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66:家族! ああ家族

 朝食。一日の始まりであり、一家の団らんの時間。しかし王族であるコーレンシュトッフ家は忙しい。家族全員が集まり食卓を囲んで談笑するのは珍しい事だ。

 今日はそんな珍しい日。家長であり国王ウルペスを中心に、母ルプス、兄ラゴスとオリクトが朝食を囲んでいた。

 そんな中、オリクトは嬉しい事があるのか朝からご機嫌だ。


「どうしたんだオリー。妙にご機嫌じゃないか」


 ラゴスも釣られるように微笑んでいる。一人が笑えば皆も笑う。兄のこうした柔和な笑みを見るのも久しぶりだ。


「だって今日の昼過ぎにはマグネシアの馬車が王都に着く予定だもの。やっと未来の妹に会えると思うと嬉しくて」

「妹……ああ、マグネシアのご令嬢か。母上のパーティーに参加するんだったな」

「ええ、ええ。未来の妹のデビュタント! 見逃せないわ」


 鼻息を荒くし意気込む。はしたない、といつもならルプスの小言が飛んでくるところだが今日は無い。

 妙に静かだと思っていたが、ルプスはフォークを置き神妙な面持ちでオリクトの方を向く。


「オリー。嬉しいのは解りますが、ドルドンの妹とはいえ他人。初対面から恥ずかしい真似はしないように」

「勿論ですお母様。王家として当然ですもの」


 上に立つ者として恥ずかしかない振る舞い。そんなものは当然だ。いくら未来の義妹とはいえこちらの方が上の存在。オリクトも王族としてのプライドはある。

 王女として、未来の義姉として、格の違いを見せてやろうと意気込む。


「よろしい。マグネシアのご令嬢……たしかアトロクといったわね。彼女とは初対面です。いくらドルドンの妹とはいえ、お互い信頼関係は無いものと考えなさい」

「……はい」


 ルプスの言う事は尤もだ。噂や人手伝いで聞いていても実際に出会うのは初めてになる。そこに信頼関係は()()築けていない。


「よく話しお互いを知る事。身内となり、義姉妹となるのならなおのことです。解りますね?」

「解ってますわお母様。良い姉妹になってみせます」


 母からこんな事を言われるとは思っていなかった。いや、最悪の姉妹仲から回復したからなのか。彼女もオリクトが自分のようになってほしくないのだろう。


「フフフ、ルプスがこんな事を言うとはな」


 ウルペスも愉しそうだ。


「しかし今年もこの時期になったな。未来を担うご令嬢のデビュタント……今年は親しい家も出るとなると楽しい事になりそうだ」

「そうですね。あ、そう言えばお兄様が即位したら、今後はドークス様のお誕生日になりますよね?」


 ふと思い出すのは兄の婚約者。コーレンシュトッフでは王妃の誕生日が貴族令嬢にとって大きなイベントとなる。となれば次期王妃であるラゴスの婚約者、彼女の誕生日が今後のデビュタントとなる。


「ああ。彼女は冬の……雪が降り積もる夜に産まれたそうだ。まっ、俺の結婚と同時に即位する訳じゃないが、父上が早く引退できるよう努力するさ」

「頼むぞ。俺も早く引退して、ルプスと静かに隠居したいんだからな」

「もう、陛下は……」


 照れる母が可愛いかった。

 こうして家族が揃うのはあとどれだけだろうか。ここは前世とは違う。電話も無ければ飛行機も無い。嫁いだ姉がこの場にいないように、いずれオリクトもここからいなくなる。

 寂しい。しかしこれが時代の移り、人の営みだ。いずれこの席はラゴスを中心とした新たな王家のものになる。そしてオリクトはマグネシアで己の家族を持つ事になるだろう。

 今はこの時間を楽しもう。


「ああ、そうだ。オリー、ランタノ子爵から提出された充電式魔法灯の件なんだが……」


 不意にラゴスが思い出したように呟く。それは先日、オリクトの発明品の報告会にて出たアイディアだ。街灯の充電作業は人力、単純で簡単な作業だから孤児院に委託しようと提案したのだ。


「父上に進言したとこ、俺が担当する事になった」

「お兄様が?」

「ああ。仕事を与えた孤児達がどう成長するか……この仕事はかなり長い目で見る必要がある。俺が即位後も継続して見ていかないといけないからな」


 確かに彼の言う通りだ。あくまで仕事を与え働く事を覚えさせるのが目的。その後、孤児達がどう変わっていくのか、どう影響が出るのかは何年もかかる。となれば今からラゴスが関与するのは当然だろう。


「予算も組んだ。来年からだが、まずは王都で試す」

「良い方に動くといいのですが……」

「俺もそう願っているよ」


 世界も動いている。こうして国を動かす一端を担うだけで王女としての自覚が胸を駆け抜ける。

 忙しい日々だ。この世界の事もあり目が回る。どこにいるかもわからない主人公、離れてくれないカルノタス(ヒーロー)。この世界が今を生きる現実とはいえ物語の本筋も気になる。なんせオリクトは自分がラスボスだと想定しているからだ。


(そういえば……)


 食事をする手が止まる。


(他に転生者っているのかなぁ)


 頭の片隅に浮かんだ疑問。前世の記憶が語る可能性。


 前世を持つ者は自分一人なのだろうか。

 

 

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