VS亜人
亜人との試合が始まる
その結末は……
「あ・亜人!」
ギルドがザワつく
中には距離をとる者もいる
「落ち着いて、話を聞いてくれ」
ヒロシは亜人の村で聞いた話をみんなに伝えた。
「亜人族…そんな種族が」
「で、本当にウチらが
亜人になることはないんやね?」
「ああ、何度も亜人とハグしてる人間の商人が
無事だったからな」
「だったら……大丈夫だよね?」
「そうね」
「それでだ、この3人にプロレスを教える
担当なんたが……」
その日から亜人トリオへのプロレス教育が始まった、
ルールや試合を盛り上げることの重要さとか
技や受け身の習得と首の筋肉の強化、
亜人は身体能力が高いので筋トレは今は必要ないが
安全のため首だけは鍛える必要がある。
そして2週間後
「調子はどうだ?」
「3人共覚えがいいから教えがいがあるよ」
「あと1週間位でデビューさせていいかも」
「そうか、じゃあ試合の準備も進めないとな」
そして1週間後、3人のデビューが決定した
虎のディーとスライムのジェリは
レイン&クリスとタッグマッチ
そしてメインイベントは龍のシンクと
ジェンナのシングルマッチ
「それじゃ、俺は騎士団の所に行ってくるよ」
街の外での試合となると警備は必須
その警備を騎士団にお願いしていた
今日はその打ち合わせ、
城のすぐ近くに騎士団の本部がある
訓練所から寮まで完備した施設だ。
「いよいよですか、楽しみですな♪」
ウキウキを隠せない騎士団長
「はい、明後日はよろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ警備ついでに
タダで観戦できて幸運ですよ」
試合当日
昼間、王都の外に向かう人の流れが出来た
冒険者・非冒険者、老若男女様々な人達が
試合会場へ向かっていた
街の外、入口から少し離れた場所に、
野外会場が設置されていた。
会場の周囲だけでなく
入口から会場までの道も騎士団が警備
「亜人って初めて見るな」
「亜人にプロレスが出来んのかよ」
元々のプロレスファンだけでなく
興味本位の新規客も集まった
「不安だったけど大入りだな」
予想以上の客入りにヒロシは安堵した。
本日行われるのは六試合
チケットを買ってもらっといて
さすがに二試合だけとはいかない。
そして特に何も問題は起きず第五試合
タッグ王者VS亜人タッグ
亜人は動物や魔物の能力が使えるが
試合では爪や炎などの危険な能力は禁止させている。
亜人二人がリングにあがると
1部の観客からブーイング
入場ゲートの裏控えスペースからその様子を見ていた
ヒロシは不安を感じた。
「気にするなと言ってはあるけど大丈夫か?」
するとディーが
「るせぇ!黙って見てやがれ!」
「………まぁあの位ならいいか
後はちゃんと加減してくれれば…」
亜人のパワーでは下手すれば死人が出るので
手加減するようには言ってあるが。
カーーン!
先発はレインとジェリ
「…行くの…」
ジェリはリングを滑るように移動する
ジェリは体のスライム部分の摩擦力を操作出来る、
プロレスの範疇ならば能力の使用は可能。
背後に回り掴みに行く
しかしレインはその手を掴み背負い投げ。
「あうっ!」
ジェリを引っ張り起こしてコブラツイスト
「…効かないの…」
ジェリはスルリと技から抜け出した
おぉぉぉーっ
スライムの柔らかさで関節技を無効化
レインにとって相性最悪
「クリス!」クリスと交代
リングインしたクリスはジェリを捕まえ
高く持ち上げボディスラムで叩きつける
「ぐっ!」スライムの亜人でも投げ技は効くようだ
「ほら、来いよ!」クリスは手招きする
ジェリは高速で接近すると
クリスの股下をくぐりその際に足を掴む
バランスを崩し前のめりに倒れるクリス
「…交代…」
ディーがリングイン
「うらぁ!」
起き上がろうとしていたクリスの胸元を蹴り上げる
「あうっ!」
ひっくり返されるように吹っ飛んだ
「……さすがのパワーだな」
クリスはショルダータックルを繰り出すが
ディーはそれを軽々と受け止める
「ちっ、パワーじゃ分が悪いか」
レインと交代
ディーの掌底が連続でレインを襲う
それを後ろに下がりながらかわすレイン
しかしコーナーに追い詰められていく
いや、誘い込んでいた
セカンドロープに飛び乗りジャンプ!
