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私だって王族なの。やる事はやるわよ

 次から次へと貴族達の報告をさばいていく。はっきり言って使った民の要望ばかり。しかし彼女からすればそれこそ望み。不満の改善は道具の進歩になる。


(うーん。今回はこんなもんかな。やっぱり小型化が命題ね)


 頭の中でボヤキながらも思考は動き続ける。

 今の技術で可能か。それとも他の手段を探るか。深く考えるのは後だ。今は彼らの言葉に耳を傾けるのが先だろう。


「では最後、ランタノ子爵」


 ドルドンに呼ばれ長髪の中年男性が立つ。


「たしか……子爵は充電式魔法灯の試験運用だったわね。報告をお願い」

「はっ」


 一礼し資料を取り出す。


「日中の充電により夜間は問題無く点灯。獣避けの効果も発揮しております。ただ、逆に虫を寄せてしまうのが課題かと」

「まあ、それは想定内ね。虫は光に集まるもの」


 このくらいは特に気にする報告ではない。最初からオリクトはこの件については関心が低かった。

 そもそも街灯はほぼ完成、売るペスの命により量産体制も整っている。最後のちょっとしたチェックでしかない。そう思っていた。


「充電作業も問題無くて?」

「はい。未亡人の家庭に仕事を与える形でやらせてみたのですが、意外にも効率が良く……」


 その瞬間、オリクトの目の色が変わった。顔を振り向かせ今にも椅子から立ち上りそうだ。


「未亡人?」

「は、はい。実は数ヶ月前に魔獣により輸送隊が被害に合いまして。残された家族が困窮しておりましたので、魔法灯の充電作業を斡旋しました」

「…………」


 これだ、と言いたげに瞳を輝かせ頬を歪ませた。


「子爵。充電作業は女性でもできる事なのかしら?」

「ええ。作業そのものは非常に簡単なものですから」

「という事は子供にも可能よね?」


 声が弾む。何処か期待をしているような様子に子爵も不思議そうだった。


「ええ。実際、家族で充電作業を行っております。子供でもできますよ」

「…………」


 考えるように一瞬口を閉ざす。そして扇子で口元を隠しながらほくそ笑んだ。隣で見ていたドルドンも何かを察し息を呑む。


「それ、孤児院とかに依頼すれば良いんじゃなくて?」

「孤児院……ですか?」

「そう、孤児院」


 扇子を閉じ軽く机を叩いた。


「孤児院っていつも困窮していると聞いています。それに幼少期は孤児院で保護されていても、十二、三になれば出ていかなくてはならない。そんな子供達がどうなるかご存知?」


 その質問に別の貴族、若い男性が呟く。


「運が良ければまともな職を得られますが、大半は傭兵か……盗賊等の犯罪者に身を落とすかと」

「実際、裏の人間にとっては良い()()()でしょう。学も無い連中は簡単に利用される」

「ああ、実に困ったものですな」


 皆が口々に苦言を溢す。彼らの言い分も理解はできる。実際に罪人へと墜ちる孤児は少なくない。福祉が充実している前世の世界ならまだしも、今の世界では後ろ盾の無い孤児が普通に生きていくのは難しい。

 上に立つ者として見過ごせない問題だ。下々の事など……と見捨てる漫画のような悪徳権力者のような事はできない。何せオリクトの今の生活は民によって成り立っているのだ。無視する事はできない。


「これ、国営事業として使えないかしら?」


 一筋の光が見えた。全てを解決するなんて大口を叩くつもりはない。だが一歩にはなる。


「少なくとも孤児院の経営を支えられるわ。それに働く事を覚えさせる良い機会になるもの」

「しかし殿下、そう上手くいきますでしょうか?」


 質問してくる者の言い分も解る。


「簡単にはいかないでしょうね。そもそも孤児院の経営が潤沢になっても、孤児が犯罪者に利用されるのを止められない……けど」


 再び机を叩き周囲の視線を集める。私を見ろ、私の声を聞け。そう命令するように視線を回した。


「働いている姿を見せるのは意味があるはずよ。真面目に働いている姿を見せれば人材として欲しがる人もいるでしょう。ほんの少しでも良い。働いて糧を得る、それを覚えるだけでも違うわ」

「確かに。それに孤児院に資金が回り余裕ができれば、孤児達にもっと教育を受けさせられるかもしれない」


 ドルドンも同意するように頷く。

 場が傾き始めた。それもオリクトの方へと。


「勿論、領地の財政やらの問題で国内全てで行えるとは思っていません。しかし陛下に進言する価値はあります。ランタノ子爵」

「はっ」


 緊張したように子爵が立ち上がる。息を呑み何を言われるのか。期待と不安に汗が頬を伝った。


「雇用、賃金、勤務状況。それらの資料をまとめて提出しなさい」

「承知いたしました。二週間以内には……」

「遅い」


 空気が一瞬で凍てつく。冷たいオリクトの声にドルドンでさえ緊張し、マムートは手が止まる。

 視線が剣のように鋭い。この小さな身体の何処にこんな覇気があるのか。いや、彼女の中に流れる王家の血が成せる技なのかもしれない。


「一週間でやりなさい」


 有無を言わさぬ威圧感。普段のオリクトとは違う冷徹な声が再び子爵を穿つ。


「コレは大きな価値がある。ランタノ子爵、貴方の働きで多くの孤児が悪ではなく民であり続けられる可能性があります。追加報酬を出すので速やかにお願いします。ああ勿論、発案者が子爵である事は陛下にしっかりお伝えしますからご安心を」


 国王へ直接、それも王女の口から。それがどれだけの価値があるのかわからないような男ではない。さっきまで参っていた子爵の表情はみるみる明るくなっていく。


「お任せください殿下。ご期待に応えて見せましょう」

「期待しています。では!」


 話しは終わり。そう告げるように手を叩き立ち上がる。

 オリクトに続きドルドンとマムート、更に貴族達も一斉に立ち上がった。一糸乱れぬ軍属のような動きにカルノタスも驚く。


「皆様、本日も有意義な時間でした。今回の要望も取り入れ、更なる発展を目指し勤しみます」


 ウキウキと弾むような声。会議の終わりはいつもこうだ。今後の発展、更なる便利な魔法具の開発へと繋がるだろう。


「コーレンシュトッフの発展、皆の、民が富むよう今後も協力をお願いします」

「はっ!」


 気合いの入った返事にカルノタス達が小さく拍手をする。楽しいものが見れた。そう感謝をするような皇太子に続き、クーニクルとアルマーディも拍手をした。

 満足げに微笑むオリクト。今後の仕事にもやる気充分、ワクワクとした気持ちが彼女を満たしていた。

 

 だからか彼女は気づかなかった。部屋の外、壁に寄りかかりながら会議を聞いている青年の姿に。


「フムフム。相変わらずだなあいつは」


 栗色のボブカットに緑色の瞳。黄色のネクタイをしたオリクト達とは一つ上の先輩。彼は楽しそうに、そして満足そうに何度も頷きながら部屋から離れていく。


「さぁてと。俺も少しは動くとするかな。可愛い()()が王族として頑張ってるんだ。泥舟ではなく、新しい次の船を見つけなければな」

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