を変えましょう」

「ええ。俺……私としてもその方が助かります。お心遣い感謝しますよ、殿下」


 悪態の一つでもつきたいがそれはエレガントではない(非常識だ)。小さく舌打ちをするノルマンの脇腹をフリーシアが小突きながら、四人は外へと移動する。

 彼女達の異様な空気に人々は道を開き、その行き先は以前トライセラ達と一悶着のあったテラスだ。

 淑女なんて言葉は投げ捨て乱雑に座るオリクト。その背後にはノルマンとドルドンがフリーシアを庇うように立ちはだかる。

 敵意満々。一触即発を絵に描いたような光景だ。


「それで? 今さら何の用かしらリュカオン卿?」


 従兄に対しての口振りではない。敵に対するような剣のような声だ。そしてそれはドルドン達からも視線として放たれる。

 矢の雨のような威嚇。しかし当のリュカオンはケロリとしている。


「いやはや。そんなに警戒なさらないでください。それとマグネシア。初対面の、更に上位の貴族にそんな態度は良くないな。なんだ? 陛下から殿下を娶ってラゴス殿下から王位継承権を奪う不届き者とでも言われたのかな?」

「ええ。その通りです」

「それは胸が痛いなぁ。そんな事はもう考えていないのに」

()()?)


 笑いながら話しているが、彼の言葉に違和感がある。だがオリクトが深掘りするよりも先にノルマンが叫ぶ。


「何を白々しい。反王家派(保守派)の代表であるグラファイト家め。姉上に毒牙を向けるとは命知らずだな」

「ノルマン」


 言葉に熱がこもる。このままでは彼も暴走しかねない。

 オリクトが少し語気を強める。黙れ。彼女の言葉の裏にはそう書かれていた。こうなればノルマンも逆らえない。惜しむように下がる。


「そもそも私達とグラファイト家は政敵よ」

「それはあくまで父の話しです。私が家督を継いだあかつきには、グラファイト公爵家は王家派(改革派)に鞍替えするつもりですので」


 衝撃的な発言に全員が唖然となる。


「はぁ? まさかその為に私を誘ったとでも?」

「ああ。理由の一つだ」


 流石にフリーシアも開いた口が塞がらない。確かにフリーシアと結婚でもすればブラーク家とのつながりができる。そうすれば王家派への鞍替えは可能だろう。

 貴族にとって派閥は死活問題だ。そう簡単に変えては他の貴族から袋叩きにあう。勿論公爵家の地位ゆえに表立って攻撃する者は少ないが、反王家派が王家派に寝返る。これがどれ程の大事件かは想像に容易い。

 オリクトからすれば味方が増えるのは嬉しい事だ。しかし当の本人が反王家派の御旗とも言える家。更には父ウルペスを蹴落とし国王になろうとずっと目論んでいた王弟。その息子がいけしゃあしゃあとこっちに下るとは思えない。

 この場でいまいち実感が湧かないのはドルドンだけだ。政治に今まで関わっていなかったせいか、オリクトを狙っているの一点だけで敵対心を見せている。

 とにもかくにも彼、リュカオンが信用できない。パーティーのパートナーにはいどうぞ、なんて言えるはずがない。


「取り敢えずは……リュカオン。貴方、父親であるタウラヴ叔父様を裏切るつもり?」

「裏切るとは心外ですね。あの男は王の器でもないのに、這いずりながらも玉座に妄執する愚者ですよ。最初から敬意の欠片も感じてません」


 実の父親になんて言いぐさか。嘲笑たっぷりな言葉にドルドンも不快を露にする。

 全ての親子が仲良しな訳ではない。それを解ってはいるが不愉快だった。


「ただでさえ、反王家派におだてられ御旗にされているのを気づかない間抜けだ。王になったとしても傀儡になるのは明らか。だがこのリュカオンは違う。何よりも……王家派(そっち)の方が旨みがある」

「成る程。裏切ったのではなく見切ったと」

「ええ。それにラゴス殿下を失脚させれば国が傾く。悪い方にね」


 大げさかつ大胆でわざとらしいため息だ。


「発明姫と名高く聡明な殿下ならば解るでしょう?」


 そう挑発するようなウインクを投げた。

 

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