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第三十九会「最皇祭!⑤」

初めて書いたので拙いと思いますが、これから成長していければと考えていますので、温かい目で見守っていただければ幸いです。

 

 学校を後にした俺は、火恋さんの家に向かっていた。

 走りながら采原さんの言っていたことを思い出す。


『実は昨日、私たちの喫茶店で少し事件がありまして…。私たちのクラスでは火恋ちゃんが基本的に代表としていろいろと動いてくれていたのですが、食材の数が足りなくなってしまったんです。申請ミスでもともと足りない数しか届いてなかったみたいで…。今日の分はしっかり数が届いているので問題ないのですが…』

『それで、昨日はどうしたの?』

『昨日は、みんなで買い出しをしに行って問題なくさばけました。お金を出したと言っても、みんなから集めたのでそれぞれちょっとだけで済んだのですが…』


『なるほど…』

『一応昨日、みんなで火恋ちゃんに気にしないでという風には伝えたんですが…。それでも、陸上部のことがあったから、深刻に考えてしまっているんだと思います。あの時は、みんなが敵でしたから…』

『そっか…』

『お願いします、月浦さん。私が行ってもダメなんです。私はあの時、火恋ちゃんの味方になれなかった…。そんな私に来られても、火恋ちゃんは来てくれないです…。だから…』



