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略してスタ☆クロ





「闇夜を切り裂く聖なる翼、白金の聖十字、神聖師団…あ、横文字も良いかな?クロスクロイツ、エターナルスター」


「…………」


見た目ほどは重たくない大剣を背中に背負い、カシャンカシャンと小さな金属音をさせながら村の中を歩く。

ちなみにゼンが背負ってる武器は先が尖ったヤバい形の大型メイスだ。本人いわく、殴って刺して二度美味しいらしい。ヤバい。


「プラチナライツ、グランドクロス、スターシリウス」


冒険者ギルドへと向かう道すがら思い浮かんだパーティーネームを次々と呟く私に、ゼンはげんなりとした顔で諦めたように項垂れた。



「…お前が決めるなら何でも良いけど、それを人前で名乗るって事忘れるなよ」



ふんふん、なるほど、名乗って恥ずかしくない名前なら良いのね!試しになんか名乗ってみようかな。



「こんにちわ!ホップステップ☆ジャンプ!のクロエです!」


「それだけはやめろ」


強い口調で即座に否定してくるゼンに、何でも良いって言ったじゃん!と唇を尖らせて無言で抗議した。


「………うーん、まあでも確かに、キラキラしすぎてちょっとパーティーってよりはアイドルっぽいよね」


「?アイドルの事は知らないが、それがキラキラした名前じゃない事だけは確かだな」


まあ確かに言われてみればお笑い芸人ぽくもある。兼用出来てお得だね!



うーん、うーん、と頭をひねり、唸りながら歩く。そうこうしているうちに、あっという間に目的地に着いてしまった。

三階建ての大きな建物。

一階は荒くれ者の冒険者対策にかなり頑丈に作られていて、玄関口にはドドンと大きい開放的な両開きの扉が、開いた状態で固定されている。

二階はミーティングルームで、三階は事務員やギルドマスターの部屋があるらしい。

噂では王都の冒険者ギルドはこれよりも更に大きいらしいけど、こんな田舎町ですら存在感が尋常じゃないのに、それより大きいなんてやばい。

きっと王都には巨人が住んでるんだろうなぁ。うん、異世界だしありえる。

田舎だとあんまり見ないけど、獣人とかもいるらしいし。

…あ、逆に小人とかもいるのかな?

そしたら小人用の小さい冒険者ギルドもあるかも?


なにそれかわいい!ドールハウスみたい!



「おいクロ、百面相してないで早く入るぞ」


「あ、ごめん、ちょっとドールハウスの事考えてた」


「は、ドールハウス?」



へへへ、と誤魔化すように笑うとゼンは怪訝な顔をして、私の手をぐいっと引いて歩きだした。

手を繋がれるままに中に入る。


まず目に入ったのは、沢山の円形テーブルと椅子。パーティー毎に集まって、各々寛いだり談笑したり。

ピリついてる人も中にはいるけれど、想像よりはずっと和やかな雰囲気で、ガヤガヤとそこかしこの話し声が混ざり合い活気に溢れていた。


筋肉だるまの強面にテンプレの様な新人いびりなんてされちゃうかも!

なんて内心少し不安だったけど、そんな事は万が一にも無さそうで、知らずの内に緊張していた肩の力が抜けた。

スッと絶妙なタイミングで手を離されて、ゼンを思わず見上げる。もしかしたら、ゼンも緊張してたのかな。


その場でキョロキョロと辺りを見回すと、出入口近くの壁の一部が伝言ボードの様になっていて、フリーの依頼書が沢山貼ってあるのを発見した。


「見て見てゼン!依頼書だ!凄い!薬草拾いだって!冒険者っぽいね~!でも報酬が…うーん、大体パン5つ分くらいかな…?あ、こっちはスライム討伐だ!報酬は…パン15個分くらい!いっぱい買えるね!!」


