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竜の花嫁とか無いわ~

 コーレンシュトッフ王国王宮。この日は国内の貴族だけではなく、近隣諸国の面々も訪れている。

 振る舞われる食べきれぬ程の料理。庶民の手には届かない酒。宝石と豪華な衣装に身を包んだ人々達から笑い声が響く。

 談笑と腹の探り合い。社交界の日常……ではない。今日はこの国にとって大きなイベントの日だ。

 第一王女の結婚披露宴。だからこそ近隣諸国からも重役が訪れる壮大なものになっている。


 しかしそんなパーティーはあるものに乗っ取られてしまった。一国の王女の結婚、それを超えるものがあるのだろうか。

 いや、出てしまったのだ。

 会場の片隅にできた人集り。その中心には一人の少女がいた。

 長く癖の無い真っ直ぐとした美しい栗色の髪にルビーのような瞳。齡十六年にしては少々小柄だが年相応の少女と貴婦人の中間、その両方を兼ね備えた人物だ。

 オリクト・コーレンシュトッフ。このパーティーの主役の妹、コーレンシュトッフ王国第二王女。彼女が姉を差し置いて注目を上げているのには理由がある。

 それは彼女の目の前で跪き手を取る少年のせいだ。

 年はオリクトと同年代。頭一つどころか二つは飛び抜けた背丈。黒曜石のような髪と瞳をした彫刻のような美しさ。女性だけでなく男すら魅了する妖艶さがある。

 だがオリクトは顔色一つ変えない。周りの令嬢達が見惚れているにも関わらずだ。


「見つけたぞ。オリクト、お前こそ俺の妻。竜の花嫁だ。我が妃よ、帝国の全てをもって君を幸せにすると誓おう」


 うっとりとした瞳。この世の全てを魅了するような甘い声。老若男女、全てを虜にする魔の囁き。

 彼女を取り巻く視線は羨望と嫉妬、そして好奇だ。


「…………スパ……理……」


「どうした?」


 小さく呟くオリクト。深呼吸をし手を引く。それは拒絶を意味していた。


「申し訳ございません。私には婚約者がおります。ですので殿下の求婚をお受けできません」


「は?」


 断られるとは思っていなかったのだろう。珍獣を目にしたように停止、周囲もざわめき出す。


「嘘、カルノタス殿下の求婚を?」


「竜の花嫁だぞ。オーラム帝国の妃に選ばれたというのに……」


 断ると思っていなかったのは観客もだ。それほどこの男、カルノタスに価値があるのだろう。

 しかしオリクトはなびかない、心は奪われない。取り囲む令嬢達が全て魅了される中、彼女だけがただの男と見ていた。

 ざわつく声の中、走る音が近づいてくる。


「道を開けてくれ!」


 人混みを掻き分け誰かが乱入。その人物はカルノタスの手を振り解きオリクトを抱き寄せる。

 雪のような銀髪に相反した褐色の肌。真っ白な礼服の少年がキッとカルノタスを睨む。


「私の婚約者に触れないでいただきたい」


「ドルドン様……」


 カルノタスの時とは真逆の貌だ。うっとりと頬を赤らめドルドンの手を握る。抱き寄せられた胸に身体を預けお互いにしっかりと手を握る。

 見せつけている。彼女は、彼は、私のだと。眼の前の男に訴えていた。

 火花が散る視線の交差。男と男の維持のぶつかりあい。そんな中、オリクトだけは緩みきった頬でドルドンにしがみつく。


(ああ、私の婚約者最オブ高! ()()できてよかった)

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