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第三十八会「最皇祭!④」

初めて書いたので拙いと思いますが、これから成長していければと考えていますので、温かい目で見守っていただければ幸いです。

 

 パァン!!

 ピストルの音と同時にスタートを切って、ゴールまで駆け抜ける。

 調子は良さげ。足の回転もいつもよりいい感じだ。

 これは自己ベスト狙えるかも…。


 私は走るのが好きだ。

 練習すれば足は速くなるし、自分の限界に挑戦するっていうのも好き。

 走っている時に風がなびいて気持ちいいのも好きだし、体力がついて普段疲れにくくなるのも最高だ。


 初めは部活に必ず入らないといけなかったからなんとなく陸上部に決めただけだったけど、今は陸上がない生活なんて考えられないかも…。

「タイムは…」

 先生からタイムを聞いてガッツポーズをする。

 自己ベスト更新!


 その日はかなり調子が良くて、もう一本走ろうかなと思ったけどやめておいた。

 数日後には大会も控えているし、オーバーワークは体を壊す原因だからね。

「今日はこれくらいにしておこうか」

「はい!」

 先生も同じ考えだったようだ。


 部室に戻ると、同じ陸上部の子が着替えていた。

 この子の名前は(れい)。陸上部のエースで、私のライバルでもある。

 自分で言うのもなんだけど、私も一応エースなんです!


 彼女とは結構話をする機会が多い。お互いエースという立場だし、一緒に大会に出ることも多い。

 彼女も結構私を頼りにしてくれている気がする。いろいろ頼まれることも多いしね!