ディーの頭を掴み前に体重をかける
ディーが耐えようと反対方向に力をかけたところで
レインが背中の方に体重かける!
引き倒されたディーの顔にレインの膝がヒット!
コードブレイカーだ
相手の体重を利用する技なら
力で上回る相手にもダメージを与えられる
すかさずディーの足を取ってサソリ固め
チカラが強くてもそれを発揮するには
足の踏ん張りが必要
それを考えての足殺し
(…ディー…)
ジェリはとっさに助けに入ろうとして踏みとどまった
盛り上げる為にはすぐに助けたらダメ
教えられたその言葉が脳裏をよぎったから
必死にはいずってロープに逃げたディー、
レインが技を解くとすかさず四つん這いのまま
両足でキックもろに食らったレインが吹っ飛ぶ、
レイン<ジェリ<クリス<ディー<レイン
はからずも4すくみの構図が出来上がっていた。
3分経過
「…お返し…なの…」
コブラツイストからリバースのヘッドロック
反対の手でレインの腕を取って締め上げる、
ジェリのストレッチプラム。
レインが振りほどこうにも体の柔らかさで
一向に剥せる気がしない。
「ギブアップ?」「ノー…」
ロープに手を伸ばすがロープは遠い
「レイン!」ドゴッ!
クリスが体当たりでレインを救出
交代…かと思ったら飛び出してきたディーが
クリスを場外に落とし自らも場外へ
(また関節技を食らったらまずい)
レインはコーナーへ逃げる、
これなら背後は取れない。
「…正面から行くしか…」
ジェリが突っ込んできた…かと思ったら
その姿が消えた
「どこ!?」「…こっち…」
背後からのスリーパーホールド
ロープの隙間から外に飛び出し
コーナーの外に回り込んでいた、
スライム部分の粘着力を巧みに操ることで
可能になった動き。
「ルチャでもあんな動き見たことないぞ」
ヒロトはただ驚いた。
「こんのぉ…」
レインはロープに足をかけ腰を浮かせた
「えいっ!」
掛け声とともにそのままジャンプ!
後ろ向きに一回転してジェリごと場外へ
「あたた…」「…あんな方法…予想外…なの…」
(無茶するなぁ、後で治癒魔法かけないと)
こっちの世界には治癒魔法があるのが救いだ
急いでリングに上がってクリスと交代
フラフラになりながら上がってきた
ジェリを掴まえロープに振る
帰ってきたジェリの肩と股をホールドし
持ち上げ後ろに飛ぶ
ダァァァァン!
クリスの必殺技パワースラムが決まった
パワースラムはそのままフォールできる技、
カウントがはいる!
「ワン!」「ツー!」
ディーがカットに飛び込むが
レインに阻まれる。
「スリィー!」
カンカンカンカンカンカン…
レフェリーがレインとクリスの手を挙げた
わぁぁぁぁぁっ!歓声が上がる
「…ディー…ごめん…なの…」
「気にすんな!」
レインとクリスが2人に手を差し出してきた
「またやろうね」
「…次は負けない…」
「今度はシングルでやるか!?」
「あんな貧弱なパワーでか!?」
そしてメインイベント
ジェンナがリングインし次はシンク
会場をひとつの影が横切り
リングにシンクが舞い降りた
「やっと闘えるな」
「ああ」
カーーン!
