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始めての任務



村から目的地の集落までは徒歩で3時間。



馬車で行くとすぐ着くけれど、現地の状況を詳しく把握出来ていないからもし御者を巻き込んだら大変な事になる。

馬車でどこまで送ってもらうか悩んで二人で話し合った結果、結局歩いて行く事に決めた。

歩いていけない距離ではないし。


途中で小休憩を挟みながら進んで、もうすぐ目的地の集落に着く。


ここからは背負った武器を後ろ手で抑えて金属音を出さないようにしながら、なるべく足音を立てないように気配を消して進む。

物陰に隠れながら集落の中へ進入すると、住民は避難済みとの情報通り、所々点在する家の中には生き物の気配はなく静まり返っていた。


なんというか、不気味な雰囲気だ。




コケッ、コケッ、コケコッコー。




畑になっている開けた場所から鶏のような鳴き声が聞こえた。建物の後ろに隠れながら姿を確認する。


そこには鶏そっくりの魔物が1匹、汚染され干からびた畑の土を嘴で啄んでいた。

動きも鶏そっくりで、愛らしさすらある。

ともすれば普通の鶏と間違えそうだが、通常の鶏よりもサイズが2倍は大きく、尾羽の部分が普通の鶏とは違い蛇の頭になっていて、歪な存在感を醸し出していた。



毒はともかく、目が合うと石化するから、それだけは気を付けないと。



いつ飛び出そうかな、とすぐ後ろにくっついて来ているゼンの方を向く。

ゼンは聖力を纏わせた人差し指でくるくるーっと空中に素早く魔方陣を描いた。

ぽわん、と聖力がクロエを包み、体に溶け込む。

力が体の底から湧いてきて、身体強化のバフが掛かった事を悟った。

ゼンは状況に応じて詠唱しなくてすむように、魔方陣を描いて術を発動させるすべを数年前に編み出した。

詠唱するよりは威力が落ちるけど、不測の事態に備えて努力するゼンは本当に最高のサポーターだ。


グー!と親指を立てて感謝を伝えると、ゼンはスッと人差し指をコカトリスの方に向けた。

行って良しって事かな。りょうかい!


物陰から飛び出し、駆け抜ける。

身体強化のお陰で初手からトップスピードで動く事が出来た。高くジャンプして、そのまま大剣を標的に向かって振り下ろす。

剣の重量と重力を利用した渾身の一撃。



「先手必勝!回転斬り!!」



上から下に剣を真っ直ぐ振り下ろすだけで特に回転はしない。でも格好いいから叫ぶ。

スキルを発動させる時には当然叫ぶし、特にスキルを発動させる訳じゃなくても、思い付いた格好いい技名を叫ぶ。

格好よく叫ぶと、気合いが入って力が入る。まさに一石二鳥!それが私の戦闘スタイルだ。


ぐしゃっ、と鈍い音がして、血飛沫が舞う。

足元には見るも無惨な状態になったコカトリス。


約束通り一撃で仕留める事が出来た。やったね!


後方で見守っていたゼンの方を振り向いて、グーサインを送ろうとした所で、突如走った頭が割れそうな程の痛みにぐわんと視界が揺れた。


「キュア」


ほわんと聖力に包まれて、痛みが消えて視界が戻る。

何が起きたのか分からなくてパチパチと目をしばたたかせて呆けていると、ゼンが、ハァとため息を吐いた。



「コカトリスの毒は武器を侵食して感染する、って前に教えた事あるよな?それはなんの顔なんだよ…」


「いやー、話しで聞くのと実際体験するのじゃ理解力が違うというか…ごめんね」



へへへ、と笑う。忘れてた訳じゃないんだけど。忘れてた訳じゃないよ?ほんとだよ!