 火恋さんの家に向かうとは言っても、正直この道があっているのか分からない。

 采原さんからもらった地図を見てみても、あまりにもざっくりしているのだ。

「この辺のはずなんだけど…。…マジか…」

 地図に大きく『ここ!』と書かれている場所はこのあたりのはずだがわかるはずがない。

 辺り一面住宅街。家がたくさんあるのだ。


「…探すか…」

 家の一つ一つを確認していくが、表札を見ても紗衣火という文字は見当たらない。

 もしかしてここじゃないのだろうか…。


 スマホで時間を確認してみる。時刻はもうすぐ午後二時。

 俺のシフトの時間も始まってしまう。

 俺は日早片さんにメッセージを送った。

『ごめん、午後からのシフト、代わってほしい』


 その時、火恋さんが目の前の家から出てきた。

「火恋さん!」

「!?」

 俺の声を聞いて肩をびくっとさせ、ゆっくりとこっちを振り返る。


「…」

 お互い数秒見つめ合い、俺が近づこうとした瞬間、火恋さんは走り出した。

「ちょっと!」

 俺は急いで火恋さんを追いかける。


「はぁ、はぁ」

 さすが元陸上部だ。どんどん差が開いていってしまう。

 俺はさっきまで走り回っていたので体力的にも限界だった。


「ぢょっど、はぁ、はぁ。ばっで…」

 そう言った時、俺は足が回らず転んでしまった。

 かなり豪快に転んだので、ズザザーという大きな音が響く。


「つ、月くん!?」

 火恋さんはその音を聞いてこちらを振り返り、転んだ俺を見て戻ってきた。

「はぁ、はぁ…。火恋さん、はぁ、はぁ。速、すぎる、よ…」

「それは…月くんが追いかけてくるから…」


 俺はかなりへとへとで、今火恋さんに逃げられたらもう追いかけることもできない。

「火恋さん、話をしよう」

「…ごめん」

 火恋さんは謝ると、立ち上がってまた逃げようとする。


「火恋さん、待っ!」

 俺が立ち上がろうとしたとき、足にズキンという痛みが走る。

 さっき転んだときに痛めたのだろう。


「!?」

 それに気づいた火恋さんはもう一度戻ってきて俺に手を貸してくれた。

「火恋さん…」

「…ケガ、してる」

「大丈夫だよ、これくらい」

 俺はそう言って火恋さんの手を借りて立ち上がった。


「火恋さん、話は聞いたよ」

「…」

「昨日のクラスでのこと。それに…」

「陸上部でのことも…」

「…」


 火恋さんの表情が一気に曇っていった。

「…どうして、ここに来たの?」

「火恋さんを連れていくために」


「…無理だよ。私は昨日、みんなに迷惑をかけちゃった。こんな私を受け入れてくれるなんてことはない。きっとまた、あの時みたいにみんなが…」

「大丈夫、みんなそんなに気にして…」

「ほんとにそうだったとしても!もう無理なの…。また一人になるんじゃないかって思うと、怖くて…」


 火恋さんはそう言って頭を抱えてしゃがんだ。

 陸上部での出来事は火恋さんの中で深く絡みついていた。

 それもそうだ。俺が当事者でも、きっと同じ状況になっていただろう。


「…わかった…」

 俺はゆっくり火恋さんに近づいて、手を差し出す。

「もし、もし仮にみんなが火恋さんを一人にしても。俺が一人にはさせない。絶対に」

 火恋さんはゆっくり顔をあげる。

「…俺が、火恋さんを守るよ。必ず」


 ―――――――――――――――――――――――


 月くんが私を学校に連れていくために来てくれた。

 体調不良って言ったのに、誰かが気づいたのだろうか。

 でもだめだ。月くんが説得してくれても、あの時のことが脳裏をよぎってしまい、怖くて行けない。

 そう思った時、月くんの口が開いた。

「…俺が、火恋さんを守るよ。必ず」


 前には月くんが手を差し伸べて立っている。

 この時、初めてはっきりと月くんの姿をとらえた。

 ああ、こんなにボロボロになりながらも私を…。

 この人なら、本当に私を守ってくれる気がする。


「…何それ、かっこいいじゃん…」

「な、そんなこと…」

 月くんは照れた様子で答えた後、

「それにほら!金美さんも紡木さんも!土門だって日早片さんだっている!」

 と続けた。


「…そう、だね。私、怖がりすぎていたのかも…!ごめんね、迷惑かけちゃって…」

「大丈夫。さあ、行こう。まだ時間はあるし、午後の約束もあるでしょ?金美さんも、待ってるよ」

「…うん、そうだね、行く。それに、何かあっても守ってくれる人がいるしね!」

「もう、行くよ!」


 月くんは顔を赤くしてそう答えた。

 そして私の手を引く。

 彼に手を引かれ、引っ張られるようにして私はついていった。


 ―――――――――――――――――――――――


 学校に到着した時、時刻は三時半を回っていた。

 俺たちは一年二組の教室に向かう。


「…」

 火恋さんは足取りが重くなったように見えた。

 掴んでいる手は少し震えている。


「大丈夫。俺がついてるから」

「…」

 火恋さんは下を向きながらコクリと頷いた。

 一年二組の教室に到着する。

 教室の前には、休憩中という看板が置かれていた。


「ほら、行っておいで…」

「うん…」


 火恋さんはさっきより震えているようだった。

 何度か深呼吸してゆっくり教室の扉を開ける。