「なんでパン換算なんだよ、…それは後でな、まずはこっちだ」


興奮する私を適当にあしらって、肩を掴んでぐるんと向きを変えさせられた。

背中を押されて導かれるままにそのまま真っ直ぐ進む。

その導線の先、フロア中央奥の受付カウンターでは眼鏡をかけた綺麗なお姉さんが1人、黙々と事務作業に勤しんでいた。



「あの、すみません、冒険者登録とパーティー申請が

したいです!女1人!男1人です!」



どういう風に声を掛ければ良いか分からず、なんだか入場チケットを買う時の様な言い方になってしまった。

お姉さんはちらりと視線を上げると手を止めて、書類を2枚と魔法石を差し出す。


「ではまずは冒険者登録をしますね。それぞれそちらの書類を記入して魔法石に手をかざして下さい。魔法石からステータスを読み取ってギルドカードを発行します。」


「おおー、これがあの冒険者登録!凄いテンプレ!オーソドックス!」


「お前は登録の何を知ってるんだよ、初めてだろ」


前世のアニメで見た事ある!異世界ファンタジー物と言えばこれだよね~、と内心感動していると、横から冷たい突っ込みが飛んできた。ゼンを見ると呆れた表情をしていたので、とりあえずウィンクを飛ばして誤魔化しておいた。


手続きを完了させると、書類と引き換えにギルドカードを手渡された。

くるくると回して表と裏をまじまじと見つめる。

表には名前とランク。多分最低ランクらしきFの文字。裏には魔方陣の様な模様。

白くてツルツルしていて、なんだかクレジットカードみたいだ。


「プライバシーの保護の為、名前とランク以外の情報はギルド職員の持つ魔道具でしか読み取れません。

ギルドマスターだけは皆さんのステータスを把握しますので、状況によっては個人依頼が来ることがあります。

ランクは上からS、A、B、C、D、E、Fで、功績に応じて上昇します。依頼書の危険度も同じ様にランク付けされてますので、手に負える範囲で選んで下さい。

依頼の成功報酬等はこちらのカードに振り込まれますので、お引き出しの際はお申し出ください。

不正使用防止の為再発行手続きをすると全てリセットされますから、失くさないようにお願いしますね。」



「わ、わかりました!」



見た目通りクレジットカードだったんだね。

コクコクと頷いてはみたものの、無くさずに持っておけるかな?ちょっと不安だ。ゼンをちらりと見ると、自前のポーチの中にカードを仕舞っていた。私もそこに入れたらだめかな?だめか。だよね。仕方ない。

仕方ないので諦めてワンピースのポケットの中に突っ込んだ。



「次にパーティー申請ですが、パーティーネームはどうされますか?」


よしきた!


煌星☆聖十字(スタークロイツ)でお願いします!」


受け付けのお姉さんの質問に、先程浮かんだばかりの格好いいパーティーネームを自信たっぷりにドヤ顔で告げる。


「っ、」


煌星☆聖十字(スタークロイツ)ですね、承りました」


隣でゼンが小さく動揺している。多分あまりの格好良さに震えているんだろう。うんうん、分かるよその気持ち。

そうして今日予定していた手続きは全てつつがなく終了した。



ジトっとどこか恨めしそうにしていたゼンだが、名前は何でもいいと言った手前文句を言えるはずもなく。はぁ、と1つため息を吐いてから、クロエと共に受け付けカウンターを後にする。



始めに見ていた依頼ボードの場所へと戻ると、ゼンは私に手を差し出した。


「ん?何?握手?パーティー結成おめでとう、これからも末永くよろしくお願いします」


ゼンの手を握ってブンブン振ってみる。


「そうじゃない」


決意を新たに!という話しかと思ったら、なんかそうじゃないらしい。きょとんと小首を傾げる私に、ゼンは周囲に聞こえないように声を潜めて私のポケットを指差した。


「失くしそうで不安なんだろ?クロが失くすと俺も困るし一緒に管理しといてやるよ」


「お、お母さん…ありがとう…!!」


「お母さんって言うな」


感動に打ち震えながらギルドカードを差し出すと、先程のポーチの中に一緒に入れてくれた。ふう、これで一安心だね。

物を失くさない事にかけてゼンの右に出るものはいないと思う、多分。

幼い頃にツルツルの石を見付けて、素敵な石見付けたから大切に持っといて!お願いね!と手渡したら、それからずーっと大切に仕舞っておいたらしくて、最近ゼンの家の戸棚の中から発見した。

私はその事をすっかり忘れていて、なにこの石?こういうのが好きなの?と聞いたら怒りの鼻つまみ攻撃をされてしまった。

もげるかと思った。痛かった。




「…おい、最初の依頼はどうするんだ?」



回想をしていたら少しぼーっとしてたみたいだ、危ない危ない。折角の初依頼!気合いを入れて選ばないと!


