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お姉ちゃんの称号、ゲットですわ!

 冷静になれオリクト。そう自分を落ち着かせ体温を下げる。

 義妹の方が背が高く妖艶な事に何の問題がある。寧ろ美少女の妹ができて喜ぶべき事案だ。美人でグラマラスな妹。悪いはずがない。


「……さて、改めて」


 軽く咳払い。姿勢を正し驚愕から笑顔へと表情を切り替えた。


「よろしくアトロク。私の事はお姉様と呼んでほしいわ」

「お姉……様?」

「ええ。私は貴女の兄、ドルドンの婚約者です。ずっと会いたかったのよ」


 オリクトの必殺技、全力全開のプリンセススマイル。これにはアトロクも緊張感がほぐれていく。

 兄の婚約者を前にし緊張しないはずがない。更には相手は王女なのだ。これで平然としている方がおかしいだろう。


「あの、本物のオリクト様……なんですよね?」

「こら。そんな失礼な事を言ってはダメだろう」

「構わないわ」


 キラキラと期待に目を輝かせる様に自己肯定感が満たされていく。

 良い。こうした羨望、好意、敬意の眼差しは大好きだ。俗物だと自覚しているが、この視線を得るために努力を惜しまないのがオリクトという人間だ。

 こうして幼心から来る純粋な憧れの目線は大好物。もっと見てと心の中で叫んだ。


「ふふふ。思ったのとは違う人だった? 私、小柄な方だし、アトロクよりも小さいのよね」

「ううん。すごくキレイなお姫さまで……」

(んんんっ!)


 アトロクの視線が胸を射貫く。顔が思わず弛む。

 キレイなお姫さまなんて最高の褒め言葉だ。なんとか威厳を保とうと笑顔で顔を固め身体が震える。


「嬉しいわぁ。ほら、いらっしゃい。お菓子も用意しているのよ」


 そう言いながら席へと促す。ドルドンもアトロクを連れ対面側に座るが、彼女の目線は茶菓子へと釘付けだ。

 やはり子供。見た目は育っていても頭の中はまだ十二歳。目の前に積まれたお菓子の誘惑には抗えないようだ。


「これ……食べていいんですか?」

「勿論。アトロクのために用意したのよ。気に入ってくれたかしら?」

「はい!」


 元気な姿が眩しい、可愛い、愛おしい。妹とはこんなに可愛い生き物なのだろうか。


「本当に可愛いわね。私末っ子だったし、妹ができてとても嬉しいなぁ」

「…………」


 ふとアトロクの手が止まる。彼女の目はどこか悲しげだった。


「アトロク?」

「どうしたの? 何か苦手なものがあったのかしら?」

「ううん……」


 首を横に振り項垂れる。何かあったのか、そんな不安が二人の間に流れた。


「私、可愛くない」


 小さな声だ。さっきまでの楽しそうなものとは違う、悲しそうな声に耳が痛い。


「そんな事はない。アトロクは可愛いよ。自慢の妹だ」

「でも、男の子達はおばさんみたいだって……」

(ああ、なるほどね)


 状況は察した。おそらく他の子よりも一回り発育の良い彼女をからかっているのだろう。もしくは……


「違うわ。男の子ってね、好きな女の子に意地悪したくなる生き物なのよ。アトロクが可愛いから照れてるだけね」


 その可能性は高い。だがそれ以上にアトロクの交友関係に度肝を抜かれる。


(しっかし、マグネシアが族長なだけあって平民とも遊んでいるなんて。ある意味すごいとこね)


 結婚後の育児に一抹の不安が残る。前世の価値観なら問題は薄いが、この世界ではそうはいかないだろう。

 オリクトが心の中でため息をついていると、アトロクは不安そうにドルドンを見上げていた。


「でも、兄様はオリクト様に意地悪しないわ」

「当たり前だろ。婚約者とはいえ王族だ。そんな事をしたらただじゃすまない」


 流石のドルドンも苦笑いが出る。好きな娘に意地悪をするのは解るが、この二人の関係はもっと複雑かつ政治的な意図がある。そんな事をするはずがない。


「ウフフフ。それはドルドンが他の男の子よりも大人だからよ」

「そうなんですね。兄様は素敵です」

「ああ、ありがとう」


 ドルドンに抱きつくアトロク。ほんの少し、砂粒程度だが嫉妬心にざわつく。


(落ち着きなさい。私の妹でもあるんだから。むしろあの間に挟まりたいかも……)


 柔和なプリンセススマイルを仮面に、その裏でニヤニヤと下品な笑顔が出そうになる。

 テンションの上下がせわしない。だがこの精神的な忙しさが心地よいものだ。


「そうだ」


 そうしていると、今度はちょっとした意地悪を思いついた。

「アトロク、今度のパーティーでデビュタントを飾れば解るわ。きっと貴女の可愛さに国中の貴族令息から求婚されるはずよ」

「求婚……」


 半分本当で半分嘘だ。現状でもアトロクとの婚姻、マグネシアとの接点を求める縁談は来ている。魔法具販売による潤った経済。王家に贔屓にされオリクトと婚約。今のマグネシアは非常に美味しいのだ。手を組みたいと思う家も少なくない。

 そこに今回のご令嬢のお披露目。きっと今まで以上になる。

 だが家の都合だけではない。アトロクも一人の乙女だ。恋の一つだってしたいだろう。


「どんな殿方が好みなのかしら。聞きたいわぁ」

「えっと……」


 頬を赤らめるアトロク。明らかに動揺するドルドン。なんとも解りやすい()()()()()だ。彼も頭では理解しているが複雑な気持ちなのだろう。


「わ、私。騎士様みたいな方がいい」

「騎士?」


 お兄ちゃん! なんて言葉が出てくるのかと思っていたが、意外な好みに驚く。


「ほら。以前ブラーク軍の魔法武具を売った時だよ。その時に来ていた騎士達が気に入ったみたいで」

「大きくて強い方がかっこよくて」


 そう言いながら照れてる姿がまた可愛い。


(なーるほど。つまり筋肉フェチね。いい趣味してるわぁ)


 ああ楽しい。こうして話しているだけでも心が洗われる。もっともっとと言いたいところだが、マムートの小言が飛んできそうだ。

 だが三人の楽しいお話しは突如として中断される。


「失礼します!」


 大きな音を響かせ扉が開く。外から飛び込んできたのはオルカだった。


「オルカ、殿下の御前ですよ」

「無礼は承知ですが、緊急事態ゆえお許しを」

「いいわマムート。オルカ、何事かしら?」


 オルカの様子は明らかにおかしかった。彼もマムートのように常に冷静沈着な男だと記憶している。そもそもこんなに焦った様子は見たことがない。


「若様、お嬢様。実は旦那様が……」

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