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第1章 3話 中と外

 しかしこの宅配ボックスってどこにあるのだろう。

 新たに設置されたのではなく、元々あったモノの中なのだろうか。

 例えば引き出しの中とか……。


 ノートパソコンの画面にある【宅配ボックス】をもう一度クリックすると、場所の説明が現れた。



 ―――やっぱりか。



 押し入れの扉を開けてみると、そこはまるで引っ越し前のように空っぽ。

 そして、秘蔵のお宝コレクションがきれいに消えている。


 懐かしいゲーム機、カードにフィギュア、雑誌の企画に応募しまくってあてた限定グッズ。

 ここには、俺の厨二心が封印されていたはずなのだが……。


 それらがまとめて5,500円=5,500ギルとして、すでに等価交換されてしまった後のようだ。


 大切な思い出が二束三文で勝手に叩き売られたようで、何ともやるせない。


(く、くそう……)


 こんな気持ちになったのは、大切に集めていた某トレーディングカードの束を親に勝手に粗大ごみとして出された、中2のとき以来である。


 俺はそれから、ノートパソコンの画面を手あたり次第クリックしたり、宅配ボックスの中を調べまくったりしたのだが、一度交換されたものは二度と返ってこないようだ。



 ◆



 この宅配ボックスとなった、押し入れは、備え付けで両開きのもの。

 中は、およそ横2メートル、縦1メートル、奥行き1メートル程で、どこからどう見ても何の変哲もない押し入れにしか見えない。


 しかし、ここに何か入れると、どこかに取り込まれ、その価値が画面上にギルとして表示されるらしいのだが、本当なのだろうか。


 とりあえず一番わかりやすいのは現金だろう。


 俺は財布から一万円札を取り出したのだが、やっぱり怖いので千円札に替えた。


 ドキドキしながらお札を宅配ボックスに入れ、扉を閉めると「カチッ」という音。

 すぐに扉を開けると千円札が消えている。


 慌ててノートパソコンを確認すると所持金は5,500ギルから6,500ギルになっていた。どうやらギル=円の等価交換は本当のようだ。


 安堵した俺は改めて他にも何か情報がないかと、ノートパソコンの画面をもう一度見直すことにした。


 もし仮に俺が巻き込まれたのがゲームの世界なら、当然あるべきモノがどこかに書かれているはず。

 きっとどこかに「クリア条件」が明記されているはずなのだが。



 ――――――



 ……残念ながら、どこを探しても俺の探していた「クリア条件」に関することは、何も書かれていなかった。


 まさしくクソゲー。


 いやもうゲームですらないと考えた方がいいだろう。

 こんな状況で、俺は元の世界に戻れることができるのだろうか。



 気になるのは、画面の最初の方に書かれていたスキル【無限廻廊】。

 何処にも任意につながることができるということは、元の世界、プレゼン当日の朝にも繋がることができるかも知れない。


【無限廻廊】をクリックしてみたが、説明は無かった。レベルが上がり、このスキルを獲得するまで説明が表示されないのかもしれない。


 ノートパソコンのディスプレイ画面には、いつの間にかこんな言葉が書き加えられていた。



 ============



 さあ、ダンジョンへ! 


 下の【ドアを開ける】をクリックしてください。



 ============



 画面の下の方に表示されている【ドアを開ける】をクリックしたら最後、取り返しのつかないことになるような気がする。



 ――――――



 時刻はいつの間にか正午過ぎ。



「ごくり」


 俺は生唾を飲み込むと、ゆっくりとマウスに手を伸ばした。



 “カチッ”



 …………。



 例の個所をクリックしたのだが、俺の周囲に変化は無い。

 他の部屋も同様に変わりがないことを確認すると、俺は、セーフティースペースと呼ばれる外の石壁の部屋を見に行くことにした。


 玄関から、スマホの明かりで石造りの部屋全体を照らしてみる。

 前と変化がないようだ……。


 が!


