第１章 １９話 再訪
「いやあ、面目ない」
「また来ちゃいました」
「……」
正直微妙な笑顔を浮かべて頭を掻くメスカル。後ろのロゼとガイルもばつの悪そうな苦笑いをしている。
そして何より三人ともドロドロのわんぱくな姿である。
あの後、帰る前に寄り道したところ、穴に落ちたそうだ。
「もう！ メスカルが大丈夫だって言うからじゃないの！」
「いや、だからみんなケガもしてなかっただろ。俺のスキル的には危険じゃなかったということだ」
メスカルたちは、最初まっすぐ入り口へ帰るつもりだったそうだが、いざとなれば『洞窟亭』があるからと、薄暗い通路を歩いているうちに穴に落ちたらしい。
『碧の洞窟』は、石畳のダンジョンらしいが、ごくまれに穴が開いていることがあるという。
当然、昼間にそんな穴にはまる冒険者などは居ないが、夜はダンジョン内の通路も薄暗くなるため、基本的に冒険者は夜間の活動はしないそうだ。
「昨日ここで食事してから何も食べていないんだ。しかも、言いにくいんだが、持ち合わせがなくてな……」
どうやら夜道に穴に落ちた上に財布をどこかに落としたらしい。
メスカルの【危険感知】スキルが働かなかったくらいだから、大して危険ではなかったようだが、一文無しになってしまったという。
「代金なら、別にダンジョンの素材でも構わないですが、皆さんなら無料でも構いませんよ。前回ドラゴンの鱗を貰ったばかりだし」
「いやいや、そんな訳にはいかないだろう。実は、ここに来る途中見つけたロックバードの巣の中にこんなものがあったんだが、構わないか？」
メスカルがズボンのポケットから申し訳なさそうに取り出したのは、何やら鈍い光を放つ握りこぶし大の黒いもの。どこからどうみても小汚い石ころにしか見えない。
「サトウ様！ コヤスガイです！ ロックバードの巣からごくまれに発見されるレアな素材ですよ！」
「そんなに高価なものなのか？！」
「いや、珍しい品ではありますが、価値の方はよくは分からないです。すいません……」
少なくとも稀少な品であることに間違いはないようだ。
「メスカルさん、喜んで食事をお出ししますよ。でもその前に……」
「えっ、いいのか……？！」
◆
「いいお湯でした～♪」
湯上りのロゼがお礼を言いに来てくれた。桜色に上気させた色白の肌に、しっとりと濡れた赤髪が色っぽい。
そして……今の姿は俺の高校時代の体操服白の半袖とハーフパンツ姿である。
今まで気付かなかったが、どちらかというと華奢なクリスとは違ってロゼはグラマー体形。俺の目の前には、双丘がたぷんたぷん揺れている。
しかしそれにしても、この体操服姿がまた、けしからんくらい似合っているのだが……。
「サトウ様、私ったらこの前はあんな失礼なことを。許してくださいね」
「もういいよ。気にしてないから」
照れたように上目目線で、はにかむロゼ。
そのまま無言で俺の腕を組んでくる。
か、可愛いのですが……。
「サトウ様！」
異変に気付いたクリスがもんの凄い勢いで飛んできた。
「ちょっと、あなた！ サトウ様に近づきすぎです！」
「お礼言うくらいいいでしょ」
「お客様からのお礼なら、私がお受けいたします。むやみにサトウ様に触るのはおやめください」
「さ、触るって……。はいはい、どうせ私の胸にかなわないから、ひがんでるだけでしょ」
「な、な、何ですって〜！」
「まあまあ、クリス」
「まったく、止さないかロゼ。みっともない」
俺のお古のジャージ姿のメスカルとスエット姿のガイルが来てくれた。
「何よ！ だいたい、メスカルが寄り道しようって言うからこんなことになったんじゃない。まっすぐ帰るんじゃなかったの！」
「その代わりに、風呂に入ることが出来たけどな」
「そんなの、サトウ様のおかげでしょ！」
「まあでも、ここまで親しくなれたのも何かの縁だ。ギルドでじゃんじゃん宣伝しまくるからな」
「このお店が私たちの拠点だったらいいのに。私もサトウ様と、ここに住みたいなあ」
「ダメです！ 女の人はお断りします！」
両手を広げて拒否するクリス。
あ、あの。
ここ、俺の家なんですが……。
◆
俺はお腹をすかせた三人に、袋ラーメンに加えてレトルトカレー（甘口）も出すことした。
ご飯はパックご飯をレンジでチンする。さしずめ袋ラーメンセットというところだ。
服も俺のものを貸し、三人の服は洗濯を終えて乾燥機にかけているところである。
「何だ？！ この高級そうな異世界料理は」
「…………」
「こんなお料理、本当に頂いてもいいのですか？！」
スプーンとフォークを渡すや否や、三人とも我先にカレーライスとラーメンを頬張っている。
「しかし、この異世界料理の組み合わせは最高だな！」
「王都のレストランでも無いですよ～♪」
「……美味い‼」
「それじゃあ、またな！」
「例の件のこともよろしくお願いします」
「任せとけって」
彼らには、ギルドでの宣伝に加え、帰るついでに洞窟亭の看板を設置してくれるよう頼んでおいた。
親指を立てて力強く快諾するメスカルたちに、期待することにしよう。
