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ダーリンが凹んでますわ 急がねば

 コーレンシュトッフ王宮第四客室。広い。人っ子一人いるだけにしては有り余る広さだ。

 ふかふかのソファーに座り、置かれた紅茶に手も着けず頭を抱える褐色肌の青年がいた。


「どうしよう……」


 ドルドンは絶望しきったように項垂れている。


「ラゴス様とシルビラ様は味方してくれるだろうけど、絶対陛下はオーラムとの同盟を望むだろうし。勢いで啖呵切ったけど不敬罪で一族もろともってないよねぇ?」


 オリクトが皇太子の求婚を蹴り自分を選んでくれた。嬉しさのあまり飛び出してしまったが、一歩間違えればどるが危なかった。部屋に入り冷静さを取り戻すと一気に冷や汗が溢れてくる。


「陛下は我々を高く評価してくれています。少なくともそれは無いでしょう」


 焦るドルドンと違いオルカは冷静だった。


「まあ、殿下との婚約は絶体絶命。早めに嫁を探すのも吉かと」


「…………嫌だ」


 やっとの思いで声を絞り出す。


「でもそれが一番なのも解っているんだ。本当、女々しいよね」


 自嘲しながら笑う。自分の立場を理解してるからこそ辛い。オリクトと性別が逆だったら流行りの恋愛劇にも見えただろう。


「オリーが僕を選んでくれた。嬉しかったし勇気が湧いてきた。でも、僕は小さい男だ。勝てるはずがないよ」


「オーラム帝国の皇太子でしたっけ? なんともまあ、話しが大きくなってますねぇ」


「だから絶望してるんじゃないか」


 今にも泣き出しそうだ。悲しい。身分不相応だと諦めようとした。しかし想い人から手を差し伸べてくれて希望を見出してしまった。それが諦めきれない気持ち湧き上がらせている。

 感情なんて無ければ良かった。好意を抱かなければこんなに苦しむ事はなかった。いっそオリクトから捨ててくれれば楽だったかもしれない。


「若様。人間諦めが肝心です。私としてもオリクト殿下との婚約は喜ばしいと思っています。そしてクド族の民全てが同じ気持ちです」


 オルカの方を見上げる。


「職人達は殿下の設計図をいつも楽しみにしています。彼女こそ主に相応しいとよく聞きます。ですが、これはどうにもならないかと。国同士の同盟に最適ですからねぇ」


 悲観的ではなく現実的な男。彼の言葉を理解しつつも認めたくない。ドルドンはそこまで大人ではなかった。


「解ってる、解ってるさ。貴族になった以上結婚だって家の損得勘定だって理解してる……けど」


 そう言いかけた時扉の前て待機していた騎士、エラスモが声をかける。


「オリクト殿下がいらっしゃいました。お通ししても?」


「っ! すぐに」


 急いで立ち上がり服装チェック。心臓が破裂しそうな程脈動する。来た。来てしまった。話し合いが終わり止めを刺しに来たのだ。

 聞きたくない。しかし聞かない訳にはいかない。


「ドルドン……」


 オリクトが部屋に入って来る。背後には無言の威圧感を出すマムート。彼女達と入れ替わるようにエラスモは再び入り口の警備に戻った。

 空気が重い。原因はドルドンだ。彼の不安な気持ちが全身から溢れている。

 酷い顔だ。今にも泣き出しそうな憔悴しきった顔。とても王女に見せる様ではない。

 そんな彼に寄り添い、オリクトの手が頬に触れる。


「不安にさせてごめんなさい。もう大丈夫だから」


「大丈夫って……」


「会議の結果、断る事になったの」


 ドルドンだけでなくオルカも耳を疑った。断るはずがない。コーレンシュトッフよりも大国、その皇太子からの求婚だ。普通なら従うはずだろう。


「どうして? も、もし戦争なんかになったら……」


「貴方と心中する」


 黒い笑顔だ。それ程想ってくれている嬉しさと、自らの命すら盾にする恐ろしさがこの笑顔から溢れてくる。


「私はあの男にとって人質の価値がある。私が無理に嫁ぐ必要は無いのよ」


「だからって」


「それだけじゃないわ。お姉様は怒り狂ってるし、お父様は私の発明が必要だと言って味方してくれた。お母様とお兄様も、表向きは嫁ぐ事に賛成していたけど内心は反対してくれてた」


 家族の後押しもあったのが嬉しかった。全員で嫁げと言われてもおかしくなかったのに、これは奇跡とも言えよう。

 離れなくて良い、彼と添い遂げて良い。そうなったのが何よりも嬉しい。


「だから安心して。私はドルドンを棄てたりしないわ」


 ドルドンに歩み寄り頬を撫でる。そして涙ぐんだ目を拭った。子をあやすような仕草だ。


「オリー……」


 そんな彼女を強く抱きしめる。離れたくない、離したくない。そう叫ぶように。

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