「うーん、どれにしようかな…」


ボードを見上げて沢山張り出されている依頼書に目を通していく。


薬草を20個採集、迷子の猫の捜索、スライムを10匹討伐、ホーンラビットを6匹討伐、コボルトを3匹討伐、ゴブリン2匹討伐…。


この辺が最低ランクの依頼みたいだ。ついでに1つ上のEランク向けの依頼書も見てみる。


ウルフ3匹討伐、マンドラゴラ1匹採集、コカトリス1匹討伐…ん?


「ゼン、これ、緊急依頼って書いてあるよ」


コカトリスの討伐依頼書を指差す。


「ああ、ほんとだな、でもコカトリスは…」


「井戸の水が汚染されて、畑も毒で壊滅状態…!

住民は避難済み、早期解決求む…、場所は…、これ!近くの集落だよ、ゼン!これにしよう?

ゼンは解毒も浄化も出来るし、私だって小鳥1匹くらいなら余裕で倒せるから!早くしないと、ここにはもう二度と人が住めなくなっちゃう…」


渋るゼンにしっかりと目を合わせて気持ちを伝える。私達がこの依頼を受けなくてもいつかは誰かがやってくれるかもしれないけど、手遅れになったら意味がない。

毒や穢れで汚染された土地はなるべく早く浄化しないと、不毛の大地に変わってしまう。

こんな緊急時くらい国が動いてくれたら良いのだけど、正式な名前も無いような小さな村の為には動いてくれない。だからこそのギルドだ。

つまり、私達が動くべき。


じっと見詰めていると、ゼンは諦めたのか一度視線を落としてから、わかった、と頷いた。


「ただし一撃で倒せよ」


「わ、わかった!まかせて!」


プレッシャー与えてくるじゃん?

自信はあるけど、条件として提示されるとなんだか緊張してしまう。


「…強いモンスターじゃないけど、普通は遠距離から倒すような相手なんだからな」


ゼンにジトっと恨みがましく睨まれて、申し訳なくて、へへ、と笑う。

適正職は産まれた時からすでに決まっている。

なりたい職業になれない事はないけれど、向いてないスキルを上げた所で伸び代はない。

ゼンは本当は攻撃職に就きたかったけど適正がなくて断念した。

プリーストは攻撃魔法は覚えない。

だからモンスターに対して殺意の高いゼンは殴りプリーストなんて物騒な物になってしまった。

極稀に私のように成長過程で覚醒する人もいるけれど、私の職である勇者は一点特化型みたいで基本的には臂力特化で遠距離から攻撃出来るようなスキルはあまりないみたいだし、まだ覚えていない。

いつかは斬撃を飛ばしてみたいんだけど、まだ出来ないんだよね。

なので現時点では、近接アタッカーと近接サポーターで遠距離攻撃の手段がないのだ。


「ごめん、でも大丈夫だよ、頑張るから!」


安心させるようにヘラヘラ笑って、ペリッと依頼書をボードから剥がす。

くるんと踵を返して歩き出すと、ゼンは心なしか憂鬱そうについてきた。

まったくもう、うちのお母さんは本当に心配性だなぁ。


受け付けに依頼書を提出すると、受け付けのお姉さんは少し考えるような仕草をした後、眼鏡をくいっとあげて、重たそうに口を開く。


「…注意事項ですが、Eランクからの魔物は素早かったり、状態異常や魔法を使うものが該当します。

初心者には厳しいと思われますので、しっかりと対策をして挑んでください。

何かあってもギルド側は責任は一切負えません。

依頼の破棄は受け付けますが、何度もするとランクが下がったり、悪質だとカードが凍結されますので、注意してくださいね。」


お姉さんにも心配されてしまった。冷徹そうに見えるけど、意外と人情に厚い人なのかな。


「わかりました!大丈夫です!」


「そうですか、では受け付けますので、ギルドカードをお願いします」


ゼンがポーチからギルドカードを2枚出して、お姉さんに渡す。

カードを魔道具に差し込むと、少しカード沈んで、ピピっと電子音が聞こえてカードが戻って来た。

なんというか、前世で見た事がある、出勤と退勤の時に押すタイムカードみたいだ。

返されたカードを見てみるけど、見た目は何も変わっていなかった。すごい技術だ。


「では、健闘をお祈りします」


ペコリとお姉さんが頭を下げる。

これで無事受け付けは完了したみたいだ。

さあ、いくぞ!待ってろ!近くの集落!

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