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いちゃつきたいの! ダメ?

 ほっとする一時。温かいお茶に甘いお菓子、静かに風の音が開けた窓から流れてくる。

 優雅。その一言に限る。

 王女のティータイムはこうでなくてはとオリクトは満足げにカップを傾けた。

 そんな楽しい時間は唐突に終わってしまう。いや、もっと楽しい時間が訪ねてきたのだ。


「オリクト様、ドルドン様がいらっしゃいました」


「やっと会談が終わったのね。通しなさい」


「かしこまりました」


 一礼する侍女。自分まマムートに身だしなみをチェックさせ、ウキウキとした気分で婚約者の来室を待つ。


「ごめん、待たせたね」


 走ってきたのか、軽く息を切らしながらドルドンが現れる。


「いいえ。私の方こそごめんなさい。まさか王城に来ていたなんて。お父様とお話ししてたんですって?」


「うん。ちょっとね……」


 視線を泳がせながら頬を掻く。何かあったのかと不安が顔を見せる。


「お父様から何か言われたの? 私がちょっと文句言ってこようかしら?」


「そうじゃないよ。陛下からはちょっと背中を押してもらっただけさ。それに、何でもかんでもオリーにしてもらう訳にはいかないよ。僕だって男だ。君に頼らずとも問題の一つくらい解決するさ」


 彼の言う事ももっともだ。確かに王女であるオリクトは権力で大抵の事はやってのける。しかし頼りっぱなしなのは男のプライドが許さないだろう。


「それもそうね。フフッ。頼もしいじゃない」


 ドルドンの低姿勢は嫌いではない。寧ろ好ましく思っている。忠犬のような様は良いが、こうして頼もしさも見せてくれるのは素直に嬉しい。


「頼もしいか」


 ふとドルドンが隣に座ると、おもむろにオリクトを抱き抱える。


「ふぇ?」


 何があったのか、理解した瞬間にはドルドンの膝の上に座らされ抱き寄せられていた。

 近い。顔が触れるような距離に心臓が暴れ回る。


「ど、ドルドン?」


「……陛下から聞いたよ。オリーが欲しいって男が沢山いるって」


 吐息が頬に触れる。声が肌を伝い脳に染み込む。マムート達のニヤニヤした笑みが羞恥心を加速させる。


「ま、まあ王女だもの」


「でも僕は違う。君が欲しいんじゃない。君の一番になりたいんだ、一番必要な存在でいたいんだ」


 抱きしめる腕に少しだけ力が籠る。


「正直、マムートにも嫉妬している。彼女は君の傍にずっといたんだ。羨ましいよ」


「もう。侍女に妬くなんて」


 少し呆れる。いくらオリクトの傍にいるとはいえ、マムートは侍女。使用人でしかない。

 しかしこうして嫉妬してくれるのは少し嬉しい。それだけ想ってくれている証拠だ。


「どうしても妬いちゃうんだ。ねえ」


 更に強く抱き鼻先が触れる。一層心臓が高鳴り羞恥心に顔が沸騰した。


「どうしたら君の一番になれる?」


 甘い囁きが耳を溶かす。心の奥底から欲望が溢れてくる。

 ああ、欲しい。手放すものか、誰にも渡してたまるか。そもそもこの男は私のモノなのだ。


「もう一番よ」


 そうだ。もうなっている。


「だから私を愛して。私に力を借して」


「勿論だ。僕は生涯君だけを愛すると誓うよ」


 なんて甘い囁きだろうか。誰もが聞きたい言葉だ。

 貴女だけ。その一言は皆が願う最愛の証。オリクトも心底憧れる告白。しかし一つ。仕返しのようにイタズラっぽく微笑みながらドルドンに言い寄る。


「あら? それなら私達の子供は愛してくれないの?」


 とても意地悪な質問だ。そして同時に二人の明るい未来を願うもの。


「……まいったな。僕達の子供を愛さない理由がない」


「訂正する?」


「そうだね。()()オリーだけだ。そしていつかは」


 指先が頬に触れる。


「僕達の家族を愛するよ。めいいっぱいね」


「よろしい」


 笑みが止まらない。もっと触れていたい。気持ちが止まらない。

 今にも唇が重なり合う距離。


「んんっ!」


 が、マムートの咳払いが二人を止めた。


「オリクト様、ドルドン様。そこまでです」


「おやおや、いい所だったのに。主人の逢瀬に水を差すのは無粋ではないかな?」


「オルカ」


「おおっと、怖い怖い」


 マムートが一睨み。高身長なだけあって威圧感は充分。軽口を叩きながらもオルカが引っ込む。


「いいですか、いくら婚約者とはいえ婚前なのですよ。節度をもってですね……」


 そのまま小言に突入。膝に乗ったまま硬直し気圧される。


「オリー、もしかしてこれ長い?」


「うん。めっちゃ」


「聞いているのですか!?」


 一際大きなお説教。他の侍女達も萎縮している中、オルカだけは楽しそうに笑っていた。

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