 でも私は彼女が少し苦手だ。

 美人でスタイルも良くて、おまけに陸上部のエースなもんだからクラスの一軍ポジションについている。

 クラスでも高圧的で、気弱な子をいじっていたり、自分が気に入らないことをされると声を荒げたりしている。

 誰も彼女に文句を言えない。彼女に楯突いたら自分がターゲットにされてしまうから…。

 私もなるべく彼女の機嫌を損ねないように心掛けている。


「あら、火恋。今上がり?」

「うん、結構走ったからねー」

「そう。お疲れ」


 淡々とした会話のように見えるけど、普段もこんな感じだ。

 怒ってない時の彼女は別に普通なのだ。

「…」

 お互い黙々と着替えや帰る準備を進めているので、服の擦れる音と鳥の鳴き声しか聞こえない。

 夕焼けが窓から差してきてまぶしい。


「そういえば…」

 静寂を切り裂いたのは彼女の一言だった。

「火恋、頼みたいことがあるんだけど…」

「どうしたの?」

「私、明日の練習の片づけ当番でしょ?ちょっと明日だけ代わってくれないかしら?」


 明日は私も練習の後に用事がある。

 いつもは代わってあげてるんだけど、明日は無理だ。申し訳ないけど代わることができない。

「あー、明日か…」

「何?」

「明日は…、ごめん!代われない!」


 私は両手を合わせて彼女に頭を下げた。

「あら、いつもは代わってくれるじゃない?どうして明日は無理なの?」

「私、明日ちょっと用事があって…」

「…」


 この雰囲気は少しまずいかもしれない。

 彼女の機嫌が悪くなったら、何されるか…。

「…そう。なら仕方ないわね」


 あれ…?思ったより普通だ。

 身構えていた分、少し気が抜けてしまったが特に何もなくてよかった。

「そ、それじゃあまたね!」

「ええ、お疲れ様」


 ―――――――――――――――――――――――


 次の日の練習後、私は用事を済ませて家に帰った。

「たっだいまー!」

「あら、お帰り、火恋」

「今日のごはん、何?」

「今日は…」


 私はお母さんと話した後、先にお風呂に入った。

 練習で汗だくだし、気持ち悪いからね。

 お風呂から上がって、髪を乾かしてから食卓に着く。


「もう少しで大会ね、火恋」

「うん!」

「調子はどんな感じ?」

「かなりいいよ!昨日なんて自己ベスト更新しちゃったしね!」

「それを本番でやってよー」

「本番はもっとタイムを縮めるよ!」


 お父さんは帰ってくるのが遅いので、お母さんと二人でご飯を食べることが多い。

 私はこの時間が好きだ。

 もちろんお父さんも一緒に三人で食べるのも大好きだけど、お母さんじゃないと話せないこともあるしね。


「ごめんね、お母さんとお父さん、大会の日用事が入っちゃって…」

「大丈夫!遠くから願ってて!賞状もらってくるから!」

「それは楽しみね!」


 食事を済ませ、その日はすぐベッドに入った。

 練習で疲れていたし、早く寝て体力を回復しないと。

 ベッドに入ってすぐに意識がなくなり、気づいたら朝になっていた。



 学校に登校して、教室へ向かう。教室が何やら騒がしい。

「おはよー」

 私が教室に入ると、みんなが一斉にこっちを向いた。


「どうした…の…」

 私が聞こうとしたとき、目に飛び込んできたのは松葉杖を横に置き、包帯を足に巻いている彼女の姿だった。


「昨日、火恋に練習の片づけを押し付けられて、倉庫で片付けている時に荷物が崩れてきたの…。もう少しで大会なのに…」

 彼女はそう言って泣き始めた。

 取り巻きの子たちは彼女を慰めている。


「え?ちょっと待ってよ、押し付けたって…」

「火恋ちゃん、サイテーじゃない?」

「片づけしたくないからって押し付けたりするんだね…」

「俺、ちょっと引くわ…」


 周りから私をなじる声が飛び交う。

「待って!私、押し付けたりなんてしてない!昨日はもともと零が片付けの番で…」

「違う!昨日火恋にやれって無理やり…」

 この子は何を言ってるんだ…。


「それに、これが初めてじゃないの…。いつも、自分が片づけしたくない時は私に押し付けてきて…」

 あろうことかいつも私にしていることを、自分がされたと言い始めた。

「違うよ!それをしてるのは零じゃん!私じゃ…」


 私がどんなことを言っても、誰も私を信じようとしない。

 彼女がそう言い張った時点でもう無理だった。

 彼女に逆らったら何をされるのか分からないのだ。みんなはあっちの味方になるしかない。


「ほんとうは火恋ちゃんがケガするはずだったのに…」

「零に仕事を押し付けて、自分はケガ無く大会に出場して…。これじゃあ零が可哀想だよ…」

「いいの。大丈夫。私がケガするだけで火恋はケガしなくて済んだのだから。…でも、私も大会、出たかったな…」


 彼女は微笑んだ後、もう一度涙を流した。

 仕事を押し付けてピンピンしている私と、押し付けられた仕事をしている最中にケガを負い、大会に出られなくなった零。

 どちらが悪者かは一目瞭然だった。

 こうして私の楽しかった学校生活は崩壊していったのだった。


 ―――――――――――――――――――――――


 放課後、明日に大会を控えているので私はグラウンドへ向かう。

「人をケガさせておいて、自分はのうのうと練習ですかー?」

「零、可哀想ー」

 グラウンドへ向かう間にも、クラスの子たちは私に嫌味を浴びせてくる。


「私がケガさせたわけじゃ…」

「仕事押し付けて零がケガしてるんだから、あなたがケガさせたのと同じじゃない?」

「だからそれは…!」

「言い訳はいいから」


 これ以上この人たちに構っている時間はない。