 するとそこには、二組みんなの姿があった。


「え…」

 火恋さんは驚いて周りを見渡している。

 実は、学校に戻る前に俺が采原さんに話を簡単に伝えておいたのだ。


「…ごめんね、火恋ちゃん…」

 クラスの子が謝罪の言葉を発した。

 火恋さんはまさか謝られると思っていなかったようで驚いた表情をしている。

 その後も火恋さんと二組のみんなは話を続ける。


 俺はその様子を見て、二組を後にした。

 きっと大丈夫だろう。

「…よし。残り時間、働こう!」

 そう気合を入れて、俺は一組の教室に戻った。



 教室に戻ると、日早片さんが無言でたこ焼きを作っていた。

「…」

「ええと…」

 俺は恐る恐る声をかける。


「ほんとにごめん!助かったよ…」

「…」

 まだたこ焼きを作り続けている。


「あのー、日早片さん?」

「…理由は?」

 そうだった。俺は日早片さんに理由を伝えるのを忘れていた。

 これは話してもいいのだろうか…。

 あまり知られたくないという可能性もある。


「理由ね、理由。ええと…」

 俺は一応、火恋さんのことを隠すことにした。

 でも隠すにしてもいい感じの言い訳が思いつかない。

 どうしようかと悩んでいると、日早片さんが口を開いた。


「…はぁ。もういい」

「…へ?」

「何か、大事なことがあったんでしょ」

「その、まあ、うん…」

「いい。別に怒ってないから」


 日早片さんはそう言うと、小さい皿にたこ焼きを一粒乗せて俺に渡してきた。

「これ」

「?」

「まだ、あなたから感想を聞いていない」


 確かに、俺は日早片さんの作ったたこ焼きをまだ食べていない。

「…」

 日早片さん、なんだかんだいって優しいな…。


「ありがとね…!」

 俺はたこ焼きに爪楊枝を刺して口に入れた。

 日早片さんのたこ焼きはおいしいらしいので、期待大だ。

 と思ったのも束の間、俺の舌にはヒリヒリという感覚が一気に広がった。


「からーーーーーーい!!!!!!!!」

 なんだこれは。舌が痛い。

「からいからいからいからい!みずーー!」

「…っぷ、あははははは!!!」

 俺がのたうち回っているのを見て、日早片さんは笑っていた。


「ひどい!ひどすぎる!」

「ロシアンたこ焼き、外れだけ。あはははは、はぁはぁ。これで、許す」

 どうやら日早片さんからお許しを得たようだ。

 ならまあ、これくらい我慢するか…!


 ―――――――――――――――――――――――


 教室に向かう途中、手が震えていた。

 やっぱり怖い…。

 その時、月くんがこちらを見て『大丈夫、俺がついてる』と声をかけてくれた。


 なぜだか体が熱くなり、心臓の鼓動も速くなる。

 今考えると、ここに来るまでずっと手をつないでいるという状況だ。

 もしかしたら、この心臓の速さと体の熱さが月くんに伝わっているかもしれない。


 そんなことを考えていたらあっという間に教室の前に着いてしまった。

 さっきより体が震えているけど、深呼吸をして落ち着かせる。

 そして私はゆっくり教室に入った。


「え…?」

 目の前にはみんなの姿。どうして?

「ごめんね、火恋ちゃん…。私たちのせいで、火恋ちゃんを困らせていたよね…」

「どうしてみんなが…。昨日は私のせいで大変だったのに…」

「ううん、違う。あれは私たちのせいでもあるの…」

 そう言ってクラスの子はそのまま続けた。


「私たち、火恋ちゃんにいろいろ頼りっぱなしでたくさん仕事任せちゃって…。きっと火恋ちゃんが申請を忘れちゃったのも、私たちが火恋ちゃんに頼りすぎていたせいだと思うの…。気づかないうちに、火恋ちゃん疲れちゃったんだよ…。だから、本当にごめん!」

「そんなこと…」


 たしかにたくさんの仕事があって疲れていたのかもしれない。でもそれは私が断らず、全部引き受けたのがいけない。

 その時の私は、断ることなんてできなかったけど…。


 みんなから謝罪の言葉が聞こえてくる。

 あの時とは違い、誰も私を責め立てない。

 この光景に、自然と涙が浮かんでしまう。


 ああ、私は怯えすぎていたのかもしれない。

 みんなが私を許してくれる。こんなにも優しい人たちであふれている…。

「火恋ちゃん!」

「光…ちゃん?」


 光ちゃんが私に抱き着いてきた。

「ごめんね、火恋ちゃん!ごめんね!」

「ど、どうして光ちゃんが謝るの?」

「あの時、私、火恋ちゃんの味方になってあげられなかった…!私が狙われるのが怖くて!わかってたのに!火恋ちゃんが正しいって!わかってたのに…」

 光ちゃんの目から大粒の涙がこぼれている。


 ああ、そうだったのか…。

 あの時、誰も私の味方はいないと思っていたけれど、ちゃんと、私を信じてくれている人はいたんだな…。よかった…!

 そして私の目に浮かんでいた涙は、光ちゃんと同じように一気にあふれ出し、私は光ちゃんと強く抱き合ったのだった。



最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

続きもぜひ、読んでいただければと思います。よろしくお願いします。

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