シンクの蹴りをかわすジェンナ
しかし直後に衝撃か襲った
「シッポがあるのを忘れたのか?」
「そうだったな」
ドドドドドド……
「社長、馬の足音だ、しかもたくさん」
「馬?、本当かクリス?」
「ああ、こっちに近づいて来てる」
見てみると馬に乗った人の大群が
こっちに向かってきている、数は3~40程か
「と・盗賊団だぁ!」
観客の1人がそう声をあげると
会場は一気にパニックに
「盗賊団はレインとクリスが捕まえたんじゃ…」
「ううん、あいつらはあの時の連中とは違うよ」
「多分他所から流れてきた他の盗賊団だな」
盗賊団が捕縛されたなら
来るとしたら魔物くらい、この辺の魔物なら
大したことは無いとたかをくくってたのに、
あんなのが来るとは想定外だ。
「大丈夫です我々が守ります!」
そう言ったのは騎士団長
「杖取ってくる!」
「戦えるメンバーは周囲を警戒!
近くに別働隊がいるかもしれない!」
ヒロシが指示を出していると
ディーとジェリが飛び出して行った
そしてリング上でも
「試合の邪魔しやがって!」
シンクは翼を広げ、観客や騎士団の頭上を飛び越え
騎士団のと盗賊団の間に降り立った、
遅れてディーとジェリも駆けつけた。
「お・お前たち!」
「ここはアタイ達に任せな!」
「…撃ち漏らしたらお願い…」
「行くぞディー、ジェリ!」
シンクは大きく息を吸い込み
盗賊団に向けて炎の息を放つ
「左右に別れろ!」リーダーらしき男の声で
盗賊達が二手に別れる、
ブレスは逃げ遅れた盗賊団の1部を焼くにとどまった
シュルルルルル
透明の触手のようなものが
左に逃げた盗賊団の武器に絡み付いた
「な・何だこりゃ!」
ジェリがスライムの部分を触手のように
伸ばして武器に絡みつけ
足の摩擦力を最大にして踏ん張る
「すげぇ、あの数相手にビクともしてねぇぞ」
パニックになっていた観客は
いつの間にか落ち着いていた。
「どりゃあ!」
ディーが盗賊たちを蹴散らす
右に逃げた連中もシンクが
爪とブレスで片っ端から蹴散らしている
「ひ、ひぃぃぃぃ!」
シンクは逃げ出した最後の1人に
あっという間に追いつき掴まえるとそのまま
空高く飛び上がり反転し地面に向かって高速落下
その勢いのまま盗賊を地面に叩きつける!。
「流星落としぃ!」ドゴォン!
シンクがフワリと着地すると
観客から大歓声があがった!。
「すげぇ!」「お姉ちゃんたちカッコイイ!」
「助かったぜ!」
亜人トリオは顔を見合わせるとグータッチ
「あれ?もう終わったの?」
レインが杖をとって戻ってきた
「社長…最後の技、必要だったか?」
「やった後にどうこう言ってもしょうがないよ」
シンクは再び空を舞いリングへと戻った
「さ、試合再開だ!」
わぁぁぁぁぁぁぁっ!
控えスペースに戻ろうとしたディーとジェリに
観客が近寄ってきた
「悪かったなブーイングなんかして」
「さっきのいい試合だったよ」
「助けてくれてありがとね!」
「あんだけ暴れて馬は傷付けないなんてすげぇ」
「動物に罪は無いからな」ディーがそう答えた
客の1人が掌を掲げたので
ジェリがハイタッチすると
皆が次々とハイタッチしてきた。
(受け入れて貰えたみたいだな、良かった)
ヒロシは心の底から安堵した。
さて、リング上では
ジェンナがミドルキックを放つが
それを脇腹に受けたシンクはビクともしない、
「かゆいかゆい!」
龍のウロコは鉄のように硬い
シンクのウロコで覆われている所も
同様に固いので打撃は効きにくい。
「やっぱり固い、打撃は無理かな…」
シンクはジェンナを掴まえると
高く放り投げた!