 そう思いグラウンドへ向かう。

 その日は大会前日ということもあり、軽い調整で練習は終了した。


 家に帰り、バッグを空けて忘れ物をしていることに気づいた。

 私は、普段は絶対に持ち帰っている陸上用のスパイクを学校に忘れていってしまった。

 精神的に来るものがあったのも一つの理由だと思う。

 幸い、明日の大会はそんなに早い時間からではないので、先に学校に寄ってスパイクを取ってから会場に向かおう。

 そう思い、私は眠りについた。



 朝、支度をして学校へ向かい、下駄箱に忘れたスパイクを持っていこうとした。

「あ、あれ…」

 スパイクがない。

 ここでいつもの靴に履き替えているから、忘れるならここのはず…。

 とにかく探そう。


 私は急いで探し回った。他のクラスの下駄箱、教室、陸上部の部室…。

 どこを探しても見つからず、どうしようかと思っていると、一通のメッセージが届いた。


『火恋、スパイク忘れていたわ。私、会場に行くついでに持ってきてるの。早く来ないと始まっちゃうわよ』


 相手は零だった。とりあえず、スパイクの在処が分かりホッとした。

 私は今から向かうと返事をして、会場へと向かった。



 会場に着くと、零がスパイクを渡してくれた。

 私に濡れ衣を着せた嫌な人だけど、今だけは感謝しないと…。

「ありがとう」

「いいえ。それじゃ、頑張ってね」

 乾いた声の激励を貰い、私は控室に向かった。


 控室で靴を履き替えるが、なんだかおかしい。

 いつもと感覚が違う。そう思い、スパイクを確認してみると、切れ込みが入れられていた。

「…なに、これ…」


 明らかに人が入れた傷跡の切れ込み。昨日まではなかった。

「…どうして、こんなことするの…」

 犯人は一人しかいない。替えのスパイクは持っていないし、学校に寄ったこともあり、もうすぐ私の番がくる。

 どうしようもないので、私はこの切れ込みが入れられたスパイクで出場するしかなかった。


 大会は滞りなく終了した。

 当然結果は最下位。壊れたスパイクで上位に入れるほど甘くはない。

 私は急いで零のもとへ向かった。


「零!」

「火恋、お疲れ様。残念だったわね」

「…どうして、こんなことするの…」

「こんなことって?」

「…私のスパイク、切れ込みが入ってた…。明らかに誰かが入れた傷跡。昨日まではなかった…」

 私は怒りと悔しさで震えながら、声を荒げないように何とか押し殺して零に尋ねた。


「そんなの、知らないわ。あなたが気づかなかっただけじゃないの?」

「そんなわけない!」

「あら、あなた、大会前にスパイクを忘れて困っているだろうから会場まで持ってきてあげた私を、疑っているの?せっかく人が善意でしてあげたのに」

「だって…!」

 私が言葉を続けようとしたとき、取り巻きの子たちが零のそばにやってきた。


「ひどいわ、火恋!いい走りができなくて、最下位になったのを私のせいにするなんて…!」

「火恋ちゃん、それはあんまりだよ」

「せっかく会場まで駆けつけてスパイクを持ってきてくれた零ちゃんに、ひどすぎるんじゃない?」

「そんな…」


「お?なんだなんだ?」

 私たちが騒いでいるのを聞きつけたほかの選手たちが周りに集まってきた。

 彼女たちはさっきより大きな声で周りに聞こえるように、同じやり取りを繰り返した。


「え?火恋、そんなことしてたの?」

「エースって言われてる割に、結果も残せなくて、その八つ当たりを出場できなかった零ちゃんにしたってこと?」

「こんなんだったら、零が出たほうが良かったんじゃない?」


 他の学校の選手たちにも私たちの名前は知れてるので、私たちのやり取りは一気に話題になった。

 何も知らない人たちからの心無い言葉もたくさん飛んでくる。


「…!」

 完全に私が悪者だった。私は悔しくて、でもどうしようもなくてその場から逃げ出した。

 会場を後にして、全速力で街を走り抜ける。


 走っている時、涙が止まらなかった。

 どうして私が?どうして全部私が悪いってことになるの?悪いのは全部零なのに!

 涙が後ろに流れていく。

 何を言ってもダメなんだ。こういう状況になった時点で私に逃げ場はなかったんだ。

 こういう状況にしてはいけなかったんだ。


 私は、この大会のあと、陸上部を退部した。


 ―――――――――――――――――――――――


「は!!」

 嫌な夢を見た。昔の、陸上部での出来事。

 ベッドのシーツは汗の跡がついている。


 時計を見る。時刻は午前七時。

 私は昨日のことを思い出した。

 私のせいでクラスのみんなに迷惑をかけてしまった。


 陸上部での出来事がフラッシュバックして、学校に行くのが怖くなる。

 またみんなから無視されたらどうしよう…。

 また一人になってしまったらどうしよう…。


 お母さんとお父さんは、今日はもう仕事をしに出ている。

 私は先生に体調不良で休むという連絡をした。

 別にどこか具合が悪いということではない。

 ただ、怖くて行きたくないのだ。


「ごめん、月くん。私から誘ったのに…。ごめん、金美ちゃん。午後、一緒に回ろうって約束したのに…」

 カーテンの隙間から差し込む日差しに目を細めながら、私は窓の外を見つめていた。



最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

続きもぜひ、読んでいただければと思います。よろしくお願いします。

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