ピヨピヨ、コケッ。


「「?!」」


バッと二人して音の方向に振り向くと、納屋の方から新たなコカトリスがぞろぞろとこちらに向かって歩いて来ていた。

パッと見て10匹程。その全てがまだ羽が生え変わりきっていない、子供のコカトリスみたいだ。



「えええ、1匹じゃなかったの??子供?!産んじゃってたの??!」


「クロックアップオール、リジェネオール、メンタルタフネスオール」


クロエがわたわたしているなか、ぽわん、ぽわん、ぽわん、と聖力が二人を包み込んだ。

沢山のコカトリスの視線を感じる。目線を逸らしてるからわかんないけど。

このまま見なかったら無かったことにならないかなー。

ついつい現実逃避してしまう。

二人してリジェネって事は…。




「おかわり、一緒に頑張ろうね…」


こんな、最初の依頼から二人で体を張った特攻なんて、涙がちょちょぎれそう。大して強いモンスターでもないのに。

でもまあ仕方ない、やるって決めたのは私だ。


私の言葉を皮切りに、二人して動き出す。


「三段突き!!」


適当に格好いい技名を叫びながら大剣を橫に凪払う。

クロックアップのお陰で上がったスピードは大剣を更なる凶器へと昇華させ、ぐしゃっと2匹纏めて切り潰す。

直後、耐え難い頭痛と吐き気が私を襲った。

気を失いそうな痛みなのに、意識はハッキリしている。今にもえずきそうなのに、ギリギリの所で耐えられている。

じわじわ減る体力をぐんぐん回復させているリジェネの効果とは別の、無理矢理脳を叩き起こされてるような、これはメンタルタフネスの効果かな。なにこれ拷問?地獄じゃん。


「んんんんんっ!!」


ちょこまかと逃げ回るコカトリスに大剣を振り下ろして、また1匹仕留める。

頭痛と吐き気のせいで技名を叫ぶ余裕がない。口を開けば吐きそうだ。


ゼンは大丈夫かな?


チラッと横目で確認すると、ゼンは青白い顔色ながら無表情で黙々とメイスを振り下ろし、ぐしゃりぐしゃりと流れ作業のように標的を潰してまわっていた。

なにそれこわい。


「んんぐぅー!!」


大剣を振り回して、ぐしゃりとまた潰す。


「、ピュリフィケーション、キュアオール」



ハァハァと肩で息をしていたら、ふわりと聖力で包まれて毒の効果も引いていった。絶妙なタイミングだ。もう本当に吐いちゃうかと思ったよ!

辺りを見回すとコカトリスは全て息絶えたようで、動いてる個体はもう1匹も見当たらなかった。


ピュリフィケーションは空間や物質を浄化する広範囲魔法だ。

生き物には効果がないけど、死んだ後なら効果バツグン。

死体も土地も水も空気も清浄に!なんなら大気中のホコリすらさようならしてしまうめちゃくちゃ優秀な呪文だ。

瘴気や毒素等の穢れで澱みきったまま放置すると、その土地は不毛の大地に変わり、いつしかモンスターを生み出す魔力溜まりが発生する。

そうなってしまうと流石に浄化しても効果はないみたいだけど、今回はそうなる前に対処出来た。

だからこの集落はもう大丈夫。すぐに元の生活に戻れるはず。




大剣を振り、血を払い落としてから鞘へと戻す。


よーし!無事討伐出来たし帰るかー!とゼンの方を向くと、ゼンは潰れたコカトリスを拾い集め、何故か次々と麻袋の中へ収納していた。

毒は浄化したとはいえ、血が滴る麻袋はかなりインパクトがあって、一瞬脳がフリーズしてしまう。



え、なに、なにしてるの?そんなの集めて…もしかして、もしかして、食べちゃう、とか??

そりゃゼンの作る料理は何でも美味しいけど、魔物だよ??しかも毒持ち。浄化はしたけど。

いや、でもワンチャンありかな?ゼンがわざわざ集めるって事はもしかしたら美味しいのかも?鶏に似てるし。

ローストチキンはちょっと嫌だけど。

あ、でも斬ったり叩き潰したせいで丸焼きは出来なさそう、作るならスープとかかな?

うん、ダシを取るだけとかならいけるかも!いけるいける!