 正面の石壁には、くすんだ青色のドアがあった。

 あんなのは最初無かったはずだ。

 信じがたいことだが、あのドアの先はダンジョンなのだろうか。



 俺はそっとドアに近づき、ゆっくりと開けてみた。


 ―――意外と軽い。


 ほんの少し開けてみると、外からは淡い光が薄く差し込み、石造りの通路が見えたのだった。



 ◆



 外の通路は、幅、高さとも3メートルほど。


 目の前、そして左右にも同じような通路が伸びている。どうやらこの部屋は、ちょうど通路の三叉路にあるようだ。


 ―――!


 何者かの気配がして、通路の左手を見てみると、何者かがこちらに背を向けて歩いていた。


 鎧に身を固め、がっしりした戦士風の男。たくましい背中がゆっくりと遠ざかっていき、やがて俺の視界から消えた。


 その姿からするに、ゲームや小説に出てくるドワーフもしくはバーサーカーかも?!


「…………」


 俺は手を震わせながら、ゆっくりとドアを閉めたのだった。



 ◆



「はあ、はあ、はあ……」


 さっきのニアミスは、正直やばかった。

 もう少し早くドアを開けていたら、あのいかつい異世界人と鉢合わせしていたことだろう。

 セーフティースペースから自分の部屋にたどり着いたのだが、玄関のドアノブを握る手がまだ震えている。


 今の自分が置かれている部屋の状況を、もう一度確認することを優先することにした。ダンジョンの探索はそれからでもいいだろう。


 まずは食料。

 冷蔵庫には、自炊しているおかげで食べ物が少しある。今の時点では賞味期限に問題は無いが、早めに使った方がいい食材もいくらかあった。

 棚には、毎朝食べている食パンとインスタントコーヒーに各種調味料。

 そしてこの前安さにつられてまとめ買いしたカップラーメンとレトルトカレー。


 キッチンの隅にある段ボールの中に入っているのは、実家から送られてきたパックのご飯と切り餅である。


 小一時間かけて部屋の隅々まで確認してみたところ、棚の奥からは、賞味期限切れのカップ麺も出て来た。



 次は部屋の確認である。2LDKの俺の部屋にはリビングに大きな窓があるのだが、やはり外は壁で、窓はまるで貼り付いているみたいに開かない。


 他の部屋は再度くまなく点検してみたが何も異常は無かった。


 そして一番気になるのが、俺の家の押し入れに突如現れた宅配ボックス。

 何しろチュートリアル画面で一番多く説明があったのだ。重要度が高いに違いない。


 俺は不要物を、少しずつ宅配ボックスに放り込んでみることにした。


 物を入れ両開きの扉を閉めると、「カチッ」という音がする。そして再度扉を開けるとそこに入れていたものはきれいに無くなっている。


 パソコンの画面で確認すると、100ギル単位で所持金が増えていた。どうやら端数は切り捨てられている様だ。


 しかし、当然というべきか価値のないものには値なんてつかない。

 賞味期限切れのカップラーメンなどは何度試してみてもそのまま残っていた。


 しかし、この宅配ボックスのおかげで、元々売るつもりだったDVDなどが処分でき、所持金も16,000ギルにまで増えた。


 ◆


「ふう……」


 思わずため息が口をつく。


 今日は、いろいろありすぎて、食事も摂らずに早めに寝ることにした。


(どうか、明日になれば元に戻っていますように)


 俺は祈るような気持ちで、ベッドにもぐり込んだのだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] コレクションを強引に交換されているのは、オタクとして許せない所業。 同情を誘われます。 全身武装の異文化圏の男とか、私は絶対話しかけられません。 謎論理でいきなり襲い掛かられそう。 異世…
[良い点] 七生さまの新作、楽しませていただいています。 タイトルがキャッチ―で最近流行りの「タイパ」的な感じがして面白いw [一言] ステータスとかアイテムとか、丁寧に書き込んであって感心します!…
[一言] エロいDVDだったらどうなんでしょうねえ。 まだ美少女が出て来ないのでバツ✕
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