ダン!「あうっ!」
高くまで投げ上げられすぎて
受け身を取っても大ダメージだ。
立ち上がったジェンナは
シンクの周囲をグルグル走り始めた。
「無駄だよ!」
シンクはシッポでジェンナの進路上を薙ぎ払った!
しかしジェンナはシッポを受け止める。
「受け止めた!?」
「これを待ってたよ」
シッポを掴んだままその場でグルグル回転
回転はどんどん早くなりシンクの足が浮いた!
飛べば反撃出来るけど
試合で翼・爪・ブレスは使わない約束。
場外に投げ捨てられたシンク
ジェンナは反対側のロープに走り
反動を受けて戻ってくると、
ロープを飛び越え前宙
背中からシンクの上に落下
トペ・コン・ヒーローだ!
ドガッ!「ガッ!」
さすがにこれは効いたらしい
「ワン!・ツー!・スリィー!」
レフェリーがリングアウトのカウントを取り始めた、
20数える前に戻らないと場外負け。
ジェンナは立ち上がると
その場で前宙し再びプレス
ドゴッ!「ガフッ!」
さっさとリングに戻ったジェンナを追って
シンクもリングに戻る、
シンクのミドルキック!かわされても
しっぽによる2撃目が来る!
しかしジェンナは距離を取ってかわす。
「くるとわかってればかわせるよ」
その直後 ドゴッ!「!?」
脇腹に衝撃
かわされたシッポをマットにつき体を支え
最初の蹴り足と逆の足を伸ばして
放った後ろ回し蹴り
そのかかと部分がかろうじて届いた、
「三連!?」
シンクがジェンナを掴まえロープに振り
腰の高さに手を構え腰をおとす
帰ってきたところに大きく踏み込み
両の掌を突き出した!
「龍撃掌!」ドガッ!!
「かはっ!」みぞおちに強烈な一撃を受け
崩れ落ち前かがみになった
ジェンナに覆い被さるようにして
腰を掴んで持ち上げマットに叩きつける
ドゴォ! ダメ押しのパワーボム!
「ワン!ツー!スリィ!」
カンカンカンカン
シンクが拳を突き上げると大歓声
「はぁ…負けた……」
「楽しかったよ」
一方控えスペース
「リュミエール、2人が戻ってきたら治療を頼む
治癒呪文じゃおっつきそうにない」
「はい」
治癒呪文は基本技と言われる1STスキル
大きな怪我になると2ND以上の呪文でないと
回数も時間もかかりその分魔力も消耗する
「じゃあ俺は挨拶に行ってくる」
興行の締めの挨拶に向かうと
「なぁ、あの3人また出るのか?」
「オレファンになっちまった」
「正式に入団するのか?」
観客が一気に押しかけてきた
「え、えっとそれに関してはまだ未定で…」
「なぁ頼むよ、また見たいんだ」
「でも亜人は嫌われてるみたいだし
また街の外で試合するのは危険で……」
「いつもみたいに街中でやればいい!」
「おうよ!ガタガタ言うヤツらがいたら
俺らが黙らせてやる」
「乱暴なことはやめてくださいね……」
「で、どうすんだよ」
「それは本人達の意思を確認してから……」
まぁ聞くまでもないだろうけど。
「これからもプロレスできるのか!?」
「……リベンジ……したい……」
「アタシ達はもちろんOKだぜ社長」
「でも街で生活するんだぞいいのか?」
「「「「もちろん!」」」」
「………わかった、3人は今日から正式に
ユニコーンヘッドのレスラーだ!」
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
3人はプロレス団体のユニコーンヘッドにのみ
所属し冒険者ギルドの方には登録しない事になった
数日後街中
「おはようシンクちゃん、ランニングかい?」
「おはようおばちゃん」
あの日以来3人は街中を歩く時もマントで
姿を隠す必要は無くなった、
もちろんまだ亜人に偏見を持つものもいるが
彼女達の味方も徐々に増えつつあった。
亜人達や女の子達が
目立ってるけど
主人公はあくまでヒロシです