「いやー、楽しみだなぁ、コカトリスのスープ」


「?!は、なに言って…、スープ?これをか…?」


目を白黒させて仰天するゼンに、こてんと小首を傾げる。


「え?あれ?……食べないの?」


「いや、いくら何でもお腹壊すだろ、最悪死ぬ、魔物だぞ?…食べるなら普通の鶏にしてくれ」


「じゃあそれはどうするの??」


「依頼書と討伐数が違うから証拠品としてギルドに提出するだけだ、…帰ったらチキンスープでも何でも作ってやるから、これは諦めろ」


ジトッと睨まれて、うぐぅ、と唸る。

どうしても魔物が食べたくてねだったみたいになってしまった。

そうじゃない!そうじゃなくて、私は受け入れただけなんだよ!私だって食べたいのは普通のチキンのスープの方なのに。

まあ作ってくれるというのなら、もうこれ以上は何も言わないけど、ううう、解せない。




「さて、帰るか」


血の滴るずっしり重たそうな、大きめの子供が入っていそうなサイズ感の麻袋を小脇に抱える美丈夫。

うーん、白いローブが血に染まって、コントラストが綺麗で猟奇的でこわい。

そんな持ち方したら服が血でグショグショになっちゃうよ。まあ、引き摺ってく訳にはいかないんだろうし、仕方ないと言えば仕方ないけれども。

勇者に覚醒して以降大岩を片手で持ち上げられる私なら、コンビニ袋を持つようにひょひょいと持てると思うけど、普通は無理だもんね。



「重たいでしょ?私持つよ、怪力だからまかせて!」


私が奪い取ろうと手を伸ばすと、ゼンは一歩下がってヒョイッと避けた。


「疲れたら交代しよう、最初は俺が持つから」


「……そっか、疲れたらいつでも言ってね?」


帰宅の道のりは徒歩3時間、先は長いし、交代制ならまあいいか。



そう思ってぶんどるのは諦めたというのに、帰還中何度聞いても、別に疲れてないだの、汚れるからいいだの、のらりくらりと断られて。

無理やり奪おうとしたら身長差を利用して避けられて。

とうとう交代させられないまま村についてしまった。

辺りはすっかり暗くなり、ギルドの扉から煌煌と光が漏れている。

不貞腐れて無口になってしまっているクロエをチラリと横目で見て、ゼンはわざとらしく咳払いをした。



「あー、やっと疲れた、はい交代な」



あれだけ滴ってた血はいつの間にかパリパリに乾燥していて、乾いた血でどす黒く汚れた麻袋をついに手渡された。


いやいや、もう着いちゃったんだけど!?

うぐぐ、と唸ってから、ヒョイッと麻袋を受け取る。

変に気遣わなくても、別に私にとっては全然負担じゃないんだからねとアピールするように空の紙パックでも摘まむかのように持って、プイッと顔を背けてギルドの中へと駆け込んだ。



機嫌の悪さから早足になる。

スタスタスタと受け付けカウンターの前まで真っ直ぐ進む。受け付けのお姉さんが事務作業の手を止めて顔を上げた。

とりあえず麻袋を床に置こうと、高めの位置で指先で摘まんでいた手をパッと離したら、それはドスンと重たそうな鈍い音を立てて落下した。

ゴロンと転がったグロテスクな見た目の麻袋に、周りの空気が凍る。

思ったよりも大きな音がして意図せず衆目を集めてしまったクロエもついでに凍った。




あの子やばいな。

刺激しないようにしようね…。


偶然居合わせた見知らぬ冒険者達がコソコソと小声で話すのを、耳の良いクロエはバッチリと聞いてしまって平常心を取り戻した。

このままでは腫れ物扱いの嫌われ冒険者になってしまうのでは。ただの力持ちなだけなのに!

イライラしていて普段より少し乱雑になってしまっていたばっかりに。




「コカトリスが繁殖して全部で11匹いた。土地の浄化は済ませてきたから確認してくれ。状態が悪いから素材になるかは分からないが、もし可能なら換金も頼む」


「……承知しました。Eランクのモンスター11匹討伐との事ですので、確認が取れ次第カードのランクをEランクに上げる手続きを行います。換金が可能かどうか袋の中身を確認しますので、報酬はその時にお支払いしますね。」


心なしか機嫌が良さそうなゼンを、クロエがジトッと横目で睨む。

受け付けのお姉さんは相変わらず冷静だけど、内心ドン引きさせてしまってたらどうしよう。

いや、怒りのままに行動してしまった私も悪いのだけどもっ。

でもだって、帰還中ずっと焦らされ続けていたからイライラしちゃうのは仕方ない。仕方ないんだ、ごめんなさい!物にあたるなんて最低だよ!


「もし換金が不可能でも、お話しが事実であれば追加報酬が支払われます。また明日お越しください。」



お姉さんの言葉に遠い目になる。

明日か、明日になったら忘れられてるといいな…。

他の冒険者になめられて変に絡まれないように対策するゼンと落ち込むクロエ。

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