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65:デビュタント! パーティー! 妹!

 入学してから数ヶ月。オリクトは比較的平穏な日常を過ごしていた。カルノタスのアプローチも止まりはしないが、食事を共にしようとしたり、自習中に口説いてきたりと()()のアプローチだ。

 それよりも気になるのがトライセラとパラントだ。彼女達がウザい。

 トライセラはまだまし。皇妃にと誘ってくるが、もう一人の花嫁(推定主人公)を見つける事にも肯定的。ドロマエオと同じく竜の花嫁さえ手に入れられれば良い……といったスタンスなのだろう。上手く立ち回れば味方にもなるだろう。

 問題はパラントだ。彼女はどういう訳かオリクトを皇妃にしようと躍起になっている。

 どうしてここまでオリクトに固執するのか。カルノタスはまだ本心を告げてくるので理解できる。しかし彼女は違う。初対面の日からあの調子なのだ。

 仮にも皇太子の従姉妹。身内の恋路を応援したい……のだろう。そう考えれば多少は納得がいく。

 しかしそれでも度が過ぎている。なんせドルドンへの敵意が酷い。

 


「あーしんど」


 授業が終わり教師が去ると思わず声がでる。疲れたような言い方に、隣にいるフリーシアも不安そうだ。


「あら、お疲れですかオリクト様」

「疲れたと言うか……うん、疲れた。アレに」

「オーラムの方々ですわね」


 無言で頷くと苦笑いで返される。彼女もあの二人の事は知っている。トラブルに捲き込まれたのは直に見ていたのだ。

 いくら公爵令嬢とはいえ口出しできる範囲はある。そもそもオリクトが前に立って否定しているのに諦めない彼らがぶっ飛んでいるのだ。


「ですが在学中にオリクト様のお心が傾かなければ諦めるのでしょう?」

「うーん。カルノタス(クソトカゲ)はそう言っているけどね。パラントが厄介なのよ」

「厄介ですか。たしかにオリクト様への執着はカルノタス殿下並ですわね」


 二人が同時にため息をつく。あの女はカルノタスとは別の意味で厄介だ。特に人に噛みつく所が一番面倒くさい。

 どうしたものかと頭を悩ませていると他の女子生徒の声が耳に入る。


「そう言えばそろそろルプス様のお誕生日よね。姪のデビュタント楽しみだなぁ」

「あら、それは楽しみですわね。私の身内は殿方ばかりで……。エスコート役で出れないかしら」


 その声を聞いて暗い気持ちが一変する。ルプスの誕生日。オリクトにとっては母親の誕生日であり、この国にとっても大切な日なのだ。


「お母様の誕生日かぁ。そう言えばもうそんな時期ね」

「ええ。私も四年前が懐かしいです」


 懐かしむ二人。そんな乙女の間に割り込む影が。


「ほう? 王妃殿下の誕生日に何かあるのか?」


 カルノタスが微笑みながらいつの間にか現れる。授業が終わったばかりなのに、相変わらず真っ先にオリクトに話しかけてくる。セクハラまがいの話しをしてこないし美男子なのだから質が悪い。

 うげっ、と一瞬言葉を詰まらせていると、こめかみにシワを寄せたドルドンが駆け寄る。


「コーレンシュトッフでは、王妃のお誕生日パーティーに十二歳になった貴族令嬢がデビュタントとして参加する風習があるのです」

「ほうほう。ルプス殿下の誕生日パーティーには招待されているが……デビュタントにもなっているとは。面白いな」


 ちらりとカルノタスの視線はフリーシアの方へと動く。


「という事は、フリーシア嬢も殿下の誕生日に?」

「ええ四年前に。ノルマンがエスコートしてくれましたが、今と違いガッチガチに緊張してて可愛いものでしたわよ」


 よほど楽しい思い出だったのだろう。思い出し笑いを堪え頬を緩ませる。

 こうやってフリーシアが笑うのも久しぶりかもしれない。


「可愛いだなんて、酷いじゃないですか姉上」

「だってそうじゃない。今や女漁りに勤しむなんて破廉恥な男になって。あの頃のノルマンが懐かしいわぁ」


 話しを聞き付けたノルマンが苦言を言うもフリーシアにあしらわれるだけ。

 ああ、なんて平和なのだろうか。ブラーク姉弟の漫談を見ているだけでオリクトの心が癒される。この場にカルノタスがいるが、彼の興味は王妃の誕生日に向いている。こうしていれば国の未来を担う重鎮同士楽しく話し合えたものを。改めて竜の花嫁なんて()()に唾を吐きかけたくなる。

 しかしオリクトはある事を思い出す。


「……ん? そう言えばドルドンの妹ってそろそろ十二歳じゃなかったっけ?」

「ええ。冬に十二歳になったので、今度のパーティーがデビュタントになります。マグネシアにオリクト様をご招待できなかったので、やっと紹介できます」


 そう笑うドルドンの姿に一気に気分が高揚してくる。妹。義理とはいえ妹ができる。それがオリクトにとってとても嬉しい事なのだ。


「ああ、楽しみだわぁ。私末っ子だから妹や弟ができるの楽しみだったの」

「ほほう。オリクト、俺も妹がい……っと、ドルドン君にも妹がいるのか」


 妹を餌に釣ろうと企むも、身内を利用する事に罪悪感があるのかカルノタスは話題を変える。


「ええ」

「確かアトロク……だったわよねえ。どんな子なの?」

「えっと……」


 ドルドンは数秒ほど考える。どんな娘か、どう言えばいいか。そう考えつつちらりとノルマンの方を見る。


「アハハハ、そう警戒するな。十二なんて子供だろ? 俺は子供には興味無いよ」

「そ、そうか」


 軽く咳払い。


「顔立ちは僕に似てますね。僕も妹も母親似なんです。あと、同年代の娘より背が高いかな」

「へぇ。マクロ伯爵様はとても背の高い方だったものね。そこは父親に似たのかしら」

「そうですね。パーティーに合わせて王都に来るので、オリクト様にはすぐにご挨拶するよう伝えます」

「楽しみにしてるわ」


 ああ、本当に楽しみだ。

 義妹。前世も妹はいなかったオリクトにとって初めての妹。楽しみにしないはずがない。どんな娘だろうか、仲良くできるだろうか。

 オリクトは期待に胸を弾ませるのだった。

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